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[トップインタビュー]
NECネッツエスアイ株式会社 代表取締役執行役員社長 牛島祐之氏

デジタル技術の活用で真の働き方改革実現へ
Wi-Fiと5Gでユーザー最適のネットワークに

NECネッツエスアイは、日本企業の働き方改革をリードしてきたが、その経験のなかから、大胆なサテライトオフィス政策に踏み切った。本当の働き方改革を実現する鍵は進化するデジタル技術の活用にあると牛島社長は述べる。そして、2030年に向かってさらにCAMBRICといわれる新技術の活用を推進すると強調する。また、5GとWi-Fiとの連携が必要であると述べる。

ICTを活用して本当の働き方改革を

――デジタルトランスフォーメーションが進むなか、デジタル技術とクラウド活用でビジネスを強くする働き方改革に取り組んでいると聞きました。御社の戦略について、お聞かせ下さい。

牛島 当社はもともとPBXを中心に企業向けにネットワークシステムを提供してきましたが、CAMBRIC(キャンブリック)といわれるような先端技術が使われるシーンが多くなってきていますので、少しずつ事業の新しい分野を拡大しながらやっているところです。当社の特色としては、働き方改革の中で自社実践を通しながら、自社の中でまず使ってみて良し悪しを理解した上でお客様に提供するというモデルを一生懸命に展開しています。

 *CAMBRIC  C:Cloud Computing、A:Artificial Intelligence ( AI )、M:Mobility、B:Big Data、R:Robotics、I:Internet of Things ( IoT )、C:CyberSecurity

――今、働き方改革といわれていますが、そういう分野の取り組みは、御社は非常に早かったですね。

牛島 2007年ぐらいから、「EmpowerdOffice」などをやっていますけれども、ソリューションとしてはもうちょっと前から実はやっていたのです。ちょうど品川や汐留などの再開発が始まったぐらいのタイミングに、いろいろな大きな移転があり、そういうところで一気にいろいろな社内設備を入れ替えるタイミングがありましたので、それをより効果的に活用すると働き方がより便利になるという意味で、PBXの世界から少し広げながら事業を展開してきました。

いろいろソリューション、サービスを提供するのですが、全てを当社が全部使っていたわけではなくて、新しい製品が出たり、今までよりも早く処理ができるようになったりとか、いろいろな特色が出たものを提供していたのですけれども、やはりもう少し良し悪しというものを自分たちが理解し、自分たちが実際に確かめたものについてメッセージを出そうというようなところから、自社で使う、自社の働き方に使ってみようというのがスタートだったんですね。

――そういう取り組みを始めたのはいつごろですか。

牛島 2006、2007年ぐらいだと思います。最初は営業部門、次はSE部門でしたが、だんだん拡大していきました。最初は社内のコミュニケーションを良くするとか、フリーアドレスにして上司と部下のコミュニケーションを良くしたり、部門間のコミュニケーションを良くしたりしていました。その後、当時は東品川にいましたけれども、本社を飯田橋に移転して、全社を全部改革しようと考え、フリーアドレスなどで空いたスペースにクリエイティブなものを作り、もっと効率的にオフィスを使えるのではないかと、いろいろやってきました。

――それが2010年ごろですか。

牛島 そうです。そこから今度はITの積極的活用ということになり、もっと場所を選ばない働き方、テレワークも今では当たり前ですが社内実践し着々とやってきました。

去年からまた新しい取り組みを始めました。それがまさに新しい技術で、クラウド型のサービス、IoT、AIの新しい技術が出ていますので、それを積極的に使うことで、もっと効率的な働き方が創造できるのではないかと、取り組んでいます。

――どういうコンセプトなのでしょうか。

牛島 コンセプトは新しい技術を使うということ、それから場所を選ばない働き方を実現するということです。弊社の新しいオフィスには、コンスタントにお客様に見学していただいております。昨年1月の最新技術リニューアル以降、劇的にお客様が増えまして年間1万名を軽く超えるぐらいのお客様に来ていただいております。うち10%が全く新しいお客様で、社会がそういうものを求めているということを実感しています。

――お客様の関心はどこにあるのでしょうか。

牛島 新しい技術が使えるのか使えないのかというところだと思いますね。当社は、特に去年あたりは、映像系を非常に多く使って、Zoomをはじめとして手軽で便利なサービスが出てきていますので、そういったものを中心に場所を超えた働き方というものを進めています。その応用編がいろいろ出てくるわけですけれども、他にも社内にいろいろなIoTのセンサーを打ち込んで、人の流れを分析したりしています。そういうことを一緒に見ていただき、お客様の関心も高まったのではないかなと思っていますね。

当社自身もどんどん発見がございまして、新しい技術を使ったときに、例えば業績を評価する制度だとかコミュニケーションを取るルールだとか、今まであったものを変えないといけないということです。そういったものを全部ひっくるめて働き方の改革というものをやる予定にしております。

