目次ページへ

Web特別座談会
「緊急事態宣言」継続を受けて
「ポスト・コロナ」で問われる新たな課題にどう応えるのか

出席
一般社団法人無線LANビジネス推進連絡会会長 北條博史
渉外・広報委員長         江副浩
有限会社電マーク 代表取締役      中野裕介

 

緊急事態宣言がさらに継続されることになりました。コロナ対策として、どの企業でもテレワークが緊急の課題となっていますが、それに留まらず、学校、病院のオンライン診療、オンライン教育をはじめ、あらゆる産業、社会と生活のあらゆる場面で、これまでとは異なる新しい対応と革新が求められています。

こうした、変化をどう進めていくのか、そのなかで必要不可欠となるWi-Fiをはじめとするモバイル/ワイヤレス、ICTについて、その事業推進の立場から、北條会長と江副委員長、そしてテレワークや地方創生に詳しい電マークの中野代表取締役と、「コロナ対策で必要なテレワークとWi-Fi、さらにワイヤレス/I CTによるビジネス革新を考える」をテーマに、今後のWi-Bizの役割も含めて、Webで徹底的に論議を行いました。
      >(※中野様は、平成30年度総務省、独創的な人向け特別枠「異能vation」プログラム 「破壊的な挑戦部門」に選出)

コロナ対策とテレワーク、本当の働き方改革とは

――緊急事態宣言がさらに継続するということで、日本の社会も経済も大変な情勢になっているわけですが、北條会長、江副委員長、それから前号でテレワークの活用法を解説していただきました中野代表に参加いただき、Webによる緊急座談会を開くことになりました。

最初に、「コロナ対策としてのテレワークの推進」というテーマから始めたいと思います。中野代表は、四国の高松でICTの事業を進められていますが、そちらでもテレワークの取り組みはかなり始まっている状況でしょうか。

中野 四国でも、今回の緊急事態宣言で自治体から自粛の要請が出てきて、どの企業も業務を縮小していく形になっています。テレワークに関しては「どんどん活用していこうという」よりも、「会議はメールによる審議で」というように「何か新しいツール使わなくても」ぐらいの企業や団体が多い感じです。しかし、この状況が続くので、「このまま何もしないという対応では無理だ」という意識が強くなってきています。そこで、当社もテレワークも含めた様々な新しいサービス提供できるような取り組みを始めている段階です。

有限会社電マーク 代表取締役 中野裕介様

――いろいろなデータによりますけど、テレワークは大企業も含めて20%いかない。中小企業はまだ5~6%とも言われています。取りあえず、テレワークで急場を凌ごうかという感じですけど、だんだんそういう状況じゃなくなってきています。中野さんの言われたように、正面から、今、突きつけている問題に、企業として社会として取り組んでいかなきゃいけないという、非常に重要な局面に来ているということですね。

中野 そうですね。2のポイントがあると思います。1つはもともと国が働き方改革としてテレワークを推奨していこうとしていた話と、今回コロナで外出をしないためにテレワークをしようという、2つです。

私どものように地方から東京とコンタクトを多く行っている企業は出張コスト削減のため、オンラインビデオコミニュケーションは日常的に実施しています。

また、地方で一番の問題は、高度な人材を獲得していこうと大学の工学部の学生を採用しようと思っても、なかなか地方の中小企業には来てくれないという課題があります。弊社では、シニア人材や高度技能を持った外国人を活用するため、テレワークは非常に重要なツールだと思い取り組んできました。1つ目の「働き方改革としてのテレワーク」として導入した側面です。

――本来テレワークは、積極的な攻めの働き方改革、つまり今の働き方の問題を解決するための前向きの策だったわけで、地方も含めて先進的な企業は取り組んだわけですけれども、今のコロナ情勢の中では、中野さんの述べられた二番目のポイント、とにかく会社に出てはいけないという追い詰められた形でのテレワーク、会社に行かないで何かしようというということが特徴ですよね。

中野 おっしゃる通りですね。多くは、追い詰められたところから始めるという形になっていますね。テレワークの実践では、これも2つに切り分けられると思います。

1つは結果型で、「こういうことをやってくれたらいいよ」ということでタスクと期間を設けて、それに対して実行してもらうというタイプ、これはテレワークに非常に向いています。

