目次ページへ

活動報告
自治体訪問 第2回
久喜市教育委員会のGIGAスクールに向けた先進的な取組み

渉外広報委員会 森田基康

第二回は埼玉県久喜市に行ってきました。
今回は情報部門や政策部門ではなく、教育委員会の指導主事の方と面談して、2020年度文科省GIGAスクール構想前の産学官が連携した取組みについて話を伺ってきました。

久喜市について

久喜市は埼玉県東部に位置しており、人口15万1000人で県内では新座市(人口16万7000人)に次ぐ都市です。中心部の久喜駅は大宮へのアクセスとして東武アーバンパークライン(東武野田線)や東京へのアクセスが良い東武伊勢崎線、JR東北本線が乗り入れている通勤圏の都市となります。
近隣は鴻巣市、加須市、桶川市、幸手市、白岡市、蓮田市等の自治体に囲まれていて、圏央道(首都圏中央自動車道)と東北道のインターチェンジが久喜にあることから、埼玉県内における物流拠点にもなっていて、久喜菖蒲工業団地等の工業団地が多いエリアでもあります。

 


出展:小学館 日本大百科全書「久喜市」より

出展:埼玉県HP「久喜市隣接市町村」より

久喜市を語るに当たっては、「久喜提灯祭り(天王様)」と果物の梨が欠かせません。
久喜提燈祭り(天王様」は、旧久喜町の鎮守である八雲神社の祭礼で、毎年夏場の7月12日と18日に開催されていますが、昨年の提灯祭りはコロナ禍の影響があり、規模を縮小して昼間の山車のみで開催されました。山車を見るのも良いですが、やはり夜の部の提灯の山車が壮観で見応えがあります。

久喜市「久喜提灯祭り(山王様)」HP
https://www.city.kuki.lg.jp/miryoku/summer_fes/chochin.html

 

 昼の部の山車

 夜の部の提灯山車

出展:久喜市HP 久喜提燈祭り「天王様」の概要より

梨はあまり知られていないと思いますが、全国における埼玉の農産物産トップ10に入っている果物となり、果物の中ではキウイフルーツ全国6位(春日部市・狭山市)についで、全国7位の生産量を誇ります。久喜市だけの生産ではないですが、近隣の白岡市や蓮田市を含む順位となり、久喜市を中心とした梨の生産地となっており、有名な梨のブランドとして「彩玉(さいぎょく)」があります。

埼玉ブランドの梨「彩玉」HP
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0904/906-20100118-60.html
是非、読者の皆様も機会があれば、夏の提灯祭りを見物して、秋は久喜市産の梨を食べてみて下さい。

 

久喜市の歴史

久喜が久喜町から久喜市になったのは昭和46年(1971年)で、その後平成22年(2010年)には平成の大合併で近隣自治体3町の菖蒲町、栗橋町、鷲宮町と合併して、新たな久喜市としてスタートした自治体となります。
1市3町の合併をしたことで自治体としての面積も広く、埼玉県内63自治体では11位になり、通勤圏とされるさいたま市や川越市、飯能市、熊谷市等に次いで上位に位置します。そのことから行政施設も久喜市本庁舎以外に第二庁舎と総合支所が菖蒲、栗橋、鷲宮の3箇所、保険医療施設のセンターが4箇所、児童福祉施設が地域子育て支援センターを含めて11箇所あり、市民に対しての行政サービスも充実している自治体の一つになります。

 

                      久喜市本庁舎

                       出展:久喜市HPより

 

 

久喜市のキャラクターとアニメ

久喜市のキャラクターは「来久(like:ライク)ちゃん」になります。先に記載した日本一と言われる提灯祭りの「提灯」と、市の木の「いちょう」をモチーフとして誕生しました。来久ちゃん以外にも菖蒲エリアのキャラクターで「しょうぶパン鬼ー(パンキーと読むようです)」もいます。
筆者はキャラクターの知識がほとんどなく、久喜市のHPでキャラクターを拝見した際、初めてキャラクターに誕生日があるのだと気がつきました。ちなみに「来久ちゃん」は提灯祭りが開催される7月18日、「しょうぶパン鬼ー」は5月5日の菖蒲の節句の日が誕生日となっています。いろいろと考えられているのだと感心しました。

 

 来久(like)ちゃんとしょうぶパン鬼―

 

出展:久喜市HP 久喜市商工会のマスコットキャラクターより

 

久喜市には有名なアニメキャラクターの舞台設定モデルになった場所があります。
東武伊勢崎線の鷲宮駅近くにある鷲宮神社が舞台地の一つで、多くのアニメファンが訪れる「聖地巡礼」が行われていて、なんと鷲宮神社を中心にしたエリアは、社団法人日本アニメツーリズム協会から認定を受けた「アニメ聖地88」の1つとして有名な場所になります。
また久喜市は町おこし事業としてアニメを活用しています。このアニメキャラクターについては久喜市商工会で実行委員会を設置して、専用のHPが用意されています。
https://www.kurihashi373.jp/
是非一度、ホームページを訪れて商工会実行委員会の取組みやアニメキャラクターを見て下さい。
久喜市はゆるキャラだけではなくアニメの聖地としても有名な場所があり、提灯祭り、梨、ゆるキャラ、アニメとなかなか奥が深い自治体になります。