実は、このビルの12のフロアをお借りしているのですけれども、これを低層階の4フロアに集中します。その代わり、都内に入ってくる路線の駅のすぐ近くに、要は自宅から30分ぐらいで通えるところにサテライトを10カ所つくります。

――サテライトオフィスを全面的に採り入れるわけですか、それは大胆な方針ですね。

牛島 今は一つの課が社内の1つの島でやっていますが、首都圏のいろいろなところに分散して働く働き方になります。要は本社に来なくていいという働き方です。テレワークを採り入れたものの、失敗して会社に戻しているケースがありますが、当社でいろいろなツールとかサービス、映像系のものを含めて使うと、十分に場所を選ばずに働けるということが分かってきていますし、グループでやっている業務の中身が可視化できるものなどいろいろなツールがありますので、そういったものを使えば、場所が変わっていても、違う場所にいても、十分に働けるだろうと確信したわけです。

そうすると、通勤という東京の課題が出てきます。当社でも1時間・2時間かけて通勤する人がいます。これをこのままにして社員に「もっとクリエイティブな発想をして、自己研鑽をして、イノベーションを起こせ」ということはとても言える話じゃないわけです。

そこをまず解決したいなと思いました。東京にある企業のほとんどは、そういう悩みを持っているのではないかと思いますし、「テレワーク・デイズ」や2020年だけの話ではないと思います。日本の課題かもしれないですね。都市部集中ということで、地方に行くと人がいなくなるという問題も、ひょっとしたら解決するその糸口になるだろうということです。

そもそも上司と部下のコミュニケーションの取り方も、隣にいたらコミュニケーションが取られているかというと、必ずしもそうでないケースがあるわけです。そういったところにも踏み込んで、もう1回、原点に戻った働き方というものを、新しい技術を使って試してみるというものが今年のテーマになっています。

――それは、奥が深いというか、本質にまで手を突っ込んで、本当の働き方改革を追求することですね。

牛島 当社も家でのテレワークというものをやっていました。育児・介護というニーズにはそれが必要ですけれども、私も実際にテレワークを家でやることが何回もありましたが、本当にそれが集中できるかというと、あまり集中できない面もありました。やっぱり限界があるわけですね。

1つのヒントは、テレワークで会社から離れて初めて自分の部下が見える範囲からいなくなると、そのときに初めて何をやっているんだろうとか。家にいる方は、自分はちゃんと見られているのだろうかという、そういう欲求が出てくる。そこは生かさなきゃいけないなと。今回、本社に戻る場所をなくしたというものは、そこもあります。そこまで追い込むことで、そういったものをきちんと見られる仕組みを作りたいと思いました。

――サテライトオフィスですが、そこが「自分の席」だというということですね。

牛島 そうなんです。自由にあっちこっちどこのオフィスにでも行くというよりは、私は柏なら柏の、横浜なら横浜のオフィスに勤めますという形になるんです。家から最も近いところということですね。

駅近くがサテライトオフィスなので、例えば保育所なんかもあるでしょうし、いろいろなことをかなえようということなんです。

――取引の営業先に行って、書類をまとめるため最寄りのサテライトオフィスに寄って、そのまま直帰するというものとは違うわけですか。

牛島 違います。本社から離れることによって仕事の中身を見るという必要が出てくるし、見られたいということが出てくるし、そこが評価制度を変える一番大きなポイントになってくるのではないかなと思っています。当社はテレワークを始めたときに最初にやったものは時間の見える化なんです。働いているかどうかということを、パソコンが立ち上がったログで時間を記録するということもやっているんですが、それが本当に競争力が付く働き方かというと、そうでもない。働き方改革というものは、働く人が働きたくてたまらなくなる、そういうものなんじゃないかなと。むしろ健康上の問題でマネジメントしてあげなきゃいけないという発想に立たないと、企業が強くなる働き方にはならないと思っていますので、それを今回、実現したいということなんですね。

本当に原点にもう1回立ち戻って。その代わりそこにはITとか今までやってきたノウハウをつぎ込みながら、もう1回挑戦したいということなんですね。

その人の力が本当に湧き出てくるようなものにしなければいけないし、それを今言ったような環境と技術を使いながら、あとは制度を変えながら、チャレンジしたいということが今回の取り組みです。