もう1つは、就労時間の中で何をやったかというタスク型みたいなものですね。これをテレワークでやっていこうと思うと、朝、会社に出勤してきているのと同じように、始業時刻になったらテレワークを始めて、時間が来たら終わるということになります。タスク型では、自己管理がきちんと出来ていないといけません。しかし多くの企業で社員の勤務管理まで行き届かなかったという理由から、テレワーク導入に躊躇されているところが多いかと思います。

弊社の場合、シニア人材や外国人のテレワークを導入していますが、結果型で対応してくれるので、「出退勤管理」とか、「日々の業務報告」は一切やっていませんが、うまくテレワークが定着していると思います。

多くの企業ではタスク管理型のツールを求めてしまうので、仕事の制度の設計が、まだ追い付いていないのでテレワークは導入しにくい、ということではないかと考えています。

江副 中野さんの言われる通り、日本の労働は成果主義型で評価される方と、時間労働型の人がいると思うんですね。日本はずっと一日8時間、働くことで幾らという基本構造でした。ホワイトカラーといわれる方も含めて時間労働型が多いんですね。それで、日本の労働生産性は低いとずっといわれていました。

今、この時代になってくると、時間労働型でできる業務はほぼアウトソースできるようになってしまっています。これは、知恵を使わない労働者側にとってはすごく怖いことで、経営者側にとってはいいことかもしれません。

会社としては業績で評価できる人間を雇ったほうが、絶対に収益が上がるんです。逆に、ずっと継続して同じような定型業務を持っている会社はいいんですけど、どんな仕事でも季節柄、仕事の多い時と無い時があって、平均化した量で雇用を維持せざる得ない。でも、それでは会社の利益にならないところが出てくるわけです。

コロナ対策のためのテレワークということで、労働時間型の業務の人たちは仕事を見直さなきゃいけなくなるし、逆に成果主義型の人は会社に出てきて煩雑な仕事をせずによくなり、通勤もしなくていいので、業績を上げることに非常に効率的な環境が与えられているという状態になっているんですね。これは地方でも同じだと思うんですね。

渉外・広報委員長  江副浩

中野 おっしゃる通りですね。フリーランスの人たちは、すでにテレワークをやってきています。地方から東京の仕事をネットで受け、納品もネットで行うといった形が進んできました。働き方改革として成果評価型のテレワークにも注目されるようになればよいと思います。

――日本人は真面目ですから、きちんと会社に行って定時で勤めているというフレームに慣れてきていますが、どうクリエイティブなものを生み出しているか、どれだけ効果的・効率的に仕事をやっているのかということが、今回の過程でクローズアップされ、働く側も会社側も、きちんと選り分けざるを得ないというプロセスに入ってきているということですね。

北條 時間労働型の典型的なところでは、今回のコロナの関係で出勤を止められ、図らずも半強制的に会社にリモートアクセスしなきゃいけない状況になっています。テレワークの仕組みはもとからあるんですけど、その対象者を全体に広げ必要があるという状況です。

準備が整うまでの間、実質的には自宅待機になっている方もたくさん居ますが、長期化してきたので、一人一人が遠隔からアクセスできるような体制に移行することになります。

時間で働く仕事というものについては、定型的な業務を繰り返し行うような内容なので、そういう仕事は、今後は全てAI/ロボットに取って代わられるのかもしれないなと感じています。そして、繰り返しではない創造的な仕事をしている人が最後まで残るのかなということかもしれません。

もう1つ明確になったことは、「どうしても会社に来なきゃいけない人がいる」「それは会社に紙の文書があるからだ」という構造です。それは対外取引も含めて、いろいろなものが紙ベースになっており、印鑑を押さなきゃいけない仕組みだからです。そういったところも根本から変えていかなければいけない。その良いきっかけになるのではないかと考えています。

一般社団法人無線LANビジネス推進連絡会会長 北條博史

中野 コロナ対策の対応で、今後1つ変化が出てくるのは、シニア人材を活用したリモートワークの採用だと思います。首都圏には大手企業で働き、高いスキルや人脈をもった人たちが退職して、沢山、居られるわけです。我々の地方企業は、こうしたリタイアされた方の経験とか豊富な人脈を東京進出に活用していきたいわけですから、シニア層にもテレワーク環境で、距離は関係なく、出歩かなくても仕事ができるということが定着してくれれば、そういった人たちの力を取り入れていくことができるのではないか、それはすごいことだと思います。