久喜市版「未来の教室」の実現

久喜市教育委員会様はGIGAスクール構想による学習環境の整備促進が示される以前から、子どもを育てるなら久喜市で!教育するなら久喜の学校で!「ALL KUKI 教育改革プロジェクト」として久喜市版「未来の教室」の実現に向けた取組みを進めている自治体です。
その骨子は非常に明確に示されていて、その内容は以下の通りとなります。

① 次代の世界で活躍する「未来を拓く力」を育む
久喜市版「未来の教室」の実現に向けた個別最適な学び、STEAM化された学び、SDGs実現に向けたESD教育等

② 人とともに生きる「豊かな感性・尊重する心」を養う
道徳教育、郷土愛を育む教育、安全教育、人権教育、いじめ防止等

➂ 「絆を深め、地域社会と連携した教育」の推進
久喜市コミュニティー・スクールによる学校運営協議会や学校支援組織との連携(PTA、学校応援団等)、チーム学校の推進等

詳細は以下URLを参照。
https://www.city.kuki.lg.jp/smph/kosodate/gakkokyoiku/20200603ALLKUKI.html

この中でも①の久喜市版「未来の教室」の実現に向けては、文科省GIGAスクール構想の政策が重要なファクターになっているはずです。

 

                 出展:「久喜市版未来の教室」の創造資料より

 

GIGAスクールに向けた取組み

久喜市様のGIGAスクールに向けた取組みは、タブレット端末やWi-Fi環境、学校ネットワーク環境整備を実施した令和2年度の前年の令和元年の夏頃から、Google社からの声掛けでスタートしています。当時はGIGAスクール構想が示される前の段階で、文科省としても生徒3人に1台の学習用端末(タブレット端末)を整備する方針でした。
文科省のGIGAスクール構想は、令和元年11月度の経済財政諮問会議で「学習用端末は1人あたり1台になることが重要」という国としての方針が明示され、そのような背景もあり久喜市教育委員会様におかれてはこの取組みへの方向転換をしました。
政府と文科省の方針において1人1台の学習用端末の整備がされるのであれば、その整備されるICT環境の検証ではなく、その先にあるその環境を通して実現するICTを利活用した学習モデルの検証をすべきではとの考え方になり、いち早く全国のGIGAスクールのモデル学校を作ってみようとの意図がありました。
その方針のもと全国に先駆けて Google社やシステムインテグレータ、メーカー等と協力をして、タブレット1人1台と学校全域でWi-Fi接続ができる環境を用意して実証実験事業の取組みを進めています。
令和2年度、清久小学校with久喜市教育委員会×Google社×東京大学CoREF×Benesse 「久喜市版未来の教室」の創造という命題で、産学官が連携をした取組みとなります。
筆者もかなりの数の教育委員会へ訪問をして、その際いろいろな取組みを教育委員会の担当者様から聞かせて頂いた経験があります。その中でも久喜市のこの取組みは非常に珍しく、教育委員会としてGIGAスクール整備前の取組みとしてはかなり先進的な実証検証を進めていると実感しました。

 

   

                  出展:「久喜市版未来の教室」の創造資料より

 

 

久喜市のこの取組みについては、埼玉県内に各自治体教育委員会における「令和2年度 学力向上に係わる効果的な取組み事例」としても、埼玉県のホームページに掲載されています。
https://www.pref.saitama.lg.jp/g2204/gakuryokukoujou/gakuryoku-koukateki02.html
県内他の教育委員会様の取組みについても掲載されていますので、久喜市教育委員会の取組み含めて一度ご覧ください。

産学官の取組み~実証実験事業の環境整備

「久喜市版未来の教室」の環境整備について少し触れておきましょう。
先に記載をした通り、1人1台の学習用端末による実証実験ではなく、1人1台の学習用端末の環境をベースに、ICT環境を利活用した学校モデルを検証で作って行く取組みとなるので、様々なICT機器の設置や設定、学習システムの環境整備が対象校の清久小学校で必要となります。
1)タブレット端末 172台、モバイルルーター9台(Google)
2)大型提示装置 4台(リコージャパン、エルモ)
3)無線アクセスポイント 15台(フルノシステムズ)
4)端末充電保管庫 6台(グレイスリンクス・エンタープライズ)
5)授業支援システム ミライシード (ベネッセコーポレーション)
6)ICT活用研修 (Google、ベネッセコーポレーション)
7)ネット回線 (リコージャパン)

GIGAスクールに向けてこれだけの環境を整備して、1人1台の学習端末と校内全ての普通教室や特別教室エリアにおいてWi-Fiに接続できる環境やインターネット接続できる状態にするに当たっては、教育委員会としての方針を理解した関係企業の協力なくして実現は出来なかったと言えるはずです。
またこのような環境を整備してGIGAスクールに向けた取組みをした教育委員会は全国でも例がなく、筆者も学校教育現場の検証については、公立高校等を中心に取組みを進めた経験がありますが、久喜市教育委員会様のような大掛かりな環境整備については初めての試みになります。

