目次ページへ

活動報告
台風19号の「00000JAPAN」発動と運用について

北條 博史

まずはじめに、台風19号を中心とした一連の台風により被災した方々に心よりお見舞い申し上げます。

本年は7月まで特に大きな災害もなく0000JAPAN の発動の機会はありませんでしたが、8月以降は台風10号*1、台風15号*2、台風19号*3の計3回、連続して発動がありました。
台風19号に対する00000JAPANの発動の流れと、現状の運用について、その課題とともに説明させていただきます

これまでに例を見なかった台風19号

台風19号の前の台風15号は予想外の風による被害が大きく、特に千葉県では停電が長期間にわたり継続して、住民は不便な生活を余儀なくされましたが、台風19号それをはるかに上回る勢力で東日本を縦断していきました。数十年に一度というとてつもない大きさの台風で、台風15号の傷跡を広げるだけではなく、経路上の多くの川が決壊したり、氾濫したりして大きな被害をもたらしました。台風19号は接近する前から、その強さや規模がかつてない最大級であることの報道があり、通過するエリアでは警戒レベル5の特別警報が出た場所もありました。

これを受けて、Wi-Bizのメンバである大手3キャリア(ドコモ、KDDI/Wi2、ソフトバンク)は、台風が通過する前から00000JAPANを発動するというこれまで例のない対応をしました。これにより、事前に避難してきた人が利用することができたり、災害後の発動の設定変更が不要であったり、というメリットがあったものと思います(事前発動については今後も基準等について検討する必要があります)。

また発動対象も、最大時は、関東、中部、東北の14件全域に発動されることになり、これまでの発動履歴としては最大数の都道府県への発動となりました。

台風19号の発動の経緯と情報共有

00000JAPANの発動自体は、基本的にそれぞれの「00000JAPAN登録事業者」が判断し、発動する場合は、00000JAPANのメーリングリストにその事実(①発動開始日時、②提供場所、③関連URL)を送信することになっています。台風19号の場合は、本土に上陸すると想定されたのは10月12日の夕方だったのですが、JRなどの鉄道が12日の朝から13日にかけて計画運休を宣言したため、00000JAPANは前日の11日の夕方からKDDI/Wi2を皮切りに携帯3社が発動いたしました。

これまで、00000JAPANは被害が発生して(台風の場合は通過して被害を確認して)からの発動となっていましたので、今回は初めての事例となりました。

当初は、東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県でしたが、ドコモが静岡県、茨城県を追加し、他社も追従して、1都5県となりました。さらに12日に入ってからは、午後に自治体の埼玉県戸田市様が市内の公共施設や小中学校に発動、さらに携帯3社が群馬、山梨、長野の追加を開始し、また自治体として長野県松本市、東京都足立区が続けて発動しました。

続いて12日の夜半に入ってから、各キャリアは、栃木、新潟、福島、宮城の追加など、台風の移動に伴って拡大していった被害に合わせて、発動エリアを増やしていきました(なお、ドコモは13日に入って岩手を追加しています)。

この間、Wi-Biz事務局では、00000JAPANのメーリングリストに送信された情報をもとに、Wi-Bizのホームページのニュースリリースに記事を掲載するとともに、タイムリーにその掲載情報を更新してきました。ただ通知が、夜から深夜に渡ったことで、手動での更新には時間差が発生して、掲載までに時間がかかった例がいくつかありました(人手に依存してしまうとどうしても遅延が発生してしまうことから、情報の自動掲載の必要性を痛感した実例です)。

また、12日の夕方には、NHK総合テレビで00000JAPANが紹介され、普段は数十アクセス程度のWi-Bizの該当ページは、何とトータル3万アクセス以上になり、サーバーがパンクする事態となりました(図表1)。

図表1 Wi-Bizホームページへのアクセス数の増加

Lアラート(災害情報共有システム)との連携

「Lアラート」とは、災害発生時に、地方公共団体・ライフライン事業者等が、放送局・アプリ事業者等の多様なメディアを通じて地域住民等に対して必要な情報を迅速かつ効率的に伝達する機能を持つ総務省地域通信振興課が推進する共通基盤です*4。Lアラートは、平成23年6月の運用開始以降、その情報発信者や扱う情報を増やし、平成31年4月には全都道府県による運用が実現しました。災害においては、速やかに避難勧告・指示、避難所情報等を配信するなど、災害情報インフラとして一定の役割を担っています。

Wi-Bizとして、もしLアラートと連携・活用することができれば、00000JAPANの発動情報を、よりタイムリーに、かつより広い範囲に正確に提供することができるようになります。

図表2には、Lアラートシステムとの連携(案)を示します。00000JAPAN登録事業者の内、モバイルキャリアについては、すでにLアラートシステムへの入り口を持っているため、00000JAPANの発動情報をそれに付け加えることにより、情報の発信を行うことができます。

また、それ以外の会員については、L’moというツールを活用してLアラートに送信することを目指しています。さらに、Lアラートに集まってきた00000JAPANの情報を取得してWi-Bizのホームページに自動的に反映する仕組みを作ることができれば、災害時にはリアルタイムにホームページの更新を行うことが可能になります。

