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トップインタビュー
「ニューノーマル」の働き方を支えるWi-Fi
次世代ワイヤレスで顧客のDXをサポート

富士通ネットワークソリューションズ 代表取締役社長 志真哲夫 氏

富士通ネットワークソリューションズ(FNETS)は、富士通グループで情報通信ネットワークシステム分野を担っており、新型コロナウイルスの影響による「ニューノーマル」の時代を迎えるなか、新たな戦略方針と体制でビジネスに臨もうとしている。昨年10月に着任した志真社長は、働き方改革をさらに強力に進めると同時に、5G、ローカル5G、Wi-Fi6、IoTが本格化するなかで、顧客企業の新たな要望に応えるためにも次世代ワイヤレス分野に積極的に取り組んでいきたいと述べる。

新型コロナウイルスの影響で数々の改革が進んでいく

――新型コロナウイルスは大変なインパクトを与えているわけですが、まずこれに対する御社の受け止め、今後の方向性について、お願いします。

志真 新型コロナウイルスに対しては、まず我々の働き方をどうすべきか、そしてお客様に対してどのようなサポートを行っていくべきなのか、この2つがあると思っています。

富士通グループ全体として、緊急事態宣言の解除後も「出社率25%程度にコントロールする」という方針を継続中ですが、「新たな働き方」として国内グループ社員8万人を対象に「テレワーク勤務を基本」「働く場所や時間を選べる新制度」が打ち出されました。

ある意味、新型コロナウイルスで働き方改革が加速したわけですが、この状況がしばらく続き、その後終息に向かったとしても在宅で仕事をやるという働き方は続くと思います。いわゆるニューノーマルの働き方に富士通が移行していくにあたり弊社もそれに従い積極的に取り組んでいきます。

――緊急事態宣言解除後でも出社率25%というのは、かなり厳しい数字ですね。

志真 これは、オフィスならびにサテライトの出社率だけで、お客様先に作業で入るなど、そういったものは除いています。

――現場は区々ですから一律にはなかなかいかないということですね。

志真 現場はお客様の意向に従い進めています。また、弊社は、以前終日テレワークは「1人週2回まで」など限定的に行っていましたが、3月末あたりからはどんどん推進するようにしました。

――ハード機器は何とかするとしても、社員個々の環境では回線が行き渡ってないところがありますよね。

志真 個人のパソコンから仮想デスクトップでセキュアーにアクセスする環境はすでに確保されていました。ブロードバンド回線が行き渡ってない人には、モバイルルータを貸出しました。会社としてリモートアクセスの回線帯域は借りているのですけれども、今までと全然違うので、帯域オーバーがすぐ見えて、そこの増強なども行いました。

――この間のそういった取り組みは、どういう手応えだったでしょうか。

志真 もちろんデメリットもありますけど、比較的好意的な受けとめが多かったです。「思ったより仕事ができますね」という話が多かったです。富士通グループ全体のアンケートでも前半は「ネットワークが遅い」というものでしたが、実際に働いて効果を上げるという点では積極的な捉え方が多かったと思います。

現場を持つ部署では「それぞれの現場としてきちんとやりましょう」という方針で柔軟に対応しましたが、一番大変だったのはヘルプデスクとかサポートデスクのコールセンターです。扱っている情報もお客様の情報ですし、お客様のネットワークに乗り入れる環境を持っていますので、そこは厳しかったです。交代制にするとか、お客様と作業の分担を変えさせていただくとか、許可が出たお客様はリモートから乗り入れられる環境を急遽作り凌ぎました。

あと、弊社は工事部門を抱えていますので、たとえばお客様が工事に立ち会えないので延伸するというケースもあり、現場系は当然、そういう影響は出ましたが、思ったより混乱は、なかったと思います。

――オフィスへの出社率だけでは測れない、現場での取り組みの工夫もあったわけですね。

志真 これは二番目の点になりますが、新型コロナウイルス対策という点で、同じような状況が社員の常駐しているお客様先でも起こっており、ネットワークの増強やセキュリティ対策などの要望が次々入りました。それに、全力で取り組みました。

特にアクセス回線の増強です。我々は富士通のFENICSの回線提供をやっていますが、お客様の要求に追い付かないくらいニーズがありました。セキュリティ対策をきちんと行いたいと要望がありました。弊社にはPCをリモートでコントロールするソリューションがありましたので、それらに、スピーディに対応することができました。

――顧客企業へのサポートという点でも、取り組みが進んだわけですね。

志真 新しい事態のなかで、いろいろ取り組みました。ビジネスの仕方も今まではフェイス・トゥ・フェイスでやっていたのをメールベースでやるなど、少しずつ変えていきました。例えば展示会が軒並み中止になってしまったので、オンライン展示会に合わせて我々もオンラインでデモを見せるといったことに力を入れてやるようにしています。