デジタル技術、クラウドの活用は必ず実現する

――働き方改革の推進というのは、2007年ごろから一貫して御社の事業の中心ですが、それ以外の事業についてはどういう取り組みですか。

牛島 当社は、他にも社会インフラ事業、キャリア向け事業も柱としてやってきましたが、実は4月に組織も少し変えました。キャリア事業も社会インフラ事業も技術の境目があまりなくなってきたということをすごく感じています。例えばセキュリティを取っても、当社はいろいろな部門で分散してやっていました。よく整理するとデジタル技術といわれるところは、企業であってもキャリアの部隊であっても、ほぼ同じような技術を追求していて、それを分散させることのもったいなさというものも感じました。それから社会インフラについては特にこれから5Gであるとか、あるいはWi-Fi 6であるとか、今までよりももっとすごいネットワークの基盤が出てくる。それを社会インフラの中で活用するシーンというものは、ものすごく多くなるだろうなということで、3つの市場軸であったものを2つの技術軸に会社の中を再編しました。

――それもまた、大胆な施策ですね。

牛島 デジタルをやるチームと、ネットワークの高度化、5Gそういったものを中心にインフラを考えるチームと、この2つにまとめました。そして、新しい事業を考える部署を全部集め、ビジネスデザイン統括本部を作りました。全社の新しいデザインはここで考えようということです。それから、当社は施工の比重も大きいですが、共通化したほうが効率はいいわけで集中しました。その方が効率良くできるということで、構築だとか保守を含めたところも1つに全部まとめて、会社の中をつくり変えた形で、4月から新体制、新組織に移行しています。

技術のほうも尖らせなければいけないということで、日本橋の次に新川崎に今度は技術センターをつくります。技術者のスキルを上げたり、いろいろな新しい技術者をつくるということです。これをテクニカルベースと呼び、さらに本社とサテライトにはビジネスベースを置きます。

この中に5G関係などのラボを置き、製品の評価とか、プロダクト評価とか、もちろん技術者の育成なども進めます。

今年度から新しい中期経営計画を作りましたが、それに合わせた形で組織も変え、このロケーションの投資というものも、それを実現するためにやるということなんです。

――中期計画の目標は何ですか。

牛島 基本目標は、2030年ぐらいをイメージしながら、この3年を考えようというコンセプトで、言葉でいうと「コミュニケーションサービス・オーケストレーター」を目指そうということがポイントです。

私どもは、これまで製品を構築するシステムインテグレーションをずっとやってきたわけですけれども、これからは製品構築じゃない、もちろん製品を使ったものもあるんですけれどもクラウドサービスなどいろいろなものを駆使しながら、うまく使いこなしていく時代に変わってくるだろうと思っています。

もっと分かりやすくいうと、サービスを使いこなす時代になるのではないかなと。そうなると、いろいろなプレーヤーが混じり合いながら1つの価値を提供する形になるので、当社にはいろいろなアセットが、全国の対応力だったり保守だったり構築だったり営業もあるわけですけれども、そういうケイパビリティがありますので、それをうまく使いながら、新しいチームのバリューチェーンをプロデュースしていこうということです。

――自らの新しい姿を創造していくわけですね。

牛島 そうです。2030年に向けて自分たちの姿であり、そのテーマは何かといったときに、我々の事業の中で一番大きいものは、先端技術であるデジタル技術をどう使うか、まさにデジタルトランスフォーメーション(DX)の話、それからインフラ面でいうと5Gが来るだろうということで、この2つに技術を尖らせていこうというものが今回の中期計画です。その技術を使える準備をこの期間にきちんとしようということが今回の中期計画の核心です。デジタルのところは正直言うと火が点いてきていると思っています。

――企業顧客の方はどうでしょうか。

牛島 お客さんも火が点いてきていると思いますし、特にクラウドサービスは日本がすごく遅れています。早く追い付かなきゃいけないという企業もどんどん今、増えてきていますので、ここは真っ先に取り組まなきゃいけない。

AIという先端技術もその1つだと思いますが、これは火がついているところで、ここには集中したいと思います。それから、5Gのピークがどこに来るかという話はありますけど、ただ間違いなく来る。それもどんどん加速しているように感じていますので、ここを押さえていこうというのが、今回、私たちが考えているものです。最終的には超高速で低遅延のプラットフォームの上で、新しいDXが展開されるものをトータルで我々がサポートできる形をつくりたいと思っています。

――クラウドやIoTはもちろん、AIも含めてビッグデータも5Gも、いろいろなものが非常に流動的に回り始めています。すごいことが始まろうとしているなという気持ちは、みんなが持っているわけですが、それを突き抜けて2030年には確実にそうなっている、そこから逆算して今を見ようということですね。

牛島 そうです。そう考えると結局、先端技術をどう使いこなせるかなんです。クラウドサービスにしても一つ一つは尖っていますけれども、それがばらばらで存在していて本当に使えるのかとか、そういう課題がいっぱい出るわけです。そこで、いろいろな通信媒体をどうつなげるかとか、今、持っている既存のサービスをどういうふうに連携させるのか。それから、クラウドサービスもいろいろなものがありますけど、そういったものを、できれば情報連携して1つのものとして使える形にしていかなきゃいけないだろうということで、今、そこを一生懸命につくり出そうとしているわけです。