これからのコミュニケーションに求められるものとは

――テレワークはコロナ対策の1つに過ぎませんが、それでも根深い、多くの課題を含んでいますね。「ポスト・コロナ」ということを考えなくてはいけないわけですが、いろいろな問題が噴出してきています。テレワークは最初のきっかけであって、コロナが終わって世の中が元通りになるかというと、ならないだろう、ガラッと変わらざるを得ないだろうという見方が圧倒的なわけです。テレワーク同様、今すぐにも、学校はオンライン教育に、病院はオンライン診療に取り組まなくてはいけないわけです。居酒屋でも、ショップでも、公共施設でも、あらゆるところで試行錯誤が始まっています。

中野 コロナが終息しても景気はすぐに戻らず、長期的な不景気が来ると思います。これまでの不況は産業不況とか金融不安とか第三次産業の金融や第二次産業の貿易摩擦などに起因し、大手企業の業績が悪くなり、購買や消費が減って不景気が来るという流れでしたけど、今回は末端の飲食業だとかサービス業から不況が始まっています。現在第三次産業に就労する人口の割合は7割です。第三次産業からの不況が、世界的に原油暴落や工場閉鎖、人員削減まで急激に第一次産業、第二次産業にまで広がっています。

また中小企業・零細企業に対する信用不安がものすごく大きいんですね。東京への依存度が高かった地方都市の衰退も急激に進むと思います。

コロナを乗り切ったとしても、地方の中小企業はこれからの経済危機を乗り越えていかなければなりません。

江副 中野さん話を伺っていて、「コロナ終息後に続く地方衰退の危機」というタイトルが浮かんできました。今回の特徴は単にある製造業の不況とか、銀行の破綻とかいうことではないですからね。また、そうであるがゆえに、あらゆる業界、業種、企業でビジネス変革の取り組みを多面的に進めなくてはいけないわけですね。

中野 コロナ以降は企業でも、自治体でも、ビデオコミュニケーションとか映像を使うことが、ものすごく積極的になってくる、これは間違いがないと思います。

なぜ弊社が「ハドルスペース」だとか「パワープレゼンテーション」に力を入れてきているかというと、企業で「Webexを使えます」「Zoomを使えます」「つながる環境ができました」となると、次はより高いレベルのプレゼンテーションを求めたり、聞き取りやすく相手との距離感を感じさせないといった質の向上が求められるからです。

今後は、非対面のコミュニケーションで、対面型のコミュニケーションではできなかったような3D表現も使いやすくなるでしょう。リアルに会わないことをプラスの要素に変えていく必要が出てくると思うのです。

スティーブ・ジョブズが流暢にプレゼンテーションをし、オンライン上で人々を魅了したように、パワープレゼンテーションやハドルスペースといった社内スタジオとか、いろいろな工夫や環境が必要になってくる。もちろん5GやWi-Fi 6等の大容量高速通信や、NDI、HEVC/H.265、SRTといった映像伝送は重要なツールになると思います。

表現の拡張となり、相手とのコミュニケーションが抜群に良くなるとオンラインビデオコミュニケーションは必要不可欠なツールとなっていくでしょう。

――確かに、これからのキーワードは「非接触」ですから、対面できない時にも、それと同程度のコミュニケーションが取れ、情報が伝えられ、かつ受け取れるというのは死活的な戦略ツールとなりますね。

中野 私もビデオ会議によく参加しますが、ビデオ会議に参加した時の相手の名前とか会った印象が、すごく思い出しにくいということがよくありますね。

これはなぜかというと、たとえば実際に東京に行って会社訪問した時には、どこの駅で降りて歩いて行ったとか、ミーティング後、食事をしたとか、様々な付加情報がありますから、すごく印象は残りやすいです。単にテレビモニター越しだけだと、印象に残りづらいハンディがあります。

