目次ページへ

ローカル5G技術講座Ⅱ 第4回 通信建設事業者の取り組み
ローカル5Gは映像ソリューションに強いニーズ
用途の違いで最適のプライベートワイヤレスネットワークに

株式会社ミライト・ワン みらいビジネス推進部
プロジェクトリーダー 佐藤 一夫 氏

 

長年にわたり、通信事業者のネットワーク構築を支えてきた通信建設事業者にとって、ローカル5Gは自らの経験と蓄積を生かすビジネスチャンスの到来といえます。通建大手のミライトも、早くからローカル5G事業に参入を表明してきました。株式会社ミライト フロンティアサービス推進本部 5Gビジネス開発部門 担当部長 佐藤 一夫 氏 (ご所属は取材当時) に、同社のローカル5Gビジネスへの取り組みの狙いと今後の方向性についてお聞きしました。

(取材は2022年6月22日に実施いたしましたが、2022年7月1日に株式会社ミライト・ホールディングス、株式会社ミライト、株式会社ミライト・テクノロジーズの3社が統合し、「株式会社ミライト・ワン」が発足しております。)

 

ローカル5Gのビジネス領域について

佐藤 フロンティアサービス推進本部ができたのが2019年で、その中のインキュベーションの形で、5Gビジネスを立ち上げるための組織を発足しました。5G開始にあたってキャリアさんがいろいろなPoCをやっていたころで、「ローカル5Gの制度が始まる」と話題になり始めたころです。
5Gビジネスの今後の展開を考えたときに、5Gのソリューションビジネスを手掛けておくこと、ローカル5Gでキャリア以外に新しく免許が交付されるということは、ミライトにとっては大きなチャンスではないかと捉えたわけです。電波がキャリア以外に開放されるということは、免許手続きの面倒さということを考えると、通建業者にとってはビジネスチャンスではないかと思ったわけです。

–通信建設事業に携わっている立場から考えると、自らの力を発揮できる大きなチャンスであることは間違いないですね。ローカル5Gのネットワーク構築に絞られたのですか。

佐藤 いや絞ってないです。ローカル5Gとキャリア5Gは別のネットワークです。しかし、アプリケーションは共通ではないか、5Gのソリューションとローカル5Gのソリューションは微妙な違いはあるかもしれませんが、ほぼ共通的に使われるのではないかと、考えたわけです。
ローカル5Gはネットワークレイヤのところでは我々はかなりチャンスがある、ただ上のレイヤのところもミライトとしては是非やっていきたいという思いがありました。
ローカル5Gのネットワークレイヤだったらキャリアに依存しないで自分たちで開拓できる、さらにそこでのソリューションの経験は、上のレイヤにも展開できるということで、ローカル5Gのビジネスに対し大きな魅力を感じたわけです。

 

 図1 ミライトの5Gビジネスについて

 

–具体的にはどういう形の取り組みになったのでしょうか。

佐藤 設備構成としてローカル5Gはコアネットワークがあって、基地局があって、アンテナ系があります。我々は、長年、キャリアのお手伝いをしているわけで、基地局-アンテナの無線系のところが得意なところですので、その蓄積を生かして「無線エリア構築ソリューション」として、コンセプトパッケージの形にすることにしました。

–「ローカル5G無線エリア構築ソリューション」ですね。それは通建ですから絶対的な得意領域ですね。

佐藤 コンサル、免許申請から設計、検査、干渉調整までカバーします。エリア設計ツールの運用、電波伝送シミュレーションなど得意とするところです。
当初はミリ波から入っていきました。ミリ波の難しさを我々は知っており、エリア設計もできるし、エリアの改善ツールも用意しました。Metawaveというアメリカの反射板をやっている会社とタイアップをしました。ドコモ・ベンチャーズが出資している会社で、我々はその反射板をローカル5Gでも使えるのではないかと考えたのです。

–反射板は見させてもらいましたが、ローカル5Gのエリア構築には必要性が高いですね。

佐藤 反射板は一つのツールですが、限られたエリア内だけで電波を効率よく飛ばすことが必要なローカル5Gの免許取得には有効だと思います。

 

図2 ローカル5G無線エリア構築ソリューションとは

 

