電波の話
周波数による伝搬距離とキャリアアグリゲーション

無線LANビジネス推進連絡会会長 小林忠男

私たちは毎日の生活や仕事で様々な電波を使って暮らしています。スマートフォン、携帯電話はもちろん、テレビ・ラジオからアマチュア無線、トランシーバー、さらにタクシー無線、列車無線、衛星通信などなど、多種多様な電波を使っています。
もちろん、Wi-Fiも電波を使い、大きな役割を果たしています。

しかし、私たちは電波を見ることが出来ませんので、正確な知識を持つことが意外に難しく、誤解していることも多いのが実情です。そこで、今回から、電波の基本と応用について、間違いやすい点をただしながら、解説していきたいと思います。

周波数と伝搬距離

電波は1秒間に振動する周波数の違いによって、遠くまで飛ぶ電波とそうでない電波とがあります。

基本的には、周波数が低いと電波は遠くまで飛びますが多くの情報を送ることが出来ません。逆に、周波数が高くなると電波は遠くまで飛びませんが多くの情報量を送ることが出来ます。

私たちが毎日使い手放すことのできないスマートフォンは、携帯電話キャリアによる移動通信システムでは、900MHz帯、1.5GHz帯、2GHz帯、3.5GHz帯などの周波数帯が使われています。

これらの周波数帯の伝搬距離と情報量を図1に示します。

 

携帯電話の移動通信システムと並んで情報通信基盤になっているWi-Fiの周波数は、ご存じのように2.4GHz帯と5GHz帯が使われています。
これに加えて、高画質画像等の用途に使う60GHz帯を使う802.11ad、さらにはIoTに最適な900MHz帯を使う802.11ahが今後登場してきます。

スマートフォンの登場以来、やり取りする情報量が急激に増加しているため、移動通信システムの高速化が急務になっています。2020年の東京オリンピック・パラリンピックへ向けて、5G(第5世代移動通信システム)の標準化、開発が全世界的に急ピッチに進められています。

4K、8Kの画像伝送が可能となる5Gでは、20GHz帯を超える高い周波数帯が使われる計画です。また、5Gは単に携帯電話の移動通信システムだけではなく、Wi-Fiとその進化を含めてトータルで構想されていることは総務省も指摘している通りです。

キャリアアグリゲーション

さて、情報量の増加に対応するためには、5Gのように新しい周波数帯を開発する方法と、既存の周波数帯を有効利用する方法とがあります。
後者の一つが、高速化の手段の一つとして実用に供されている「キャリアアグリゲーション」という方法です。

キャリアアグリゲーション(carrier aggregation)は、「キャリア=電波」を「アグリゲイト=集約する」という意味で、複数のワイヤレス回線を束ねて同時に使用し高速化する技術です。
同一のワイヤレスシステム、あるいは異なるワイヤレスシステムを束ねて高速化するために開発された技術です。図2にそれを示します。
この技術の実用化により、ワイヤレスシステムが光通信を超える速度を提供することが可能になりました。

 

キャリアアグリゲーションは高速化のために優れた技術ですが、いつでもどこでもその効果が100%発揮されるわけではありません。

図1に示すように電波は周波数によって飛ぶ距離が異なります。また、キャリアアグリゲーションは図2に示すように二つのワイヤレスシステムの速度の合計になります。

しかし、図3に示すように、二つのワイヤレスシステムの周波数が異なる最大の速度は合計値になりますが、この合計の速度はどこでも実現されるわけではありません。

 

周波数が異なると伝搬する距離が異なるため、図3が使用可能な範囲は図4の斜線の部分だけになります。
斜線の外に出たら、使用できる速度は合計値以下になってしまうということです。

 

また、キャリアアグリゲーションで高速通信する人は快適な通信が可能になりますが、二つの電波を一人が占有するわけですから、本来使える人が使えない場合が生じているかもしれません。

電波は見えないため、また、一般のユーザーはワイヤレスシステムの伝送速度を簡単に測定することが出来ないために、サービスプロバイダーが言うことを信じるしかないのが現状ですが、「これだけのスピードが出る」というセールストークは極めて限定的な条件のもとで可能になるのだということです。

スマートフォンは毎日の生活になくてはならないものになっていますが、電波がなければ機能しません。これからのワイヤレス新時代において、電波によって出来ることと出来ないこと、出来る場合があれば出来ない場合もあるということを正確にお客様に伝え、理解して頂く姿勢と取り組みが提供する側に必要ではないかと思います。


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