ビデオ会議で、相手に対して業務とか商品の説明をしていく時には、どうやって的確に理解して貰えるか、印象に残せるか、考え工夫する必要があると思うのです。

それは、オンライン学習でも同じです。ただ映像を見ているだけではやはり記憶に残りにくいと思います。記憶に残る人が活躍する時代が来ると思います。

江副 中野さんが言われた「ビデオ会議だと誰としゃべったか、よく覚えてないよね」ということですが、「発言のうまい人は印象に残っている」のです。発言しない、大人しい人は、居たかどうかさえ分からなくなっちゃうケースがある。これはリアルの会議でも一緒です。

大企業の会議とかで必要以上に沢山の人が出席することが結構多いですけど、一言も発言せずに居るだけの人が結構いますね。でも、そういう人たちに成果主義を求めだすと、発言せざるを得なくなってくる。

これからは、リモートでもプレゼンテーションがうまい人、はっきり相手を説得できる方が活躍する時代にならざるを得ないのではないかと思います。

オンライン教育とGIGAスクール構想

――テレビ放送でも、コロナ対策で番組制作が従来の形では難しくなっていて、ゲストも同じスタジオに集められずオンライン参加になったりしています。当初は、画面も見にくく、音声もよくなかったけれども、必要に迫られて、いろいろ工夫していて、だんだん上手くなってきていますね。今では、違和感を持たないような番組作りが出来ていますね。

中野 オンライン教育についてですが、すごく遅れています。地方だけじゃなくて日本全体でも遅れているんです。コロナ情勢のなかで、当然のように「オンライン教育を進めるべきだ」という意見が出てきますが、教育現場側も理解はしているものの「できない」、「無理だ」という姿勢が強いと感じます。

香川県の場合でも、「まだシステムが追い付いてない」「対応するスキルが教員に欠けている」ということが理由で、オンライン教育が進んでいません。

他方、私立の高校・中学校は、すでにオンライン授業を始めています。早くから取り組んでいるところはすでに使いこなしています。

憲法26条には「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」とあるわけです。

コロナの状況が出てきて、ちゃんとした教育を受けられている学校と受けられていない学校が出てきている、これは格差をを生んでいるという状況です。危機感を持たなきゃいけないと感じています。

江副 その通りです。憲法26条で等しく教育を受ける権利と規定しています。日本は各教育委員会が学校のネットワークシステムを握っているんです。ところが、教育委員会の方々は専門家のようでいて専門家でない方もいて、「セキュリティ、セキュリティ」という大義名分のもとに閉じたネットワークを作り過ぎてしまって、いざコロナが始まった瞬間にオンラインでの教育環境を提供できずに大ヒンシュクを受けているのです。

まさに今こそ、GIGAスクールとか、Wi-Fiインフラを学校に普及せざるを得ないところに来ています。教育委員会の方とか今までコンサバティブなことを言っていた方々は、考え方を改めていかないと、教育に携わる自分たちが憲法26条違反を犯してしまうということになりかねないと思います。

――テレワークも、やらなきゃいけないと分かっていても、なかなかできなかった。しかし、コロナで追い詰められてやらざるを得ない。デジタル教育もずっと言われていたけど、文科省も大蔵省もなかなか金を出さないということで、否応なく今回は取り組んでいかざるを得ない。チャンスというとおかしいんですけど、コロナで非常に大きな転機を迎えていて、ここは是非、一挙に推進して欲しいですね。

中野 そうですね。我々ITを使う側の人間が、「憲法がどうしたこうした」とあまり馴染みのないような言葉を使うと角が立ちますが、教育をコントロールしている人たちには「格差を生んでいるということですよ」ということは声を大きくして言いたいですね。

江副 そうですね。実際に同じ公立の中学校とか小学校でも、オンラインができているところとできてないところは、すごいはっきりしていて、オンラインができているところは普通に授業ができちゃうんですよね。Zoomのようなシステムを使って、しかも閉じた高いシステムじゃなくてオープンの安いもので十分できているんです。一方で、「うちはそれがないので、家にいてください。どうしましょう」とだけ言っている学校もある。これは明らかな教育格差ですね。

北條 地方ごとに、あるいは学校ごとに違うということは、こうしたことに詳しい人がいるかどうかによっても大きく違ってくるということだと思います。私たちICTの立場の役割はとても大きいと思います。

