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技術情報
総務省「周波数再編アクションプラン」
Wi-Fi世界が一変する?!  合計帯域が3倍に!

北條 博史

 

「周波数再編アクションプラン」とは、総務省が、有限希少な電波資源の有効利用を促進するとともに、新たな電波利用システムの導入や周波数の需要増に対応するため、毎年度、電波利用状況の調査・評価に基づき、周波数再編方針について公表するものです(平成16年度から毎年実施)。

通常は、毎年度1回公表し意見募集されますが、本年度は3月(*1)と今回(9月)(*2)の2回行われました。特に今回のアクションプランでは、米国の動きを受けた無線LAN にかかわる大きな動きや、5G元年として、5Gに関する割り当てに向けた動きなどがありましたので、その内容についてご紹介したいと思います。

今回のアクションプランの内容

アクションプランは全32ページにわたる文書ですが、その内容のなかで、通信に関するもの(無線LANにかかわる2つの案件と5G/ローカル5Gに関する内容など)を以下にピックアップしてご紹介します。

 

6GHz帯のWi-Fi割当及びW52の自動車内利用

■6GHz帯に新たにWi-Fiを割り当てる検討をスタート

数年前から、米国にて6GHz帯を無線LANに割り当てる動きがあり、Wi-Bizからもこれまでに検討開始の要望を出していましたが、今回のアクションプランのなかに、6GHz帯の割り当てについて重点課題として検討を開始するとの記述が入りました。

具体的な記述としては「令和2年度中に技術的条件の検討を開始する」とありますので、今後、ARIBまたは総務省の作業班などで、議論がスタートするものと思います。

図表1の通り、割り当てが検討されている帯域は、合計1.2GHzあり、これまでWi-Fiが使っていた2.4GHz帯と5GHz帯を合わせた帯域(計約550MHz)の2倍以上が追加されることになります。

図表1 追加が検討されている周波数帯(5.925GHz~7.125GHz)

この帯域のWi-Fiは、現在最新の規格である802.11ax(Wi-Fi6)の周波数を6GHz帯に拡張した方式であり、Wi-Fi6E(*3)と名付けられました。これはさらに次世代のWi-Fi規格として検討されている802.11be(Wi-Fi7?)を導入するためには必須の帯域となります。

この帯域には、既存の衛星通信、固定通信、放送映像通信などいろいろな通信で使われているため、簡単な調整ではありませんが、例えば米国では、屋内限定とか、登録制にして台数制限するとか、いろいろな条件をそれぞれの帯域ごとに設定して開放しています。今後日本でも、同様の検討がスタートするものと思います。

なお、米国ではこの帯域の後半部分(7GHz側)は、Wi-Fiと共用できる5G(NR-U(*4)の利用も可能となっています。

■ W52が自動車の中でも使えるようになる

5.2GHz帯(W52:5.15GHz~5.25GHz)はこれまで、衛星通信との干渉から屋内限定で利用という制限があり、基本的には屋根のある所や電波が外に漏れないところでのみ利用可能でした(*5)

この場合の屋内の条件としては、例えば鉄道車両については、電波の上空への漏れが少ないということで、屋内という扱いのもとW52の利用が認められていましたが、自動車などの場合は認められていませんでした。

今回の周波数再編アクションプランでは、先立って行われた世界周波数会議(WRC-19)(*6)において議論された内容を踏まえ、日本でも、令和2年度中に技術的条件の検討を開始することになりました。

これまではW56(5.6GHz帯)を使うしかなく、DFSの影響で切れたりすることがありましたが、もし利用が可能になれば、自動車内のWi-Fiネットワーク化が推進され、いろいろな新たな利用形態が生まれてくるものと思います。

800MHz/900MHz帯を新たにIoT用として開放

■Wi-Fi HaLow(802.11ah)の特長を活かす新周波数

日本では、従来IoT用周波数として920MHz帯を利用し、すでにRFタグやLPWA(LoRa、SIGFOX、Wi-SUNなど)が使われていました。Wi-Fi HaLow(802.11ah)は、LPWAでありながら、動画も伝送できる無線LAN方式で、802.11ah推進協議会(AHPC)を中心に実験局免許を取得して、11ahの性能を評価するとともに、この920MHzの周波数で利用可能になるように活動をしてきました(*7)

ただ、この920MHz帯は帯域が15MHz弱しかない上に、数多くのシステムがすでに導入されていて利用にはいろいろな制限がある状態です。

このような状況の中
、図表2の通り総務省はこれまでデジタルMCAが利用していた周波数が新たに割り当てられた自営用LTEに順次移行することから、その跡地をIoT用に割り付ける方向で一昨年の12月から検討が始まりました(*8)

図表2 デジタルMCAシステムが自営用LTEに移行した跡地がIoTの割り当ての対象に!

 

今回の周波数アクションプランでは、この点が重点課題として記述され、「周波数共用による段階的導入の可能性を含め、その技術的条件について、令和2年度に実施する技術試験の結果等を踏まえ、検討を進める」とのコメントが出されました。

5G/ローカル5Gの割り当て周波数のさらなる拡大

■ 5Gに対する追加周波数の割り当て

スマートフォンによるトラフィックの飛躍的な増大を受けて、世界周波数会議(WRC-19)においても5Gに新たに利用できる周波数を割り付けるべく議論が行われました。

その結果を踏まえ、日本国内では、4.9~5.0GHz帯、26.6~27.0GHz帯及び39.5~43.5GHz 帯の3つの帯域において既存無線システムとの共用検討等を今後実施することになりました。また、次回の世界周波数会議(WRC-23)で検討予定の7025~7125MHz についても、割り当ての可能性について検討します。

