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トップインタビュー
株式会社アイ・オー・データ機器
代表取締役社長 濵田 尚則 氏
デバイス提供からソリューション事業の会社に
お客様のお困りごとを解決しDXの推進へ

金沢市に本社を置くアイ・オー・データ機器は、本年TOBで上場を廃止し、この7月から新たなソリューション事業の会社としてスタートします。濵田尚則社長に、変身したアイ・オー・データの新たな経営方針とWi-Fiを中心とする事業戦略について尋ねました。

 

 

ソリューション事業に軸足を置いていく

–御社は、MBOを行い、上場廃止をされましたね。その狙いについて教えてください。

濵田 2月9日に発表しましたが、創業者の細野昭雄による「MBO」の実施を宣言、その後TOBの期間がございまして、3月に成立しました。5月末の臨時株主総会を経て、最終的には6月16日に非上場化という流れになります。
当社としましては、大きく事業の成長がありましたけれども、これまでの部品売りとして例えば液晶が売れていますとかハードディスクが売れていますとか、そういうことだけではなくて、量を売るビジネスの軸から、数年前から目指してきたソリューション的な売り方と申しますか、製品やサービス、あとソフトウェア、アプリの開発、こういったものを全て組み合わせて新しい価値を生み出し提供する、このビジネスを拡大することにより業績向上・体質改善を図っていくことが狙いです。
そうした事業の再編に取り組むにあたり、ステークホルダーの皆様を含めて、何かしらご迷惑が掛かる可能性も考慮し、細野が「本格的に構造改革するならば、MBOを実施しよう」と決断し、会社としてもそれに賛同しました。

–アイ・オー・データは数多くのデバイスを提供している会社として著名なわけですが、再編を通してどういう方向に舵を切られるのですか。

 

 

濵田 この図は当社の2021年6月期の売上構成を示しています。国内トップシェアの液晶モニターをはじめ、ハードディスクなどのストレージやフラッシュメモリ類を展開しています。Wi-Fiルータなどのネットワーク製品は「周辺分野」カテゴリに含まれます。その他に、ラインナップを拡充するため、他社ブランドの製品も扱っています。
かなりのアイテム数がありますが、データのインプット・アウトプットを取り持つものという点で共通しています。

 

 

これまではパソコン、デジタル家電、スマートフォンなど、ホスト・デバイスの変遷や進化に対して、それらに付随する周辺機器の領域で市場に立ち上がる波をうまく捉えてビジネスしてきたかなと感じています。ただ、これらの市場は年々、価格競争の激しさが増しており、自分たちだけの力でコントロールできる要素は、少なくなっています。
近年、アナログからデジタルへの変革……いわゆる「DX推進」が一層加速・拡大しており、例えば「電子帳簿保存法」の改正や、生徒1人1台端末が配布された「GIGAスクール構想」など、国を挙げての施策が次々と行われています。その一方で、実際に導入する側の中小企業や学校はITのことはわからない、現状のままでも十分だという方もいらっしゃり、ギャップが生まれています。当社は情報システム担当者が不在の現場でも導入・運用でき、DXの恩恵をきちんと受けられるソリューションの提案を目指しています。先ほどの「中小企業」と「学校」に「クリニック」を加えた3つの分野に対して、まずはアプローチしています。

中小企業のDX推進に注力

 

 

 

–「管理担当者が不在でも運用できるIT」ですね。少し説明してください。

濵田 一つ目の「中小企業のDX促進」としては、まずはペーパーレス化です。「タイムスタンプが5年間押し放題」と書かれておりますが、改正電子帳簿保存法に対応するソリューションを志向して今やっています。他にテレワークをセキュアな環境でお手軽に実現できる端末もございます。
またBCP対策です。最近は石川県でも能登半島沖で結構地震があって、それらに備える意識の高いお客様がいらっしゃいますので、将来のマイグレーションのこと等も考えると、クラウドだけではなくデータをNASとクラウドに連携させる運用をお勧めしています。

 

 

続いて二番目の「教育現場のICT」ですが、当社は各教室に設置される「大型提示装置」、つまりは、電子黒板や大型モニターの導入を通じて、デジタル教材の活用を支援しています。もう一つは学校内に高速ネットワーク環境が張り巡らされていますので、これらを利用して、放送室もリニューアルしなければいけないという課題がありますが、そこに対しての配信機材、生徒みずからが自分たちで操作をして学校行事を学校内で配信する、もしくは学校の外にいらっしゃる父兄の皆さんに見てもらう。実際に6年生を送る会、卒業式、入学式、こういったシーンで当社の配信機材を学校にお貸しし、操作を試していただいてから導入いただいています。

 

 