新型コロナウイルス情勢のなかで「新しいやり方を作っていく」というスタンスで、お客様にも「ビジネスのやり方も変えないといけない」というお話をさせていただいております。首都圏の大企業は受け止めが早く、お話ししやすいと感じています。

――地方の新型コロナウイルスに対するスタンスはどういう状況でしょうか。

志真 お客様によっては「いつまでオンラインなんだ」「いつ来るんだ」というところもありますし、逆に「東京からは来てくれるな」というところもあります。

なかなか全国統一的には厳しいかなと思うので、お客様に合わせての対応になるかと思います。

すでにやることが決まっていることについてはフェイス・トゥ・フェイスでもオンラインでもそんなに変わらないと思いますが、新しいことをやるイノベーションの取り組みになるとやはり直接お会いして進めないといけないと思います。

次世代ワイヤレスに全力で取り組む

――5Gとローカル5G、Wi-Fi 6が始まり、IoT、AIもいよいよ本格化しようとしています。デジタルトランスフォーメーションが言われるなかで、技術も大きな転換点の真ん中にいるわけですが、こうした中での御社の事業戦略、取り組みの方向についてお聞かせ下さい。

志真 ここ数年は我々の中でもワイヤレスがビジネスの基軸になると思っています。そこで、今年2月「次世代ワイヤレスネットワーク企画室」という組織を立ち上げました。力を入れてやっていきたいと思っている領域です。

――これは社長直轄のものですね。

志真 社長直下に置きました。弊社は、SE、工事、運用、保守の役務を中軸にソリューションをワンストップで提供し、マルチベンダーでインテグレーションができるということを売りにしていますので、この領域でそれをどんどんやっていきたいと思っています。

同時に、検証ラボを作る予定です。5Gはもちろんですが、5GだけではなくてWi-Fi6もあれば、LPWAもあり、次世代のワイヤレスネットワークに関するSEや工事などいろいろなノウハウを付けるための検証機関を設けたいと考えています。製品を徹底分析し、特に無線なので、例えばガラス越しにどう浸透するのか反射するのかなど、かなり物理的な要素も含めて進めていきたいと思っています。新型コロナウイルスの関係で若干スケジュールが遅れていますが、注力していきたいと思っています。

――お客様の関心はいかがでしょうか。

志真 お客様は、ローカル5Gにはとても関心が高いです。特にケーブルテレビ、電力系NCCあたりは、ご興味がおありなので、今、「PoCをやろう」という話が結構上がっています。また工場のローカル5Gについて実証実験をやることとなり、先日プレスリリースも行いました。

*リリースのリンク

https://www.fujitsu.com/jp/group/fnets/about/resources/news/press-releases/2020/0406-01.html

――工場IoTに対するニーズは高いですね。

志真 もともと工場のネットワーキングについては取り組んできました。ITのネットワーキングからOT領域での現場のネットワーキングをやっていこうとしていましたが、そこではワイヤレスは非常に重要な要素を占めると気付きました。

例えば化学プラントですと防爆エリアというのがあり、火花を散らしてはいけないわけです。そこにいかにネットワークを入れるかという課題です。防爆機器は大変、高価なので、それをどうクリアするか。

たぶん、いろいろな解があるので、工場の中で、様々な無線を併用することになるのではないかと思います。ローカル5G、Wi-Fi6、LPWAのそれぞれを使い分けなくてはならない。「適材適所ワイヤレス」といったら良いのですかね、そういったところを我々が行えるようになりたいです。更に、ライセンスバンドもでき、アンライセンスバンドもでき、工事もできるというところで強みが出せるのではないかと思います。

あと我々はもともとPBXが得意なので音声だとか映像系のネットワーキングも提案できます。

――今ローカル5Gがもっぱらの話題ですが、ユーザーの選択肢は豊富だということですね。

志真 ローカル5Gということでお客様から問い合わせは多いですけど、2つタイプがあり、「ローカル5Gをこういうものに使いたい」というしっかりした強いニーズを持っているお客様と、「ローカル5Gで何ができるか検討してほしい」と5Gに興味を示しているお客様もおられます。ローカル5Gで出来ること出来ないこと、他のワイヤレスシステムの方が適していることをきちんと区分けして最適なシステムにすることが私たちのミッションです。

ローカル5Gを否定するつもりは毛頭ないですが、28GHz帯と、Sub 6の4.5GHz帯とは全く違いますからね。SAも使えるようになって本格的に使い物になるのが2022年、2023年ごろになるのではないかと思っています。今年来年はPoCをやりながら、端末がいろいろ出てきて、こういうところは結構使えるかもしれないなというのが見えてくる段階ではないでしょうか。

機器設備も現状では、28GHz帯でキャリアグレードの高価なものですから、個別の相談では扱えるようにはしていますが、今直ちにローカル5Gに持っていったらお客様の予算とは合わないと思います。

――お客様によっては要望に曖昧なところがある場合がありますから、システム設計で機能、スペック、コストを明確にして、本当に狙った効果が生み出せる選択肢を営業で提示する必要がありますね。