なお、日本では、4.9~5.0GHz帯は802.11j(登録制の無線LAN)に使われているため、5Gの導入にあたっては、既設のシステムに影響を与えないことが求められます。

■既存バンド(4G利用)への5G方式の導入

現在4G/BWAで用いられている、3.6GHz以下の周波数帯における5Gの導入(BWAについては5Gに対応した高度化)ができるように令和2年8月に制度整備が行われました。今後は、事業者からの申請に応じて、順次既存の開設計画の変更認定等、5Gへの高度化が進められることになります。

つまり、5Gは、新しく割り当てられた周波数だけでなく、既存の4G(LTE)の周波数にも導入が可能になり、今後5Gの展開がより早まることになります(ただし既存周波数を使う場合、通信容量そのものは大きく増えることはありません)。

■ローカル5Gへの周波数割り当て

令和2年7月に情報通信審議会の答申が出たため、それに基づいて4.6~4.9GHz及び28.3~29.1GHzを、令和2年中に制度整備が行われることになりました。これまでローカル5Gでは28.2~28.3GHzの100MHzしか利用できなかったのですが、この制度整備により、28GHz帯は既存と合わせて900MHzに拡大し、新たにサブ6(6GHz帯以下を指す)に300MHzが追加されます。

これにより、これまでは28GHzのSA(Stand Alone)か、2.5GHz等のプライベートLTEバンドと組み合わせたNSA(Non Stand Alone)しかできなかったのが、サブ6のSAやサブ6と28GHzを組み合わせたNSAができるようになります。

その他の通信関連情報

■ダイナミックな周波数共用の推進

既存無線システムとの高度な周波数共用の実現を可能とするデータベース等を活用したダイナミックな周波数共用システムについて、令和2年度中にシステムを構築するとともに、令和3年度から当該システムの運用業務が実施可能となるよう所要の手続を進められます。

具体的な検討としては、2.3GHz帯に対して一次利用者(放送事業用FPU等)と二次利用者(携帯電話を想定)との間のダイナミックな周波数共用の仕組みを活用した割当てが行われます。

海外では、すでに導入されている国もありますが、これがうまくいけば、いろいろな周波数帯で柔軟な周波数共用が可能になり、周波数の有効利用が図れる重要な取り組みとなります。

■衛星通信システムの高度利用に向けた対応

非静止衛星コンステレーションの令和3年の実現に向け、隣接する既存無線システム及び静止衛星システム等との周波数共用に係る技術的条件を取りまとめ、L帯については令和2年度中に、Ku/Ka帯については令和3年度上半期までに必要な制度整備が行われます。

■1.9GHz帯公衆PHSサービス終了後の周波数有効利用

公衆PHSサービスの終了(令和5年3月末)を踏まえ、デジタルコードレス電話(TD-LTE)の周波数拡張に必要な制度整備を行うとともに、さらなる有効利用に向けた検討が行われます。

■1.7GHz帯のエリア拡大

東名阪エリア限定の1765~1785MHz/1860~1880MHz に対して、東名阪エリア以外での割当て方針について検討されます。

■Beyond 5Gの推進

「Beyond 5G推進戦略懇談会」の6月の提言「Beyond 5G推進戦略 -6Gへのロードマップ-」に基づき、テラヘルツ波(概ね100GHz以上)を利用する技術の開発を産学官連携で進める(実験試験用の周波数として150GHz帯及び300GHz 帯の割当てを行う)。

周波数再編アクションプランで初めて公式にBeyond 5G(つまり6G)の記述が出ました。それにしても150GHz帯や300GHz帯は、夢のような(実用化には相当な時間がかかる)周波数ですね。

誰もが発信出来る総務省の意見募集

Wi-Bizでは周波数再編アクションプランの意見募集に対するコメントを毎回提出しておりますが、総務省からはそれに対して一問一答で回答をいただいております。それらの意見を参考に最終版のアクションプランが出来上がることになります。

3月に意見募集された令和2年度改訂版の最終版も公開(*9)されており、そのページの中に提出された意見に対する総務省の回答も掲載されています(*10)(是非一度ご覧ください)。

関連する企業がコメントを提出しているのは当然だと思いますが、実は個人の方からもたくさんの質問が提出されているんですね。個人が何を考えているのか知る機会になるのではないでしょうか。

 

【参考ページ】

*1:「周波数再編アクションプラン」の見直しに係る意見募集(令和2年度改定版)
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban09_02000338.html

*2:「周波数再編アクションプラン」の見直しに係る意見募集(令和2年度第2次改定版)
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban09_02000376.html

*3:Wi-Biz通信Vol.57 技術情報「Wi-Fi6Eは「ニューノーマル」の旗印に」
https://www.wlan-business.org/archives/28590

*4:Wi-Biz通信Vol.58 海外情報「3GPPが5G NRの仕様「リリース16」を決定」
https://www.wlan-business.org/archives/28996

*5:平成30年に制度改正され、アンテナ等の条件を満たせば登録制で屋外でも利用可能。
https://www.tele.soumu.go.jp/j/sys/others/wlan_outdoor/index.htm

*6:2019年世界無線通信会議(WRC-19)の結果について
https://www.soumu.go.jp/main_content/000670379.pdf

*7:802.11ah推進協議会ホームページ
https://www.11ahpc.org/

*8:電波法施行規則等の一部を改正する省令案等に係る意見募集
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban14_02000366.html

*9:「周波数再編アクションプラン(令和2年度改定版)」の公表
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban09_02000351.html/

*10:提出された御意見及びそれに対する総務省の考え方
https://www.soumu.go.jp/main_content/000685971.pdf


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