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Wi-Fi技術講座
第20回 Wi-Fi6 = IEEE 802.11ax その2

今回は、前回に引き続きWi-Fi6の機能についてご説明します。

BASS (Basic Service Set) Coloring技術について

BSSColoringはWi-Fi機器同士のチャネル干渉による影響を最小限にし、通信のキャパシティを増やす機能です。これは、建物が密集している、会社内、自宅利用や公衆Wi-Fiなど様々なWi-Fiサービスが提供される場所などで効果が期待できます。これまでは隣り合うアクセスポイントが同一チャネルの場合、ひとつの大きなセルとみなされその中でCSMA/CAが動作します。そのため、実際には隣のAPに繋がっている端末の通信なのに、同一チャネルの別APに接続している端末は通信開始を待たなければなりません。

図1 BSS Coloring (アクセスポイント)

BSS Coloringでは隣接するアクセスポイントごとに違うColorを設定し、同一チャネルで干渉していてもBSS Colorが異なる通信では図1右側のようにアクセスポイントがしきい値を上げ、そちらの通信を無視して通信を開始する仕組みです。レストランなどで隣のグループとの間にパーテーションを立てるようなイメージです。そのため、チャネル数が少ない2.4GHz、5GHzでもチャネルボンディングすることでチャネル設計の選択肢が減る場合やWi-Fiサービス密集地帯でどうしてもチャネル干渉を避けられない場合などに通信キャパシティが向上します。ただし、同一チャネルによる干渉を完全に解消するわけではありませんので、引き続きチャネル設計は重要になります。

図2 BSS Coloring (端末)

端末側も干渉への配慮が必要です。端末の接続先のアクセスポイントとの距離が近いにも関わらず出力が最大になっていると、別端末とのチャネル干渉が起こり得ます。その場合は、図2右側のように接続先アクセスポイントと距離を考慮して出力を弱め、端末同士の同一チャネル干渉による Busy 状態発生を起こりにくくします。

TWT (Target Wake Time)技術について

IoTやスマートデバイスでは電力消費も考慮のポイントになりますが、Wi-Fi6では省電力機能も向上しています。以前のパワーセーブモードだと、アクセスポイントと端末が同期していたわけではないので、アクセスポイントは端末がいつスリープモードに入ったかわかりません。そして、端末がいつスリープモードに入ったかに関わらず全端末を一斉に起動させるトリガーを投げるため、たった今スリープモードに入った端末も起こされてしまうことがあり、効果的ではありません。

TWTでは802.11ahで導入されたパワーセーブ機能を使い、アクセスポイントと端末が同期してスケジュール化し、さらに端末ごとに起動タイミングをずらすことができます。さらに、関係ない端末はディープスリープモードに移行できます。これらの機能により電池が長持ちします。

図3 TWT

Extended range技術について

新しい規格が出てくるとどうしても高速化に目が行きがちですが、例えばIoTデバイスは多くの場合通信量は多くありません。代わりに、前述の省電力や飛距離が重要視されることが多いため、Wi-Fi6はそれも考慮されています。

電波は波のため、どうしても距離が長くなると波のズレが発生しやすくなります。バケツの水に水滴を一滴垂らした時に遠くに行けばいくほど波の形がゆるやかになるのと同じです。そのため、飛距離を伸ばすためにはその波の特徴を考慮する必要があります。

図4 ガードインターバル (GI) と シンボル長

まずは、これからデータが送られてくることを受信側に知らせるプリアンブルと、前後のデータとお互いに干渉しないように挿入されるガードインターバルの時間を長くしています。プリアンブルを長くすることで多少波形がずれても「ここがデータのスタートポイント」というのがわかりやすくなり、長いガードインターバルによって波形の判定がしやすくなります。バスケットのゴールリングに例えると、GI=0.8μsが通常のバスケットのゴールリングサイズなのに対し、GI=1.6μsはゴールリングサイズが2倍、GI=3.2μsは4倍になり、ボールが入れやすくなるイメージです。また、OFDM シンボル長を長くすることで一度に送信する情報量が増えます。これにより、フレームを何度も送信せずに済むようになり効率化できます。

図5 DCM (Dual Carrier Modulation)

OFDMAの中の離れたサブキャリアで同じメッセージを送信し、一方が干渉で破損しても、もう一方で正しく受信でき、距離が離れた場所への通信においても信頼性を向上するDCM (Dual Carrier Modulation)という機能もWi-Fi6に入ります。これら機能の組み合わせにより、飛距離を伸ばすことが可能です。

図6 Wi-Fi 6 (802.11ax) 規格値一覧

(黄色枠内拡大図)

この機能はある程度低速の規格値でのみサポートされます。図6の黄色枠内のMCS4以下およびDCMが1になっている規格値が該当します。ガードインターバルなどを短くすることも高速化の要素になるため、高速化と飛距離の関係性は一般的に相反するものになります。

第三回では、第一回目の予告から若干予定を変更しまして、これまでいただいたご質問に回答する形を取りたいと思います。


◆Wi-Fi技術講座一覧◆

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Wi-Fi技術講座 第2回 Beaconはお知らせ信号
Wi-Fi技術講座 第3回 Wi-Fiのルール CSMA/CA
Wi-Fi技術講座 第4回 認証と暗号化の取り決め
Wi-Fi技術講座 第5回 高速化のための技術
Wi-Fi技術講座 第6回 高速化のための技術MIMO
Wi-Fi技術講座 第7回 ハンドオーバーの動き
Wi-Fi技術講座 第8回 Wi-Fiとキャリアネットワーク
Wi-Fi技術講座 第9回 iPhoneのハンドオーバーについて
Wi-Fi技術講座 第10回 Wi-Fi Vantageの狙いと効果
Wi-Fi技術講座 第11回 OFDMについて
Wi-Fi技術講座 第12回 Wi-Fiシステム構築 実践編
Wi-Fi技術講座 第13回 WPA3 とEnhanced Open
Wi-Fi技術講座 第14回 Enhanced Open
Wi-Fi技術講座 第15回 Wi-Fiの周波数
Wi-Fi技術講座 第16回 Wi-Fiの伝送方式
Wi-Fi技術講座 第17回 認証・暗号化方式
Wi-Fi技術講座 第18回 公衆サービス認証方式
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