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Wi-Fi技術講座
第19回 Wi-Fi6 = IEEE 802.11ax その1

シスコシステムズ 前原 朋実

「Wi-Fi6」とは、一言で言えば「802.11ax」のことで、Wi-Fi Allianceが「一般ユーザにも Wi-Fi の世代や、端末とAPの相互技術が合っているか判断しやすいように世代を数値で表記する」と発表し、802.11axはWi-Fi第6世代ということでWi-Fi6となりました。

つまり、

Wi-Fi6 = Wi-Fi Allianceが命名

802.11ax = IEEEが命名

となります。IEEEが標準化作業を行い、Wi-Fi Allianceは標準化の内容に則って製品をテストし、Wi-Fi6認証作業を行います。802.11ax標準化完了予定時期は2020年6月頃を予定、Wi-Fi6認証開始は、今年の9月頃開始予定となっています(2019年7月現在)。

標準化よりWi-Fi6認証が先になりますが、これは802.11ac (Wi-Fi5) の時も同様でした。また、Wi-Fi6チップの世代が話題になり始めていますが、現時点でWi-Fi Allianceに確認した限り、OFDMA (後述) はアップリンク/ダウンリンクともにWi-Fi6認証の必須項目となるとのことです。

Wi-Fi6 (802.11ax) では、これまでWi-Fiの課題であった「高密度環境で遅い、不安定、電力消費が早い、飛距離が伸びない」といった点について、チップレベルで改善を行なっています。

1) OFDMA

OFDMA (Orthogonal frequency Division Multiple Access: 直交周波数分割多元接続)は、セルラーでも使われている技術で、多くの端末が高品質で通信できるようになるWi-Fi6の代表的な機能です。以前の第3回の技術講座「Wi-FiのルールCSMA/CA」で、Wi-Fiは一度に1台しか通信できないと説明しましたが、このOFDMAによりついにWi-Fiも複数台の同時通信が可能になります。

図1 OFDMA以前

図2 OFDMA

波の幅を図2のように細分化することで、1台で占有していた帯域を複数端末に割り当てることができます。具体的には、20MHz OFDMA チャネルは256サブキャリア (tone) にわけられ、そのサブキャリア (tone) をグループ化したものが Resource unit (RU) という単位になり、このRUが同時通信できる数です。

RUはtoneの数や帯域幅により変わります。また、端末もフレームサイズにより使うtone数は自由に変更できます。尚、ODFMAはスイッチようなアップリンク・ダウンリンク同時に同時通信する全二重の仕組みとは異なり、アップかダウンの同時通信という片側通信です。OFDMAはアップリンク(端末からアクセスポイント)、ダウンリンク(アクセスポイントから端末)両方が802.11ax Draft 3.0およびWi-Fi6認証ともに必須項目です(Wi-Fi6認証は2019年7月現在)。

表1 OFDMA toneごとの最大利用可能端末数

※52 tone以上は帯域の隙間で26 toneが使えるため、帯域単位では最大利用可能端末数は増えます。

これまでは、使う帯域が余っていたとしてもそのまま通信していたので、図3のトラックの荷台のように使われない空白ができていたのを、OFDMAによってその空白を埋めることにより、複数端末の同時通信、効率的なチャネル利用による遅延の低減、効率化による全体スループットの向上が見込めます。1台ずつの通信の場合には、端末数が増えれば増えるほど待ち時間が増えて、全体のスループットが下がっていき、さらに、規格が古い端末が混在すると全体スループットがますます下がるのがWi-Fi通信における大きな悩みでした(CSMA/CA回参照)。このOFDMAにより、待ち時間が大幅に短縮されるため、低遅延化、端末が増えても大幅にスループットが落ちないといった効果が期待されます。

図3 OFDMAイメージ

2) MU-MIMO

帯域を細かいサブキャリアにわけ帯域利用の効率化することで同時通信や高品質な通信を可能にしたのがOFDMAですが、MU-MIMO(Multi-User Multi-Input Multi-Output)は複数アンテナで電波の位相を調整することで、複数端末の同時通信と高いパフォーマンスを実現します。1つのアクセスポイントにつくそれぞれのアンテナが、それぞれ異なる端末にビームを当てるように電波の位相を調整します。スマートフォンなど小型の端末だと通常アンテナは1本のため、アクセスポイントが2ストリーム以上のMIMOをサポートしていても、安定性は若干増すもののスループットの向上は見込めません。そのため、アクセスポイントの複数アンテナを個々の端末に振り分けることによる同時通信を実現し、アクセスポイントの複数アンテナを効率的に活用するのが機能になります。

802.11ac wave2ではMU-MIMOダウンリンク(アクセスポイントから端末)のみでしたが、Wi-Fi6 (802.11ax) ではアップリンク(端末からアクセスポイント)もサポートし、最大8端末まで同時接続させることが可能です。標準化の中ではMU-MIMOダウンリンク(4ストリーム以上)が必須、MU-MIMOアップリンクはオプションになります。図4のイメージのように、MU-MIMOでは車線を増やしトラックが複数同時に走行できるのと同じように、キャパシティを増やし、スループット向上させることができます。また、1026 tone以上であれば、OFDMAとMU-MIMOは同時に動作します。

図4 MU-MIMOイメージ

  

3) 1024QAM

QAM(Quadrature Amplitude Modulation: 直角位相振幅変調)はデジタルデータと電波の間で相互に変換を行うための変調方式で、802.11acの時は256QAMだったものが802.11axでは1024QAMまで増えます。1024QAMはオプション機能になります。電波の波の大きさ、数や位置を変えることで波にデータをのせたりその逆を行ったりしますが、数値が増えていくと波がより細かくなり位置もかなり細かくなります。その分のせられるデータは増え、802.11acでは8bitだったものが802.11axでは10bitになります。ただし、数値が上がるほどノイズには弱くなるため、1024QAMの有効範囲はアクセスポイントからかなりの近距離にある端末のみになります。例えば、下の図を見る距離を離していってください。1024QAMの点が先につぶれて見えなくなるはずです。それと同じ原理で近距離のみ有効な機能です。

図5 1024QAM

次回のその2では、Wi-Fi6の残りの機能について説明します。その3では、Wi-Fi6環境におけるRFや有線側のデザインについて説明の予定です。


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