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技術情報
通信業界におけるAI活用について
次世代Wi-Fi技術とAIが切り拓く新たなビジネス価値
AIやIoTの開発・導入支援の専門家・入鹿山 剛堂 氏から「通信業界におけるAI活用について」の記事が寄せられました。メルマガ8月号の特別座談会「AI で Wi-Fi はどう変わるか」を踏まえて、通信業界におけるAI活用の現状と展望について述べていただきました。(編集委員会)
1. 生成AI革命がもたらす変化
今から3年前の2022年は、人類の知的生産性に根本的な変革をもたらした記念すべき年として歴史に刻まれることでしょう。画像生成AIのMidjourneyやStable Diffusionが公開され、その年の暮れにはChatGPTが一般公開されて、世界に大きな衝撃を与えました。それまで一部の専門家の研究対象だと思われていた生成AIが、一般市民に、誰でも簡単に活用できるAIとして開放されたのです。
それから3年、日本ではまだまだ生成AIの活用が遅れているように思います。大企業においても、情報漏洩等への懸念から、生成AIの活用を制限しているという話をよく聞きます。
1980年代からネットワーク事業を手がけていた筆者は、ちょうどインターネットの黎明期の日本企業の混乱を思い出します。当時もインターネットの利用は情報漏洩につながるということから、使用を厳しく制限する企業が多くありました。しかし、その時、インターネットを積極的に活用したかどうかが、その後の企業の発展に大きな影響を及ぼしました。今回のAI革命も、まさに同じような分岐点に立っていると思っています。
2024年には、国内AIシステム市場は前年比56.5%増の1兆3,412億円に達し※1、その勢いは衰えるところを知りません。特に注目すべきは、2025年が「AIエージェント元年」と呼ばれ始めていることです※2。複数のAIが連携して自律的に動作し、依頼者の目的を最善の形で達成する技術が、いよいよ実用化段階に入ってきています。
[図表1:AIエージェント市場成長予測]
※Grand View Research「AI Agent Market Report」等を元に筆者が円換算で作成
AIエージェントのシステムにおいては、情報収集専門のAI、その結果をとりまとめるAI、まとめられた内容が事実に合致しているかどうか検証するAI、最後にそれを見やすいプレゼン資料に仕上げるAI等、必要に応じて様々なAIが連携してタスクを完遂させます。従来なら1週間か場合によっては1カ月もかかっていたような、膨大な情報を調査し、データを集め、分析し、レポートにまとめるといったタスクを複数のAIが手分けをして、わずか数分で行える時代になってきているのです。
この変化は単なる効率化ツールの登場を意味するものではありません。知的活動や情報処理のパラダイム自体が根本的に変わろうとしているのです。これまで人間の知識労働者が担っていた情報の収集、分析、統合、提案といった一連のプロセスを、AIが代替あるいは大幅に支援できるようになることで、人間はより高次の判断や創造的な業務に専念できるようになりました。AIを使わない理由を並べて躊躇している余裕はありません。
日本の失われた30年の要因のひとつに、情報活用の遅れがあるのではないかと思っています。1990年代のインターネット革命、2000年代のモバイル革命において、日本は技術では先行していながらもビジネスモデルの変革に乗り遅れました。今こそ、AIを徹底的に活用することで、次の時代の覇者になるために重要なものが何であるかを見極める必要があります。
2. 通信業界におけるAI革命
通信業界におけるAI活用は、もはや未来の話ではありません。すでに世界各国の通信事業者が、ネットワーク運用の効率化、品質向上、新サービス創出の各領域でAIを本格導入しています。日本でも、楽天モバイルが先陣を切って革新的な取り組みを進めています。
図表2:通信業界AI導入効果の内訳
出典:ITU「AI in Telecommunications Report 2024」及び国内外事業者調査
今後の通信インフラは、これまでのように単に3G→4G→5Gと移行するのではなく、5Gや6G、Wi-Fi、LPWA、それに光回線などを、組み合わせてシームレスに融合して利用するヘテロジニアスネットワーク(HetNet)が主流となります。このような複雑なネットワーク環境では、人間が手動で最適化を行うことは事実上不可能であり、AIによる自動制御が不可欠となるでしょう。
通信業界におけるAI活用は、単なる運用効率化にとどまりません。新たなサービス領域の創出において、AIは中核的な役割を果たします。例えば、ネットワークスライシング技術とAIを組み合わせることで、用途別に最適化されたネットワーク環境を動的に提供できるようになります。自動運転車には超低遅延、IoTセンサーには省電力、動画配信には高帯域といった具合に、AIがリアルタイムでネットワークリソースを最適配分するようになります。
大規模言語モデル(LLM)の開発等においては、米中に後れを取っている感のある日本ですが、その活用ノウハウやカスタマイゼーション能力は、世界的に見ても見劣りしないと言われています。特に日本の通信業界が持つ高品質なサービス運用のノウハウ、きめ細かな顧客対応の文化、そして安全・安心を重視する姿勢は、AI活用においても差別化要因となり得ます。これは技術力を活かした独自ソリューション創出の絶好のチャンスであり、国内の高い技術基盤を活用して、日本独自の価値を持つAIソリューションを開発し、世界に広めていくことが期待されます。
3. Wi-Fi×AIが創出する新たなビジネス価値
3-1 Wi-Fi HaLowによる IoTエコシステムの変革
最近、Wi-Fi関連技術が急速に進歩し、業界の注目を浴びています。その中でも特に注目されているのが、IoTやセンサー、遠隔監視などに特化したWi-Fi HaLow(IEEE 802.11ah)の実用化です。この技術は、従来のWi-Fiの概念を大きく拡張し、新たなビジネス領域を切り拓く可能性を秘めています。