三番目は、医療分野です。ここは大きな伸び代があると思っている分野です。マイナンバーカードを保険証と紐付けさせて、患者さんの保険資格の有無を受付時にリアルタイムで確認できるオンラインの読み取り装置の導入が進んでいます。2023年3月まで補助金もあります。それに保険機関の仕組みと紐付けするための中継機、それが左上に書いてある端末です。こちらを皮切りに、事務スタッフの負担を軽減できるご提案を進めています。
また、「MediCrysta」という「医療画像参照用」の液晶ディスプレイも開発しました。病院やクリニックは経営状況が厳しいなかで、高い読影用のモニターで患者さんに診断内容を見せるだけではなくて、参照用のモニターとして安価なモデルがあってもいいのではないかという提案をして、採用いただいています。

–いずれも、部品売りからソリューション事業という方向がよく分かる取り組みですね。

濵田 常に心がけているのは、誰でも手軽にということと、お客様のハードルをなるべく低くできるようにということです。今までのスマホ分野、デジタル分野、周辺機器分野、こういったところも「何となくコツを分かっている人じゃないと使えない製品」ということではなくて、「コツを無力化できるような製品なんです」ということを意識して作ってきました。その延長線上でソリューション事業でも「管理者がいなくても気軽に導入できますよ、分かりやすくなっているはずです」ということを志向しています。

コロナ禍でソリューション事業の必要性が

–今回のソリューション事業へのシフト、あるいは構造改革ということの背景ですが、コロナ禍とそれによるビジネスの変容ということがあったのでしょうか。

濵田 コロナで急に、在宅で仕事をせざるを得なくなりました。今までとは違うやり方をしないと、事業の継続が立ち行かなくなるという事態です。そこでこそ、当社の持っている商材が生かせるのではないかと思った次第です。
アイ・オー・データも昨年の春先ぐらいは、社員の出社率が、石川県金沢の本社でも1割ぐらいしかないときもありました。そのときに事業をする上で一番大事なことは、オフィスと同じような環境を自宅で再現することでした。セキュアなネットワーク環境の構築が最優先で、ルータを最新モデルに買い替え、続いてリモートワークに役立つツール……Microsoft TeamsやZoomなどのコミュニケーションアプリを活用しました。さらには「カメラがあったほうが便利ですよね」、「オンラインでミーティングするときに映像よりも声がはっきり伝わるかどうかが重要ですね」と社内の声を受けて、新たにWebカメラやスピーカーフォンを開発しました。そしてこれらの取り組みを進めることが、まさにソリューションへの移行のきっかけだったのです。

— パソコン、液晶モニター、ネットワーク、それぞれ個別のものから全体として働きやすい、あるいはコミュニケーションが取りやすい環境を構築していく、そして、小回りが利くというのか、ユーザーが便利で使い勝手が良くて、細かいところでの満足感が得られるというのがソリューションのポイントですね。

濵田 そうです。教育現場のICT化でも、GIGAスクールでもパソコンの1人1台対応案件がすみ、2021年度になった瞬間に、「機材は整備されました。でも先生がICT化されたハードウェアなりソフトウェアを使い切れませんね」というところが顕著に出てきました。どのような授業を進めていったらいいのだろうかということで、外から見ていると配備されたものをうまく活用できていない教育現場があると見ています。学校の先生自体がもう少し機材に慣れたりデジタル化に慣れたりすることが必要だなと思っています。
学校に来られない生徒もいますし、リモート授業を並行してやらなければいけない、そうなったときに先生だけがICTを活用して外とつながるのではなくて、生徒みずからICTに触れる、そして実際に育むという意味では、オンラインでいろいろなことができる中で、「こういう簡単な機材でできますよ」ということを紹介しながら、教育現場の次の動きにつながるようなアプローチが必要と思い、今はそれに取り組んでいます。

–パソコンを揃えればいいのではなくて、教育を豊かにしていく、あるいは生徒の自発性を出していくという点では、パソコン、スマホ、液晶モニター、Wi-Fi、この辺を自由に使っていけるようなリテラシーというか、慣れていくことがこれからの課題で、そこにソリューションというものが出てくるわけですね。

濵田 本当にそう思います。特にネットワークは高速化し、石川県はChromebookを使って全てクラウドでやるようになっています。そうなると一斉にアクセスしたときに少し待ちの時間ができるとか、いろいろな課題等もあるので、ローカルの中にNASのようなものを置いて、そこにいったんアクセスするものは置いておき、授業中はローカルの中からデータを引っ張ってくるとか、そういう使い方を提案しながら、学校現場に携わるSIerの方々と一緒に進めています。
やはりネットワーク環境が全ての軸になります。環境が整っていないと、うまく活用できないと思っています。Wi-Fiは今やほぼインフラですから、学校であろうが自宅でも、会社や公共施設で、どこでも誰でもお手軽につながれるという状況にどんどんなっていくと思います。そこに当社のハードウェアやソフトウェアを組み合わせてより快適・便利なデジタルライフに繋がることを目指します。

