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第6回社員総会 特別講演 再録
ワイヤレスLANの将来展望と周波数共用技術

南山大学理工学部教授 梅比良正弘氏

11月12日に開催された、一般社団法人 無線LANビジネス推進連絡会の「第6回社員総会」で、南山大学理工学部教授、梅比良正弘氏による特別講演「ワイヤレスLANの将来展望と周波数共用技術」が行われました。「ワイヤレス通信の最新動向」「IEEE802.11ワイヤレスLANの動向」「周波数共用技術」の順で最先端の技術を詳細に、分かりやすく解説されました。講演の主な内容を掲載します。

 

ワイヤレス通信の最新動向

最初にワイヤレス通信全体について、お話をしたいと思います。
ご承知の通り、携帯電話については、5Gが展開期です。研究開発はすでに6GあるいはBeyond 5Gが始まっています。5Gは高い周波数を使って難しいところもあって、それを解決しながら次の世代へ進もうとしているところです。

一方、無線LANも、どんどん利用拡大が進んでいて、家庭に置くような主なインターネットアクセス手段のラストホップはほとんど無線LANになってきている状況と思います。
両者共に、トラフィックはどんどん増えている状況で、これは主にビデオトラフィックの増加によるもので、全体の8割がビデオと言われています。

 

 

 

無線LANは、家庭・企業内に加えて、さらに公共施設や商業施設に広がっており、今後は企業でもIoTといわれています。そうしますと無線LANにも、大容量だけでなく、広いエリアで、かつ、低速から高速まで、いろいろなトラフィックを効率良く運ぶことが求められてきていると思います。

 

 

 

これは、モバイル・ワイヤレス通信の展開と、それを支えてきた実現技術を、セルラーとコードレス(無線LAN)で示しています。セルラーについては1990年にデジタルが始まって、それから30年程度進化し続けているわけです。
無線LANも1997年にIEEE802.11無線LANが標準化されて以来、約20年間、進化してきています。これまでに、様々な技術が開発され、それに応じて使い方もどんどん広まってきました。
ワイヤレス通信の進化は、通信速度がよくいわれるわけですけれども、携帯電話のデジタルが始まったのが1991年です。この30年で約1万倍、速度でいうと10kbps相当が100Mbpsぐらいまでになっています。
無線LANについても約20年で1000倍です。最初は2Mbpsだったものが9.6Gbpsぐらいまで進化してきています(11axの場合)。

この進化はLSIの面積当たりのトランジスタ数が1.5年から2年で2倍になるというムーアの法則に支えられており、通信速度も同じペースで増加してきています。

 

 

図は横軸が年で、縦軸が伝送速度を示しています。1.5年から2年で2倍ということは指数関数的に増加しているということで、対数を取ると直線になります。緑の線が有線LANで、点線が無線LANです。分かる通り、傾きは同一になっています。
無線LANは、2Mbps、11Mbps、54Mbpsと、11から11b、11aとg、n、それから11ac、今は11axという格好で進化しています。見ていただきたいのは、11axと11ayは様子が違ってきていて、この直線に乗らなくなってきています。これは周波数の違いと、使っている技術の違いによって、このようになっているわけです。ayは上の方に、11axは下の方に行っています。
標準化が行われている11beは2.4/5GHz帯を用いる11axの延長線上で速度が大きくなって行くと予想されます。

 

 

赤い線はセルラーです。セルラーも同じ傾きになっています。第2世代、第3世代LTEと進んで、5Gをプロットすると、おおむね11axと同じようなところに点が打たれることになります。11beは物理層の規格が決まってきていますが、Beyond 5Gはどうなるのでしょうか。
無線LANとセルラーを比較すると、無線LANで実現された速度は、5年たったらセルラーでも実現されてきているというのが今までの傾向です。これを同じ時点で見てみますと、だいたい10倍の速度差があります。ただ、5Gと11axは速度がほぼ同じで、導入開始時期もほぼ同じになってきています。
おそらくBeyond 5Gは11ax⇒11beの延長線上になるのではないかなと思われます。というのは、無線LANでは11axからOFDMAという技術を使っており、5GもOFDMA、そして使っている技術もMulti-User MIMO、あるいはMassive MIMOといわれますが、中身は同じです。同じ技術を使っていますので、おそらくほぼ同じ程度の速度になっていくと予想されます。
違う可能性のあるポイントとしては周波数です。2.4/5/6GHzを用いる無線LANは11ax、11beの延長線上になります。しかし、ミリ波帯のような高い周波数を使う場合は、違ったカーブが引かれる可能性があると思われます。
次の世代につきましては、無線LANは、周波数を広げないとなかなか高速・大容量化できないような時代になりつつあって、周波数を5GHzから6GHzのところに、周波数共用という手段を使って周波数拡張しようとしているわけです。
一方、セルラーはミリ波帯を使って高い周波数で周波数拡張していく傾向になりつつあると思います。