ミリ波での「ローカル5G無線エリア構築ソリューション」の中で、Metawaveは強力な武器になると思っています。
もともと私たちは、モバイル部門で3Dでエリアの設計をするとか、そういうこともやっておりましたので、無線の可視化をし、反射板を活用するとどのようにエリアを改善できるかとかは得意領域です。
そのレイヤをまず始めて、反射板等の空中系の改善ツール、アンテナメーカーとタイアップして無線の機器で、置局技術を生かしてエリア設計できますといったところを「無線エリア構築ソリューション」として進めたわけです。

–これが第一のアドバンテッジですね。

佐藤 次は免許です。免許申請は一般的には難しいと思われるので、免許申請のお手伝いができますと訴求しました。エリア設計と免許申請、そのセットとして「無線エリア構築ソリューション」ということになるわけですから。

–ミライトの優位性を生かしてビジネスを進めたわけですね。

佐藤 初めは実ビジネスというよりは総務省実証とか大企業のPoCから始まりました。
そういう案件をやっているのは、だいたいキャリアとか通信機器ベンダーになるわけです。そして、案件への入り方は、システム丸ごとというよりは、「無線エリア構築ソリューション」があることによって、キャリアとか通信機器ベンダーから声が掛かりやすくなります。

–NTT東日本のローカル5Gの実験システムにも反射板が活用されていますね。

佐藤 NTTの中央研修センタで反射板は我々のものを検証させてもらっています。ミライトの新木場のラボは、ドコモとの協創ラボという形になっています。通信機器ベンダーの構築のお手伝いもさせていただいています。「無線エリア構築ソリューション」に初めは特化したことによってキャリアとか通信機器ベンダーから、無線エリアに関するというところで、やらせていただきました。

「オールインワンパッケージ」の取り組み

–ミライトのローカル5Gビジネスとしては、まず「無線エリア構築ソリューション」を確立したわけですね。

佐藤 図1のように、青のレイヤ、黄色のレイヤ、赤のレイヤがあって、まず青のレイアから入っていきました。そして、黄色いレイヤのところで「オールインワンパッケージ」という名前で次のステップを示しているわけです。

 

図3 ローカル5Gオールインワンパッケージについて

 

基地局とアンテナの「無線エリア構築ソリューション」から、ローカル5Gのコアネットワークまでカバーする「オールインワンパッケージ」という形でチャレンジをしました。これは5G、ローカル5Gのクラウド化、ソフトウェア化がどんどん進んできて、オープンソース系のところでいくつか立ち上がってきたので、「オールインワンパッケージ」という形でコアまで含めて自分たちで提供するというチャレンジです。その第一弾は、APRESIAの機器を取り入れました。

 

図4 ローカル5Gオールインワンパッケージについて②

 

APRESIAのシステムは非常にシンプルな構成です。5Gコアの下に、CU/DUが一緒になっていて、RUも小型の無指向アンテナで、端末のUE含めて全て1社で提供してもらうという形です。機能的に制約等はありますがワンセットでそれほど広いエリアをカバーするのでなければこれで検証は可能です。5Gコアはオープンソースを利用した製品化が進んでいくなかで、APRESIAが一番早かったのです。

下位の無線エリアのところは免許申請を含めてやります、さらにレイアを上げてコアまでやります。ただ、ここはキャリアグレードではなくて、オープンソース系のものになります。オープンソース系のものはまだ発展途上にありますが、手離れが良くなりそうなものについてはミライトが頑張って提供しますという決意です。

–この「ローカル5Gオールインワンパッケージ」は、中小規模になりますよね。

佐藤 そうです。大規模導入がキャリアグレードとすると、中堅規模はオープンソース系で安価なもので構築することになります。ローカル5Gの課題は機器の価格が高額ということですから。オープンソース系が出たことで、当然価格はどんどん下がっていくだろう、そうならば我々は初めから自分たちでもそういうものに目利きができるようにしていこうという決意です。

「ソリューション協創ラボ」の取り組み

佐藤 第3ステップとしては、図1の赤のところになりますが、いろいろなアプリケーションを含めてやることです。当然キャリアグレードのものにも載っかるし、「オールインワンパッケージ」にも載っかるようなソリューションを提供していきたいです。「ソリューション協創ラボ」の取り組みは、そういう考えです。

 

図5 ローカル5Gソリューション協創ラボ

 

–どういうソリューションになりますか。

佐藤 いくつかやっています。初めのユースケースはエリア系で、反射板を活用したものです。先ほどから述べた通りです。

 

図6 ユースケース①

 

次にカメラ系のシステムです。今は8Kの映像伝送ですが、高精細映像で見たいところを拡大してみることができるのでとっても有用です。

 

