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活動報告 802.11ah推進協議会 第4回総会
パネルディスカッション
見えてきた「11ahの現場での実力」

一般社団法人 無線LANビジネス推進連絡会事務局

昨年12月10日に開催されました、802.11ah協議会(AHPC)総会でのパネルディスカッションの討論を掲載いたします。

 

司会 本日最後のプログラムですが、「11ahの現場での実力」と題しまして、AHPCの運営委員によるパネルディスカッションを行います。
パネラーとして参加するのは鷹取副会長、小中運営委員、酒井運営委員、藤井運営委員の4名で、モデレーターは江副運営委員が務めます。

 

左から 江副浩 運営委員、小中陽介 運営委員、酒井大雅 運営委員、
鷹取泰司 副会長、藤井慎 運営委員

 

江副 それでは、「802.11ah現場での実力」と題しましてパネルディスカッションをさせていただきます。私は当パネルディスカッションの進行をさせていただきます株式会社アイランドシックスの江副と申します。
数年前からLPWAというキーワードが盛んにメディアでも紹介されるようになりました。すでに市場ではLoRa、Sigfox、ELTRESといった規格が先行してリリースされ、IoT通信のプラットフォームとして活用されてきています。しかし、Wi-Fiのように皆さんの生活の中に浸透してきていると言えるでしょうか。11ahが既存のWi-Fiと同じようにさまざまな市場に浸透し、身近に利用されるシステムになるのか、現在の市場ニーズ、利便性、通信の実力などについて、本日、有識者の皆様にお集まりいただいておりますので、お話を伺っていきたいと思います。

最初に富士通クライアントコンピューティング株式会社プロダクトマネジメント本部 本部長代理 小中 陽介 様に自己紹介をしていただきます。

小中 富士通クライアントコンピューティング株式会社から来ました小中と申します。私は運営委員として11ahに関わらせていただいております。富士通クライアントコンピューティングは富士通向けのパソコンを作っている会社になります。パソコンは水平分業の世界ですので、いろいろな人が決まったプロトコルだったり決まったルールだったり、そういった枠組みの中でソフトウェアとかハードウェアを持ち寄ることで1つ大きな世界をつくろうという思想の製品です。
11ahに参加させていただいた背景は、11ahの大きな特徴の一つにWi-Fiと同じIPプロトコルを扱えることにあります。この特徴により、パソコンが使っているいろいろなネットワークを活用するソフトウェア等を含む開発資産と親和性があり、基本的に作り直さずにそのまま活用できるという大きなメリットがございます。このような特徴がPCとして、活用できると考えており参加させていただいております。

江副 続きましてNTTアクセスサービスシステム研究所 上席特別研究員 鷹取 泰司 様に自己紹介をお願いいたします。

鷹取 NTTアクセスサービスシステム研究所の鷹取と申します。私自身はずっと無線の研究開発をやってきておりまして、入社したときは1995年ということで、ちょうどPHSのサービスがスタートしたタイミングでした。それ以降の研究開発では、全てPHSで利用していた1.9GHzよりも高い周波数をターゲットとしていました。ここ数年も、より高い周波数を扱っていく研究開発が増えてきていました。そういった中で11ahの検討を行うことになり、初めて、1GHz以下の周波数の無線で、いろいろな実験をやってみました。11ahのよく飛ぶ、エリアをしっかりカバーできる実力は、非常に興味深く、技術的にも面白い話があると感じています。今日はパネルの中で様々な議論ができれば良いと思っております。

江副 続きまして株式会社NTTアグリテクノロジー代表取締役社長 酒井 大雅 様に自己紹介をお願いいたします。

酒井 酒井でございます。私どもは2019年に設立したNTTグループ唯一の農業専業会社です。日本の農業、一次産業全体に申し上げられることですけれども、日本全体が少子高齢化といわれていますが、それ以上の速度でこの産業領域は人が減ってしまっております。ですので、生産性向上、省力化、例えば顕在的損失を抑止する、いろいろなニーズが今、お客様からいただけているという状況です。通信は、これまでどちらかといえば人がいるところ、オフィス、家、通勤途中、そういったところ、人がいるところを中心にかなり充実していたところなんですが、私がビジネスをするフィールドは、どちらかといえば人が常にいないところ、電気もないところ、だけれども、そのフィールドに課題があるというところです。そういった視点で非常にahに対して大きな可能性、マーケットを感じているところですので、そのあたりを少しお話しできればと思っております。