先の世界を描いてみると、そういう世界が来るだろうと思える。そこに向かって、とにかく準備をしようというものが今のステイタスです。

デジタルの活用というものも、それから5GであったりWi-Fi 6であったり、いろいろな技術についても間違いなく来ると思っています。5Gについては、そのものよりもマイグレーションがその前にあったり、事業としては実は見えるんですね。ですから、当社としてはあまりそこに迷う必要はない。

5GとWi-Fiが連携しユーザー最適のネットワークに

――5Gはどういうインパクトと、考えていらっしゃいますか。

 

牛島 もともと当社は、キャリアさんの事業は基地局やネットワークのところから、いろいろなものをやってきた中で、それらを5Gに置き換えるということが、まず絶対に必要だと思っています。それだけでも既存のビジネスの部分はあるわけですけれども、今度はいろいろな活用シーンが出てくるので、その幅はもっともっと広がると思います。

5Gが登場し、それがプラットフォームとなって、その上でいろいろなサービスが展開されるわけで、入っていける切り口がいっぱいあるのではないかと、非常に大きく期待しているところです。

産業ごとの5G活用とか、ローカル5Gも含めて、ビジネスデザイン統括本部がそのプランを練っています。

――ビジネスデザイン統括本部は、どういう役割ですか。

牛島 3つのミッションを持った部門がありまして、最先端の技術を使いこなしていく新事業開発本部、新しいビジネスをつくっていくビジネスプロデュースのDXビジネス推進本部、それと、エンパワードオフィス推進本部です。

ここではDXのプラットフォームの開発、運用もしておりまして、MVNOやLPWAのネットワークプラットフォームやグーグルのサービスであったり、マイクロソフトのoffice365のサービスであったり、さまざまな外部Saasと連携できるサービスプラットフォームお客様に提案、提供しています。

――5Gは大きなインパクトを持っていますが、Wi-Fiビジネスについてはどういうお考えですか。アメリカのデータでもトラフィックの6割はWi-Fi経由なわけですね。5Gはこれから時間を掛けてネットワークを今から作るわけで、しかもエンドのところはWi-Fiが圧倒的に家庭内でも企業内でも使われることは間違いないし、しかもWi-Fiも高速化します。基本的には5GとWi-Fiは共存していく、うまく使い分けられていくという見方ですが。

 

牛島 それはその通りだと思います。5Gといっても現実論、今々使えるかというと使えないわけですね。5Gと同じパフォーマンスを持った技術を、すでにWi-Fiでは持っています。axといわれるWi-Fi 6だったり、60GHz帯を使ったayであったり、そういったものが出てきているわけですね。これらをうまく活用しながら、そのシーンそのシーンに合った最適な提案を我々はやっていこうと考えています。

「どこに5Gを使って、どこにWi-Fiを使う」ではなくて、どういった目的で使うか、それと時期ですね。今々欲しければ、「じゃあ、これでもできるんじゃないか」とWi-Fiをお勧めしたり、そういったところをうまくやっていきたいですね。

コンビネーションをもってご提供していくような、そういう考えで弊社は考えています。

――御社のWi-Fi事業はどういう形ですか。

牛島 先ほどのネットワークインフラの中にWi-Fiの専門部隊がおります。WiGigも取り扱っていますし、IgniteNetは一次代理店としてやっていますので、次の60GHz帯(ay)も我々としては非常に期待しております。使い方によっては非常に使い勝手のいい製品だと思いますね。

バックホールとして60GHzを使いながら、アクセスのところをWi-Fi2.4GHzと5GHzでやるというやり方は、リーズナブルな、コストで一番いい使い方ではないかとも思っています。

――Wi-Fiのポイントは自営網で、キャリアの公衆網とすみ分けることが、ユーザーにとって一番いいのではないかということですね。

牛島 一般的な企業においては、そういったパターンがほとんど、そういうものがトレンドになってくるのではないかと思いますね。5Gを屋内でも適用するというものは、大きな工場の中であったり、リアルタイム性、低遅延が本当に確実に保証されるという、そういったところではローカル5Gというものは弊社も注目しています。そこは、弊社のラボで一生懸命に検証しながら、最適な製品を選択していきたい。

――無線LANビジネス推進連絡会についての期待をお願いします。

牛島 今日、縷々述べてきましたが、当社の事業は通信技術の進歩とともに、その上に成り立っていくと思っていますし、そういう意味では、ぜひ新しい技術や製品情報をどんどんいただきたい。我々はそれを積極的に使いこなして、市場に広げる役割を果たしていきたいと思います。そういう関係をぜひこれからもつくっていきたいなと思います。よろしくお願いします。


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