図7 ユースケース②

 

図8は、さらにウェアラブルを利用して、遠隔現場支援のソリューションを示したものです。5Gによってカメラソリューションがだいぶ変わるかと思っています。

 

図8 ユースケース③

 

私は、市場的にこれからはカメラソリューションが伸びると思っています。高精細カメラはすごく伸びるでしょうし、広角カメラ、さらにマルチアングルのプラットフォームは凄く伸びると思います。それが、5G、ローカル5Gで、一気に加速するのではないかと思います。これまではとても高価だったカメラが、マーケットが大きくなることによってどんどん安くなってくると思います。

映像ソリューションには強いニーズと可能性

–これからは画像にはAIが絡んできますから、高精細カメラはもっともっと広がり、様々なソリューションに不可欠なツールになりますね。

佐藤 カメラの高度化に伴うところでAIが入ってきて、それを活用するところが増えると思うんですね。どういうところが増えるかというと、ローカル5Gはやはり工場が一つのハイライトで省人化とか無人化というテーマがあって、そこでは人の目に代わるような、いいカメラがどんどん付いてくることになるでしょう。
同様に、建設現場も省人化とか無人化の流れで、建設機器をリモートで動かしたり、現場のチェックを2人でやっているのを1人で遠隔でチェックできるようになります。高精細で広角で非常によく見えるカメラが当然出てきますね。
ただ、高機能カメラになるほどエンコードの処理が大変になり、綺麗だけど、遅くなるという問題が出てきます。そこをいかに遅くしないで送れるかという課題が出てくると思っています。

–映像ソリューションは、今後は単なる省人化からよりクリティカルなものでの活用になってくる傾向があります。

佐藤 eスポーツも低遅延じゃなければ意味がないといわれています。今までだったら複数のHDカメラでやっていたことを、8Kカメラ一台で広角に撮っておけば、あとは切り出して使えます。セキュリティでズームをしてチェックできるとか、検品でも8Kであれば綺麗に見えるとか用途は広いです。災害にも役に立つでしょう。そこで、8Kカメラは、今までは例えば放送用の非常に高いやつだったのが、どんどん安くなってくると思われます。

–ウェアラブルでもカメラの活用は進みますね。

佐藤 普通、眼鏡タイプのウェアラブルカメラがありますが、図8で示しているのは肩掛けタイプです。今はLTE版だとHDカメラですが、5Gになってくると4Kカメラで、より高精細な映像が送れるようになります。チェック作業が、もっときめ細かいところまで見れるようになってきます。見えないものが見えるようになってくると、またいろいろなことが変わってくるでしょう。
あと、ラボには広角のソリューションがあります。魚眼カメラだと周りが歪んでしまうため、あえて3眼カメラで広角に映像を撮って、3面ディスプレイに再生できるものです。広角で高臨場な映像を再現するというケースも増えてくるのではないかなと思います。本当に、現地、現場に行ったような雰囲気があるので、チェックをするときもだいぶ変わってくるでしょう。

 

図9 ローカル5Gの活用想定事例(工場編)

 

あと、動いているもの、建設機器とか、工場のAGV、AMRに搭載することで、動かしながら周りの状況が詳細に把握することができるようになります。
工場では、人と混在する環境になるので、チェックをして途中で止めて再開するときは、人が介在することが必要になってきます。そこで、人が介在するためのカメラとか遠隔で操作するための低遅延性が求められると思います。

–同じことは建設現場でもいえますね。

佐藤 建設現場でも、高精細カメラを活用して、建機の遠隔操作などはこれから増えてくるのではないでしょうか。

 

図10 ローカル5Gの活用想定事例(建設現場編)

 

高精細で高速ブロードバンド環境を生かすという点では、あとはイベントも有力ではないかと思っています。

 

図11 ローカル5Gの活用想定事例(イベント編)

 

オリンピックがそうですが、イベント中継もどんどん高精細化し4K・8Kと綺麗になって、マルチアングルでいろいろな角度から見られるようになってきています。それをどれぐらい遅延なく送れるかとなったときに、まだ8Kのアップロードは難しいんです。そこで、ローカル5Gの実証実験でもコンシューマにはキャリア5Gで送るが、スタッフ向けには8Kをローカル5Gで送るというミックスタイプのものが結構あるのではないかと思います。