江副 最後に株式会社フルノシステムズ マーケティング本部副本部長 藤井 慎 様に自己紹介をお願いいたします。

藤井 株式会社フルノシステムズ藤井と申します。私は20年ほど前にフルノシステムズに入社いたしまして、そのころWi-Fiでいうと11bが出だしたころで、以来アクセスポイントの開発にたずさわり、11b・g・aと新規格が出くるのにあわせ新製品をリリースしてきました。acまで製品開発した後は、マーケティング活動に移行しております。Wave2以降は、製品化から離れましたが、どんどん速度が上がってきて使いやすくなってきたWi-Fiに対し、今回、11ahが登場してきて、スピードはWi-Fiに比べてずっと遅いのですが、届く距離が全然違うことから、活用できる範囲も今までオフィスの中だったり、ご家庭だったりというようなところから飛び出して、一次産業・二次産業で社会課題を解決していくところに活用していけるというところが非常に楽しみにしております。またそういった新しい分野で活用していただける製品作りを進めていきたいと考えております。いろいろと討議させていただければと思います。

Wi-Fi AllianceでWi-Fi HaLowの認証プログラム

 

江副 先ほどニューラコムのフランクさんに講演もいただいたところだったんですが、11ahの最新の海外動向は非常に興味があるんですけれども、鷹取さん、いかがでしょうか。

鷹取 ご質問いただきまして、ありがとうございます。ahの海外の動向も非常に盛り上がっているところです。本日の講演の中でも触れさせていただいたんですけれども、大きなトピックとしては、ちょうど先月、Wi-Fi AllianceでWi-Fi HaLowの認証プログラムが開始されたことがあげられます。これは非常に大きなトピックだと思っています。Wi-Fi HaLowあるいは11ahといったキーワードでホームページを検索すると、非常に多くのページが見つかります。もちろん国内も多数ありますけれども、海外も非常に多く見つかります。特に北米については実展開も一部始まっていますので、非常に注目が高まってきているのだと思っています。
これからというところを見据えると、Wi-Fi HaLowで異なるベンダーの製品同士も安心してつながる、あるいはWPA3のような強力なWi-Fiのセキュリティのものも使えるという形になってくると、ますますいろいろな機器が出てくるのではないかなと思っています。世界中のいろいろなベンダーが、いろいろな端末、いろいろな製品を出していくという流れになってくると、まさにWi-Fiがどんどん拡大していったような形での展開も期待できるのではないかと思っています。日本のIoTで、11ahを活用するいい形をつくっていくことができれば、日本が世界をリードしていくというような部分も、つくっていけるのではないかなとも思っています。そういった意味で世界というところもahに向けて大きな動きになっていくのではないかと思っております。

江副 Wi-Fi Allianceの標準化というところでは、非常に大きな動きが先月にあったということなんですけれども、例えばチップセットとか市場の動向という部分でいうと、どうなんでしょう、小中さん。

小中 チップセットという意味では先ほどニューラコムさんから説明がありましたが、海外では非常に多くのデバイスがIPカメラ等を含めて出ておりますので、チップセットやデバイスを含めて市場はここから先、どんどん大きくなると期待しています。一番特徴的なのは繰り返しになりますが、IPプロトコルをベースとしており既存の資産と親和性が高いことがありますので、さらに市場は広がるのではないかなと期待しております。

江副 Wi-Fiというカテゴリに入っているということで、オープン化という部分が大きいと思うんです。小中さん、今、ちょうどまさにチップ市場では数社、チップ会社が出てきて、さらに海外市場もどんどん新しい製品が出てきたという話なんですが、オープン化という面でいうと、どう思われますか。

小中 そこは非常に重要でして、IPプロトコルという形で通常のWi-Fiと同じようにデータを通せるというのがありますので、接続させる機器を選ばないというか、今ある資産をそのまま使えるというところが一番のポイントになると思います。そういう意味ではIoTといわれると、皆さん、カメラだったりセンサーだったり、そういったものだけを想像する人も多いのではないかなと思いますが、それだけではなくてセンサーから直接、例えばパソコンだったり、センサーから直接タブレットにデータを送ったり、オープンという意味でいうと現状の資産が使えるという意味で広がりが大きいのではないかなと思っています。

