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海外情報
自治体公衆無線LANの動向とOpenRoamingの民間への展開

株式会社グローバルサイト 代表取締役
セキュア公衆無線LANローミング研究会(NGHSIG/Cityroam) 副幹事
山口 潤

資金投入が続く自治体公衆無線LAN

海外の情勢を覗くと、今年に入って政府資金を使用した公衆無線LANの整備についてのニュースを見かけます。
アメリカ・インディアナポリスでは、すべての公園施設に高速の公衆無線LANの整備がスタートし、2024年夏までに29施設に投入される予定です。このうちの50万ドルは連邦政府による新型コロナウイルスに関連する緊急経済対策法案によるものです。
イギリス・リバプールでは、海辺のリゾート地区であるニュー・ブライトンに公衆無線LANが整備されます。こちらはUKSPF(英国共有繁栄基金- UK Shared Prosperity Fund)により資金が援助されます。USKPFは、地理的不平等を克服するためにコミュニティと場所、地元のビジネスと人々、スキルのサポートを投資分野とした政府の基金です。イギリスではこの基金をもとに複数の地方の評議会が整備に動いています。

 

Wi-Fiサービスが始まったインディアナポリスのBroad Ripple Park Family Center

 

自治体による公衆無線LANはOpenRoaming化に進むか

ロンドンでは、OpenRoamingが開始された時期から、ロンドンスタジアムやカナリーワーフ、トラファルガー広場などでサービスが行われましたが、実験的なものに留まっていました。
昨年末、ロンドン市長は使用するたびに行われるサインアッププロセスとログインは煩雑であるとし、市民と訪問者のアクセシビリティと利便性の大幅な向上を目的にWi-Fiのオープンアクセス化の計画作成に乗り出すことを発表しました。市長公式サイトでは、「考えられるソリューションしては、OpenRoaming ネットワークなどのテクノロジーが挙げられます」と記されています。カナリーワーフでの整備から5年、いよいよロンドンでも本格投入が進みそうです。

 

オープンアクセスWi-Fi導入について発表するロンドン市長のポスト

 

民間では普及のハードルとなる「シームレスな接続」

一方で民間は、今まで無線LAN整備に対して「顧客とのつながり」をキーに提案する企業が多く、利用者情報を取りづらいOpenRoamingにはなかなか踏み込めないようです。

店舗向け無線LANプロバイダのサイトには、「顧客分析」「ターゲットへのメッセージング」「ロイヤルティデータベースとの統合」という言葉が並び、「スプラッシュページで利用者にブランドをアピールできます」「登録で得た連絡先に対してアプローチできます」といったメリットを打ち出しています。

OpenRoamingにおいては、IDを発行するIdP(Identity Providers)とアクセスポイントを設置するANP(Access Network Provider)が分かれています。ANPとIdPで交わされるのは認証情報であり、ANPは例えば性別、年齢、趣味といったID以外の情報を得る手段が無いため、コマースとの結びつきを売りにしたソリューションに難があります。

また、OpenRoamingは単一のシームレスなエクスペリエンスで、ユーザが追加の資格情報の入力を必要としない「シームレスな接続」が売りですので、キャプティブポータルによるスプラッシュページがありません。事業者はユーザへの接点としてキャプティブポータルに有用性を売りにしてきた事業者としては既存のビジネスが成り立ちません。

 

昨年、民間事業者が提供したイギリス国営病院のWi-Fi。
キャプティブポータルをキーにメディアアクセスの導線が作られている

 

OpenRoamingとCRMの接続によるデメリットの克服

しかし、既存サービスを続けるには、セキュリティ問題や端末がMACアドレスをランダム化によるキャプティブポータルの予期しない再接続など、ユーザエクスペリエンスでの課題が残ります。そこで、OpenRoamingを使いつつ顧客分析などを備え、マーケティングソリューションを提供する企業も現れています。

ベルギーの大手スーパーマーケットであるデレーズはいち早くOpenRoamingを導入し、すべての店舗で使えるようになりました。デレーズの担当者は、顧客のためにイノベーションを起こしたいと考えている小売業者であれば、シームレスな接続が最初に取るべきステップだと語っています。
アメリカで店舗向け公衆無線LANを提供するアデントロ(旧Zenreach)もマーケティングプラットフォームと連動したサービスを展開し、既に全米で数千のOpenRoamingスポットを提供するに至っています。

 

デレーズのアプリ プロファイルインストールの機能が備わっている

 

彼らはOpenRoamingの導入によって、むしろユーザエクスペリエンスは向上すると感じているようです。顧客がモバイルアプリやポイントカードを利用するにはネットワークへの接続が欠かせず、シームレスな提供ができることが前提にあります。なお、懸念される基礎データの収集については、アデントロは新規ユーザとリピーターの検出は可能であり、CRMオプトインのポップアップにより連絡先の収集率は上がったと考えています。

 

Adentroが提供する店舗向けWi-Fi プロファイルの提供のみでアプリは不要

 

一方、キャプティブポータルはユーザと関わる手段であり、必要だと訴える店舗オーナーも未だ多くいるのも事実です。Passpoint Release3では、ANPがユーザと関わるための会場ポータルURLを指定する機能も盛り込まれました。この機能を利用し、エンドユーザとの間でIdPやOpenRoamingのポリシーを越えた同意を結ぶことでより強力なマーケティングを行いたいと考えている事業者もいるようです。

自治体公衆無線LANがOpenRoamingに舵を切りつつある一方で、民間事業者はユーザエクスペリエンスとマーケティングの狭間で悩む様子が見受けられます。公衆無線LANのビジネスがどのように推移していくのか、今後も海外の動向を注視していきたいと思います。

 


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