–ローカル5Gではアップリンクとダウンリンクの比率が変えられので、キャリア5Gではできない8Kアップロードを実現するわけですね。

佐藤 ローカル5Gはアップリンクが重要になります。アップリンクに対してローカル5Gは強いニーズがこれからどんどん出てくると思います。
ローカル5Gは短期免許のニーズが高いと思っています。工場は常設かもしれませんが、工事現場とかイベント会場は短期で、工事期間中だけとかイベント期間中だけとかになります。短期利用で柔軟に使えるような制度変更に期待しています。
イベントパッケージみたいな形で柔軟に免許を申請して、ある一定期間中だけエリアをつくって、ソリューションを提供するという形がスムーズにできれば市場は広がるでしょう。

 

図12 屋外ショーケース(5Gゴルフ@に本カントリークラブ)

 

弊社は5Gゴルフというイベントもやらせていただいています。埼玉の日本カントリークラブです。将来のゴルフ場はこういう形になるのではないかということをデモ的にやらせていただきました。このときはキャリア5Gを使いました。クラブハウスとその近辺でキャリア5Gにして8K映像を見られるようにしました。今後のプレイサービスでは、ティーショットのマルチアングルの映像サービスの検討を行っています。また、西武建設さんと一緒に自動芝刈機の運用を検討しています。これは5Gでなければいけないわけではないのですけれども、自動で芝を刈るといったときに、障害物が出てきたときにカメラで中断させて再開させることをネットワークでやらなければいけないからです。

今後の技術的な課題について

–今後、ローカル5Gの市場拡大に向けて、解決するべき課題、特に技術的な課題はなんでしょうか。

佐藤 ローカル5Gは利用エリアが限定されているので電波をエリア外に漏らさずに制御する必要があるのですが、それが結構難しく、この技術が重要ではないかと考えます。
首都高や線路など、線条空間のエリア構築が難しいのです。高速道路は、高速道路のところはエリア化してほしいのですが、隣にビルとかがあるので、そこには影響を与えるなよと、そういう空間のつくり方は結構大変なのです。
LCX、漏洩ケーブルを使ったりすると思います。これはケーブルから近い距離に限定して電波を発するというやり方です。あとは指向性アンテナと遮断フィルムを組み合わせて漏らさないようにするとか。
免許が与えられるには、干渉が発生しないことが前提となります。ローカル5Gの免許は基本的に土地所有者(エリアオーナー)に対して提供されますので、土地の形状が複雑なところで無線エリアが隣接した場合に干渉させないエリア構築は難しくなると思います。いかに漏れなくするかが実は今後、難しくなってくる。あと高周波になればなるほど、また難しくなってくると思います。

–ローカル5GとWi-Fiの関係はどう考えていますか。プライベートネットワーク市場は今後どう発展していくでしょうか。

佐藤 Wi-Fiはブロードバンドネットワークとして自然に伸びていくと思います。8Kカメラなどが進化すればするほど、つまり端末側の進化はどんどん進むわけで、それに応じてWi-Fi 6はじめネットワークが速くならざるを得ないです。ブロードバンド化とか低遅延化とかネットワークが進化して、それに応じてアプリケーションが進化して、またそれにネットワークが追いついていくという、そのような流れになってくると思います。Wi-Fiは伸びていかざるを得ません。
Wi-Fiとローカル5Gを比べたときに、アンテナが違うとか、SIMのセキュリティが違うとかいろいろありますけど、現状では「ローカル5Gは高いよね」といわれ、ユーザーからは「それってWi-Fi 6でできないの」「現実解はWi-Fi 6だよね」というケースは幾らでもあります。
ユーザーからは、ローカル5Gの価格が低価格になっていき、「Wi-Fi 6に比べると高いんだけれども、セキュアで、干渉しないから安定している」とか、そこのメリットと価格との兼ね合いで比較検討できるところまでいくことが先決だと思います。
ただ、Wi-Fi 6でやったときになかなか安定しないんだったら、ローカル5Gに変えて安定化させようということはあるかもしれません。核心は、アプリケーションだと思うんです。アプリケーションのために使うネットワークが、初めはWi-Fi 6で良かったんだけれども、いろいろと広げていったりすると安定しなくなってしまって困ってしまうから、ローカル5Gで安定化させて、シビアになればなるほど、そのようなものが求められてくると思います。ユーザーの利用目的、ユースケースで考えることが一番大事だと思っています。

 


目次ページへ

■Wi-Biz通信(メールマガジン)の登録はこちら