既存のLPWAでは届かなかったところ

 

江副 11ahの特徴についてもう少し伺いたいなと思っているんですけど、酒井さん、マーケティング面において11ahの特徴について教えていただけませんでしょうか。

酒井 マーケティング面という側面と私が常に接しているユースケースというんでしょうか、そういったものを織り交ぜてお話ができればと思うんですけれども。先ほど来、メンバーからお話をしていることと少しかぶるんですけれども、非常に大きいのはIPベースであるとかオープン化されているという今の議論のところがあると思っております。
IPベースというところになってきますと、既存のWi-Fiと同じように既存の例えばメーカーさんとかが参入しやすいとか、セキュリティ面でもすでに進んでいるもの、すでに実績のあるものが適用できるであるとか、いろいろなソフトウェアのアップデートに使えるとか、いろいろな特徴があると思います。何を申し上げているかというと、実は私たちがお客様と話をしていて、ah推進協議会として実証実験に参画いただいているお客様と話をしていても、「そういう世界観で使えると安心だ」という言葉をいただけるんですね。そこは非常に大きい特徴かなと思っております。
あとは、私どもはよく「痒いところに手が届く」という言葉を使うんですけれども、既存の従来型のLPWAとSIM・Wi-Fiの間をつなぐものがahかなと思っております。どうしても無線の大原則で周波数と帯域ということはありますけれども、遠くに飛ぶけれども、センシングデータしかやり取りできなかった従来のLPWA、もう1つは大容量の通信ができるけれども、距離的に限定される場面があったWi-Fi、そういったものの間を埋めるということで、特に先ほど申し上げましたように、当然ahのフィールドとしてはオフィスとか家もあるんですけれども、これまでにないようなフィールドがマーケットになる。電気もない。ただ、現場としていろいろな課題感があるので、今、申し上げたような特徴が非常に有意に生きるというようなところがあると思っておりまして、そういったところが非常に期待できるといいますか、特徴的なところかなと実感しております。

江副 既存のLPWAで微妙に届かなかった部分とか、痒いところにもう少し欲しかったみたいな、そういうところがちょうど埋められたという感じなんですかね。

酒井 そうですね。あと加えて、この前の議論で出ましたオープン化のところですよね。かなり自由に使える。既存のLPWAの中には、どうしてもキャリアサービスに近いような位置付けで活用されている領域もあったかと思うんですけれども、そういったところがなるべくクリアになれば、より使いやすいということも掛け合わせてメリットになってくるかなと思っています。

江副 農業分野とかでいうとオープン化はかなり重要なキーワードになるのではないかなと思うんです。例えば今、新しいシステムを入れました。5年後・6年後、農業はずっと続いていきますから、オープン化であるからこそ製品寿命、どんどん新しいものが出てきますよね。そういったところが適用しやすい部分はありますよね。

酒井 あると思います。それこそ先ほど申し上げた例えばファームのアップデートのできる余地があるとか、そういったことは中長期にわたって活用を想定しているようなフィールドにおいては非常に有効だと思っています。

江副 鷹取さん、技術面の特徴について「ここがお勧めだよ」というところ、鷹取さんの見解を教えていただきたいなと思います。

鷹取 よくいわれている、普通のWi-Fiよりもよく飛びますという話と、それから通常のLPWAよりも高速ですという話があります。よく飛ぶという話をもう少し詳しく見てみると、1つは本当に距離が飛ぶという話、もう1つは電波が回り込みやすい周波数なので、あるエリアをサービスしたいとなったときに、その中でデッドスポットができにくい、非常に信頼性高く無線システムを構築していけるというところも特長です。「遠くに飛ぶ」という距離的なイメージだけではなくて、工場や倉庫などのようなところでデッドスポットが少なくなってくるところも1つの特長です。
それから、屋外の話もしたいと思います。これまでの無線LANは元々の仕様設計が屋内の環境をメインターゲットとしています。屋外になると非常に長い遅延を持った遅延波がやってくる場合であったり、あるいは周りを車が走ることで環境が早く変動したりするので、そのようなところに対してちゃんとロバストにしていくような機能も盛り込んでいく必要があります。ahではそういった高い技術を入れて、屋外も含めた様々なIoTの利用シーンに対応させているところも11ahの大きな特徴だと思っております。

