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ローカル5G技術講座
第4回「超高速/超低遅延/多数同時接続」を実現する技術のポイント

北條 博史

 

5G/ローカル5Gは、「超高速/超低遅延/超多端末」という3つのメリット(図表1)がある次世代システムとして導入が始まりましたが、この機能を前提にいろいろなユースケースが提案されています。ここでは、この3つの機能を実現するコア技術とその実現に向けた課題など、技術的な内容の紹介をさせていただきます。

なお、技術的用語が数多く出てきますが、いずれも「ググれば」出てくるものばかりですので、言葉の説明は省略いたします。

図表1 5Gの3つの特長

 

「超高速」を実現する技術

超高速というのは、通信速度(1つの端末でどのくらいスピードが出るか)が著しく高速だという意味になります。通信速度を向上するためには、(1)通信方式(無線の変調方式など)をより高度にして速度または容量を向上する方法と、(2)利用する周波数帯域を拡大する、という2つのアプローチがあり、これまで並行して性能向上が進められてきました。

(1) 通信方式の高度化
① 変調方式の高度化
通信速度・容量を輸送トラックに例えると、1台のトラックで多くの荷物を運ぼうとしたら、出来るだけ多くの荷物を詰め込む必要がありますが、3Gが4Gに移行したときに、それまでのCDMA(Code Division Multiple Access)という詰め込み方から、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)という詰め込み方に変更になりました。
OFDMはいったん荷物を段ボールに詰め込んだのちに、段ボールをトラックの荷台に詰め込む形なので、CDMA方式に比べ、より効率的に詰め込むことができます。
荷物を段ボールに詰め込む部分を一次変調といいますが、4Gでは変調方式が最大256QAMまでに対応し、より多くの情報を段ボールに詰め込むことができるようになりました。また、二次変調ではOFDMA(Orthogonal frequency-division multiple access)を導入することにより、段ボールも細かい単位で荷台に並べられることになったので、いろいろなサイズの違う段ボールをうまく隙間なく詰め込めることになりました(Wi-Fiは802.11a方式よりOFDMを採用しており、さらにWi-Fi6でOFDMA方式を導入しました)。
この技術により4Gの通信速度は飛躍的に増大しました。5Gもこの部分は同様の方式を採用しています。

② MIMOによる速度向上
MIMO(Multiple-Input and Multiple-Output)は、通信容量をn倍にする画期的な技術で、複数の送信アンテナから同時に別々の信号を出し、受信側も複数のアンテナで受信して、信号を分離して受信する方法です。
Wi-Fiは802.11nから、モバイルは4Gから導入されましたが、理想的にはアンテナの本数分だけ通信容量が増えるので、一気に通信容量を増やすことができるようになります。
ただし、スマートフォンのような小型端末を想定すると、一つの端末にアンテナを多くつけることは干渉によりできませんので、現在の端末側の主流は2本であることを考えると、速度の増加効果としては2倍となります。先ほどのトラックに例えると、MIMOを使うことにより、トラックがいきなり2階建てになったようなものです。
5Gではこの技術をさらに発展させたMASSIVE MIMO(+ビームフォーミング)という技術(図表2)を利用して、特に高い周波数に対して通信品質を向上させる取り組みを進めています。

 

図表2 Massive MIMO技術

③ NOMAによる容量向上
5Gになって初めて導入されようとしている技術が、NTTドコモが中心に提唱しているNOMA(Non-Orthogonal Multiple Access)という技術です。
NOMAは図表3に示すように、近くの端末向けに小電力、遠くの端末に大電力の信号を同じ周波数、同じタイミングで重畳して送信するものです。この場合、遠くでは信号の電力差によって自分宛の信号のみを容易に取り出すことができます。近くの端末では、自分宛の信号は遠くの端末向け信号でつぶされていますが、ここで、まず遠くの端末向け信号を受信した上でそのレプリカを作成し、それを混ざった信号から取り除くことにより、自分宛の信号が取り出せるという仕組みです。
この技術により、最大通信速度が増えるわけではありませんが、同時に複数の端末と通信ができるので、通信容量の増加に貢献します。

