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[特別インタビュー]
  バッファロー
  代表取締役社長 牧 寛之 様

  無線LANの新しい活用の時代を切り開く
「5GでWi-Fiは不要論」は間違っている

日本の無線LANの創生期からWi-Fi機器市場を牽引してきたバッファロー。今、無線LAN市場の新たな発展に向けて様々な取り組みを進めています。牧寛之社長に、Wi-Fi市場の現状と見通し、今後の取り組み課題について尋ねました。5G時代におけるWi-Fiの成長戦略、Wi-Bizの役割と期待を語っていただきました。

「アパートWi-Fi」を展開、無線LANの世帯普及率拡大を目指す

――御社は、早くからWi-Fi機器に取り組んでおられますが、無線LAN市場をどのように見ておられますか。

 私どもは、95年に家庭用の赤外線式の無線LAN製品を発売してからもう25年、主力商品「AirStation」の発売からでも20年となります。もともと無線LANはインターネットをワイヤレスで使うためのインフラとして広がったわけです。その後、公衆無線や防災無線といった形で、どんどん広がっていきました。そして、この無線ネットワークを使って、インターネットの利用もよし、アプリを使うのもよし、動画を見るのもよしと、日常生活レベルでとても便利になってきました。

IT機器の世界では、歴史的にみても、ある一定レベルまで普及が進むと、別の用途でも使われるようになり、さらに大きく発展していくということが起きています。無線LANの場合、まさにそれが2023年から2025年というタイミングで起こるのではないかと思っております。

――無線LANの新しい利用方法が始まってくるということですね。

 そうです。その一つの指標として無線LANの世帯普及率があります。

パソコンの周辺機器として出てきた無線LANはその後30%ぐらいまで世帯普及率が進みました。そして、スマートフォンが出てきたことで50%まで伸びましたが今は、50%超のところで頭打ちになっています。

一方ブロードバンド回線の普及率というのは90%以上あります。そこで、無線LANの普及率をいかにその数字に近づけるか、これが無線LANの大きな課題ではないかと考えています。

そのために、弊社で取り組んでいる一つが「アパートWi-Fi」という事業です。

――「アパートWi-Fi」はどういう狙いですか。

 無線LANの普及率をもう一段、上げるための課題は、若年層を含めた独居世帯に対する普及の推進です。日本では、独居世帯では携帯電話回線で十分ですとなってしまっているのです。

しかしみなさん、生活様式が変化して動画を見るようになってきて、携帯電話回線だと足りないわけです。こうした方々に無線LANを普及するため、2013年から「アパートWi-Fi」事業を進めています。そのアパートに住んだらビルトインされた無線インターネットサービスがあってすぐ使えるようにすることで、Wi-Fiの普及率を上げていきたいと考えているのです。

――御社の事業として展開しているわけですね。全国ですか。

 そうです。全国に営業拠点を持っております。民営賃貸住宅市場は日本の全居住世帯の3割ぐらい存在しています。その中でもまずは独居世帯の多いアパートを中心に展開しています。

さらにISPがIPv6に切り替わるタイミングでのノベルティとして無線LANを付けるキャンペーンを始めておりますので、そこでもしっかりとシェアをとっていく考えです。これらを通して、現在の無線LAN世帯普及率50%が、60%から70%まで伸びてゆく流れを掴みたいと考えております。

防災、観光、教育軸にパブリック・ゲートウェイ事業を進める

――ホーム市場以外でも、Wi-Fiの普及に積極的に取り組まれていますね。

 はい。「パブリック・ゲートウェイ」と呼んでいる、学校だとか屋外だとか、そういうところに関しては、防災、観光、教育などのキーワードで2023年から2025年に向かって進んでいくと見ています。

そこで、その領域における事業を2016年から積極的に進めております。学校とか、オフィスに、今や当たり前に無線LANが有るようになりました。これをさらに推進していきたいと思っています。「もう無線LANがなくてはおかしいよね」という状況にまで持っていきたいと思います。

――そのキーワードが、防災、観光、教育ですね。

 そう考えています。これらは国が補助金を出して進めていますので、私たちも専門営業部隊を作って取り組んでいます。

観光に関しては2020年の東京オリンピック・パラリンピック、文教に関しては2023年ごろにかけて大きく立ち上がると思っています。

防災に関しては、Wi-Bizの「いのちをつなぐ00000JAPAN」が重要です。これは、私は極めて重要でしかもずっと長いテーマであると思います。多くの自治体で、いたるところに置いていくように進めながら、やらなきゃいけないと思っています。

――観光のところをもう少し詳しく教えてください。

 私どもはもう10年以上、公衆無線LAN「フリースポット」の事業をやらせていただいております。

主にレストランとか、美容院とかの付加価値として提案をさせていただいています。最初のころはセキュリティもかけずにフリースポットとしてやっていましたが、最近は認証を強化したモデルで、製品も用意させていただいております。