現場で映像が届けられるメリット

 

江副 屋外用というところが意識されて作られている規格なんですね。例えば藤井さん、今日、マーケティングTGの発表で実証実験の話をされていました。実証実験が行われたときに、たぶん現場からいろいろなニーズが出てきたと思うんです、実際に実験をする中で。その中で「11ahの特徴が生きる利用シーンはこういうところがあったよね」というのはありますか。

藤井 従来のLPWAに比べて映像が届けられるところが最大のメリットではないかなと思っています。繰り返しになりますが、センサーで数値データが届くことによって、いろいろな効率化はもちろん図られるのですが、百聞は一見にしかずといいますように、見えることは現場を把握する重要な要素だと思います。そこの違いが1つの11ahの特徴、強みになってくるのではないかな。そういったところで、いろいろな活用が広がっていくのではないかなと考えています。

江副 ちょうど11ah推進協議会が始まった最初のころに稲田先生からIoTについて講演いただいたときがあったんですね。そのときに「センサーデータを集めることがLPWAのメインの規格のように思われているけれども、現場のたった1枚の写真で全て解決するのにそのデータが送れないのは厳しいよね。だから、まさしく長距離を飛ばせるものは重要なんだ」とおっしゃられていたんですけど、まさにそのニーズが今、出てきたということですよね。面白いですね。酒井さんは農業分野で今、そういう実験をいろいろとやっていただいているんですけど、同様に何かそういった話はありましたか。

酒井 実際に今日、ご紹介させていただいた高知での取り組みなんですけれども、高知は皆さん、ご存じないかもしれませんけれども、農業県なんです。ナスとか、そういったものが日本一の産出量で。実はビニールハウスが県内に約6000あるといわれています。かなり県主導で、そういったところのデータをしっかり取って、生産者の支援に生かしたり技術伝承に生かすという動きを県ぐるみでやっている、かなり先進的なところなんですね。一番何が必要かというと当然現場のデータだと。これまでは、どちらかといえばSIMだけでやろうとしていたんだけれども、6000の圃場に1個1個センサーに紐づけてSIMを入れますかというと、なかなかそれは難しいと。結構ハウスは集積しているんです。農業のエリアなので、例えば5個・10個、ハウスが平気で集積している。そうするとLPWAを使って、LPWAと会話できるセンサーを置けば、そこに1個1個のSIMの契約はなくてもできるよねと。ただ、ハウスが単独でぽつんとあるところについては、そこはSIMのほうがいいよねと。エリアをカバーする上で組み合わせて補完していくというのが無線だと思うんですけれども、そういったアプローチにおいても非常に有効だよねと。あとはやはり映像・画像ですよね。農業は生き物を相手にしていますので、しっかり見れないと遠隔から何か指導しようにも確実なことは言えないですよね。なので、どうしても画像・映像。それも4Kとか、そこまでの高精細のものはいらないんだけれども、映像・画像がぱっとあるだけでもだいぶ違うということに関しても、SIMだけだと例えば通信料の問題とか、いろいろとあったんだけれども、そういったことも含めてクリアになるので、ahをしっかり見てみようというような動きに今、なっているんですね。

江副 自然のものを、生き物を相手にするというところになってくると、見た目が分からないと判断しにくいというところなんですよね。以前、山の中で野生動物を捕まえる罠の話がありましたけど、あのときも私は聞いていて罠に入ったよというのが分かれば済むのではないのかと思っていたんですけど、当時、現場の方のお話を伺ったら「何の動物が捕まっているかが分からないと、そこに持っていく道具が違っていて、しかも山を登った後にウサギだと思ったら実はタヌキだったとかキツネだったとなると対処が変わってくるというので、映像1枚、来てくれればいいのにね。でも、それが分からなくて困っているんだよ」ということを言われたのを、すごく今、思い出しました。

酒井 本当にリアリティであるユースケースだと思います。こうした積み重ねがahの守備範囲を拡大していくのでしょうね。

電波が回り込み隙間を埋めてくれる

 