 

図表3 NOMA技術

 

(2) 利用する周波数帯域を拡大
① 周波数帯域の拡大
図表4に通信用に割り当てられた周波数の一覧表を示します。青系統の色はWi-Fi、赤系統の色はモバイル通信に割り当てられた周波数です。また、5Gはオレンジ色で、薄いオレンジと緑は、日本において、現在割り当てが検討されている周波数になります。
モバイルについては、もともと800MHz帯が当初割り当てられていて、その後3Gのタイミングで2GHz帯、さらに1.8GHz帯、WiMAX関連で2.5GHz帯、さらに700MHz/900MHz帯などの追加割り当てが順次行われてきました。これは、スマートフォンなどの普及により通信量が飛躍的に増加したために、通信速度を向上するのではなく、通信容量を増やすために新たな割り当てが次々と行われてきたという経緯があります。
詳細な割り当ては、本技術講座第2回を見ていただければいいのですが、図表4の縦の赤い点線より高い周波数については、準ミリ波/ミリ波と呼ばれる周波数帯で、降雨時に減衰があったり、障害物を回り込まなかったりという性質があり、伝搬条件の変化によって、通信が切断されたりするおそれのある周波数になります。

図表4 通信用に割り当てられた周波数

 

ただ割り当て帯域は、例えば5Gのキャリア向け周波数としては、6GHz以下の周波数帯では100~200MHz/キャリアですが、28GHz帯は400MHz/キャリアの割り当てがすでに済んでいて、さらに拡大される見込みです。
超高速を実現する最も効果的な方法は、このミリ波帯の周波数を使うことになります(ただし、残念ながら今年日本で発売になったiPhone12シリーズはどの機種もこの28GHzはサポートされませんでした)。

② キャリアアグリゲーション
3Gのモバイル通信では、基本的には5MHzを単位としてチャネルを割り当て、通信を行っていました。例えば2GHz帯では、モバイル事業者各社は20MHzの割り当てを受けていたので、5MHz×4チャネルとして利用しています。
4G(LTE)になって、最大通信速度を向上させるために、複数のチャネルを束ねて(最高では20MHzを全部使って)1つの端末が通信できるようになりました。さらにLTE-Advancedでは、複数の周波数帯を束ねてひとつの端末で送受信するキャリアアグリゲーションの導入がなされました。このタイミングで新たに3.5GHz帯に40MHz/キャリアの割り当てがあり、最大通信速度が向上しました。
これは、トラックの例でいうと、複数の道路を複数のトラックが横に接続された状態で走っているようなものです。端末当たりでは、複数のトラックの荷物の合計が運べることになります。

③ NSA(Non Stand Alone)
本節①で述べたように、5Gでは新たに準ミリ波/ミリ波として28GHz帯を利用することになりましたが、この周波数の通信は通信距離が短く、伝搬条件の変化にも弱いため、モバイル通信で利用した場合は特に、頻繁に通信が切断される可能性があります。
この場合、いくら通信速度が高速であっても、通信がいちいち遮断されることにより、全体としての通信速度は向上しないことになります。これを解決するために5Gに組み込まれた機能がNSA(Non Stand Alone)です(図表5)。

図表5 NSA技術

 

これは、端末と基地局が通信する際に、接続・切断などの制御信号(コントロールプレーン)とデータ信号(ユーザープレーン)を分離し、データ信号は28GHz、制御信号は4Gで利用している周波数を使うことにより、回線の接続を安定化させるものです。

仮に28GHz側のリンクが切れたとしても、コントロールプレーンの通信が継続していれば、端末は接続中のままになり、端末アプリから見ると単に速度が低下したという状態のままであり、28GHzが再度接続して通信を開始したときには直ちに通信速度が増加するように見えるのです。