「Wi-Fiミレル」でユーザーがより快適な環境に

–Wi-Fiは、Wi-Fi 6が軸になっているかと思いますがビジネスの展開はどんな状況でしょうか。

濵田 Wi-Fi 6の売上の比率は去年から見ると伸びていて、コンシューマ市場の6割を占めています。大手量販店でも、今はWi-Fi 6一本槍です。
特にコンシューマ向けは、「対応している機器を持っているのであれば、そういう環境を整備しないともったいないですよ」と、お勧めしています。Wi-Fi 6のルータはミドルレンジからハイレンジ、いろいろな種類があります。今のところはミドルレンジを中心に展開させていただいていますが、この先は、お客様の環境に合わせた製品ラインナップの拡充ができるようにと考えています。
また、当社発の「Wi-Fiミレル」というアプリ普及を並行して進めています。

 

 

コロナ禍になって自宅のWi-Fi環境がどうなっているか分からない、つながるけれども切れやすいとか遅いとか、そういうご不満がお客様の中でありました。これは家庭内だけではなくてオフィス環境の中でもそうだと思います。
そこで、アプリを通じてWi-Fiの電波感度をヒートマップという形で見られるようなソフトを作りました。どの程度の感度でWi-Fiを受信できているか、さらにWi-Fiが遅いのか通信回線が遅いのか、通信回線の速度判定までできるようにしました。切れる、遅い、いろいろなお困りごとに対して、どういう環境なのかを自分で客観視できるようなアプリを今は提供しているのです。これを使って何がネックになっているのかは分かるような形になっているので、それをベースに対処してくださいということで、かなり今お使いいただいています。

–無線LANの置局設計のときの測定器がありますが、その小型版みたいなものですか。

濵田 そういう形になります。ご自宅の間取図の写真を取っていただいて、観測する地点を打つように置いていきます。そうすると、どこにルータを置けば一番感度が良くなるか視覚的にわかる、ということです。

–それは、便利ですね。家庭でもオフィスでも使えるということですね。

濵田 そうです。現在は診断までですが、今後はアップデートにより環境改善のアドバイス機能の搭載も予定しています。

より遠くに飛ぶ11ahに期待

–これからのWi-Fiビジネスの方向性をどう見ていらっしゃいますか。

濵田 Wi-Fiの環境がいろいろなところで整ってきており、今や重要なインフラの一つになりました。これからは、それがさらに遠くでもWi-Fi環境がつながるような形になると思っています。新規格である11ahがうまく広がるような形になると、Wi-Fiの機器で遠くのものをカメラで捉えて見られるようになり、格段に便利になると思っています。それは、また、IPカメラの領域でも次のビジネスにつながると期待しています。
当社のIPカメラはAPI仕様を公開し、「こういう仕様で作っているので、お客様の仕組みの中にこのIPカメラがはまるかどうかを調べながら使ってみてください」ということを法人向けでは進めています。

–例えばどのようなところですか。

濵田 ネットワークカメラのAPIをホームページ上で無償公開しています。SIerの皆さんが、仕様書に基づいてシステムの中に作ると、カメラがソフトウェアに取り込まれ、ソリューションとして格段に便利になると思うのです。例えば医療や介護などの分野でも、管理システムの中に弊社のカメラをご採用いただいている状況です。Wi-Fiのよいところは、ITシステムにIPでそのまま入っていけるところなのです。
SIerがアイ・オー・データに何を求めているのだろうかと思うと、国産メーカーであること、在庫をきちんと持ってくれていること、何かあってもサポートはちゃんとやってくれること、サプライチェーンもひっくるめて当社の製品を採用しているのであれば、ビジネスをやる上で困ったことがあったら力になってくれそうだという安心感がキーではないでしょうか。

お客様のお困りごとを解決するためにWi-Bizの力を

–Wi-Bizは今年10年目を迎えることになりました。新しい役割、期待について、お願いします。

濵田 Wi-Fiに限ったことではありませんが、新たな規格を広めるには、あらゆるメーカーが一丸となって取り組む必要があると感じています。社会のお困りごとのために、企業や団体の垣根を越えて、周りを巻き込めるのがWi-Bizだと思うんですよね。今後も一緒に、より快適な通信環境実現を目指していきましょう。

北條 本日は、大変素晴らしいアドバイスをありがとうございます。当初はキャリアを中心に公衆無線LANサービスで一気にアクセスポイントを拡大した、そういう形で進めてまいったところですけれども、最近はそれも一段落し、モバイルのトラフィックオフロードも一段落してきたので、Wi-Fiのターゲットがどんどんプライベート側にいっています。
プライベートになればなるほどWi-Fiの1つの方式だけではカバーできない、またはネットワークとも連携をしてやらなければいけないという中にいる中で、Wi-Bizとしましてもライセンスバンドのローカル5Gも検討の中に入れまして、トータルソリューションでユーザーにフレンドリーなネットワークをどう構築していくかというようなことを検討しながら、技術調査をしたりセミナーを開催したりということを今現在、やっているところです。今日のお話は、まさにぴったりマッチングしているなと思いました。是非、いろいろと今後ともご協力をいただき、一緒にやらせていただければと思いますので、よろしくお願いいたします。

 


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