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[特別座談会] 5GとWi-Fiの競合と補完を考える (上)
5Gの特徴をよく見てWi-Fiラインナップ全体との比較が必要

出席者 北條博史会長、江副浩渉外・広報委員会委員長
松村直哉企画・運用委員会副員長、森田基康渉外・広報委員会副委員長

いよいよ5G(第5世代移動通信システム)のサービスが始まる。日本では今年秋からのトライアルを経て来年3月からは実用サービスが開始される。5Gの登場は通信業界に大きなインパクトを持つと期待されている。Wi-Fi市場にはどういう影響を与えるのか、競争と連携はどう広がるのか。特別座談会を行った。

まだ誤解の多い5Gの機能と全体像

――まず最初のテーマですが、「5Gの特徴とWi-Fiとの比較」から入りましょう。そもそも5GとWi-Fiはどこがどう違うのか、どういう関係にあるのか整理しておきましょう。

北條 5Gというもの自体まだ全体像は明らかになっていないところがあり、たとえば3.7/4.5GHz帯は今のLTEの延長線上にある周波数帯ですが、28GHz帯はかなり無線特性が異なり、エリア展開も相当異なりますが、両方とも一緒にされていることが多いです。
「5Gが出るとWi-Fiは要らなくなるのでは」という人が居ますが、どの周波数帯のどの段階の5Gと、Wi-Fiのどの規格とを比較して論議しているのか、混乱している場合が多いですね。

江副 本当に、そう思います。Wi-Fiは、「Wi-Fi 6」というブランド名が新たに生まれてきました。11axがWi-Fi 6です。このWi-Fi 6とか「Wi-Fi 5」というラインナップとは別に、「Wi-Fi Halow」とか「WiGig」というものが分かれて定義されています。周波数の特性が違うところを区別できるように上手くブランディングされているんだと思うんです。これはWi-Fiのすごくいいところで、例えばリビングルームで8K映像を高速ストリーミングしたいというと、それは明らかにWiGigということが分かるわけです。IoT向けで遠くに電波を飛ばし画像も流したいとなってくると、それはWi-Fi Halowです。それ以外、スマートフォンとかタブレットを使うというときにはWi-Fi 5だったりWi-Fi 6だったりになり、数字が多くなるほど速くなるアクセスシステムがあるわけです。
これに対して5Gは周波数関係なく、「超高速通信」「低遅延」「多数接続」ということで全体として5Gというブランディングで何でもできますというような捉え方になっているのではないかと思います。

――5Gは3.7/4.5GHz帯と28GHz帯とでは置局設計がかなり異なりますし、第一ラウンドと言われる2020年ごろと、第二ラウンドといわれる2025年ごろとでは別物といっていいくらい、発展度が異なるといわれています。何と何を比べて、何を論じているのかということが曖昧なままといえますね。

北條 曖昧なまま特性を比較している傾向があります。「最大伝送速度はいくらですか」と言われたときに、5Gの28GHz帯のGbpsの話をするのなら、本来、Wi-FiはWiGigでないといけないんです。それが、Wi-Fiのaとか、bとか、acの話をしている。IoTで例えばNB-IoTとかLTE-Mの話をするんだったら、Wi-FiはHalow(11ah)と比較しなきゃいけないのです。そこのところが明確になっていないと、何を比較しているのかが分からないというところになると思います。同じ周波数帯のものであれば、例えば速度やエリアというのは、基本的に同じような無線方式を使っているから、あまり優劣はないのです。むしろ、「ライセンスかアンライセンスか」「基地局制御か自律分散型か」というところが差分になります。

江副 明確にしておきたいのは、「5Gは10Gbps、20Gbpsの速度が出せます、すごく速いです。これは絶対にWi-Fiじゃ出せません」と言われますが、それを比較するなら、WiGigと比較するべきであって、Wi-Fi 6と比較しちゃいけないんじゃないんですかということです。

――そういう論議が出るのは5G自体がまだ正確には知られていないということと、ムード的に「5G万能論」「5G期待論」が行き過ぎているということがあると思います。そのあたりは、携帯電話キャリアも5Gへの行き過ぎた誤解を解かなきゃいけないみたいなことを最近は言っていますね。

江副 「5Gは何でもできる、逆に5Gがないと何もできない」という変な誤解が広がっているようで、「国会議員のなかには5Gがないと自動運転ができない。だから、田舎にも早く5Gを作ってくれという誤解があって困っている」というような話も聞いています。そういうよく理解していない誤解を含んだものが非常にあって、それとWi-Fiの一部と比べられるというのは非常におかしいということは言っておかなければいけないですね。

松村 5Gも今の4Gも、Wi-Fiと大きく違うのは、携帯キャリアバンドの場合、きちんと同期したフレームを作るという手間が掛かっているわけです。さらに基地局同士できちんと同期を取ったりするという手間を掛けた上で、品質が良くなっているわけです。Wi-Fiは使い勝手はいいんだけど、ちょっと品質が悪い。キャリアのサービスはカスタマイズはできなくて使い勝手はよくないが、品質はきっちりしているという、そういう大きな違いがあるわけです。ここの違いは大きいと思います。

――キャリアネットワークでコントロールされたワイヤレスというものと、自営で自律分散で手軽にというか自由というか、ユーザーが望む方向でできますという、そこも根本的な違いですね。小林顧問が絶えず言い続けておられるところですね。