江副 小中さん、工場の中でいろいろと実験されているのを伺っているんですけれども、どういった状況だったかを教えてもらえますか。

小中 工場の中、先ほどマーケティングTGの中の資料にも出てきたと思いますが、だいたいスペースでいうとフロアの2辺が100mか80mぐらいのフロアになります。このフロアの中では、組み立て部品の供給や、完成品の移動を目的にAGVが走行しています。AGVとリアルタイムに通信することで、運航密度を上げたいという期待があります。工場においての他の利用シーンとしては、パソコンの工場だとスペースの3分の2ぐらいが組み立てをするライン、残りの3分の1は部品が置いてあるスペースになります。部品が置いてあるスペースから組み立てる分だけ、今はBuild To Orderになっていますからばらばらなんですけれども、ばらばらな部品を事前にリアルタイムに集めてくるということをやっています。それをやるためには部品のところから30台ぐらいの部品を工場の人員がピッキングするためのタブレットが設置された作業台車みたいなものがありまして、データ量は少ないですが、ピッキング情報をリアルタイムにワイヤレスで提供しています。この作業台車の台数が非常に多くて、さらに、広いエリアに棚があり、棚で陰になるような場所にも部品が置いてあります、棚の奥とかを含め、そういう電波の伝搬としては不利な領域で使うわけなんですが、そういうところでも全然切れずにきちんと届いてくれる。
データ量がそんなに多いわけではないですから、Wi-Fiと違って周波数も低い領域を使っていることから、電波の回り込みも含めて、よく届くというのがあります。この特徴によって、Wi-Fiより少ないアクセスポイントの設置でいいというのもあるわけです。それだけではなくて例えば現場で完成品として確認しなければならないようなものが出てきたよというときに写真を撮って送らなければいけないんですが、少し大きなデータを送るというときでも対応できますので、工場の利用という意味で考えると、幅広い領域に活用できるというのが特徴かなと思います。ですから、工場の中ではOA用途等の今のWi-Fiとすみ分けて使うという形ですね。

 

 

 

江副 先ほど鷹取さんが言われていた「よく飛ぶ」ということが、ただ飛ぶだけではなくて回り込みで隙間まで埋めてくれるというところが、まさに工場では役に立つということなんですね。

小中 そうですね。現場では棚の低い位置にアクセスするために、しゃがんだりとか、そういう状態で棚の下から物を取ったりというシチュエーションもありますので。

江副 藤井さん、フルノシステムズとして結構長いことバーコードリーダーを物流分野に出されているじゃないですか。私はよく物流分野に行くんですけど、棚の背が高くて天井まで埋まっているんですよね。だいたいそういうところでWi-Fiを設置しようとすると、回り込みが取れないから列ごとにアクセスポイントを付けていかなければいけなくて、そのための配線も大変だったりということを聞くんですけど、まさにそういう分野はぴったりなのではないですか。

藤井 倉庫の中は物が出荷状況によって減ったり積み上がったりしますので、そういったところでWi-Fiを設置するときは、本当に届くかどうかということを、きめ細やかに事前に調査することもあります。しかし、いざ運用が始まると思ったより積み上がったりして、実際に運用が始まったら届かないというようなことは多々あったりします。そういったところで920MHz帯の回り込みやすい、浸透しやすいという特性は、かなりメリットになってくるかなと思っております。アクセスポイントの台数なんかも減らせ導入しやすくなるだろうと思いますので、さまざまな分野で屋外以外にも使うシーンが出てくるのではないか、と期待しています。

江副 最初に「LPWAの穴を埋めるところに今回、11ahがいいよね」と言っていましたけど、Wi-Fiの弱かった部分を埋めるのにも、まさにahが役に立ちそうだということが言えますよね。

藤井 そうですね。両方の強みを合わせて、いろいろなところにさらに活用していけるのではないかなと、相互補完し合える間ではないかなと考えております。

江副 今日、フランクさんの英語の講演がありましたけど、「海外ではこれだけ製品が出てきているよ」というのが、いくつか製品が出ていたじゃないですか。日本市場で今後、製品がリリースされると思うんですけど、まず藤井さんにコスト面や消費電力など、まさにアクセスポイントメーカーさんなので、どういった流れになるのかという状況を教えていただきたいなと思うんですけれども。

