目次ページへ

ビジネス情報
コロナウイルスとテレワーク、Wi-Fi活用を考える

一般社団法人 無線LANビジネス推進連絡会顧問 小林忠男

新型コロナウィルスが世界中に拡大しつつあり、その終息も見通せず多くの人たちの不安が増大しています。一日も早い新型コロナウィルスの終息を祈りつつ書いています。

テレワークに必要なもの

3月11日の日経新聞朝刊に、「時差通勤・テレワーク 首都圏、推奨職場多く」という記事があります。

「LINEが、首都圏1都3県の男女に新型コロナウィルスへの対応として宿場で推奨されていることを尋ねたところ、時差通勤が32%、テレワークが24%だった」との内容です。

私は現役の頃のように毎日満員電車に揺られて会社に行くことはなくなり、週に二日程度事務所に行きますが、それでもそれなりの仕事はあるので自宅やカフェで、いわゆる「テレワーク」を以前から実践しています。この記事も妻が外出した後の一人だけの部屋でパソコンに向かって書いています。

自宅で仕事が出来れば往復3時間弱、満員電車で立ち続けることもなく、他のことに時間を使うことが出来るだけでも大変良いことだと思っています。

一方で、新たな活動にその時間が有効に使われているかの検証はこれから必要ですし、いろいろな人と会話する時間が少なくなり最新の情報に疎くなることは確かです。

テレワークのメリット・デメリットはきちんと議論する必要がありますが、無線LANビジネス推進連絡会の顧問として前から、「自宅でのテレワークは日本の生産性向上に不可欠。自宅のテレワークにWi-Fiと光は必須」と考えていましたので、新型コロナウィルスを機会にテレワークの機運が高まったことは今後の日本の働き方改革の前進にとって良かったと思います。

ところで毎日会社に行って仕事をしている人たちが、突然在宅でテレワークを行う、通学している子供たちが急に家でタブレットやパソコンで遠隔授業を行うとなったら即座に対応できるものなのでしょうか。

「自宅でのテレワークに必要なもの」をインターネット検索してもすぐに分かる内容のものはありませんでした。

普段は会社、職場、事務所で働いている人たちが自宅でテレワークを行う場合、先ず準備しなければならないものは、無線LANビジネス推進連絡会顧問としては、Wi-Fi搭載の端末(パソコン、タブレット、スマートフォンやデータが端末に残らないシンクライアント)と、端末をネットワークにつなげるWi-Fiアクセスポイントが不可欠です。

またWi-Fiアクセスポイントを最寄りの電話局、データーセンターと接続するための光またはワイヤレス回線も絶対に必要です。恐らく5割以上の家庭には光回線が導入されていると思いますし、若者はほぼ100%光に加入しているのではないでしょうか。

ただ最近は固定回線を持っていない若い人たちも多く、モバイル回線につながるWi-Fiルーターを使っている人もいます。最近、即日Wi-Fi開通というコマーシャルがありますが、これもモバイル回線につながったWi-Fiルーターを家庭内に固定設置して即日開通と言っているのでしょう。移動通信の電波を固定的に使うのは如何なものかと思いますが即日開通は事実でしょう。ただ通信速度は光には及ばないため大容量のデータをやり取りする場合はストレスを感じることになるでしょう。

余談ですが最近は、光にしてアマゾンプライムのように無料で映画などを見ている人も多くなっているのではないでしょうか。

セキュリティについて言えば、ほとんどの家庭はWPA2-PSKなのでパスワードが漏れない限り無線区間は問題ありませんが、インターネットに入ったら通常の脆弱なセキュリティですからWi-Fiに限らずhttps:などが必要になります。

家から会社や学校や塾や特定の組織•会のサーバーと接続するためにはVPNなどで会社や企業にアクセスするのが一番良いのですが、ID/パスワードや証明書を払い出す必要があり手間がかかるので、情報システム部門がきちんとその方法を指示することが大切だと思います。

単に会議をするだけなら、CiscoのWebexやフリーのzoomなどが有名です。

共通サーバーに個々がセキュアにアクセスすることにより会議自体のセキュリティを担保しています。以前はアプリをインストールする必要がありましたが、スマフォは今でもアプリが必要ですが、最近のPCはブラウザで接続することが可能になっています。