今までは外国人の方とかがいらっしゃったときにメールの認証だけだったのですが、SNSを使った認証に対応するとか、日本に来ていただいたお客様にもすぐ使えるようにして、だいぶ拡充しております。

――ホームネットワークはもちろんですけれども、パブリック・ゲートウェイの方はむしろこれから本格的に開拓して攻めていかなきゃいけない、まだまだ市場があるということですね。

 その通りです。無線LANはまさにこれからなんです。

よく言われているのが「5Gが出てくると、あなたたち無線LANはいらなくなるでしょう」ということです。しかし、私はこうした「脅威論」に対し、結論としては「あまり心配はないな」と感じています。

理由としては、「5Gは、LTE/4Gとはかなり違った形で使うようになっていくのでWi-Fiの領域に直接浸食することはないだろう」ということです。

――「5GがあるからWi-Fiは不要」という意見にはくみしない、用途が違うし利用分野が違うということですね。

 そうです。これから大きく広がっていくのは、動画をストリーミングで見るという用途です。教育現場でも家庭内でもストリーミング動画を見るというアプリケーションがこれからメインの潮流になります。私どもは機能という面でも、例えば文教のところでも多台数同時にきちんと配信できる機能がポイントとみています。ストリーミング動画を宅内でも外でも、テレビ以外のデバイスの上でどんやるようになっていくでしょう。それは、他でもない、Wi-Fiの仕事なのです。

――どう考えても5Gの仕事ではないですね。

 はい。5Gに関していうと、私どもの考えとしては、どちらかというとコンテンツを見るために使用するというよりは、例えばブロードキャスティングであるとか、大容量・低遅延で送らなきゃいけないというようなプロフェッショナル向けに広がっていくだろうと思います。

こう考えてきますと、先ほどお話ししましたように、無線LANがインフラとして60~70%を超えて普及すると、これまでとは別の使い方をするものが出てくると思います。

IoTが盛んに言われています。いろいろなニーズが見え始めています。無線LANにおいても、これから間違いなく出てくるのは「遠隔監視」「遠隔の故障予知/予測」こういった分野になるでしょう。

ホームの高機能化も推進、新しい用途の開拓へ

――戦略的な視点ですね。

 もう1つの私どもの大きな市場としては、戸建てを購入されたお客様に導入いただく無線LANで、「AirStation connect」という新しいシリーズがあるのですが、こちらの価格は今までの普及価格帯商品の5倍以上します。

――ホーム向けの高機能版ということですね。

 今まで家庭で無線のアクセスポイントは1台で使われ、パソコンが使われる場所に固定されていました。今や、スマートデバイスとか、ロボット掃除機とかもWi-Fiに対応しており、家中どこでもWi-Fiが使えるというニーズが非常に大きくなっています。

少し前までは、中継機といわれるアタッチを追加するという形で普及してきました。しかし、それでも足りないという状況が出てきまして、複数台となってきますと、今度はいわゆる無線をどのように飛ばすかという問題が出てきました。手動でお客様に設定させるのは非常に煩雑でございます。

それをシステムとして、例えば3個セットという形で、自動的にどの経路で行くのかというところは、お客様の通信速度に影響するところになりますので、Wi-Fiメッシュ規格に対応した独自のメッシュテクノロジーを当社の中で作り上げたわけです。

――3台で、メッシュのネットワークをつくるということですね。

 そうですね。我々としては3台セットを一番お勧めとして、4LDKの家をターゲットとして販売をさせていただいております。

設置すると、いわゆる直接アクセスに行くか、中継機経由で行くかという経路を自動的に判定し、最適な経路を構築する機能を持っています。

――置局設計を機械自身がやるわけですね。

 そうですね。すでに設定している状態ですので、電源を入れて、つないでいただければ、自動的に判定して、すぐにつながるようになります。

我々は昨年8月からWi-Fiメッシュ規格に対応した販売を開始しましたが、その規格に対応した市場はアメリカではすでに立ち上がっており、家庭用無線LAN全体の約2割がその規格を使ったものになっています。しかし日本ではそれほど売れていません。それが、逆に私どもは非常にチャンスだと思っています。

――ターゲットがはっきりしているから、どう提案するかですね。

 そうです。これまでのインターネットを見るための無線LANというものから、それを利用して違うことがやれるインフラに向けての取り組みの一環ですね。

法人でもいろいろな分野で強烈な人手不足ですから、遠隔で管理したい、予兆を知りたいというニーズには強いものがありますので、その要求にもこたえていきたいと考えています

Wi-Fiは5Gを恐れる必要はない

――エリアオーナー様の要望に地道に着実に応えていくということですね。

 そうです。これは私の考えですが、今、5GやIoTとかAIとか言われています。自動何々ということも盛んに言われています。しかし、そういう世界に一足飛びには絶対にいかないと思います。実際には、ビジネスの現場では、まず人の手でオンサイトでやっていたことを遠隔でできるようにする、そして次はそのサービスをインターネットを介して遠隔でやるということになる、そして行動がパターン化できてくると、そこで初めてAIというのが出てきて人間の作業を代替してゆく、という流れで考えております。