このコントロールプレーンについてのネットワークインターフェースが4Gのものをそのまま使えるため、4Gのネットワークに5Gの無線アクセス接続することにより、5Gを部分的に順次導入していくことができます。このNSA機能により、4Gから5Gへの移行を円滑に進める効果もあることがわかります。

 

「超低遅延」を実現する技術

5Gの遅延量に対する目標は、1msec程度以下となりますが、実際にエンドtoエンドで低遅延を実現するためには、5G/ローカル5Gの無線区間の遅延に加えて、ネットワーク区間の遅延を減らす必要があります。

(1) 無線区間の遅延の削減
Wi-FiではCSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access/Collision Avoidance)という方式で、端末それぞれが自律分散的に通信を行い、基地局も端末の一つという扱いになります。送信しようとする端末が少ない場合は問題ありませんが、送信したい端末が多くなると、CSMAの機能で、別の端末が送信しているときは送信を待機するため遅延が増加する可能性が出てきます。
さらに送信頻度が増加すると、頻繁に衝突や再送が発生したり、パケット廃棄が起こったりして通信品質が大きく低下していきます。これがWi-Fiのベストエフォートな特性であり、高信頼な通信が必要とするユースケースには向きません。
一方、5G/ローカル5Gでは、基地局が集中管理するために、遅延時間などをコントロールすることができます。図表6に5Gのフレーム構成を示します。基本は4Gと同じで、Wi-Fiのように好きなタイミングで送信するのではなく、10msecのフレームを繰り返して、その間の送受信の管理を基地局が行うことで複数の端末の送受信のタイミングを制御して通信します。

 

図表6 5Gのフレームフォーマット

 

10msecのフレームは10個の1msecのサブフレームに分かれており、1つのサブフレームは14スロットに分かれています(OFDMのサブキャリアが15kHzの場合)。各端末は、基地局が送信するサブフレームの先頭の数スロットの信号を受信して、同期を確立することになります。さらに基地局はそのサブフレームの送信・受信タイミングを各端末に知らせることにより、衝突のない通信を実現しています。
この送受信のつくりがWi-Fiとは異なる部分であり、例えば遅延を抑えたい通信には常に通信スロットを割り当てるなどにより、通信品質を確保することが可能になります。
さらに5Gではこのフレーム長自体か可変でより小さく設定が可能なため、さらに遅延を減らすことができ、これが超低遅延を実現するためのカギとなっています。
ただし、無線通信では、エラーをゼロにすることはできないため、100%の信頼性は実現できず、必ずパケットロスが発生します。このため、パケットロスの確率にもよりますが、人命にかかわるものなど特定のユースケースにはふさわしくない場合もあり、導入する場合にはこの点の考慮が必要になります。

(2) ネットワークの遅延の削減
遅延を減らすためには、無線区間だけでなくネットワーク区間の遅延を抑える必要がありますが、今のインターネットでは本質的に数msec~数十msecの遅延が発生してしまうので、せっかく5G/ローカル5Gで遅延を減らしても効果が薄められてしまいます。
そこでMEC(Multi-Access Edge Computing)の導入が期待されています。これにより、実際の通信部分はインターネットには入らず、MECで折り返したり、サーバをMECの近くに配置して遅延を減らすことにより、トータルの遅延を削減することができます。
これについては本技術講座第3回に詳しく書かれていますので、そちらをご覧ください。

 

