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[トップインタビュー]
JAIPA(日本インターネットプロバイダー協会) 会長 会田容弘様
インターネットユーザーの公共の利益のために
ISPのサービスにWi-Fiは不可欠

無線LANビジネス推進連絡会と提携しているJAIPA(日本インターネットプロバイダー協会)の会田会長に、最近のインターネットサービス市場における課題と取り組みを尋ねた。会田会長は、インターネットサービスを利用者に直接提供し、利用者を最もよく知り、最も近い立場で、インターネットに関わる様々な問題に対し公共の利益の観点から課題解決に積極的に取り組んでいくという。

ユーザーに最も近い立場で

――JAIPAは、インターネットサービスをユーザーに直接提供するインターネットプロバイダーの団体として、歴史が長いですね。

会田 1999年12年スタートしましたから、まもなく設立20周年を迎える団体です。主にISP、そしてクラウド事業者を中心に約200社に加盟していただいています。

電気通信事業者協会、テレコムサービス協会、日本ケーブルテレビ連盟とともに、「通信4団体」の1つと言われます。初代会長がニフティの渡辺武経元社長で、ついこの間まで18年の長きにわたって務めていただき、2017年6月から私が後任を仰せつかっています。

私は、ソニーからソネットに参りましたのが2000年で、以来20年近く、この業界に身を置いています。

――JAIPAは、どういう活動指針なのでしょうか。

会田 設立以来、日本のインターネットの発展とともに歩んで参りました。現代の社会生活に不可欠となったインターネット接続を全国各地で担い、お客様の問題解決に寄り添う事業者、それがインターネットサービスプロバイダーですので、インターネットの理念を守り、貫きたいと思っています。

団体の具体的な指針としては、第1は、「事業者が単独ではできない、インターネット業界共通の利益のための活動を積極的に展開する」ということです。原理原則を非常に重要視している団体です。ここが原点です。

2番目は「JAIPAはインターネットサービスを利用者に直接提供し利用者を最もよく知る利用者に一番近い立場」ということに誇りと責任を持っていて、そういう立場で「インターネットに関わる様々な課題について様々な場において取り組んでいく」ということです。

3番目は、「インターネットユーザーの公共の利益のために活動する」ということです。事業者のためではなくて公共の利益のために加盟会員が共同して活動しますということです。

その他、政府とか他の業界に対して、事業者共通の窓口として仲介機能をするという業界団体のとりまとめの役割も果たしています。

――インターネットの本来の理念を原点にしているわけですね。

会田 そうですね。渡辺名誉会長がよくおっしゃっておられましたが、「自立・分散・協調」です。これがインターネットの本質ではないかということを常々述べておられましたけれども、インターネットの特徴でもあるこの3点をきちんと維持して行く事が大切かと。

――その理念の上に、JAIPAは一番ユーザーに近い立場ということから、公共の利益ということを大事にしているわけですね。どういう組織体制なのでしょうか。

会田 JAIPAという組織は、日本でインターネットの勃興のころ、地域で事業を担っていたISP5社の集まりから始まって、その後全国区のISPが順次参加、その後、クラウド事業者やMVNOが参加するという経緯を反映して、ユニークな組織体制になっています。

組織図を見ると分かりますが、基本的には会員企業から有志の方に部会に出ていただいて、部会ごとにテーマを持って活動を進めて頂いています。

「行政法律部会」、「地域ISP部会」、「クラウド部会」、「インターネットユーザー部」、「モバイル部会」、「女性部会」などがあり、さらに「テーマ別WG」がそれぞれ活動しています。

インターネットの安全安心の取り組み

――JAIPAの最近の主な取り組み、課題はなんでしょうか。

会田 1番目は、「インターネットの安心安全への取り組み」です。我々はISPですので、エンドユーザーに接している事業者が非常に多いです、お客様が個人であろうと法人であろうと、インターネットの安心・安全への取り組みは、事業に於ける「一丁目一番地」です。

今年、「電気通信事業法」が改正になりますが、消費者保護ルールへの対応が大きなテーマになっています。これはモバイル通信、固定通信を問わない課題です。

――販売チャネルの中には代理店もいますね。

会田 そうです。代理店のお客様へのアプローチの品質をちゃんと担保していきましょうということで、今年10月からは総務省に代理店を登録する事に依り、総務省も通信サービスを販売する代理店を把握できるような形になります。いろいろ消費者保護ルールへの対応が必要になっていまして、業界団体としてきちんと取り組んでいこうとしています。

――携帯電話業界でも、携帯電話販売代理店への規制が消費者保護という観点から進められていますよね。

会田 固定通信も同様です。従来は、代理店は各ISP事業者のもとにいて、総務省からはISP事業者の責任において代理店の品質を担保した活動をしてくださいという関係でしたが、総務省自身も代理店を把握可能な制度になります。

そして、2番目の課題は、主に総務省やNTT東西様との取り組みになりますが、将来の日本のインターネットの接続制度がどうあるべきかなど広い範囲に渡り意見交換し、総務省に於ける「包括検証」にて議論を頂いております。

――それはどういう内容になるのでしょうか。

会田 テーマの1つは「ネットワーク中立性」というものがあります。インターネットに於いては、ネットワーク上を通るパケットを公平に扱いましょうという原則が有ります。しかし、これから自動運転、遠隔医療などのアプリケーションが広がってくると、全部公平にというよりは、命に関わる大事な情報は優先的に扱った方が良いのではないか?その様な視点での議論が出てきます。