無線LANビジネス推進連絡会の技術委員会や運営委員会やこれから開催のWi-BizセミナーはWebexを配信モード(受講者からの音声はなし)で実施する予定です。

雑駁ですが以上のような点をきちんと用意してテレワークを進めていくことが重要だと思います。

NTT東日本が以下のテレワーク相談窓口を開設したそうです。

「テレワーク相談窓口の開設およびテレワーク導入支援の実施について

https://www.ntt-east.co.jp/release/detail/20200313_01.html

テレワークで問われるもの

テレワークを実施するということは、これまでの働き方を大きく変えるということですから、現在会社でやっている仕事をそのまま家でやるというわけにはいかないでしょう。

経営企画、技術開発、サービス・システム開発、営業、設備、経理、総務等の業務内容が異なる部門から会社は成り立っています。

企画や開発部門のスタッフがこれから進めるビジネスのアイデアを考える仕事は家でも出来るかも知れませんが、迅速な顧客対応や故障時の迅速な復旧を行う営業や設備部門が全員テレワークで仕事を行うことは難しいでしょう。

またどの部門においても、その部門のスタッフ一人一人が、今週、今月、四半期の業務内容が具体的に決まっていなければテレワークと言っても進捗管理も出来ないでしょう。

どれだけの企業において、具体的なアクションプログラムが個々人に設定されて実行管理されているかがテレワークの成否の大きなカギになるのではないでしょうか。

色々考えると以下のような課題があるかも知れません。

①     日本の居住環境,家族が多く部屋が少なかったらそもそも落ち着いてテレワーク出来ない

②     会社に来て仕事に関係ないお喋りをして部下に仕事に振るだけの人たちは自宅で一人になったら困るかもしれない

③     エクセルに数字を打ち込むだけ,伝票を整理するだけのスタッフは自宅では仕事のやりようがないかもしれない

④     何でも指示されなければ動けない社員はどうしたら良いか分からない

⑤     一日中自宅でパソコンに向かって1日のアウトプットを見た時に、これまで自分は毎日何をしてたのかと気づき、働き方改革になるかもしれない

位置情報を活用した客足データ分析

話が変わりますが、3月6日の産経朝刊に、「繁華街の人出 3割減 2月初め、スマホデータ解析」という記事が出ています。

少し記事を抜粋します。

「新型コロナウイルスの感染拡大を警戒したとみられる人出の減少が、全国の主な繁華街に広がっていることが5日、分かった。位置情報サービスベンチャーのクロスロケーションズ(東京)がスマートフォンの衛星利用測位システム(GPS)から測定した位置情報を基に、2月初めの人出を前年同期と比較した。札幌・ススキノ、東京・歌舞伎町、福岡・中洲といった全国の主要繁華街で、24~28%の減少がみられた。政府のイベント自粛などの要請が出された2月下旬以降はさらに減少幅が拡大している可能性もある。」

https://www.sankei.com/economy/news/200306/ecn2003060002-n1.html

また、3月7日の日経新聞朝刊には、「都心の人出、大幅減 オフィス街は2割少なく、夜の銀座は半分に 米衛星情報会社オービタルインサイトのデータサービスを利用」とあります。

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO56439570V00C20A3MM8000/

この定量的な人出の減少割合は、携帯基地局や衛星スポット毎の端末数を算出して人出の増減を求めているのだと思います。

携帯電話の基地局はWi-Fiのアクセスポイントより広いので、東京・銀座エリアとか札幌・すすきのエリアという面的なエリア単位になってしまいます。

Wi-Fiの場合はどうでしょうか。

Wi-Fiの場合は、新幹線やバスや飛行機の車両、機体毎に、駅の改札口毎に、コンビニやカフェの店舗毎に、デパートのフロアーやラウンジ毎にWi-Fi端末を持った人がアクセスポイントを通り過ぎたかをカウントすることが出来ます。当然、Wi-Fi端末の電源がオンになっていることが条件ですが。