今は、テレワークを結んでWeb会議をやっていますし、オンライン飲み会だとか、オンライン帰省のようなものまである。オンライン飲み会をやって感じたことは、今までテーブルに着くと、10人以上いると、こっちの4人だけ固まってしゃべって、残りの6人は別にしゃべっているということがよくあるわけですが、オンラインでは全員でしゃべることができるのがポイントですね。

これまでだと会議でずっと下を向いている人が居ましたし、それは気づかれなかった。しかし、Webの打ち合わせでは、一人一人の表情を見ることができます。

つまり、直接会って会議するというものと、オンライン会議で会議するというものは全然別物で、たぶん一長一短があって、その一長が増えてくれば、コロナが終わっても継続して行われることになるのではないかと思います。

オンライン教育も同じで、いろいろな学習をやるときに便利になる。例えば遠足でどこかに行くとして、誰かがカメラを持って遠くまで行って、その映像を三次元でそれぞれの生徒に配るようなことができれば、世界のいろいろなものを目の前で見ることができるので、教育上もいいかなと思います。

媒体が変わり、今までできなかったことが可能になること、それが使われていく1つのきっかけになるのではないかと思います。まだまだ、これからいろいろ新しいことが出てくるのではないかと思います。

中野 北條さんのご指摘の通りだと思います。私たちは学校の先生方と「映像通信を使って何かできないかな」といったミーティングをずっとやってきました。例えばSkypeなどを使って、海のプラスチックゴミ問題やSDGsをテーマに子供たちが教室にいながら、専門家の人と話をしながら授業をするといいなと話をしていました。すると、そもそも学校でYou Tubeは使えないし、Skypeは使えない……と、いろんなツールやネットが閉ざされていることに驚きました。

各学校は教育委員会のセンターサーバに繋がっていて、センターサーバからアクセスできる帯域は100Gbpsまでしか対応しないとかトラフィックの制限もあります。先生が学校からビデオ会議システムを使って子供たちとつなぐような想定はしてなんです。インフラ自体も、配線管理ができていなかったり、設備更新ができていない学校も多くあるようです。

LTE回線から学校のセンターに入っていく仕組みも必要ですし、ローカル5GやWi-Fi6を入れることによって高速化し、運用費は抑えていく、そういうことをやっていかないと、今のGIGAスクール構想自体が無理かなと思います。

地方で活かすIoT、AI、ローカル5G、Wi-Fi6

――テレワークからオンライン教育、ローカル5G、Wi-Fi6の話がでましたが、「デジタルトランスフォーメーション」と言われているように、コロナで止まるのではなく、もっとデジタル技術を推進し、それでポスト・コロナを切り開いていかなくてはなりませんね。それがまた地方創生なりにつながっていくわけです。

 

中野 地方に居て感じるのは、地方が個性を持ったプレーヤーとして、「こっちの分野はこっちの県が強いな」というような地域ごとに強みを持っていかなければいけないということです。今は、全国の地方都市が同じようなパターンになってしまっている。

国を挙げて「第四次産業革命をやろう」と言われている時ですから、地方もロボットだとかドローンだとかAIを使って自分たちの新しい産業で作っていけるのかどうか問われていく時が来たんじゃないかなと思います。

とにかく今は、消費がすごく停滞してしまっています。暫くの間、イベントをやっても人が集まるようなことが出来ない状況が続きますね。やはり、産業をつくっていかなきゃいけない、今までなかったものをつくらなきゃいけないという時に、AI、IoTは必須になってくるはずです。

江副 デジタル技術という点で、例えばオリンピックに関して、僕が思うことは、全部オンラインで配信する、無観客なんだけれどもスタジアムの環境がめちゃめちゃ臨場感を持って伝わる、そういう試みが重要なのではないでしょうか。

コロナにびくびくしながら、スタジアムの後ろの方で見るよりは、家ですごいダイナミックな映像で、しかも自分が見たいオンデマンドの映像が見られるとかの仕組みになったら、絶対にそっちのほうが面白いと思います。スポンサー収益も上がるんじゃないかと思うんですよね。

スタジアムに来てもらう数万人の入場料はしれているわけで、それよりは世界中に放送しているほうが金額は大きいので、そういうモデルに変わっていく機会にしないといけないのではないかと思います。次のオリンピックの時に次の新型のインフルエンザが出たらどうするんでしょう。

