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Wi-Fi技術講座
第21回 Wi-Fi6 = IEEE 802.11ax その3

今回は、Wi-Fi6について、よく聞かれる質問を、QA形式で回答します。

9月11日に開催しました「第11回技術セミナー」の「Wi-Fi6、質問ある?」と一部重複しています。

*第11回技術セミナー

Wi-Biz通信Vol.47【Wi-Bizニュース】

Q.Wi-Fi6になったら、アクセスポイントの数を減らせますか。

A.アクセスポイントの設置場所は同じところにするのが原則です。電波の飛距離は変わっていないため、アクセスポイントの数を減らすと電波が届かなくなるエリアがでてきたり、AP-端末間の距離が長くなればスループットが落ちるという電波の原則があるため、せっかくWi-Fi6にしたのにそのメリットを得られないリスクが高まります。

Q.1024QAMのために、アクセスポイントを増やした方がよいですか。

A.1024QAMは「Wi-Fi6 = IEEE 802.11ax その1」でも説明したように、機能する範囲がごく限られます。そのため1024QAMを広いエリアで機能させたいのであればアクセスポイントを今より密に置く必要がある可能性が高いです。ただし、アクセスポイントを密に置きすぎるとアクセスポイント同士の干渉につながるためデザインする際はそのバランスを考慮しながら検討してください。「Wi-Fi6 = IEEE 802.11ax その2」で説明したBSS Coloringがある程度干渉による影響を緩和しますが、ゼロになるわけではないので引き続きチャネル設計は重要です。

*第19回 Wi-Fi6 = IEEE 802.11ax その1

Q.端末がまだWi-Fi6ではないですが、Wi-Fi6アクセスポイントにする必要がありますか。

A.一般的に、端末のライフサイクルは2〜3年、アクセスポイントは5〜7年です。つまり今端末がWi-Fi6ではなくても数年以内にほとんどがWi-Fi6になることが予想されます。その時にアクセスポイントが旧規格でWi-Fi6を活用できないがまだアクセスポイントを更新できない、という状況はユーザにとって不幸ですので、今アクセスポイント更新のタイミングであればWi-Fi6を選択することをお奨めします。特に、iPhoneをはじめ今回端末側の新規格対応がこれまでよりかなり早いです。そのため、端末側のWi-Fi6対応もこれまでより全体的に早くなることが予想されます。

Q.IoTなど旧規格の端末が長年使われるところで、Wi-Fi6アクセスポイントにする必要がありますか。

A.この場合、新規格対応より長年使うことに着目する必要があります。どの製品もそうですが、通常古い製品のほうが新しい製品より先に販売やサポート終了になります。そのため、長く安心して使うために、新しいアクセスポイントを導入するほうが長い目で見てユーザのためになるはずです。Wi-Fiには下位互換性があるため、端末がどれだけ古くでもWi-Fi6アクセスポイントに接続できます。そのため、親機と子機の規格世代を揃える必要性はありませんので、製品のライフサイクルを考慮して製品選定をしてください。

Q.8×8 MIMOの端末が出てくると思えないのですが、8×8アクセスポイントを選択する意味はありますか。

A.2×2、3×3 MIMOと数が増える=アンテナの数を増やすことになるため、スマートフォンのような小さな端末で8×8はありえないです。ただし、Wi-Fi6でサポートするのは端末もアクセスポイントも同じストリームでなければならないSU-MIMO (シングルユーザMIMO)ではなく、MU-MIMO(マルチユーザMIMO)です。MU-MIMOでは、アクセスポイントが8×8、端末が1×1という状況でも端末が複数あれば効果を発揮します。

*第19回 Wi-Fi6 = IEEE 802.11ax その1

Q.MU-MIMOとOFDMA のテクノロジーは混在させて(同時利用)電波環境を改善させることはできますか。

A.OFDMA 106 tone RU数以上であれば、MU-MIMO との併用が可能です。

Q.Wi-Fi以外の干渉源は、BSS Coloringで対応できますか。

A.BSS Coloringはアクセスポイント間の干渉による影響を緩和する機能で、電子レンジ等Wi-Fi以外の干渉源にはそれ専用のソリューションが必要になります。Wi-Fi以外の干渉源対策に規格はなく製品依存になるため、メーカーにお問い合わせください。