以下は私のこれまでの経験に基づく推測ですが、鉄道やコンビニやカフェやデパートやラウンジのグループ毎、スポット毎のアソシエーションデータを定量的に分析すれば、

(1)アクセスポイントのアソシエーション数を地下鉄、私鉄、新幹線の乗降客数とすれば、新型コロナウィルス発生前に比べれば大きく減少している。一日の時間毎のアソシエーション数を見ると、発生前は朝と夕方にピークがあったものが、時差通勤でピークが平たんになっている

(2)コンビニやカフェのようなスポットは、コロナウィルス発生後も大きな減少はない。個人の利用者が中心で、地域に密着した利用形態なので影響が少ない、とあくまで私個人の推測ですが。

(3)デパートの客足も減少しているでしょう。もし、フロアー毎のアソシエーション数を分析すれば、食料品売り場の客足は変わらず、化粧品売り場の客足は減っていることが分かるのではないでしょうか。

それぞれのスポットのアソシエーション数を定量的に知ることによってビジネス的にどうなるのかという問題がありますが、携帯電話基地局によって取得できるマクロ、面的なデータとWi-Fiのアクセスポイントによって取得可能なミクロ、点としてのデータを有機的に組み合わせて分析すれば、今注目されているビッグデータとしてビジネスに活用できるのではないでしょうか。

新型コロナウィルスが終息して、あるデパートで以前より来店者数が増えたとします。

そのエリア全体が増えているのか、そのデパートのどのフロアーが増えているのか。フロアーの品揃えを変えたのかどうか。来店者の動線は変化があるかなどが分かるはずです。

楽天モバイルの携帯電話事業を考える

最後ですが、楽天モバイルは、3月3日に、4月に本格参入する携帯電話サービスの料金プランを発表しました。自社のネットワーク内で上限なしに月額2980円で使える料金プランはNTTドコモなど大手の半額以下になるとのことです。

当面の自社ネットワークとは、実質的なモニタープログラムの「無料サポータープログラム」を実施している大都市圏が中心でエリアマップを見ても、東京23区、大阪市、名古屋市、神戸市を除くと穴が多い印象だ。また地下街やビル内など、設備構築の交渉に時間がかかるような場所は、多くがauのローミングに切り替わる。

この記事を読んで昔話になりますが、1987年に第二電電(DDI、今のKDDIの前身)がクリームスキミングで長距離電話サービスに参入し、あっという間に長距離電話サービス料金が下がったのを思い出しました。

楽天モバイルの参入によって携帯電話料金が期待通りに下がるか注視していかなければなりません。

日本の携帯電話サービスのエリアの広さは世界一だと思います。従って日本の携帯電話のお客様は基本的には屋内外どこでも、地下街でもお店の中でも携帯電話はつながるのが当たり前と考えています。

記事にあるように、都内でも地下街やビル内ではauのローミングに切り替わるのでは安心してプライベートとビジネスの両方に使うことが出来るでしょうか。

料金が安いからエリアは少し問題があってもビジネスになるかどうかは、ワイヤレスビジネスにとって非常に難しい問題です。

PHSは料金も品質も携帯電話より上でしたが、使えないエリアが多く、DDIポケット以外はうまく行きませんでした。

Wi-Fiは携帯の面的サービスに比べればスポットでしか使えませんが、料金の安さで携帯と並ぶ社会基盤になっています。

今の携帯3社のスマートフォンと楽天モバイルのスマートフォンの2台持ちをすれば料金とエリアの確保が出来るかも知れませんが、どれだけのお客様が満足するでしょうか。

日本全国のエリアを既存の携帯キャリアと同じようにすることがまず最も重要な成功の鍵だと思います。 しかし、世界一と言われる日本の携帯電話のエリアは、長い時間をかけて出来上がったものです。一朝一夕に出来たものではありません。

今のように競争が激しくない、ケーブルがなくどこでも電話が出来る携帯電話は素晴らしいと多くの人が実感した携帯電話サービスの創世期に、携帯ビジネスにかかわる多くの関係者が電波強度測定器をもって歩き回ってつながらないエリアをなくしてきたのです。

地道な努力の結果として今のどこでも使えるエリアがあるのです。お客様が満足するエリア構築のためには長い時間がかかるかもしれません。

それまでお客様と株主が待ってくれるかどうかがポイントでしょう。


目次ページへ

■Wi-Biz通信(メールマガジン)の登録はこちら