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インタビュー
シスコシステムズ合同会社 
執行役員 ネットワーキング事業 高橋 敦 氏
AI時代へ、すべてをセキュアにつなぎ、
あらゆる可能性を実現する

AIとWi-Fi 7が支える「未来を見据えたワークプレイス」

シスコシステムズでネットワーキング事業を担当している高橋敦執行役員を、Wi-Biz北條会長とともに、お訪ねし、AI時代におけるネットワークの方向性、Wi-Fi事業の方向性をお聞きしました。
高橋氏は、「AI時代において、組織をつなぎ、保護する」というテーマの下、特に「未来を見据えたワークプレイス」をキーワードに、AIで変化するネットワークのなかで、Wi-Fi分野で製品統合やネットワーク品質確保、セキュリティなどにAIを大幅に活用して取り組んでいると述べました。

 

 

AI時代に人と組織をつなぐということ

ーーグローバルにおけるネットワークとAIの活用状況、そしてシスコの取り組みについてお聞かせください。
高橋 シスコが現在掲げている大きなテーマは、「AI時代において、組織をつなぎ、保護する」ことです。

 

 

このテーマのもと、「AI対応データセンター」「未来を見据えたワークプレイス」「デジタルレジリエンス」の三つを重点領域とし、これらを「Cisco AI」の力で加速させることが、グローバル全体の開発方針となっています。
AI対応データセンターでは、NVIDIA社とのパートナーシップをはじめ、AIに最適化されたコンピューティングやネットワーク環境の強化を推進しています。
一方、デジタルレジリエンスでは、2024年に約4兆円で買収したSplunkのソリューションとセキュリティが中核を担っています。SplunkのポートフォリオはAIと密接に連携しており、膨大なネットワークデータのリアルタイム解析や異常検知、インシデントレスポンスの自動化など、AIの本格的な利活用を強力に推進しています。これにより、セキュリティ運用やシステム監視の効率化が飛躍的に進んでいます。
「未来を見据えたワークプレイス」においては、ネットワークやワイヤレスがその中心となりますが、コラボレーションやセキュリティも重要になります。コロナ禍以降、ハイブリッドワークやリモートワークの浸透が進み、ネットワークに求められる要件も大きく変化しました。シスコは、こうした社会変化を先取りし、グローバルで最先端のソリューションを展開しています。日本国内でも、ネットワークにコラボレーションとセキュリティを統合して、未来を見据えたワークプレイスを一緒に実現していきたいという声を数多く頂いています。

「未来を見据えたワークプレイス」

ーー「ワークプレイス」の定義は従来のオフィスを超えているとのことですが、具体的にはどのような場所を想定されていますか?
高橋 ワークプレイスは単なる「職場」だけでなく、「人が働き、テクノロジーが動き、顧客にサービスを提供するあらゆる場所」と定義しています。

 

 

従来のオフィスや支店だけでなく、自宅、店舗、スタジアム、車内、工場、コンタクトセンターなど、人とテクノロジーが連携して顧客にサービスを提供する全ての場所がワークプレイスと考えています。

 

 

近年、分散型労働やハイブリッドワークへの要望が高まり、ワークプレイスの多様化が進んでいます。さらに、IoTやAI、クラウド技術の進歩により、従業員がどこからでも安全・快適に業務ができる環境が整いつつあります。しかし、多くの企業ではデジタル体験の一貫性や効率性、サステナビリティの観点で課題が残っています。例えば、場所によってネットワーク品質やセキュリティレベルが異なったり、デバイス管理が煩雑化したりするケースが多くみられます。
また、AIやIoTなど新技術の導入が加速する一方で、サイバー攻撃などのリスクも増大しており、セキュリティ対策の強化が不可欠です。

 

 

シスコは、こうした複雑な課題に断片的に対応するのではなく、全体を俯瞰したネットワーク戦略を提案しています。ネットワークのエッジからクラウド、データセンターまで一貫したセキュリティと運用管理を提供し、どこからでも安心して働ける「未来型ワークプレイス」の実現を目指しています。

Wi-Fiを中心としたネットワークの課題

ーーWi-Fiを中心としたネットワークの課題と、シスコの新しいアプローチを教えてください。
高橋 従来、ネットワークトラブルが発生した際、ユーザーはまず無線アクセスポイントに問題があると考えがちです。しかし実際には、その先にスイッチやルーター、さらにはインターネットやデータセンター、クラウドサービスなど多くの要素が関与しています。現代のネットワークは複雑化・多層化しており、どこに問題があるのかをリアルタイムで可視化し、迅速に特定することが困難です。
この課題に対し、2020年に買収したThousandEyesのテクノロジーを活用しています。ThousandEyesは、エンドツーエンドでネットワーク全体を可視化し、ユーザーが所有しているインフラだけでなく、第三者が管理するクラウドやインターネット区間も含めて、どこに問題があるかを瞬時に特定できます。たとえば、在宅勤務者が業務アプリにアクセスできない場合、原因が自宅のWi-Fiなのか、通信事業者のネットワークなのか、クラウドサービスの問題なのかを自動で瞬時に解析します。これにより、IT部門のトラブルシューティング効率が大幅に向上し、ダウンタイムの最小化やユーザー満足度の向上に貢献しています。