 

 

無線通信と周波数は非常に重要な関係があって、一般的には周波数が高くなると使える帯域が広くなるので、高速・大容量化には向いている。しかしながら、周波数が高くなると伝搬損失が大きくなります。また、周波数が高くなるとアンテナを小型化できるということです。これを生かしてセルラーは28GHzを使おうとしていますけれども、一般的にはサブ6といわれるように、だいたい6GHz以下、極端にいうと10GHz以下ぐらいであれば、それなりにモバイル通信に使いやすい周波数となり、これは高過ぎず低過ぎずということで、移動通信における「電波の窓」という言い方ができます。
残念ながら、その周波数を同じ場所・時間で使える人は1人、そうでないと混信・干渉を起こしています。そのため、システム・電波利用に応じて周波数の割り当てをして、うまく使っていきましょうということなります。

 

 

これは、今までの高速・大容量化の技術的アプローチを示したものです。
高速・大容量のためには、基本的にはより多くの周波数帯域と送信電力が必要になってまいります。通信路の容量、これはシャノン限界といわれている式で、図に書いてある式で与えられます。従って無線システムの大容量化を図るためには、Bを増やすか、あるいはS/Nを大きくするか、それからI、干渉をいかに小さくするかということになります。
制約条件は、低い周波数のほうが障害物による伝搬損失が小さいので、Sを大きくできることになります。なので、伝搬としてはモバイルに適するが、残念ながらB、帯域が少ないということになります。
今までは、与えられたBに対して、シャノンの式で与えられる限界にいかに近づけるかというアプローチで高速化が進んできました。OFDMないしはOFDMAという技術を使って、超多値変調を実現して、シャノンの限界に近づけていっているわけです。さらに与えられた周波数を2回3回と繰り返して使う、いわゆる空間多重を実現するためにMIMO、あるいはその発展形でありますMulti-User MIMOというものを使って、等価的に低い周波数の帯域を増やしてきました。
今、MIMOにより繰り返して利用する空間多重数が限界に来つつあります。そうすると周波数帯域のBを拡大せざるを得ない、高い周波数を使うか、あるいは低い周波数でまだ未利用の周波数、あるいはそこを他のシステムと共用していく。それで、Bを広げるということをやらないと、なかなか将来の高速・大容量化は難しくなってきているという状況ではないかと思います。
もう1つは干渉をいかに下げるかということです。具体的な例としてはFull Duplexという上りと下りを同じ周波数を使って通信をする技術で、これはMIMOと類する同じような技術と考えられます。

IEEE802.11ワイヤレスLANの動向

無線LANはどのように進化してきたか。最初のIEEE802.11が1997年に標準化されました。それから、11b、11aができて、OFDMが入ってきました。さらに11gが2003年にできた。広く無線LANにOFDMが使えるようになるのに、だいたい6年掛かっています。
どのくらい速くなったか、無線LANの世代ごとに書いていますけれども、5倍、5倍、10倍、10倍、1.5倍となっています。

 

 

この間、MIMOの高度化と新しくOFDMAが入るということで、新しい技術が入るたびに、高速・大容量化が進められ、おおむねムーアの法則と同じペースで進んできました。
無線LANの場合はユーザがネットワークを展開するので、ネットワークオペレータが各家庭にあるようなものですから、ものすごくたくさんのオペレータがあるわけです。基地局の配置も、オペレータ間で特に調整がされるわけではないので、自律分散制御が必須です。OFDMAが入ってきてもCSMA/CAをベースとした自律分散制御でやってきています。それから、装置は売り切りでやるわけですから、新しいものを買ってきたら使えないというのでは困るということで、後方互換性が必須で、無線ANはこの原則を守りつつ進化してきた歴史といえます。

