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ローカル5G技術講座
第3回「MECの機能と効果」

株式会社アイランドシックス 徳田 聡一郎

 

第1回はローカル5Gの用途と可能性第2回はローカル5Gの周波数割り当てについて解説してきました。今回は、ローカル5Gの可能性を引き出すMECについて解説します。

MECの基本的な概念

「MEC」とはマルチアクセス・エッジ・コンピューティングの略で、ネットワークのエッジでクラウド・コンピューティング機能やITサービス環境を実現するためにETSI(欧州電気通信標準化機構)が定義したネットワーク・アーキテクチャの概念です。

当初はモバイル・エッジコンピューティングと呼ばれ、主に4G、LTE、5Gのセルラーネットワークの端末を対象としたエッジコンピューティングの標準規格策定を目的としていましたが、現在では「マルチアクセス」という名前に代わり、セルラーネットワークのモバイル端末だけではなく、IoT機器、固定網、Wi-Fi端末からのアクセスも対象に含められています。

MECの基本的な概念は、これまでコアネットワークを経由してクラウドなどで行われていた処理を、できるだけ端末に近い位置で行い、反応速度の速い低遅延サービスの提供とネットワークの効率的な使用を目的としています。

 

MECの効果について、4Gネットワークでのビデオストリーミングの計測結果のグラフを参考に掲載します。これはVodafoneが4Gネットワーク上での動画のストリーミング配信をMECある/なしで比較計測した結果です。MECなしでの配信では時間の経過に伴い待ち時間が増加していますが、MECを用いた配信では待ち時間の増加はほとんどありません。

 

 

また、大容量のストリーミングデータをMECから配信することで、コアネットワークに負荷がかからず、効率的・経済的なネットワークの利用にもなります。

(引用)
Improving Video Streaming Customer Experience with Multi-access Edge Computing ? Research Results from Vodafone Group R&D using Saguna Open-RAN MEC Platform
https://www.saguna.net/blog/improving-video-streaming-customer-experience-with-multi-access-edge-computing-research-results-from-vodafone-and-saguna/

上記はビデオストリーミングを例としたMEC活用の一例ですが、他のアプリケーションでも同様に低遅延通信の効果が大いに期待できます。
現在普及が進む5GNRでは無線区間の通信速度が超高速となるため、既存の無線通信では実現が難しいコネクテッドカーや高度なAR/VRコンテンツの提供といった次世代ソリューションの普及にMECは期待されています。

MECの展開と課題① 5G/ローカル5GとMEC

■5G

MECを使用した商用サービスが始まってきていますが、まだエリアや利用者を限定したものです。広域かつ不特定多数の接続を対象とした5GネットワークならではのMECを用いたサービス、例えばコネクテッドカーやコンシューマー向けのコンテンツ配信(e-スポーツ、AR/VR、4K・8K動画のストリーミング配信)などの展開が大いに期待されるところですが、展開に向けていくつかの課題もあります。

1.設備投資、敷設面での課題(MECサーバーの設置)

低遅延処理を実現するためには、MECサーバーを端末に近い位置(基地局近辺など)に設置する必要があります。サービス提供範囲が広くなればその分設置数も増えるため、多額の初期投資が必要になります。

2.技術面での課題(アプリケーションハンドオーバー)

端末がMECサーバーをまたがって移動した際のアプリケーションの処理の切り替え・引継ぎをどうするか(低遅延サービスをいかに担保するか)が課題となっています。

 

この技術課題に関して、ETSIをはじめ世界各国のモバイルデータキャリアが集まり発足した5G Future Forum (5GFF)や自動運転についての技術開発や評価を行うAUTOPILOT コンソーシアムなどで仕様の策定が進んでいます。

 

 

ETSI White Paper No. 20 Developing Software for Multi-Access Edge Computing より

https://www.etsi.org/images/files/ETSIWhitePapers/etsi_wp20ed2_MEC_SoftwareDevelopment.pdf

主に費用・敷設面、ついで技術面の課題がありますが、5G網の整備におけるMECの優先順位の観点からも5GでのMECを用いた広域サービスの実装・普及にはいましばらく時間がかかるものと思われます。

■ローカル5G

製造業を中心に進んでいるエッジコンピューティングの導入も5GNRと組み合わせることで、より多接続・低遅延のサービスを展開できると考えられます。

ただし、5GNRの導入には無線局の開設や自前の基地局、コアネットワークの整備が必要となるため、ある程度の規模の施設や企業でないと導入のハードルは高いと言えるかもしれません。

MECの展開と課題② Wi-FiとMEC

ここまで5Gネットワークを切り口にMECについて記載してきましたが、MECは5GだけではなくIoT機器、固定網、Wi-Fi端末からのアクセスも考慮に入れたソリューションとなっています。

最近はハードウェアに依存しない(汎用サーバーやドローンなどに搭載できる組み込み機器に搭載できる)ソフトウェアベースのMECプラットフォーム製品も出てきており、新しいWi-Fiの規格であるWi-Fi6(IEEE 802.11ax 最大通信速度9.6Gbps)と組み合わせることで、MECを用いた様々なサービスを規模や導入コストにとらわれずに検討、構築できるようになってきています。

 

*次回は、5G/ローカル5Gで重要な役割を果たす、Massive MIMOなど高周波技術を解説する予定です。


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