我々は現実のお客様のところで端末を置かせていただき、セキュリティも接続性も高く、こちらからも使えるし、向こうからも見られるという「接続品質の保証」を価値に変えてゆきたいと考えております。そこをきちんとやっていけば、インフラとして基盤が確立できると確信しております。

――同様に、5Gの展開についても恐れることはないわけですね。

 5Gには3つのビジネスストーリーがあり、どれになってもいいように我々はやっております。

1つ目は、ラストワンマイルは回線を引くのではなく5Gでやるのではというシナリオです。これは公衆インフラの話ですから、NTTなど通信事業者の課題です。理屈上ありうるが、仮にあったとしてもかなり特殊なエリアに限られると思います。

2つ目は消費者が便利だからと5Gでほとんどのアプリケーションを使うようになるというシナリオです。そこには携帯料金はどうなるのかという議論が抜けています。おそらくこれまでと同じ料金で5G使い放題ということはないですから、たとえば1万円のオプション料をアップしてでも使う人はたぶんブロードキャスティングとか、そういう特殊な用途に使う人だと思います、それも屋外で。

3つ目は、「4G+オプションの5G」という中で屋内のデバイスにSIMが埋め込まれて家庭内ネットワークにおけるハブがいらなくなりWi-Fiは必要なくなるというシナリオです。そもそも屋内で高周波数帯の5Gを使って家庭内ネットワークを作る必要があるのかという点です。やはり屋内はWi-Fiネットワークに勝るものはないです。

――主要コンテンツがビデオストリーミングの時代であるとすると、課金される5Gを利用することはありえないわけですね。

 その通りです。さらに、私が非常に注目しているのは、家庭内で無線LANを使ってダウンロードするだけではなく、ここで何かの情報を取って、あるいは制御を操作して、フィードバックするという新しい使い方です。この市場というのはWi-Fiが絶対的に優位だと思っています。

――ストレージも、御社は取り組まれていますね。

 ストレージ事業は、先代の社長の牧誠から始めています。先代は、無線LANビジネス推進連絡会の小林顧問にも随分お世話になりましたが、常々「2020年以降に来る大きな波に備えなきゃいけない」と言っていました。人口統計を見せられ、労働人口が初めて減少していく時代に入るので、数量が減り、買い替えサイクルが長くなる。量だけを売って売上をつくるというビジネスは成り立たなくなる。Wi-Fiにおいても別の使い方が必要になる。Wi-Fiの基盤を良い方向に利用して社会的課題に対応していく時代が来るとも言っていました。

――今からみると、すごい先見性ですね。

 2016年に中期ビジョンを発表しました。そこで、今後、ホームネットワークがどうなるのか、パブリック・ゲートウェイがどうなるのか、さらにもう1つデータストレージがどういう役割を果たすのかを分析して、データサイクルとしてビジネスの方向性を整理しました。

先代の頃から、我々はNAS(Network Attached Storage)、ハードディスクというのをやっていることで、非常に有利にデータサイクルの展開をすることができるようになりました。

実際にデータ社会になっていく際に、どうやってクラウド側にデータをアップロードしてゆくかは大きな課題になると考えています。

Wi-Fiの裾野拡大へWi-Bizの果たす役割

――Wi-Bizの役割についてはどうお考えですか。

 無線LANを注力商品にしている私どもは、無線LANビジネス推進連絡会は非常に重要な存在であり、大変感謝申し上げます。

今後、無線LANはさらに生活や仕事になくてはならないものになっていくと思うのですが、市場は拡大すると同時に層別化していくのではないかと考えています。アメリカを見ると、完全に市場が二極化しました。4万円でも5万円でも売った後も含めてきちんと見てもらいたいという2割の市場と、サポートもセキュリティも何もいらないから安いほうがいいという市場です。これは、いろいろな用途別で仕方がないことでしょう。

こういうハイとロー、それに屋内と屋外でのインフラ用途の4諸元であるとすると、私どもはどちらかというと屋内を得意としております。今後は、本当は入れたいんだけど、入れられないという人たちをどうするかというのが課題です。

そういう意味では、サービス面、コンプライアンス面、倫理面で、市場はさらに問われていく時代になると思うのです。冒頭申し上げた、80%のレベルまで拡大するにあたっては、業界として倫理、コンプライアンス、セキュリティ、また多様な使い方という形で、裾野を広げる活動をやっていただけたら、我々も非常にやりやすい、啓蒙という意味でもやりやすいと思います。まさに啓蒙ですね。生活になくてはならない、Wi-Fiの裾野を広げる啓蒙について大変期待しております。


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