ーーWi-Fi 7製品の今後の方向性について教えてください。
高橋 Wi-Fi 7のアクセスポイントの普及が本格的に加速し、これが新たな主流になりつつあります。Wi-Fi 7は、従来のWi-Fi 6/6Eと比べて、より広い帯域幅と高いスループット、低遅延が特長です。これにより、超高解像度の映像伝送やAR/VR/XR、IoTデバイスの大量接続など、今後のデジタル社会を支える新しいユースケースへの対応が可能となります。
シスコもWi-Fi 7対応の最新アクセスポイントを提供しており、現在はほぼ全ての案件でWi-Fi 7が検討されています。特に、製造業や大規模オフィス、公共施設など、高速・大容量通信が求められる現場での引き合いが増えています。
開発方針としては、「クラウドとオンプレミスの完全統合」を進めています。従来はクラウド型のMerakiとオンプレミス型のCatalystという2つの管理ソリューションがありましたが、現在はハードウェアを統合し、ユーザーの運用ニーズに応じてクラウドモード/オンプレミスモードを自由に選択できるポートフォリオを実現しました。今後はCisco Wirelessとして展開し、どのような展開モデルにも柔軟に対応することで、お客様の選択肢が大きく広がっています。
また、Wi-Fi 7導入の現場では、AIを活用した電波環境の最適化や、トラフィックパターンの自動学習によるネットワーク品質の向上も進んでいます。これらの技術革新により、ユーザー体験のさらなる向上が期待できます。

AIのWi-Fi、ネットワークへの活用

ーーAIの活用は、Wi-Fiやネットワーク全体でどのように進んでいますか。
高橋 AIの活用は、クラウド型やオンプレミス型のネットワーク管理プラットフォームをはじめ、ルーター、スイッチ、ワイヤレス、データセンター、コラボレーション端末、そしてセキュリティ領域まで、ネットワーク全体に広がっています。
例えば、AIによるトラフィック解析や障害予測、ネットワーク自動最適化など、従来人手で行っていた高度な運用を自動化できるようになっています。
無線区間だけにAIを適用してもその効果は限定的です。端末を含めて、ネットワーク全体を包括的に管理可能なAI基盤の開発を進めています。たとえば、ネットワーク全体の状態をリアルタイムに監視し、異常を自動検知・予測、トラブル発生前に予防的なアクションを提案・実行する仕組みです。
さらに、AIアシスタンスではチャット形式で運用の高度化を図ることができます。たとえば、「どのアクセスポイントで遅延が発生しているか」などの質問に自然言語で回答したり、ネットワークの設定変更や問題解決を自動化したりできるのが大きな特長です。
シスコは長年の運用データを活用し、他社にはない豊富な質・量のデータをAIに学習させ、実践的で信頼性の高いAI活用を可能にしています。
また、AIセキュリティ強化のためRobust Intelligenceの買収や、ネットワーク特化型LLM(大規模言語モデル)であるDeep Network Modelの開発など、シスコならではの独自アプローチも進めています。

ーーWi-Fi 7とAIの連携による新たなユースケースについて教えてください。
高橋 Wi-Fi 7の導入が進むことで、超高解像度のビデオストリーミングやAR/VR/XRを活用したマルチユーザー体験、没入型のゲームやエンターテインメント、遠隔医療や次世代教育など、従来は5Gやローカル5Gで想定されていたユースケースがWi-Fiでも実現可能になってきました。

 

 

例えば、大学キャンパスや大規模イベント会場では、数千人規模のユーザーが同時に高品質なネットワークを利用できる環境が求められています。Wi-Fi 7の高帯域・低遅延特性を活かし、リアルタイムの映像配信やインタラクティブな学習コンテンツ配信が可能になります。また、製造業のスマートファクトリーでは、機械同士のリアルタイム連携や設備の遠隔監視にWi-Fi 7が活用されています。
AIの連携により、ネットワーク運用の自動化・最適化も進んでいます。例えば、AIが利用者の行動パターンやトラフィック負荷を分析し、必要に応じて自動的に帯域を割り当てたり、障害予兆を検知して事前にアラートを出したりする仕組みが実装されています。
日本国内でも製造業や公共無線LAN事業、テクノロジー商社、システムインテグレーターなど、さまざまな業界でWi-Fi 7とAIを組み合わせた新しいサービスや先進的な取り組みが生まれています。