 

 

11acでMulti-User MIMOが導入されたときにいくつか課題がありました。密集環境でうまくスループットが出ないとか、2.4GHzと5GHzの利用は11nと11acを併用する前提で標準化がされたため、使い方が不便であるなどです。
11axでは、これらの問題を解決するために開発された規格で、一番大きいのは実効スループットの向上です。11acは、物理層の伝送速度は速いのですが、実際に使ってみると、パケット通信のACKの量が非常に多いため、結果的にスループットがトータルとしては十分に上がっていなかったという課題です。短いパケットが多いと効率が悪くなり、スループットが悪くなります。

さらに5GHzと2.4GHzの両方をうまく利用できないことがフラストレーションになるのも課題です。他にも端末の省電力化やセキュリティの強化もありますが、主にはここに挙げたものを解決したいということです。こういった問題を解決する無線LANとして開発されたのが11axです。

 

 

 

11n以降、高速・大容量化が、どのような技術要因で実現してきたかをリストアップしたものがこのシートです。主に変調多値数、MIMOの空間多重数、帯域幅の拡張の3本立てで無線LANは高速化が進んできました。
変調多値数、最初は64QAMでしたが、今度の11beでは4096QAMを使うといっています。誤り訂正のものすごく強力なものができたので、もともとのビット誤り率が10-2より少しぐらい大きくても、ほぼエラーなしにすることができます。それでも64QAMの時代から比べると、4096QAMまで、多値化による速度の増加はたかだか2倍です。
MIMOの多重数、最初は4×4だったわけですけれども、これが802.11axは8×8になって、2倍になった。次のWi-Fi7、11beといわれているもので、16にしようとしています。このようにMIMOについても、11nから11beまでで4倍です。
帯域幅についてはもともと2.4GHz、5GHzで、当時はたくさんの周波数を使えなかったため1チャンネル当たり40MHzが最大でしたが、11acでは5GHz帯の拡張により、160MHzで4倍になっているわけです。
これらをみると、高速化の要因は、技術的には確かに多値変調やMIMOという難しい高度な技術を入れていますが、それでも2×4=8倍です。では、半分の要因は何かというと、帯域幅が広くなったからで、これが無線LANの高速・大容量化の真実といえます。

 

 

 

 

802.11axと802.11acとの比較ですが、Multi-User MIMOを入れたこと、帯域幅を拡大したこと、OFDMを用いていることは共通です。11axでは、周波数の空間的再利用ができるようになり、どこに置かれるか分からなくても、うまく相互に干渉を調整しながら運用できる。さらに広く、例えば大きなスタジアムなどでも使えるように、これはCyclic Prefixというフェージングに対するパラメータがあるわけですが、これを長くするという格好で技術的に変わってきている部分があります。
また、Multi-User MIMOの利用に加えて、低速の端末でも効率化する目標達成のためには、時間軸だけでリソースを割り当ているのは困難で、11axでは新たにOFDMAという技術を導入しました。

 

 

いくつかキー技術があります。1つはサブキャリア数を増加して高効率化をしています。サブキャリア数を増やすとサブキャリア間隔が狭くなるのでぎりぎりまで周波数を使えるようになる。僅かなものなんですけれども、20MHz当たりで見ると今まで64分の52だったのが256分の230になりました。80%から90%にアップということです。
あと時間の利用効率、これはCyclic Prefixの割合がどのくらいになるかということで、これも効率低下の理由の一つなんですけれども、これが80%から94%に改善されています。トータルとしては、これによって1.3倍の高効率化がなされています。このように、1つのOFDMAのシンボルの長さを長くすると、効率を低下させずCyclic Prefixの長さを長くすることができます。フェージングの厳しい環境、広い環境でも遅延波が来たときに、それに対しての耐性を4倍高めているので、大きなセル半径のセルや屋内・屋外のマイクロセル環境のようなところでも利用できるようになりました。

 

 