――アメリカで、ネットワーク中立性で論議されて、キャリアが自社に有利なコンテンツ事業者のサービスを優遇することがありました。日本はどういう論議なのですか。

会田 近年ISP事業者にとって大きな問題になっているのは、OSのアップデートや動画トラフィックを中心に運ばねばならないトラフィック総量が毎年急増している事です。例えば、動画配信事業者や動画広告モデルの事業者はアプリレイヤでビジネスをしていますけど、ネットワークの費用負担は行っていないですよね?我々は必至にトラフィックを運んでいますけど。今後、IoTや5Gの時代を迎え、また地上波コンテンツも放映と同時にネット配信される様な世の中になると、ISPが運ばねばならないトラフィックは更に増加します。通信キャリアや、ISP事業者は、その対応で設備増強を余儀なくされる訳ですが、そのコスト負担の在り方は、今のままで良いのか?という論点です。

――「次世代競争ルール検討WG」というのもあるわけですね。

会田 これも重要な論点の1つです。ダイヤルアップからADSLの頃までは、ISP事業者が自分のブランドを前面に出してISPのレイヤーで競争していました。現在は、光のサービスもNTT東西様からの卸モデルになって、モバイルの通信事業者も卸を受けて自社ブランドでサービス提供を行っています。また各社のモバイルサービスとのバンドル販売を全国津々浦々に有るキャリアショップで展開している為、光サービスに於けるモバイル事業者の寡占化が進んでおり、全体の7割位のシェアをモバイル事業者が持っています。将来に向けて、競争環境はこのままで良いのか?というのも論点の1つです。

ISP共通の問題への対処

――3番目は、なんでしょうか。

会田 「速度改善の取り組み」です。最近、日本の光サービスの速度も世界の中で劣後しているのではないかと言う指摘が有り、新聞でも時たまそういう論調を見受けます。

ユーザーが利用するトラフィックが毎年急増している中で、通信事業者やISPが、どの様な対処を技術的、制度的にも行っていく必要があるか?という論点で議論させて頂いています。

最後は「ISP事業者共通の問題」への対応です。直近では、漫画村などでマスコミを賑わせた「海賊版サイト」に対する対処の問題で「ブロッキングをやるしかないんじゃないか」という論調がありました。JAIPAとしては、この点については明確な反対の立場を取っております。ブロッキングは「通信の秘密」を侵害するので許容されないという立場です。

Wi-Fiはサービスに不可欠な機能

――JAIPAから見てWi-Fiというものはどのような位置付けなのでしょうか。

会田 プロバイダーの立場から見ると、特に個人のマーケットでは、皆さん、ご家庭で我々のサービスを使っていただくときは、ほぼ全てのご家庭でWi-Fi接続をお使いいただいていると思います。我々のネットワークは固定ネットワークでご家庭まで持ち運んでいますけど、そこから実際のユーザーがお使いになられる端末までのアクセスは、Wi-Fi接続がメインになっていると思うので、技術的にはご一緒にサービスの形を実現させて頂いている感覚です。

一方、固定通信がモバイルサービスのオフロードの手段にもなっていて、コンテンツのリッチ化や、モバイル事業者の大容量サービスの出現のたびに、オフロードされるトラフィックがどんどん増えています。Wi-Fiという技術は我々のサービス提供の中では欠くべからざる1つの機能になっている反面、モバイル事業者のサービスとの関係でいうと、オフロードトラフィックがどんどん増えていって大変だという側面もあるわけです。

――モバイル事業者のサービスに引きずられて宅内でのWi-Fiトラフィックが増え、それを運ぶISP、固定通信事業者は負担が増える。動画配信事業者のトラフィックと同じことになるわけですね。

会田 ISPから見れば、運んだトラフィック分だけネットワーク運用の費用が増大するのでそこをどうするかというのはISP事業者にとってみると喫緊な課題です。売上は上がらないけど、コストは増えるという構造なので。

――その限りでは固定キャリアも、ISPと同じ構造ですね。

会田 そうです。固定通信のキャリア様も、運ばなければいけないトラフィックがどんどん増えているので大変だと思います。モバイルサービスは、あるタイミングで固定料金から従量料金に料金体系が変わったのですが、固定サービスは今も固定料金のままなので、そういう歪みが起きているわけです。

――矛盾が起きていますね。

会田 これから、4K、8Kという時代になってきますし、5Gも始まります。5Gは電波が飛ばないので、日本全国に光ファイバーが張り巡らされる光への投資が必要なインフラと認識しています。過疎地には光サービスさえ来ていないエリアが沢山有り、将来のサービス提供の均質性という観点で課題が残っています。

今後、データ流通や、それを利用したアプリケーションサービスの質やカバレージが、国力そのものを左右する時代になってくると思いますので、5GとかLPWAとか個別技術の話に留まらない形で、日本の通信インフラの全体の将来像はどうあるべきか、その中で、各レイヤーを預かる事業者に求められる役割は何か?みたいな議論が深まれば良いと思いますし、それらの議論の中で、JAIPAとしての存在感を出して行ければと願っております。

無線LANビジネス推進連絡会とも、是非、今後のネットワークの在り方、インターネットの在り方、モバイル/ワイヤレスの在り方、ユーザーの利益の守り方について、一緒に取り組んでいけたらと考えています。


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