ーーAI活用によるネットワーク運用の高度化や自動化について、シスコはどのようなアプローチを取っていますか?
高橋 ネットワーク運用の高度化にはAIの活用が不可欠です。
シスコのAI基盤は、機械学習やAIによるデータ分析を活用し、障害の早期検知・解決やネットワーク品質の向上、顧客満足度の向上を実現しています。
たとえば、ネットワークの問題発生時にはAIアシスタントが対話形式で原因を特定し、解決策を提案します。さらに、現在開発中の「AI Canvas」では、複数部門が同時に状況を把握できるよう、問題のサマリーやインシデントタイムラインを自動生成し、エグゼクティブサマリーもAIが自動で出力します。これにより、社内外への迅速な報告や意思決定が可能になります。

 

 

また、クラウド型やオンプレミス型のプラットフォームとも連携し、ハイブリッド環境を一元管理できる点が大きな特長です。各ネットワーク機器から収集したテレメトリー情報やフロー情報をAIが解析し、運用担当者の負担を軽減しつつ、ネットワーク全体の健全性を保つことができます。
さらに、AIと自動化技術を活用することで、人為的ミスの減少や運用コストの削減にもつながります。将来的には、AIによる完全自律型ネットワーク運用の実現を目指し、研究開発を進めています。

AI時代へのネットワークとハードウエアの進化

ーーAI時代に求められるネットワークやハードウェアの進化について教えてください。
高橋 AIの普及により、トラフィックパターンが大きく変わり、ネットワークには超低遅延・超高速、そして高度なセキュリティが求められるようになっています。
例えば、AIワークロードの多くは大容量データの高速転送や、クラウドとエッジ間でのリアルタイム連携を必要とします。

 

 

シスコは、最先端のチップセットである「Cisco Silicon One」を搭載した最新のネットワーク機器や、最先端の暗号技術に対応したセキュリティ機能を備えたハードウェアを提供しています。

 

 

 

また、長期間にわたって安心して使えるよう、ポスト量子暗号(PQC)にも積極的に取り組んでいます。
量子コンピューター時代の到来を見据え、現行の暗号技術に代わる新しいセキュリティ基盤を構築し、将来の脅威にも柔軟に対応できるネットワークインフラを目指しています。
さらに、ハードウェアだけでなく、ソフトウェアやクラウドサービスとの統合も進めています。
オンプレミス/クラウド/エッジをシームレスに連携させ、AI時代の多様なニーズに応える拡張性と柔軟性を兼ね備えたネットワーク基盤の構築に力を入れています。

ーーWi-Fi 7対応の最新アクセスポイントやネットワーク運用の現状について教えてください。
高橋 用途や規模に合わせて多様なWi-Fi 7対応の最新アクセスポイントを提供し、小規模から大規模、産業用途まで幅広く対応しています。

 

 

クラウドとオンプレミスの管理統合により、さまざまな事業規模・業種で柔軟に導入できる仕組みを実現しました。

 

 

現在、シスコがマネジメントソフトウェアで管理しているクライアント数は10億台を超え、ネットワーク機器も3,500万台以上が管理対象になっています。
これらのテレメトリーデータやフロー情報を蓄積・分析することで、ネットワーク運用のさらなる高度化や、トラブル発生時の迅速な対応を実現しています。
具体的な例として、大規模な物流拠点や工場では、Wi-Fi 7の高信頼性・大容量通信を活かし、AGV(自動搬送車)のリアルタイム制御や、IoTデバイスの一元管理が可能になっています。
また、公共施設や商業施設では、多数のユーザーが同時に安全かつ快適にネットワークを利用できるよう、AIを活用したトラフィック管理やセキュリティ強化の仕組みも実装しています。

ーー最後に、AI時代におけるネットワークの未来についてお聞かせください。
高橋 ネットワークは、私たちの働き方・学び方・遊び方を根本から変革してきました。そして今、AI時代の到来により、ネットワークのあり方はさらに大きく変わろうとしています。AI、ネットワーク、セキュリティーこれらは切り離せないドメインとなり、密接に連携して進化していきます。

 

 

そして、これから、AIに特化したネットワークが必要になると考えています。

 

 

AIを活用した「運用のシンプル化」、AIレディな「拡張可能なデバイス」、そして「セキュリティとネットワークの融合」を実現することで、AIに対応したセキュアなネットワークアーキテクチャが可能になります。
ハードウェアとソフトウェア、クラウドとオンプレミス、すべてを一元管理し、AIの力で品質・効率性・信頼性を高めることで、お客様のビジネスと社会全体に貢献していきたいと考えています。
シスコはこれからも、グローバルな知見と豊富な実績を活かし、「未来を見据えたワークプレイス」「AIに対応したセキュアネットワークアーキテクチャ」を軸に、日本の成長と社会課題解決に貢献するネットワークインフラを提供し続けます。

AI時代の到来はネットワークの役割と価値を大きく変えつつあります。シスコは、最新テクノロジーを駆使して、日本およびグローバルのお客様が直面する課題解決と新たな価値創造を支援しています。シスコはこれからも、すべてをセキュアにつなぎ、あらゆる可能性を実現していきます。

 


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