OFDMAを使った一番大きな理由は、短いパケットでも効率を良くするということです。OFDMAでない場合には短いパケットに対しても同じ帯域を使うことになります。パケットには、キャリアセンス期間とプリアンブルが、どんなに短いパケットに対しても必ず一定の割合で付くため、短いパケットは効率が低下します。
そこで、ユーザが増えるとACKの数が増える、すなわち短いパケットの数が多い場合に、どのようにして全体として効率良くしていく手法がOFDMAです。
OFDMAを使うことによって、周波数ごとに狭い周波数帯域で送信を行うため、同じタイミングで複数のユーザを扱うことができるようになります。トータルとして低速伝送でもオーバーヘッドの比率を低減できるので、高効率化が図れることになります。結果として非常にたくさんのユーザ・端末を効率良く収容できるようになりました。

 

 

 

 

11axのOFDMAでは、20MHzチャンネルをサブチャンネルに分割して、最小のサブキャリア数が26になっており、帯域でいうと2MHzぐらいの帯域になります。低速の無線チャネルをたくさん並べることと、サブキャリアの数を変えることにより低速から高速まで多様な速度のチャネルを収容できます。

 

 

これは20MHzの中のサブキャリアのチャネル、サブチャンネルといいますが、これを分割してどのように使うかという例を示したものです。
セルラーの場合はリソースブロックを何個使うかでリソース割り当てをしますが、無線LANの場合はその帯域幅も変えています。これはイーサネットのパケットなので、パケット長が可変長になっているからです。帯域を変えると、さらにややこしくなり、非常に大きなリソースユニットも用意されていて、それで160MHzまでできるようになっています。次は320MHzといっていますから、さらに増えていくことになるので、なかなかやり方が難しくなっていくと思われます。

OFDMA伝送では、複数STA宛てに多重化して送信するため、タイミングを合わせることが非常に重要になります。ダウンリンクでアクセスポイントからステーションに送信するときに、OFDMAのスケジューリングが必要になります。複数のステーション宛てに多重化して伝送するということは、同時に出してあげる必要があるということです。
ダウンリンクの場合にはアクセスポイント内部でのスケジューリングですが、アップリンクの場合は複数STAの送信タイミングを同期させる必要があるため、問題がさらに難しくなります。OFDMAで一番難しかったのは、たぶんここだと思われます。誰と誰を一緒に出してもらうのかを決めて、同じタイミングで送信してもらう必要があります。

 

 

同じようなことがMulti-User MIMOの場合にもいえて、アップリンクのMulti-User MIMO、ダウンリンクのMulti-User MIMOとも同期をする必要があります。ダウンリンクの場合は、アクセスポイントが送信するのでいいのですが、困るのは複数のユーザからACKを送信する場合です。
そこで、Multi-User Block Ack Request、要するにACKを要求して、複数のSTAからACKを同時に送ってもらう。これがなかったら1個1個送ってもらわないといけないので、効率が悪くなりますが、まとめて送ってもらえるので、非常に効率が良くなっています。
アップリンクについても同じで、アップリンクは同時に送信してもらう必要があります。今までの無線LANはキャリアセンスをして、空いていたら送信ということですが、OFDMAでは、周波数分割しながら、なおかつマルチユーザの場合には同じ周波数で複数のSTAが空間多重しながら送信することになるので、トリガーパケットを複数STA宛てに出して、同時に送信してもらう。それに対してアクセスポイントからは、同時にACKを空間多重して送るということで、全体の効率を上げています。

 

 

次はパケット集約です。これは11acでも考えられたわけですけれども、オーバーヘッドをいかに節約するかということで、いろいろと工夫が行われていました。MACのヘッダをいかに小さくするかとか、競合のタイミングをいかに減らすかということで、効率を良くしてきた歴史があります。今回の場合には、OFDMAでのMulti-User MIMOになりますので、全体をうまくコントロールしないと、うまくいかないようなシステムになってきている。そのためにアクセスポイントの負荷が極めて大きくなり、スケジューリングを非常に多くのことを考えながらやっていかないといけない。これは標準化で、メーカの裁量になります。

 

 