志真 そうですね。ローカル5Gということで、まずはお話をいただいて、いろいろなお話をした上で最適な無線にナビゲートしていくという、そこの作業がとても重要だと思います。

社内でも、ローカル5G売り方研修会を行い、ローカル5Gの基本的なところと、28GHz帯とSub 6との違い、さらにお客様の要望をしっかり検討して最適なシステムとソリューションに持っていくプロセスを明確にし、お客様に満足いただけるような営業を増やしていこうとしています。

Wi-Fiの出番はこれからさらに広がる

――今回のテレワークでWi-Fiの重要性があらためて注目されています。GIGAスクールも動き始めています。今後のWi-Fiビジネスをどのように見ていますか。

志真 GIGAスクールの取り組みは富士通グループとしてとんどん推進しているところです。非常に戦略的な取り組みとなります。

それと、どの企業も新型コロナウイルス対応で事務所スペースの見直しが行われるでしょうから、ここでのビジネスは進めていかなくてはなりません。

社員が100人いたので100人席だったのを、50人席でいいじゃないかみたいな話が起きるでしょう。すると、今までは有線で席を用意していたところがWi-Fiになり、フリーアドレスになるでしょう。

「新型コロナウイルスで事務所が減るからWi-Fiは要らないのではないか」という話もゼロではないですけど、現実的には有線だったところを一挙にワイヤレス化するということが増えると思います。事務所が不要というより、実際にはインターネットの入口を増強したいとか、ネットワークの帯域確保、セキュリティの増強の方が先に進むと思います。

弊社は家庭向けのビジネスはやっていないのですが、家庭の話になるとみんながWi-Fiを使うので家族でWi-Fiの奪い合いになっているようです。我が家もそんなにハードな使い方じゃなかったのですけど、この2カ月でv6に移行しWi-Fi中継機を入れて相当増強しました。Wi-Fiビジネスという点では、この市場は急進しているのではないでしょうか。

――日本におけるWi-Fi自体の帯域拡大も必要になりますね。今、話が出ている6GHz帯の新しい6Eとか。

志真 6Eは桁違いに帯域が増えるので、屋内限定になりそうとのことですが、今後はポスト新型コロナウイルスにマッチした周波数の割り当てが必要だと思います。

――そう考えると、「今後は新型コロナウイルス対策でオフィスが減るからWi-Fiがなくなる」というのは暴論ですね。

志真 オフィスの席数は減るのかもしれないですが、有線から無線に変えるという話はどんどん出てくると思います。それと、サテライトオフィスのようなタイプがいっぱい出てきて、そこはWi-Fi必須になりますからね。

あと、工場などで、今までは人間が回って監視していたり、どこか事務所で見ていたものを、離れたところで見たり、それこそ家からも見られるようにすることが増えてくるでしょう。そこは当然、無線になるでしょうし、それはそんなに高性能ではなく、Wi-Fiの11ahとか、そういうタイプのワイヤレスでいいわけです。そういうリモート監視にすることで、工場にいちいち出勤しなくてもいいような環境が作れるわけです。

ワイヤレス活用知識の啓発、普及を

――Wi-Bizはいろいろな活動をしているわけですけど、どういう役割を期待していますか。

志真 ワイヤレスの新しい技術がどんどん出てきています。まずは日本でちゃんと使えるように、海外に遅れることなく、業界を代表してぜひいろいろと働き掛けをやっていただきたいと思います。

また、どうしても無線への期待が大きいせいか、どういうところに使うと本当に効果があるのか、技術的な検討は多いのですが、ユースケースとか利用法、使い分けなどについての知識はまだまだ不足していると思います。そういうところを広く発信していただけるといいと思います。

これからいろいろな技術が出てきて、我々インテグレータもそうなので、利用する側も「どういうときに、どれがいいのか」「どういう制約があるのか」という見極めが非常に難しくなってくると思っていて、それをうまくナビゲートするのが我々の仕事でもあり是非、業界で適切なガイドを進めていっていただけると良いなと思います。

――5Gについては、特に誤解している人がいると多いと言われていますね。

志真 5Gを語るときには、28GHz帯とSub 6とを分けないで議論すると、両方同時には成り立たないので、夢の話になってしまいます。このあたりの啓蒙を是非、進めていって貰いたいと思っています。

私どもはインテグレータなわけですが、みんなで共有したほうがいい領域とメーカー、キャリア、インテグレータそれぞれが競争で差別化していく領域とあると思うのです。やはり基本的な使われ方とかは、お客様も含めて共有しないと、かえってみんな不幸になってしまうと思うのです。

なかなか難しいところもあると思いますが、皆さんで議論いただいて、「ここまでは共有ノウハウとしてやろうよ」みたいなところは是非、Wi-Bizで音頭を取って進めていただければと思います。それが国の発展、業界の発展にもつながると思います。


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