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海外情報
海外のOpenRoamingとOpenWiFiの状況

株式会社グローバルサイト 代表取締役
セキュア公衆無線LANローミング研究会(NGHSIG/Cityroam) 副幹事
山口 潤

日本では携帯電話事業者/関係者やライターの方を中心に、もう公衆無線LANは必要ないのではないかという発言をよく聞きます。一方、海外ではOpenRoamingやOpenWiFiなど、新たなサービスやソリューションが次々と提供され、日々議論が交わされています。
なぜ、海外のWi-Fiビジネスは未だに熱気を帯びているのでしょうか。日本との差異に触れながら、海外動向を数回にわたりお話していきたいと思っております。

海外のセルラーカバレッジ(イギリスを例に)

なぜ、海外では未だ公衆無線LANが必要とされ、新たなサービスが展開されているのか。この理解にはまず、欧米の携帯電話事情を知っていただく必要があるかと思われます。
日本では携帯電話事業者の努力もあり、家庭やオフィスから地下鉄内、富士山頂に至るまで、セルラーの電波は圏内を示しており、特にエリアを意識することなく生活が可能になります。
しかしながら、東アジア圏から外に出ると状況は違ってきます。私が国際会議で出張した時の事例をもとにお話ししたいと思います。
イギリス・ヒースロー空港に降り立ち、ロンドン中心部へは地下鉄で向かいます。地下のホームに降りると、スマートフォンのピクトに現れるのは無情にも「圏外」の文字です。会議の会場はロンドン近郊にある四つ星クラスのバンケットにて行われましたが、このバンケットではセルラーの電波は入りませんでした。
会議の終了後、大学都市オックスフォードに立ち寄り、同国第二の人口がある工業都市バーミンガムへと鉄道で向かいました。この路線は1時間に1本は直通列車が走る特急街道です。しかし、列車がオックスフォード駅を出発し、5分も経つと圏外に。たまに現れるのはGSMでの接続を示す「E」「GPRS」といった具合で、メールの受信もままなりません。
別の日に向かったドイツでは地下鉄線内にも電波は来ていましたが、アンテナピクトの横にはGSMでの接続を示す「E」の文字でした。周りの方を見ると、主にSMSが使われているようです。

 

CrossCountry Class 220車内にて / 電波は2.5GであるGPRS

 

エリア拡張を目的としたWi-Fiオフロード

さすがに大手携帯電話キャリアがこのようなエリアカバレッジでは、生活やビジネスに支障が出るのでは?と想像しますが、実際にはそうでもないようです(ユーザー側からの不満がないわけではありません)。
ここで活用されているのが、「Wi-Fiオフロード」です。日本ではLTE誕生時にこの言葉をよく聞いたかと思います。この言葉を契機に日本でも各キャリアが公衆無線LANサービスを開始しました。ただ、日本での課題は帯域確保が中心だったかと思います。
一方、海外ではエリア拡張の目的でもこの言葉が使われます。携帯電話事業者には家や事務所の隅々までサービスを提供することを求めず、ユーザーや施設オーナーがWi-Fiを用意し、自らエリアを拡張するという考えです。
先にセルラーの電波が無いと書きましたがその地下鉄では、キャリアが提携するWi-Fiが提供されています。キャリアのSIMを入れることで、契約者には基本料金内でWi-Fiサービスが提供されます。ホテルや店舗ではオーナー側がWi-Fiを用意していますし、家庭やオフィスでは日本と同様にケーブルテレビや通信事業者がWi-Fi付きのセットトップボックスを提供していますので、ネットに接続するのに困ることは稀です。

 

大学において来訪者向けに提供されている無線LAN

 

Wi-Fi Callngの役割

ただ、オフロードの課題として通話をどうするのか?という疑問を持つと思います。そこで出てくるのが「Wi-Fi Calling」です。
Wi-Fi Callingは、家庭やオフィス、店舗等に設置されたインターネットに接続されたWi-Fi経由で携帯電話に与えられた番号で通話ができる仕組みです。端末はインターネットを経由し、携帯電話事業者が設けたゲートウェイとIPsecにて結び、IMSコアへと接続します。
Wi-Fi Callingの提供はMVNOでは未提供なことが多く、大手キャリアはWi-Fi Callingサービス対応を大きく宣伝し、エリアの優位性をアピールしています。

 

モバイルキャリア店頭にはWi-Fi Callingの広告が展開

 

セルラーと連動するWi-Fiビジネス

このような事情もあり、海外では携帯電話ビジネスとWi-Fiビジネスが密接に連動する傾向が見られます。
Wireless Broadband Alliance(WBA)が取り組むOpenRoamingでは、キャリアの持つ加入者DBをRADIUSツリーで結び、合わせてPasspointを用いることでSSIDを意識せずに公衆無線LANをセキュアかつ速やかに自動接続する取り組みが行われています。これにより、セルラー網とWi-Fiをユーザーは意識することなくシームレスに利用できます。
(手前味噌ですが)日本では「Cityroam」というブランド名で取り組みを行っており、東京都が設置した西新宿スマートポールやプレミアムアウトレットなどで、AT&Tなどの海外キャリアと契約したスマートフォンで自動接続が可能になりました。
また、先月バルセロナでは、O-RANサミットが開かれましたが、OpenWiFiのサミットも共催となりました。O-RANは携帯電話事業者の無線アクセスネットワークにおいて、オープン仕様を作成し、異なるベンダーの機器を接続できるようにする取り組みです。OpenWiFiはエンタープライズグレード無線LANにおいて、ファームウェア、クラウドコントローラーをオープンソースとして提供しようというコミュニティです。
フロント、バックグランドの両方でシームレス化の動きが出てきていることは非常に興味深いところです。

 

新宿中央公園などで展開中の5Gスマートポール、Wi-FiはOpenRoaming対応

 

次回は、OpenRoamingなどの海外Wi-Fiビジネスの動向についてお伝えしたいと思います。

 


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