達成指標の設定と達成に向けた方策

この実証実験事業に対しては目指すゴールを設定し、そのゴールに対して指標を設け、指標達成に向けた方策を設定しています。
その中でも過去にいろいろな取組みをした教育委員会がありますが、産学官が連携したものとして、Google社を中心とした関係企業のメンバー参加型による取組みです。
1)東京大学CoREFによる検証評価
2)学校参観の実施と関係企業メンバーの参加
3)学校参観の実施に合わせた実現場の先生方との議論や意見交換
4)実験校1校だけではなく、久喜市全体の学校で知見の共有化を図る
GIGAスクール構想に近い環境でどのようにICTを活用するのか、また主体的・対話的・深い学びの学習モデルを目指し、学びの質に対しての検証を東京大学CoREFのメンバーと実施します。
合わせて学習用端末のWi-Fi接続の接続性や安定通信に問題が無かったのか、Wi-Fi環境で通信する以外にどのような機能があればWi-Fiとして便利になるのか、学習システムの利活用含めて授業モデルに対しての議論やアドバイス等の取組みもしています。
また久喜市の全ての学校の取組みとして、未来の教室研究会と言う組織を立ち上げ、市内34校(小学校23校、中学校11校)から1名の先生を選抜し各校の推進役の中心人物として本事業に参画してもらい、清久小学校での実証実験の結果や成果を各校に持ち帰って検証する等の取組みも平行して実施しています。まさに産学官の連携だけではなく市内全ての学校の先生方が参加をした取組みであると言えます。

 

出展:「久喜市版未来の教室」の創造資料より

 

東京大学CoREFの取組みについては、以下を参照。
https://coref.u-tokyo.ac.jp/

検証実施による効果

本事業の取組みを進めたことで、現場の声として「授業でのICTの効果的な利活用の協議は参考になった」「各学校の取組みを情報共有することで自校に活用することができた」「子供達の学習に対しての興味や意欲を感じる」「学習に対して消極的な子供達もタブレット端末を利用することで考えたことの表現ができるようになった」等、各校の先生方の意識や取組みの反応があり、久喜市独自の学力状況調査においては協働学習等学習意欲の向上が得られた結果、対象校の清久小学校の国語と算数の学力が向上しました。

 

出展:久喜市ステップアップテスト、令和2年度小学校6年生の学力経年変化

 

訪問を実施して

今回はWi-Fiに従事する者として、安心・安全・快適な無線LAN環境の構築やそのセキュテリィに対しての視点ではなく、学校現場においてWi-Fiのインフラ環境がどのように利活用されているのか、またそのインフラ環境を整備するに当たって自治体の教育委員会の責任者の方がどのような考え方で取組みを進めて、令和2年度のGIGAスクール構想の整備を行ったのかいろいろと話をして来ました。
実のところ筆者もこの事業のメンバーの一人として、かなり早い段階からGoogle社の計らいでWi-Fi環境の整備について協力させていただきましたメンバーとなります。
文中の学校参観に参加して先生と子供達がタブレット端末をWi-Fiに接続してどのような授業を実践しているのかを目の当たりにし、参観後の各学校の先生方との意見交換等にも参加をしました。

GIGAスクールの整備後コロナ禍の環境もありますが、現在の久喜市教育委員会様における学習用端末の稼働率は目を見張るものがあり、三分の二の学校において全ての授業で何らかのICTを活用した授業を実施していて、二分の一の学校はほぼ100%近くICTを活用した授業を実践しているとのことです。
また全校一斉にGoogleのMeetを使ったオンラインにも対応したネットワーク環境にもなっているとのことです。実に素晴らしいICT環境の整備をした先進的な事例であると言えます。
久喜市の本事業の取組みの記事で「ICTはお箸です」との話があります。我々が普段食事をする時、今更箸の使い方は意識せず食卓には箸がそこに存在して日々活用されている物になり、箸の目的は美味しく食事をするためための道具です。学校においてICT環境もこの箸と同じであるという意味かと思います。この話を聞いて学校の先生方はICTを上手く使えるようになるのではなく、ICTは箸のように当たり前に使えることが必要で、その先のICTの環境を利用して子供達をいかに伸ばすことができるのかが大切であると痛感しましたが、その箸は当然しっかりと使える箸である必要があるとも言えます。
言い換えればGIGAスクール構想のICT環境は1人1台の学習用端末が常にインターネット通信をしている環境下となり、各学校の生徒が一斉に通信をしたとしても耐える環境が必要となります。そのことからWi-Fi環境もそれに応じた多台数接続性能、安定した通信や快適な通信を実現する基本性能が必要になります。それが実現して初めて食卓の箸になるのではと思います。

今後、久喜市教育委員会様が更なる取組みを進めることで、学習用端末が生徒一人一人の“教科書やノート”となり、子供達が勉強することに対しの興味と意欲を持ち、学んだことをいろいろな手法で表現をする、考え方を伝える、考えたことを実践する、そんな子供達の育成をして欲しいと願います。


目次ページへ

■Wi-Biz通信(メールマガジン)の登録はこちら