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トップインタビュー
顧客期待の高いローカル5GとWi-Fiを伸ばす
地域の自営無線ネットワークが力を発揮する時代

NTT東日本 常務取締役/NTTBP社長/NTTe-Sports 社長
 中村 浩 氏

 

 

NTT東日本の常務取締役、中村浩氏は、この6月から同社ビジネス開発本部長に着任、同時にNTTブロードバンドプラットフォーム(NTTBP)の社長と、NTTe-Sportsの社長も兼務する。中村氏に、「withコロナ」時代を迎えるなか、これからの新たな事業の方向性を尋ねた。中村氏は、ローカル5GとWi-Fiの可能性に着目し、固定網と組み合わせたプライベート・ワイヤレス・ネットワークの時代が来ると述べる。

 

コロナ禍に積極的に対応する

――コロナの影響は全産業に及んでいて、それぞれ必死に手探りというか模索しながら、新しい事業展開に挑んでいるわけですが、通信・ICT業界ではどういう状況なのでしょうか。

中村 固定通信の事業会社として申し上げると、コロナ禍で例年のような人の移動がなかったので、引越しなどによる回線減が想定していたよりも少なかったです。5月6月ぐらいから「廃止」は徐々に増えていますが、それが緩やかな状況が続いています。

今年はそれ以上に新しい利用者数が増えてきました。それは賃貸マンションです。大雑把にいうと学生とか若い社会人の方々が、例えばオンライン授業とか、テレワークに利用しているのではないかと想定しています。コロナの最初のころは学生もモバイルサービスを中心に利用していたわけですが、コロナが簡単には終わらない状況になってきて、やはりLTE回線だと高い、光回線を引こうというふうに変わってきているのではないかとみています。会社員も、在宅勤務が日常化するなかで、今までは不要と思っていた人たちも光回線が不可欠になってきている状況だと見ています。

 

――大学や企業に行かなくなって、すべてをモバイルルータで賄うにはそれはそれで金が掛かりますからね。それは、実は企業サイドも悩みのタネになっていると思います。

中村 私どもは、もともと固定と無線の融合のような使い方を提案してきたわけですが、コロナ禍によって多くの人々がそれをやり始めたという状況ではないでしょうか。携帯電話会社をはじめマス向けの回線は光コラボで販売してもらっていますが、現場のお話を伺うと、移動するのでなければ光回線が安心で便利というお客様の声が増えているようです。こういう層はもともと私たちの狙っていた層なので、コロナ禍でそういう使い方が一気に顕在化してきたのではないかと思います。

 

――コロナ対応という点では、通信・ICT業界では、テレワーク回線とソリューションの提供が大きなテーマになりました。

中村 私たちもコロナ対応のサービスを提供させていただき、いずれも好評です。例えば「シン・テレネットワーク」は、オフィスにあるパソコンに入り込んで、在宅のパソコンで全部操作できるようにするものです。今までは難しい手続きや、環境設定、ルータの設定を変えるとか難しかったんですけど、それを全部ソフトウェアでやってしまって、極端にいえば、ほとんど設定が不要なサービスを作ったんですね。これもNTTで今までやっていなかったことなんですけど、β版のサービスみたいにして出しています。

コロナ禍における新しい働き方に応じたサービスを作って、世の中の動向を見てみるという取り組みです。

今まではオフィスの中でのセキュリティやサポートをしっかりやっておけばよかったのですけど、これからはテレワークで在宅の人たちのサポートをしなければいけないとなってきて、そういうサービスを新たに開発したり、新しい働く環境に応じたサービスの追加に取り組んでいます。

 

――よく通信・ICT業界はコロナを追い風にして儲かっているのではないかといわれます。

中村 もちろんオンライン授業とかテレワーク、様々な在宅ソリューションは新しい需要ですが、単純に光利用増でプラスの追い風ということにはなりません。結局その分、オフィス内での需要がなくなっているわけですから。

私たちは、世の中の変化、使い方の変化に合わせて、自分たちのサービスを追加したり変化させていかないといけない。コロナ対応というものだけではなくて、アフターコロナで世の中の働き方、学び方みたいなものが、どう変わっていくのかに応じて、私たちもサービスの進化を果たしていかないといけないと思います。