図表3:LPWA技術比較表
従来のLPWA(Low Power Wide Area)との比較において、Wi-Fi HaLowは独自のポジションを確立しています。LoRaWANが数kbpsの低速通信でセンサーデータ中心なのに対し、Wi-Fi HaLowは動画伝送も可能な高速通信を提供します。LTE-M/NB-IoTがセルラー網に依存し月額料金が必要なのに対し、Wi-Fi HaLowは自営網での運用により、ランニングコストを大幅に削減できます。
IoTで重要なのは、集められたデータをどう活用するかという点です。Wi-Fi HaLowにより、画像や動画がIoTの中で扱えるようになることで、これまで利用が難しかった画像や動画をAIで解析し、さらに多くのデータとの関係性を見出して、価値ある情報を生み出すことが可能になります。日本では、農業従事者の減少や高齢化が深刻な課題となっていますが、Wi-Fi HaLow×AIにより、少人数でも大規模農業経営が可能になり、日本農業の競争力向上に大きく貢献することが期待されます。
3-2 Wi-Fi 7センシング技術による社会インフラ革命
Wi-Fi 7において最も注目すべき革新が、Wi-Fiセンシング技術です。この技術は、IEEE 802.11bf標準に基づく革新的技術で、2.4GHz、5GHz、6GHzの3つの周波数帯すべてを活用して人の動きや行動を検知します。Wi-Fi通信で使用される電波の多重反射とドップラー効果を利用し、CSI(チャネル状態情報:Channel State Information)を分析することで、カメラを使わずにプライバシーに配慮した見守りサービスが実現できます。
すでに日本では、ビーマップ社がHUAWEI製アクセスポイントを使った日本初のWi-Fi 7センシング機能を提供しています。このシステムでは、アクセスポイントから取得したデータを日本国内のデータセンターで処理することで、安心・安全な運用を実現しています。
3-3 超高齢化社会における社会課題解決
日本は世界で最も急速に進行する超高齢化社会の最前線にあり、65歳以上の単身世帯は903万世帯(2024年、厚生労働省)※4に達しています。これは全高齢者世帯の52.5%を占める深刻な状況であり、今後さらに増加が予想されます。2040年には1,200万世帯を超えると推計されており、見守りサービスの需要は急激に拡大しています。
図表4:高齢者単身世帯数の推移(65歳以上)
Wi-Fiセンシング機能を使うことで、住人が通常通りのパターンで生活しているか、あるいは倒れて動けなくなっているかといったことも判断できるようになります。AIが個人の生活パターンを学習し、通常と異なる状況を検知した際に、家族や介護事業者に自動通知するシステムが実用化されています。今やどこの家庭にもあるWi-Fiのアクセスポイントによって、カメラなどを使わず、プライバシーに配慮した見守りサービスが提供できれば、日本が直面する大きな社会問題の解決につながる可能性があります。
3-4 新ビジネスモデルと収益化戦略
従来の「無料Wi-Fi提供」モデルは収益性の限界に直面しており、通信事業者や関連企業は新たな価値創出モデルの構築を迫られています。Wi-Fi×AI技術は、この課題を解決する革新的なビジネスモデルを可能にします。
データ活用型サービスへの転換により、空間利用分析、人流解析、行動パターン分析などの付加価値サービスを提供できるようになります。小売店では顧客動線分析による売場最適化、オフィスでは空間利用効率化による不動産コスト削減、公共施設では混雑予測による利用者体験向上など、多岐にわたる応用が可能です。
4. 日本が目指すべき戦略的未来像
AI×Wi-Fi分野において、日本は世界をリードする絶好のポジションにあります。世界最高水準の技術力、他国に先駆けて直面している深刻な社会課題、そして課題解決への強いニーズが揃っているからです。この三つの要素が揃っている国は、世界を見渡しても日本以外にはありません。
特に重要なのは、技術開発と社会実装を同時並行で進めることです。日本は技術研究では世界トップレベルにありながら、実用化・事業化において他国に後れを取ることが多々ありました。AI×Wi-Fi分野では、この轍を踏まないよう、技術開発と並行して実証実験、規制緩和、ビジネスモデル構築を一体的に推進する必要があります。
AIの進歩とあいまって、今、まさにWi-Fiの新時代が到来しようとしています。AI×Wi-Fiは、単なる効率化・自動化を超えた社会インフラの価値再定義と新たな社会課題解決サービスの創出において、不可欠な役割を担います。日本が持つ技術力、課題意識、そして改善への執念を結集すれば、必ずや世界をリードするソリューションを生み出せるはずです。
時代は急速に変化しています。AI活用への積極的な取り組みなくして、日本の通信業界、ひいては日本社会全体の競争力維持は困難です。
今こそ、変革への決断と行動が求められている時なのです。
【参考文献・注釈】
※1 IDC Japan「国内AIシステム市場予測、2024年~2028年」2024年12月
※2 日経クロステック「2025年AIエージェント元年の衝撃」2025年1月
※3 楽天モバイル・楽天シンフォニー プレスリリース「AIを活用したRIC導入について」2025年5月28日
※4 厚生労働省「2024年国民生活基礎調査の概況」2025年7月4日
【筆者紹介】
入鹿山 剛堂(いるかやま ごうどう)
80年代より多くのNWサービスを開発しDXを実践。その後大手通信会社にてPDA等の企画開発に携わった。
現在は業界団体にて、AIやIoTの開発・導入支援、動向研究やDXの推進支援、啓蒙活動等を行っている。
※注:このドキュメントは、筆者の知見と見解に基づき、図表を含め、すべてAIによって執筆しました。 引用される場合、AI生成のコンテンツは誤りを含む可能性がありますので、ご注意願います。
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