北條 その点、ローカル5Gもあたかもアンライセンスかのような話になっているけれども、実はちゃんとしたライセンスで割り当てられ、なおかつ基地局が制御する方式なので、Wi-Fiみたいに事業者をいくつでも、どうぞ自由にお入りくださいというものではないのです。ですから、プライベートだからLTEができたらWi-Fiがいらないというのは、全然筋違いな議論になっていると私は思います。

松村 5Gでマルチキャリアによる基地局の話が話題になっていますが、実はWi-Fiは1つのアクセスポイントで複数のオペレータの電波をすでに吹いているわけですよね。例えばNTT BPのWi-FiでもWi2の電波を吹いたりとか、そういう1つのアクセスポイントで3つのキャリアの電波を吹くというのは比較的簡単にできるのがWi-Fiで、それをキャリアのバンドの基地局でやろうとすると、品質が高い分だけかなりハードルが高くなるわけです。それだけコストを掛けなきゃいけないので、逆にちゃんともうかる回収モデルも作らなきゃいけないので、ビジネス的には大変になっていると思います。

森田 私は企業ユーザーにおけるの業務寄りのビジネスの観点になりますが、以前ドコモのDoPaが世の中に出てきて、佐川急便宅配便会社がバーコードを読む端末にDoPaのモジュールを入れてました。荷札に印刷されているバーコードを読み取ったデータをリアルタイムにDoPa回線を利用してアップするという、特定用途でライセンスバンドの回線を使っていましたが、やはりこれがキャリアが提供するライセンスバンドの使われ方なのかと基本的には思っています。今でいうとクラウドみたいな環境に集約をして、きっちりセキュリティ環境でデータを送る仕組みをやらなきゃいけないわけですが、これは4Gになっても5Gになったとしても、あまり大きく変わってくるところではないのかなと思っています。
Wi-Fiの場合は、アンライセンスバンドで複数電波を吹いて、複数のものをマルチデバイス、マルチネットワークで構築して、いろいろな業務や作業での運用ができるので、利用者側の目線から見ると、かなり利用用途の幅が広がってきて使いやすいはずです。同じインフラなんだけど、やれることが片方はバーコードで読んだ端末を集約する、片方はいろいろなデバイスをつなげて、いろいろな業務で使うことができる、そこが根本的に違う世界なのかなという気がします。

――5Gの三大特徴といわれている1番目の「超高速」のところは、通信速度の単純比較でWi-Fiが劣勢ということはあり得ないということですね。むしろ用途の適性の問題ですね。

北條 そうですね。たぶんそれぞれの方式の優劣を踏まえて適性分野での活用ということになるでしょう。

江副 まったくそうですね。ライセンスかアンライセンスかということ、中央制御か自律分散かどちらがユーザーのシステムに適合しているかということのほうが大きいですね。

北條 街中などの公衆領域ではスマートフォンなどの携帯端末は直接キャリアネットワークにつながっていますけど、今や、会社内とか会議室などはみんな無線LANになっているじゃないですか。そういう意味でいうと、最後のところはこの部屋の中の人しか使わないわけだから、それを集中制御してコントロールしましょうなんていうよりは、みんなで使ったほうがいいわけです。この部屋に来るところまでの回線は光を引くのかLTEを使うのか5Gでもいいと思うんですけど、それはここまである程度の帯域を持ってきてくれればそれでいいんじゃないかと思います。そうすると本当に、「ラストアクセス」はWi-Fiみたいなもののほうがいいわけです。

江副 今、北條さんがおっしゃられていたことを逆説として考えるんです。例えばWi-Fiが今ここになくて、5Gしかありませんとなると、この部屋に4キャリア分の基地局が立つことになるんです。それは絶対にあり得ないわけです。
先ほど松村さんが言われたように、Wi-Fiというのは世界に割り当てられているアンライセンスドバンドです。その1つの周波数に対して、いろいろな事業者のサービスが載せられるわけです。
一方で5Gのようにライセンスドバンドというのは、事業者ごとに周波数が割り当てられてしまっているので、必然的に基地局が違うものになってしまう。だから、例えば今、ここにはA社、B社は設置してくれたんだけど、C社、D社はないというケースがあり得るわけですね。そうなった途端に通信の不平等が生まれてしまいます。
LANの中で使いたいということは、たぶん5Gだけではカバーできないからなのです。

――先般、Wi-Bizのメルマガのインタビューでドコモの阿佐美副社長が述べられていたように、ユーザーの利用するデバイスはいっぱいあるわけで今すぐ全部を5Gのインターフェースすることはできないわけだから、「5Gスマホ」をルータにして、Wi-Fiで飛ばすという構想が一番、現実的ではないでしょうか。この場合は、5Gはバックホール的な位置づけになりますね。その方が5Gの普及も速いのではないでしょうか。

北條 シスコシステムズの「エンタープライズ向けの新たなワイヤレス分野:5G、Wi-Fi 6、およびCBRS」という公開資料では、「キャンパスおよびブランチ内はWi-Fi 6」「5Gは、キャンパスおよびブランチのバックホールサービスとして」と書かれています。バックホールは5G、最後のところはWi-Fiでいいでしょうという考えですね。

キャリアバンドの5Gと自営型のWi-Fiとの住み分けが続く へ_


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