 

――去年始まったばかりのeスポーツ事業も責任を持っておられますが、こちらは3月、4月、5月と一挙に全面展開する予定だったのに、コロナ禍のなかで状況がガラッと変わってしまい、大変だったのではないですか。

中村 確かに直後は大変だったのです。いろいろな計画が実行不可となってしまいました。しかし、実はその後、新しいお問い合わせも増えてきまして、逆に「コロナ禍だからこそeスポーツを」という流れが出来始めています。

 

――逆にコロナ禍だから……?

中村 例えば自治体でも、もともと人が集まるイベント計画を立てていたのですが、コロナで集まれなくなってしまいました。でも、eスポーツというのはもともと遠隔地でも対戦できるようになっているんで大きな集団を作らず同等なイベント開催ができるのではないか?というお問い合わせです。さらにもう一つ特徴があって、テレビの放送と同じような感じで、それを見る人の数が圧倒的に多いんです。今回、秋葉原にeXeFieldというeスポーツを体験できるカフェみたいなものを作ったんです。そこに集まってやるというのがあるんですけど、そこに集まった人以上の観客がネット側にいるんです。つまり、大変多くの人々はネット越しに参加しているのです。

そういう状況を説明すると、自治体の方々からも「単に集まってやるだけではなく、外側の人たちを含めて、何かeスポーツを始めとする様々なイベントを打ちたいね」というご要望をたくさんいただくようになっています。

 

eXeFIELD(NTTe-Sportsホームページより)

 

――単にコロナで被害を受けたということではなく、新しい形態へのチャレンジですね。

中村 確かに、コロナで数々の被害を受けました。もともと計画していたイベントの多くは中止になったので、大変困ったわけです。でも、新しい展開をアピールしていくと、それに賛同していただける自治体の方々が増えてきました。そして、幾つかのイベントをやらせていただくと、「ああいうイベントをうちもやりたい」という動きが徐々に増えてきています。これも新しい形態への挑戦ですね。

 

変化に対応することで先端になる

――NTT東日本として、コロナ対応に対して、基本的な方向性は固まってきたのでしょうか。

中村 たとえば営業のやり方も今までは対面の営業が中心でした。いつまでもそれに頼っていてはいけないから、対面ではない営業をどう構築していくのかを進めています。それは今やっている対面営業をどう変化させるのかということもあるし、今までオンラインでやっているような人たちとどう連携して、その中で僕らの商材を売ってもらうのかということもやっていっています。世の中の状況に合わせて、営業も商材作りも保守のやり方もいろいろ変えていくことを全社で取り組んでいます。

 

――保守も変化が求められますね。

中村 保守もこれまで以上に現地に赴くのではなくリモートでメンテナンス、保守、監視できるようにするだとか、そういう取り組みを進めています。

 

――現在のコロナ対応と、いわゆるアフターコロナということは、実際はそんなに画然とは分かれていないわけで、模索しながら進めていくしかなく、時間が掛かるといえば掛かりますよね。

中村 アフターコロナで働き方が全て在宅になったり全てクラウドになるわけではなく多くのことが「在宅とオフィス」「クラウドとオンプレ」の様にハイブリッドになり、変化してゆく時期が当分続くと思います。かちっと区分が定まるわけではないので、当分は時間が掛かると思います。

 

――「地銀の再編」などと言われていますが、地銀のミッションは地元企業に融資をすれば終わりではなく、融資して何の新規事業をやるのか、どうコロナ対応して事業を伸ばすのか、そこまで面倒を見ないといけない。その意味では、責任が重いというか、やるべきことが重くなっている、日本の経済全体が非常に重い変革期に入っていると思います。

中村 それは銀行だけではなくて全部一緒だと思います。地域経済をどう底上げするか、地域活性化という重いテーマがあるので、責任が重いと思います。

これまでは、私たちも世の中がこう変化したから、それに合わせてこういうサービスを出そうという取り組みを行い、いわば先端企業だけでなく次のレイトマジョリティに対してもサービスを作ってきたわけです。