もう1個の大きなポイントが空間の再利用です。今までの無線LANはセルが1つしかないことを前提に作られてきています。その問題は何かというと、Basic Service Setがオーバーラップしているときに密集環境になってしまうので、誰かが出しているときに送信ができないことです。送信したくてもできない時間が増えてしまうので、それができるように、自分のBasic Service Setと他のService Setに所属している無線局が異なることが分かるように、BSSカラーリングというものを入れています。違うBSSであれば一般的にはアクセスポイントに送るときには干渉が小さいので、干渉を我慢しながら送ってもいいでしょうという考え方です。

 

 

空間の繰り返し利用では、同じBSSでは通常はキャリアセンスで出せないわけですが、異なるBSSであることが判定できれば、この無線局は遠いので干渉が小さくなるだろうということで、異なるBSSからのパケットにはキャリアセンスのしきい値を少し高くしておいて、干渉を許容しながら空間の再利用でうまく使う仕組みが入れられています。

 

 

 

次は11beですが、さらにいろいろなアプリケーション、要求があり、一番大きいのは低遅延・低ジッタ、さらに高速化ということになると思われます。目標は、今は46Gbpsぐらいになるだろうといわれています。

もう1つは、高速・大容量化するために対象帯域が7GHzの上ぐらいまでになっています。実用化するためには、広い周波数をいかに確保するかが大事になってきています。

 

 

11beに使われている技術ですが、セルラーと益々類似してきています。1つはマルチバンド/マルチチャンネルの集約と言っていますが、セルラーのキャリアアグリゲーションと非常に似た技術になっています。あるいはMulti-AP CoordinationというAPが連携して送信しましょうという話もCoMP(Coordinated Multi-Point)という技術によく似ていますし、ワイヤレスLANではTime Sensitive Networkと言っていますけれども、これはURLLCというコンセプトを無線LANでも実現しようということです。Hybrid ARQも、今度は無線LANで取り入れるということで、技術が非常に似通ってきています。
しかし、多値化やMIMOのストリーム数増加で高スループット化を目指すのは難しくなってきているので、周波数をいかに確保していくかが、今まで以上に重要になってくると思います。

周波数共用技術

次は周波数共用の話です。1つは5.2GHz帯の無線LANの自動車内の利用です。これについては、すでに結論が出てきますので、ここでは割愛させていただきます。基本的には電力を5分の1に下げることによって自動車の車内でも使ってもいいというルールが、日本の中でもできるという格好で進んできています。
もう1つはWi-Fi 6Eと呼ばれている6GHz帯を使うときの条件をどうするのかということで、これは既存業務との周波数共用がありますので、難しい議論になってきています。

 

 

6GHz帯の話は、SP(Standard Power)とLPI(Low Power Indoor)とVLP(Very Low Power)という3つの使い方で、それぞれどういう条件になるかを今、検討しているところです。

 

 

共用の対象としているシステムは、固定衛星のアップリンク、電気通信業務、固定マイクロ波といわれているものと放送事業、それから公共用あるいは放送事業用の周波数帯があります。
固定衛星業務の場合にはアップリンクに雑音が増えることになるので、衛星通信にとって大丈夫か、電気通信業務については無線LANとの干渉は大丈夫か、放送番組中継、放送番組の場合、固定だけではなくて移動業務の側面もありますから、2つの使い方でも大丈夫かを検討しないといけません。

 

 

放送番組中継は、先の固定の中継、放送局間あるいは中継局との中継、それ以外にもField Pickup Unitというものがございまして、例えば報道用のヘリ、中継車、カメラ、それを中継基地局に送って、それで番組を放送するときに使います。

6GHz帯無線LANの制度化は、日本だけではなくて各国でも行われ、いくつかの国はすでに認証済みになっています。議論中の国も非常にたくさんあります。特に米国、韓国、英国は制度化済みで、ヨーロッパもおおむね決まってきていますので、既に検討されたものをベースに日本でも検討しています。

 

 

ここから、いくつか意見の合わないところがあるという話です。例えば固定無線通信の場合、一般的にはシングルエントリーで共用検討されることが多いです。
シングルエントリーの干渉検討では、干渉源は1個と仮定します。最悪ケース、見通し内で正対であったときに、干渉源からの受信電力が自分の受信機のノイズの電力に比べて、プライマリかセカンダリかの条件によって-10dB(または-20dB)、すなわち10分の1(または100分の1)かどうかの判断となります。これを満たす離隔距離あるいは所要改善量を計算して、現実に使うものに対して干渉が小さければ共用できますという結論になります。
「もしそうじゃなかったらどうするのか」ということになるわけですが、そのときにはもう少し詳細な条件を検討して、共用を検討することになります。今、無線LANについては、最悪条件でやると離隔距離は50キロとなり、非常に大きな値となります。一般的にいうとシングルエントリーの条件だけでは共用はできないことになります。