「多数同時接続」を実現する技術

5Gの「多数同時接続」機能により、今後利用の拡大が期待されるIoTが促進されることを期待されています。「多数同時接続」は、mMTC(massive Machine Type Communication)と呼ばれ、実現目標は、1平方kmあたり100万個のノードが接続しても問題なく通信ができる「同時多接続性」ということになっています。
通常の通信では、基地局側が個々の端末毎に無線リソースを割り当てて送受信の許可を行うことになりますが、100万個レベルになると、一台ごとに割り当てていくのはとても効率が悪く、実際的ではありません。
そこで考えられているのが、Grant Free Accessという技術です。この方式は端末と基地局での間の制御系通信をシンプルにして輻輳(ふくそう)を回避する、というもので、端末は無線リソースを割り当られていなくても、データを送ることができるという方式です。当然、別の端末の送信と衝突したり、うまく受信できなかったりするリスクはありますが、その場合の再送信の仕組みも含めて設計されています。
5GのmMTCについては、具体的な導入について検討は進んでおらず、現在はむしろ4Gで商用を目指しているLTE-M(eMTC)/NB-IoTを実現する方向で商用化が進められています。
この2つの技術はライセンス周波数を使ったLPWA(Low Power, Wide Area)として、アンライセンスのLPWA(LoRa、Sigfox、802.11ahなど)とともに普及が期待されている技術です。
なお、LTE-MやNB-IoTなどモバイルでIoTを行う場合は、端末側(例えばセンサー側)にSIMカード(またはソフトSIM)に相当する機能が必要であり、また識別のための電話番号(020番号が割り当てられる)も必要になることは注意しておく必要があります。
「多数同時接続」は5Gの3本柱の機能の一つとしてその実現が期待されていますが、実際のところはまだまだのこれからのようです。

 

3つのメリットを実現するためのネットワーク技術

5Gの優位性については、無線アクセス技術に注目が集まっていますが、実はネットワークを5G化することにより、5Gのメリットが本当に意味で実現されることになります。

5Gのネットワーク技術としては、これまで説明したMECやNSAなどの技術に加えて、ネットワークスライシング技術が新たに導入されようとしています。

ネットワークスライシング技術とは、低遅延通信や、高信頼通信などさまざまなサービスが重畳される場合に、ネットワークを仮想的に分割(スライス)することで、サービスの要求条件に合わせて効率的にネットワークを提供する技術です(図表7)。

図表7 ネットワークスライス

5Gの場合は、3つのメリットである超高速・大容量/超低遅延/多数同時接続の特性をそれぞれ実現する仮想的なネットワークスライスをひとつのネットワークに重畳することになります。5Gのサービス開始当初は、無線アクセスシステムは5Gですが、ネットワークは4GのEPCベースで動作しているので、ネットワークスライシングが導入されるのは、数年先になると想定されます。

 

5Gのメリットがローカル5Gで活用できるか

(1) 超高速
ローカル5Gでは、現在28GHz帯に100MHz幅しか割り当てられていないため、NSAで利用するためには、プライベートで4Gを利用できる周波数として2.5GHz帯(または1.9GHz)を活用し、28GHzと組み合わせで使うしかありません。ただし、1波しかないので、隣接する場所で使おうとすると干渉して使えなくなってします可能性があります。
今年中に、4.7GHz帯で300MHz幅、28GHz帯で新たに900MHz幅割り当てられる予定があるので、そこまで進めば本格的にローカル5Gの超高速のメリットを享受できるようになります。

(2) 超低遅延
ローカル5Gの場合は、ネットワーク機能を限られた拠点に設置することができるので、ネットワークとしての遅延を減らすことができます。また、ローカル5Gの場合は利用形態が定まっていると考えられるので、トラフィックの形態や容量は想定できることから、それに合わせたネットワークの機器を選定することにより、輻輳などによる遅延の増大を避けることができます。
低遅延を必要とするユースケースの場合は、ローカル5Gが最適なアクセス手段となります。

(3) 多数同時接続
多数同時接続については、キャリア5Gにおいても当面商用導入の見込みがないことから、ローカル5Gでの利用は当面できないと考えられます。

 

まとめ

5G/ローカル5Gの3つのメリットを実現する技術を図表8にまとめました。すでに導入されている技術やこれから導入される技術などがあり、フルスペックで使えるようになるまでは、当面時間がかかるようです。

ローカル5Gの装置コスト自体も、現在は高額であることから、Wi-Fiではクリアできないような要求条件を持つユースケースを中心に、試験導入として有効性を確認するフェーズにあると考えられます。
キャリア5Gの進展とともに、ローカル5Gのコストも次第に低下することが期待できるので、キャリア通信の5Gへの移行が速やかに進んでいくことを期待したいと思います。


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