つまり、オリンピックだってビジネスモデルの変更が問われているわけですから、ネットワークを使った方向性に一気に日本の社会全体をパラダイムシフトしていかないといけないと思います。そうなると、東京一極集中ではなくなるのです。地方でやろうが東京にいようが全部同じになる、イーブンになって、そういうことをやることによって地方衰退はなくなると僕は思います。

――このままだと、来年のオリンピックの形態は難しいでしょう。コロナを経験した後は、発想を変えて、ともかくいろいろなイベントも、音楽も何もかも、新しい形態を模索していかないといけない。単純に元の地点に戻ることはできないわけですから。

中野 その通りですね。私は、ローカル5Gと競艇を結び付けて新しいビジネスが作れないかと取り組んでいます。地元の産業支援財団から研究助成の採択をいただいたので、日本独自の競艇をエンタテイメントに仕立てていければと考えています。

競艇は開催する地方都市の貴重な財源になっています。周辺の市町村まで財源が共有できるような仕組みになっています。競輪とかもそうです。私自身は競艇をしないので、競艇新聞を見ても何が書いてあるか分からない、選手の名前や数字がいっぱい書いてあって、そうした情報は分かる人にしか分からない。もっと楽しめるエンターテイメントにして訪日外国人も参加できるようにするには、どうしたらいいのか。また競艇場には、たくさんタブレット、端末、モニター、表示するものが置いてあるし、発券する通信機械がいっぱい並んでいます。これらをローカル5Gでつなぎ、多端末で接続できるとか、低遅延だとか、大容量だというところには、すごくフィールドも合っているし、映像を活用すればいろんな可能性が出てくると考えています。

江副 エンターテイメントをオンライン化し、ビジネス化する取り組みをはじめているわけですね。

中野 そうです。画像認識によるトラッキングを使ってボートがどう動いていっているかを検知しロケーションを取っていく。ラグビーW杯でも選手がどの位置にいるかをドコモさんが取り組んでいましたね。

今、画像認識から位置を検出することができれば、例えばボートレースをプロジェクターで机の上に水面を投影しCGでボートが見られるとか、iPadのタブレットでも見られるようになったり、レースデータを蓄積することで、1号艇の選手と3号艇の選手はどういう軌跡を通りそうだということがビジュアルで見せられるようになれば、外国人の方たちも競艇とかに参加してもらいやすくなります。

どんどんギャンブルをやりましょうよということではなく、外国人から、場合によっては海外からでもアクセスして貰えるようになったら、日本の新しい産業になるわけです。AIやIoTの技術を使って、エンターテイメントにしていき、産業に変える。私はこういうことを地方からやるべきだなと思っています。

北條 そういうバーチャルなスポーツとか、イベントの可能性は、ひしひしと感じているところです。

今は特にボランティアベースで、コンサートを無人の状態で配信したり、漫才師が一発ギャグをYou Tubeに流してみたり、タレントや音楽家が歌でリレーしていくようなものも出ています。今、欠けているものは、お金を払う仕組みですよね。今はそういうものがないから、みんなボランティアで無料でやっていますけど、おそらくこのままでは長続きしないのではないかと思います。ネットのバーチャルなイベント自体で、どうやってお金を集めていくのか、どのようにして払っていくのか。

この仕組みがうまくできれば、例えば、地方と東京の間で交通費が掛からないわけですから、そのうちの5分の1でもイベントに支払うことができれば、イベントサイドにもお金が集まってくるというふうなことができます。これがどんどん進めば、前向き思考で、イベントもどんどん宣伝されていくでしょうし、それでいろいろなことができるようになる。

ロケーションフリーなので、イベントをわざわざ東京でやる必要もないし、地方の田舎でもブロードバンド回線があって、使えるクラウドサーバさえ用意しておけば、何でもできる時代になっています。これからはイベントに関するお金のやりとりがうまくできるようになれば、進んでいくんじゃないかと思います。

最後に残るものがネットワークなので、そこのところを5Gだとか、それから5Gの先っぽにあるWi-Fiだとか、そういったものをうまく使ってストレスなく通信できるようにすることが、通信キャリア側の責務だと思います。