しかし、今のコロナの状態のなかでは、綺麗に先端企業とレイトマジョリティが分かれているのではなく、みんな一斉にコロナ対策のための変化を強いられ対応方法の模索が始まっているという状況ではないでしょうか。

 

――先端企業を見習ってしていけば、うまくいくというわけではないですからね。

中村 そこが難しいところだと思います。今までレイトマジョリティと思っていたけれど、取り組み始めたら、実は誰もやってないことで、先端だったということも起きてきます。

 

次世代ワイヤレスは固定・移動の連携で

――折しも5Gがスタートし、ローカル5Gも始められていますし、Wi-Fi 6も始まっている。もちろんIoTもあるという点では、テクノロジー的な意味でも通信業界は1つの変革期というか、新しいスタート台に立っていると思います。そういう局面をどう捉えていて、どう進めていかれるのでしょうか。

中村 僕ら地域会社にとってもチャンスな局面であると思っています。まず移動通信というものが、これまでは基地局までの回線サービス提供としての役割でしかなかったんですけど、ローカル5Gというエンドユーザまでのビジネスを考えられるという意味では、チャンスが広がります。

NTTの中央研修センタにローカル5Gのラボを造って、様々な企業の方々と取り組みを進めているわけですが、地域会社としての新たな可能性も見え始めた気がします。

ローカル5Gオープンラボ(NTT東日本ホームページより)

ローカル5Gというと5Gだけがフィーチャーされやすいんですけど、当然ローカル5Gだけで全部をできるわけではなくて、無線の技術を複数融合させ、光も融合させ、どう全体でお客様のソリューションを作っていくのかというところ、ここが当たり前のことなんですが、とても大事なポイントだということですね。特に中小企業や自治体の方々をお客様の主体とする自分たちの得意分野を生かしながらやっていけることになると期待しています。

 

――NTT東日本にとっては、新しいフィールドというか、新しいビジネス分野ができたわけですね。このほど、NTTBP社がNTT東日本のグループ会社になり、NTT東日本グループとしてこの分野と組んでいくことになったわけですね。NTTBPはWi-Fiはもちろん前からやっているわけだし、今後はさらに積極的に、NTT東日本/NTTBPとして、5G、ローカル5G、Wi-Fi 6、プライベートLTE、つまりプライベート・ワイヤレス・ネットワークのところを推進していくことになるわけですね。

中村 BP社を東グループの中に入れた思いというのは、そこにあると思っています。ドコモのようなパブリックな無線サービスを得意としている会社と、プライベートな無線サービスを得意としているBP社があり、中小企業や自治体のプライベートネットワークを提供するNTT東との親和性は高いと思います。固定と無線の区別なくお客様が求める利便性をまとめて提供していきたいというのがBP社を東のグループにした大きな要素です。BPは、Wi-Fi関連のサービスの提案であるとか、Wi-Fi設備構築のノウハウなどは、NTTグループの中でも一番持っていると思います。

多くの企業や自治体からも、BP社はWi-Fiを中心とした無線関係のご相談を頂いています。これからもこの部分は伸ばしていきたい。Wi-Fiだけではなくて、プライベートLTEとかローカル5Gまで拡張していく、そのときには、免許を持っている地域会社と連携しないといけないので、NTT東日本との連携を進めています。

 

――NTT東日本とNTTBPの一体戦略というか推進体制ですね。

中村 一体戦略になります。BPも東のメンバーとして、実働部隊として特に無線技術のわかる営業部隊としてのフロント企業にしていきたい。Wi-Fiだけではなくてローカル5Gも、とにかく無線関係で何か相談があったらBPに言って下さい。あとはグループとしてベストに持っていく、必要なら適所のところに振り分ける。

自営網ですから、ローカル5G、Wi-Fi、LPWAなどいろいろな無線との組み合わせで、どういうふうにすればお客様の要望を叶えていくことができるのか、これがきっちりできるようになれば地域会社の強みになります。

ワイヤレス技術について、しっかりした人間を現場につくっていく、経験を積ませていくというのが、これからの仕事です。

 