Q.160MHz幅での通信における帯域の占有やDFSの影響に関する課題はありますか。

A.端末側で160MHzをサポートしているものが少ないです。また、チャネルボンディングしている際、そのどれかのチャネルで干渉やレーダー検知をするとボンディングがはずれる、というのがチャネルボンディングの仕様です。そのため、ボンディングするチャネルが増えれば増えるほどボンディングがはずれやすくなり通信が不安定になりやすくなります。一般的には、40MHz〜80MHzボンディングが使われていることが多いようです。

Q.Wi-Fi5 (802.11ac) 以前のアクセスポイントをアップグレードしてWi-Fi6対応できますか。

A.チップが異なるためできません。

Q.Wi-Fi6 認証済み/認証予定とWi-Fi6互換の違いはなんですか。

A.Wi-Fi6認証済みはWi-Fi AllianceでWi-Fi6認証を取得した製品、Wi-Fi6認証予定はまだ認証を取得していませんが、Wi-Fi6認証でMandatoryになっている機能は全てサポート済みまたはサポート予定でWi-Fi6認証取得可能な製品、Wi-Fi6互換はWi-Fi6認証でMandatoryになっている機能を一部のみサポートしているため、認証は取得できないが一部Wi-Fi6機能が動作する製品です。認証済み/認証予定と互換の違いはチップの世代によるもので、Wi-Fi6互換はアップグレードしてもMandatory機能全てをサポートしません。

Q.IEEEで802.11axの規格がまだ固まっていないのに、市場に製品がでているのはなぜですか。

A.規格化が終わる前から製品がで始めるという傾向は、Wi-Fi4 (802.11n) の頃から変わりません。ハードウェアでの実装が必要な部分がほぼ決まり、残りがソフトウェアでの対応可能な状況になると製品が市場に出てくるようになるのが一般的かと思われます。

Q.IEEEで802.11axの規格が固まる前に、Wi-Fi6認証が始まったのはなぜですか。

A.これもWi-Fi5 (802.11ac) の頃から始まったトレンドです。規格制定プロセスの最後のほうはかなり細かい部分の議論になっていくため、認証プロセスには影響ないという判断かと思われます。前述質問も同様ですが、過去にこれらが前後することにより混乱はなかったので今回も市場への混乱を避ける形で進んでいくと思われます。

Q.5GがでてきたらWi-Fiはどうなるのでしょうか。

A.新しいテクノロジーが普及する時、その理由は技術的優位だけではありません。コスト、使いやすさ、その他様々な要因が絡み合い普及してきます。事実、Wi-Fiが10年前から爆発的に広がった要因は技術的優位性があったからではなく、図1のような理由によるものだと考えています。

図1

これらの優位性は、5G/Wi-Fi6時代でも変わらないため、Wi-Fiは残り、図2のような5Gとの共存関係になるはずです。

図2

また、5Gがこれまでのセルラーより進化したのと同様に、Wi-Fi6はこれまでWi-Fiが苦手であった安定性にも注力した規格です。今すでにWi-Fi中心のところはWi-Fiのまま、ちょっとWi-Fiだと心配・・・と考えていたエリアでも使われることが想定されています。


◆Wi-Fi技術講座一覧◆

Wi-Fi技術講座 第1回 2.4G帯と5G帯の使い分け
Wi-Fi技術講座 第2回 Beaconはお知らせ信号
Wi-Fi技術講座 第3回 Wi-Fiのルール CSMA/CA
Wi-Fi技術講座 第4回 認証と暗号化の取り決め
Wi-Fi技術講座 第5回 高速化のための技術
Wi-Fi技術講座 第6回 高速化のための技術MIMO
Wi-Fi技術講座 第7回 ハンドオーバーの動き
Wi-Fi技術講座 第8回 Wi-Fiとキャリアネットワーク
Wi-Fi技術講座 第9回 iPhoneのハンドオーバーについて
Wi-Fi技術講座 第10回 Wi-Fi Vantageの狙いと効果
Wi-Fi技術講座 第11回 OFDMについて
Wi-Fi技術講座 第12回 Wi-Fiシステム構築 実践編
Wi-Fi技術講座 第13回 WPA3 とEnhanced Open
Wi-Fi技術講座 第14回 Enhanced Open
Wi-Fi技術講座 第15回 Wi-Fiの周波数
Wi-Fi技術講座 第16回 Wi-Fiの伝送方式
Wi-Fi技術講座 第17回 認証・暗号化方式
Wi-Fi技術講座 第18回 公衆サービス認証方式
Wi-Fi技術講座 第19回 Wi-Fi6 = IEEE 802.11ax その1
Wi-Fi技術講座 第20回 Wi-Fi6 = IEEE 802.11ax その2


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