図表2 Lアラートとの連携(案)

他の災害用無料Wi-Fiについて

災害用統一SSID「00000JAPAN」はNHKニュース「おはよう日本」にも紹介され、かなり知名度が上がってきましたが、 実は00000JAPAN以外にも災害時にWi-Fiを無料開放している事例が多数あります。例えば、コンビニの7イレブンでは、普段は各店舗で会員制の無料Wi-Fiサービス「7SPOT」を提供していますが、災害発生時には、会員の認証をせず、誰もが自由にインターネットが使えるように設定変更します。

このような事例は自治体を含め多数あり、これらの情報も広く周知していく必要があります。Lアラートとの連携の中に、これらのスポットの情報も合わせてお知らせできれば、訪日外国人にとっては、きわめて有用な情報となることが期待されます。

00000JAPANのセキュリティについて

00000JAPANは、利用者の利便性を優先しているため、セキュリティ上の課題がいくつかあります。この問題のいくつかは一般の無料公衆Wi-Fiサービスにも同様の課題としてありますし、インターネットそのもののも盗聴のリスクがあるという認識が必要です。

以下に具体的なセキュリティ上の課題を示します。

  • 盗聴のリスク

「00000JAPAN」は災害等の緊急時ということで、利用者の利便性を最優先にしています。したがってパスコードなどは一切入力する必要はなく、端末の接続後も余計なページは出さず、すぐに使えるようになります。一方で、無線通信部分は暗号化されていないため、少し知識がある人が必要な機器を購入すれば簡単に盗聴することができるようになります。

この盗聴の問題は、ほとんどの自治体等の無料公衆Wi-Fiサービスでも同様の危険をはらんでいます。基本的には、利用するユーザ自身がVPNを利用したり、アクセス先を、httpsをサポートしたサイトに限定することにより、盗聴を回避することができます。

  • なりすましAPによるフィッシング

もう一つのセキュリティの課題は、偽のアクセスポイント(AP)によるフィッシングです。利用者がいる周辺に00000JAPANのSSIDを発信するAPを立ち上げ、接続してきた利用者を本物そっくりの偽サイトに誘導して、IDやパスワードを盗むといった手法です。これもVPNやhttpsで防ぐことは可能ですが、偽サイトが本物そっくりなため、(httpsではなく)httpであることを見落としてしまう可能性があるようです。

これも、一般の無料公衆Wi-Fiサービスにおいても同様の問題となるものです。

  • 犯罪の温床

00000JAPANでは認証を一切行いませんので、誰でもがアクセスし通信することができます。これはメリットがある一方、誰が通信しているかが不明なため、インターネット犯罪の温床になる可能性を否定できません。特に匿名のDoS攻撃やウィルスのバラマキなど、いろいろなことができることになります。

一般の無料公衆Wi-Fiサービスでは、ユーザ登録などのステップがあり、SNSのID連携や、例えばメールの返信を確認する(ただし、匿名で取得できるメールアドレスなどは不可)ことにより、本人の特定ができるため、犯罪の抑止を図ることができるようになります。

00000JAPANの利用場所について

00000JAPANの知名度が向上するにしたがって、どこで使えるのかという問い合わせが来るようになりました。利用可能な場所は、それぞれの「00000JAPAN登録事業者」で個々に管理されており、Wi-Bizでは集約していません。また、災害の場合、停電や断線によって使えない場所が存在するために、各事業者においても利用可能な場所を更改していない例がほとんどです(今後どのような形で、情報を提供していくのかについても考える必要があると思います)。

もう1点、時々、来る質問として個人の方などから、「00000JAPANが使えると報道しているのに被災地である私の自宅で使えない」というものです。つまり、00000JAPANが携帯のように面的にエリアカバーされていて、携帯の電波の代わりにどこでも使えるのではないかという誤解です。

ご存じの通り、00000JAPANが使えるのは、普段キャリアなどが公衆Wi-Fiサービスを提供している場所、または避難所などに00000JAPAN対応のAPを臨時に設置した場所に限られます。このような誤解は明らかに仕組みを知らないことによるものですが、まだまだ、周知・広報が不足しているものと考えられるので、今後も普及活動を通して説明をしていきたいと考えております。

まとめ

これまでの00000JAPANの発動を通じて、知名度が向上したものの、有用な面がある一方課題も明確になってきたため、より多くの方に簡単にかつ安全に利用いただけるように、今後も改善を進めていきたいと思います。

*1: 台風10号による00000JAPANの発動
https://www.wlan-business.org/archives/24326

*2: 台風15号による00000JAPANの発動
https://www.wlan-business.org/archives/24704

*3: 台風19号による00000JAPANの発動
https://www.wlan-business.org/archives/25535

*4: 「Lアラート(災害情報共有システム)」の普及促進
http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/ictriyou/02ryutsu06_03000032.html


目次ページへ

■Wi-Biz通信(メールマガジン)の登録はこちら