藤井 コスト面につきましては、一般的な業務用Wi-Fiアクセスポイントと変わらない価格帯にしてゆきたいと思います。

江副 これは本当に言ってしまって大丈夫なんですか。すごいですね。

藤井 まだ、具体的に算出できていないのですけれども、手軽に設置していただけるようにしたいと考えております。それから、消費電力の件につきましては、「IoTデバイスをバッテリーで駆動させたい」というご要望をよくお聞きしております。Wi-Fiなので、電気を食うからバッテリー駆動は難しいんじゃないか?というような印象を持たれると思うのですが、電力は無線機が電波を出したり受けたりする動作時に結構食うんですね。それ以外のときはプロセッサーを寝かせれば、電流値でいうと10マイクロとか20マイクロアンペアぐらいのオーダーに下げることができます。もちろん、画像なんかをどんどん送ると、いつも無線機が動いている状況になるので、そういうのは難しいんですけれども、ときどきセンサーのパラメータぐらいを送れればいいよ、というようなデバイスであれば、特に11ahでサポートされている省電力機能TWTも活用しますと電池駆動の製品化が実現できるのではないかなと考えています。そういったことも引き続き制度化と並行しながら、いろいろと実際に実証実験なんかを進めてまいりたいなと考えています。

既存のWi-Fi と一緒に使える製品のメリット

 

江副 小中さんは、まさにデバイスメーカーとして仕事をされていますけど、このあたりはいかがでしょうか。

小中 そういう観点でいいますと、パソコンに内蔵した事例がありまして、藤井さんに表示をしていただきたいと思うんですが。先ほど説明の中でもありましたけれども、使うシーンによってSIMだったり今回のahだったり、いろいろと変わってくると思うんですが、これは1つパソコンの事例という形になりますけれども、今、表示させていただいておりますけど、パソコンの場合ですと通常は4Gとか5Gのモジュールが入るスペースをだいたい持っているんですね。4Gのバンドが同じ900MHz帯のところに対してございますので、実は4G用のアンテナが入るスペースがありますと、結果として今の920MHz帯の11ahについては、そのまま入れることができるというのがございます。特に新しくスペースを用意する必要がないんですね。繰り返しになりますが通信プロトコルもパソコンで使っているIPプロトコルと一緒ですから、特に何かしなければいけないというわけではないので、非常に簡単に内蔵ができるというメリットがあります。そういう意味では同じような形で、既存、やっている例えば、今だったらLTE版しかないよというものを、これからどんどん置き替えていったりという意味での、製品との親和性の良さは結構あるのではないかなと捉えています。

 

 

江副 ちょうどいい場所があるわけですね。面白いですね。

小中 そうですね。用意したような場所があります。

江副 消費電力についてはどうですか。

小中 消費電力は通信してないときは低いというのがありますので、そもそもWi-Fiをパソコンの場合は使っていますから、それよりも低く抑えられる、同程度だというところなので、あまり気にならないというのが実情かなと思います。

江副 ところで藤井さん、今日はお手元に貴重なものをお持ちいただいているようなんですけど、ぜひご紹介いただけますか。今、ちょうど取りに行っていただいていますが。気になってしょうがなくて、ちらちら先ほどから見れていたので、カメラに映る場所のところに見せてもらったらいいかなと思いますけど。見えていますね。

藤井 先ほど講演の中でも写真を出させていただきましたように、大きさ的にはこれぐらいのものでございまして、ぽっとつけて手軽にお使いいただけるのではないかなと思っています。アンテナが2本立っていますのは、11ahが1本と2.4GHzのWi-Fiが吹けるようになっておりまして、場所場所でうまく両方を組み合わせて使ったりすることで、柔軟にシステムに取り入れていただけるのではないかなと考えています。今、弊社の中では一生懸命にこれを作っているところです。

 

 

 

江副 既存のWi-Fiと一緒に使えるというか、それは何バンドですかね、バンド数としては。

藤井 デュアルバンドに対応し920MHz帯と2.4GHz帯を利用できる形になっています。

江副 両方をコンパチで使えてしまうという状態ですね。ありがとうございます。話が尽きないところなんですけど、残念ながらお時間となりましたので、ここでパネルディスカッションは終了とさせていただきたいと思います。皆さん、どうもありがとうございました。

 


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