今は光回線を入れたい人がたくさん居ると思います。これを機にたくさんの光ファイバーを導入し、バックボーンのネットワークそのもののトラフィックをたくさん運べるようにしておけば、それがこれからのツールとなり、インフラとなって、新しいことがいろいろできるのではないかと思います。

そのためにWi-FiではWi-Fi 6という広帯域な通信方式は必須だと思いますし、一方でWiGigという60GHzを使ったギガbpsを出せるような新しい方式だとか、逆にデータレートは低いけど、長距離が飛ぶIoT用の802.11ah、そういったものが今後は出てきて、適材適所で使われるような時代が来てくれるのではないかと思います。そのために、我々Wi-Bizとして、いろいろやっていかなければいけないことが沢山、あると思っています。

Wi-Bizの新たな取り組みの方向

――コロナは一過性のものではなく、何カ月間で終わるものではなくて、大きく今後、日本の社会というか国際的に構造を変えていかざるを得ないインパクトを持つものだと思います。それに対応しつつ、もっと前向きにクリエイティブに構造変革していく。デジタルトランスフォーメーションの契機に変えていくことが、とても大事なんじゃないかなと思います。最後に、これからの取り組みについて、お願いします。

中野 私は普段の業務で映像配信とか、セミナー中継に関わってきましたが、2年前から映像を人に見せるのではなくて、AIに見せるということに取り組んでいます。ニワトリの雛のオス・メスを鑑別していくというものです。ちょうど昨年末PoCが終わり、特許の手続きが終わり、プロトタイプを作っていっているところです。この研究は総務省「異能vation」プログラムの「破壊的な挑戦部門」の中でやってきたのですが、もともとは映像を人々に見せてきたことをAIに置き換えようと始めました。

その中で人の目では見えない光の波長を使ってAIに見せるということにフォーカスしてきました。次のステップは「ネクスト・アイ」、人間の目に代わるものとして使えるような時代が来るんじゃないかなと思っています。

*参考 https://youtu.be/AqSe35iv66g

江副 中野さんが、最初からオンラインでやることにこだわり、オリジナリティを発揮してやっておられることを伺って大変勉強になりました。こういう考え方の根本から見ると、地方は東京より進んでいる部分が多いのではないか思いました。

日本に生まれてきたベンチャー企業がよく海外に弱いといわれますが、それは日本でベンチャーを立ち上げるときに日本オリエンテッドに始めようとするからです。例えばイスラエルの会社なんかはベンチャー企業が生まれてくると、最初からグローバル化が前提でスタートするんですね。立ち上がってくると、イスラエル国内とかはどうでもよくて、すぐ海外に出ていっちゃうんです。それで、気付くとグローバル企業になっている。日本はそれができなくて、なまじっか市場があるから、日本市場向けで商売をしてしまって、小さく収まってしまうということがある。

今、東京におけるビジネスは、電車1本ですぐ行けてしまうことが前提になっている。便利さのおかげで逆にオンライン・オリエンテッドにやることができなくなっている。でも、地方は簡単に東京に出て来られないから、逆にオンライン・オリエンテッド、デジタル・オリエンティッドになっている。また、Wi-Fiなんかはものすごい使われ方をしているということがある。

そう考えると、実は先進的なところを地方からもっと学んで、一緒にやっていけるような仕組みをどんどんやっていきたいと思います。

北條 全くその通りだと思います。ここまでお話ししてきて、今、中野さんがどこにいらっしゃるのか、全く意識していません。あたかもそこにいらっしゃるのと同じだということを感じました。仕事というのは場所で仕事をしているわけではないのですね。

コロナの影響で半強制的にやったとはいえ、テレワーク自体のメリットをひしひしと毎日感じているということだろうと思います。これからも、これをうまく活用していかなきゃいけない。既存の概念をベースにしか考えられないと発展はないと思うのです。

今後、私は通信キャリアなので、しっかりとそのインフラを作っていかなきゃいけないと思いますし、Wi-Fi 6はその鍵になると思っています。

新しいものをうまく取り入れ、受け入れて、次のビジネスをつくっていくことが、これからの成長戦略だと思います。Wi-Bizは、そうした諸課題を会員の皆様とともに推進していきたいと思います。


目次ページへ

■Wi-Biz通信(メールマガジン)の登録はこちら