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海外情報
ニューヨーク市におけるコミュニティベースのインフラ構築

株式会社グローバルサイト 代表取締役
セキュア公衆無線LANローミング研究会(NGHSIG/Cityroam) 副幹事
山口 潤

外出制限のあったCovid19下では、生徒の自宅学習などが必要となり、市民へのインターネットアクセスが課題になりました。前回は公衆無線LAN機能を持つキオスク端末「LinkNYC」の現状を紹介しましたが、ニューヨーク市においてはコミュニティベースでのネットワーク提供も行われています。

市民へのネット提供の現状

Covid19発生当時、ニューヨーク市内ではブロードバンドやモバイルで接続していない市民が150万人以上おり、学習や仕事、医療においてネットへのアクセス格差が課題となりました。
本来は2014年までに全家庭に光ファイバーを接続するという契約が市政府と電気通信事業者の間で結ばれていました。しかし、特に貧困層が多いと言われる地域において設備の設置が進まず、2017年に市政府は契約が履行されなかったとしてベライゾンを訴えています。
例えインターネットへ接続ができたとしても、速度においての格差も課題です。平均世帯収入が$21,447であるモット・ヘイブンにおけるダウンロード速度が25Mbpsであるのに対して、平均世帯収入が$148,441あるアッパーイーストサイドのダウンロード速度が116Mbpsであることから、通信事業者の設備投資に偏りがあるのではないかという批判もあります。

そこで、2020年にビル・デブラシオ市長は市全体にデジタル格差を解消し、ユニバーサルサービスを提供するためのインターネットマスタープランを発表。この計画では、市が所有する建物や街灯などの資産の開放やシード投資を行うことでコミュニティサービスの参入の促進も目指していました。

コミュニティインターネットサービス

ニューヨークにおいては2012年のハリケーン・サンディの被害でインフラに重大な被害があったことから、地域コミュニティにおけるインターネットサービスが登場しています。

・RED HOOK WiFi
ブルックリンの港町“RED HOOK”において公衆無線LANサービスを提供する非営利団体であるRed Hook Initiativeによるプロジェクト。同地域はハリケーン・サンディによる電力と通信回線の被害が酷かったが、メッシュネットワークにより地域内で情報インフラとして貢献した。
地域の企業の協力により提供。屋上に設置されたソーラーパネルにより、停電時にも稼働する。ネットワークの敷設・保守も地域住民によって行われており、若者へのデジタルスキルの学習の場ともなっている。

・Hunts Point Community Network
ラガーディア国際空港の向かい、イースト川に突き出たサウスブロンクスの半島にあるハンツポイント地区で地域の文化・経済活性化と若者の育成に取り組むNPO“The Point”が取り組むネットワーク。
この地域も半島ということで三方が水に囲われ、ハリケーン・サンディによる被害が大きかった。大手金融グループであるシティグループの慈善基金から50万ドルの資金提供を受け、メッシュネットワークを構築した。ここでもRED HOOKと同様にデジタルスチュワードプログラムを提供し、若者のネットワーク学習支援を行っている。

・Silicon Harlem
ハーレムをテクノロジーとイノベーションのハブに変えようと、デジタルリテラシー教育に取り組むSilicon Harlemでもコミュニティ向けブロードバンドサービスを提供している。100Mbpsの回線を月30ドルで提供しているが、FCCの提供するAffordable Connectivity Programにより、連邦貧困ガイドラインの 200% 以下である場合は無料となる。

・NYC Mesh
ニューヨーク市内の広域でメッシュネットワークを構築するボランティアベースのネットワーク。3つのファイバー接続されたスーパーノードを中心に60GHzのリンクを構築、約1,200カ所の拠点を結んでいる。
機器のノウハウもコミュニティベースで構築しており、個々の動作情報や設定情報もドキュメントが用意されている。

 

NYC Meshのノードマップ

 

 

市長の交代による混乱

インターネットマスタープランは、Silicon HarlemやNYC Meshなど12社が選定されブロードバンド拡大の交渉を市政府と行っていました。しかし、2022年1月に新たに就任したエリック・アダムス市長はインターネットマスタープランを停止しました。
新政権のもとで設立されたニューヨーク市技術革新局は新たにBig Apple Connectを発表し、大手通信会社2社と契約。公営住宅居住者のブロードバンド接続費用を市が負担する方向に計画変更を行いました。
大手からコミュニティ、そして大手と度々変わる市の政策。このBig Apple Connectもまた変更があるのではないかと、今回の提案に参加しない事業者もいました。政治劇場のネタにされてしまったとする意見もあります。
ただ、コミュニティはハリケーン、Covidの中でも粛々とサービスを広げてきました。またその上で教育や技術支援も別のレイヤーで進んでいます。政治の展開とは別のところでまた新たなサービスが花開くのかもしれません。

 

各メッシュネットワークで使われるラトビアMikrotik社のAP
日本でも圃場(ラポーザ/長野県)などで使われている(ライフシード社提供)

 


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