――NTTBPは日本のWi-Fiを創生し牽引してきたわけですが、今度は新しい次世代ワイヤレス時代のなかで、新分野に入っていくという戦略になりますね。

中村 チャンスだと思います。Wi-Fi6とか802.11ahだとか、そういう技術的な進化ということももちろんありますけど、それ以上に、これまでのお金を生まないオフロード用のWi-Fiではなく、固定・移動も含めてソリューションの基盤として力を発揮していくことが大切です。

 

――ユーザから見ればどのワイヤレスでも関係がないわけだから、ワンパッケージで提供して自由にシームレスに使えるということが望ましいわけですね。

中村 Wi-Fiのネットワークが充実していくと、特定のユーザから見ると、パブリックな5G回線をつかむ時間よりも、ローカル5Gとか、Wi-Fiをつかんでいる時間のほうが長くなるかもしれないですよね。バスに乗っても電車に乗ってもWi-Fiをつかんでしまうわけだし、スタジアムに行っても、どこかの建物に入っても、ほとんどWi-Fiをつかんでいますから。そうするとWi-Fi、あるいはローカル5GとかプライベートLTEの時間のほうが長いんじゃないのかと想定され、そういう利用ユーザ像がイメージされますね。それだけ、プライベートネットワークの役割は大きくなるということです。

 

――今までモバイルとWi-Fiは「分離・対立の道」を歩んできたわけですが、ユーザにとってはいい意味で融合・連携してくれたほうがありがたいわけです。

中村 そうですね。パケット代を節約するためのWi-Fiではなくて、使い勝手のいいWi-Fiでありローカル5Gみたいな形になっていくことが望ましいですね。

 

Wi-Bizに時代の新しい要請が

――Wi-Bizは、北條会長になってローカル5Gもやられるということで、今までのWi-Fiだけの団体から、もう1つプライベートネットワークをトータルで推進する団体に変わろうとしています。

中村 今、申し上げたようなNTT東日本としてのWi-Fiというか無線の戦略を今後伸ばしていきたいのですが、NTT東日本だけではできないわけで、Wi-Fiを創生した時代と同じように、「Wi-Fi」というエリアをさらに広げて「次世代ワイヤレス」という形で、関連事業者の皆さんと一緒に協力しながら進めたいと考えています。数多くの事業者の皆様とフランクに話ができる場所はなかなかないので、そういう意味でWi-Bizへの期待は大きいです。

 

――ローカル5Gの登場によって、Wi-Fiを捉え直す機会になっていますから、Wi-Bizがいまひとつスケールを大きくしていくチャンスだし、それが市場全体をドライブしていく役割になると思います。

中村 小林前会長がWi-Fiを立ち上げた時に、各社がWi-Fiの利用料金で勝負しようとしていたのに対し「これはみんなの共有財産だ。みんなで普及させ、その上で使い方での商売にしてくれ」という世界を作ろうとされてきたと思います。通信がどんどんコモディティになっていく中で、通信の安い・高いという、そこだけの商売ではなくて利活用の仕方、付加価値を生むやり方まで含めた商売の世界を開いていくことです。

 

――高いの・安いのという値段の競争の時代ではないと思いますね。

中村 ワイヤレスの組み合わせ方のノウハウの勝負、こういう分野が得意だとか、使い方の競争、使い方の分野の得意領域を作っていくとか、競争のやり方みたいなものを考えていったほうがいいかもしれないですね。当然国内にとどまらず海外での展開も視野に入れ、狭い日本の中で取った・取られたという商売だけではなくて、みんなお互いに協力できる部分では連携して、どういういいものに仕上げていくのか、どういう商売がなり立つのか、どうすれば外国とも戦えるフレームになるのか、そういう議論まで含めて、やっていきたいなと思います。

 

――5Gの次には6Gも控えているわけで、新しいスタートがちょうど切られた時なので、歴史的に見ても、今は非常に重要なエポックでしょうね。

中村 少々不謹慎な言い方になりますが、今はちょうどいいタイミングで、コロナを乗り越えて進んでいく、新しいチャレンジが始まった時期と思います。


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