 

 

今、やろうとしている1つの干渉検討の方法はアグリゲーションのモデルです。モンテカルロ法という、干渉局をランダムに配置して、場所、高さ、動作モードの確率分布をもとに干渉電力を計算します。そうすると、いろいろな干渉が入ってきますので、どのくらいの確率で、どのくらいの干渉が入ってくるのかをシミュレーションで出して、それが既存システムの回線品質にどのような影響を当たるか、ということで共用ができるかどうかを検討しようということです。
今、議論のポイントとなっているのはアンテナパターンです。欧州やアメリカなどはITU-Rのアンテナパターンを使って、そのときの干渉基準を満たせるかどうかで判定をしています。一方、日本の中では、無線局を設置するときに使う電波法の審査基準を満たすアンテナパターンがあって、それを使うと15dBぐらい違うという結果が今、出ているところです。
他にもいろいろな論点がありますが、評価用に使用するパラメータも、被干渉局の固定無線のアンテナパターンをどうするかが、非常に大きな影響を与えることが、分かってきております。

 

 

放送番組中継は、先ほど申し上げたように、いろいろな利用形態があります。固定通信は同じようなものですが、半固定や移動というものもあるのです。
シングルエントリーでの検討では離隔距離が大きくなるため、アグリゲーションでどういう結果になるのかというものは一応出しておいて、また議論をするということで進めています。

 

 

他にも固定衛星と電波天文があるのですけれども、固定衛星はフットプリントの中に無線LANが多数あったときに、どのくらい干渉が来るかという話です。電波天文につきましては、これは非常に厳しい条件なので、なかなか難しいだろうという議論になっております。

無線LANは基本的にモバイルのシステムであるため、モンテカルロ法を使って、共用を検討すべきです。ただ、相手側は残念ながら今回の場合はモバイルのシステムではなくて固定無線のシステムで、これまでモンテカルロ法を使ってきたことがない方々と話をしているわけです。被干渉側としては、万が一、強い干渉を受けるところに来たら困るから、最悪の話を考えたシングルエントリーでやってくれないか、ここが一番大きな違いです。

 

 

 

今の無線LANの状況からいうと、さらに高速・大容量化には周波数を確保しないといけない。高い周波数よりは低い周波数で、共用ないしは使ってないところをうまく使う。ある意味で低いところをやるというのは、なかなか技術的に難しくて、ミリ波とかは荒野の開拓と言えると思うんですけれども、周波数を共用するというのは都市の再開発に近いといってもいいかなと思います。
今後、周波数有効利用を図る周波数共用技術という格好でAFC(Automated Frequency Coordination)という技術の導入がアメリカでも検討されています。これは昔、一時盛んに研究されたコグニティブ無線という考え方を現実にしたものではないかなと思います。そうしますと、さらに詳細な情報を使って、ぎりぎりの条件まで入れて共用ができるかどうかを判定するような形で使っていこうということです。
将来的には、共用できないだろうと思われたものだって、できる可能性があるかなと思います。いろいろな条件を入れて、周波数共用条件を自動的に出していただく。それで、必要に応じてアクセスポイントを登録すれば、何かあったとしても原因がここかもしれないということで解決を図れるという意味では、固定の無線の方からすれば安心できるシステム、やり方ということができるかなと思います。

 

 

固定と移動では、干渉検討の歴史、考え方がずいぶん違う。これを、いかに折り合いを付けるかが大事かと思います。しかし、今のシングルエントリーのやり方は周波数有効利用を阻害しかねません。しかし、モンテカルロ法は確率現象として干渉を使っているので、万が一違っていたらどうするのかという話です。そこがなかなか難しい話かなと思いますが、そこをうまく折り合いを付けて、日本の中で6GHzがうまく使えるようにできればと思っています。
以上で今日の私のお話を終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございました。

 


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