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趣味と仕事

「将棋」で考えるプロ、アマ、天才、AI

株式会社ミライト 岡村聖司

「若干16歳、天才藤井7段」、彼の凄さは想像を絶しています。2018年12月12日に通算100勝達成、勝率なんと83%。将棋の世界は、同じ段位だけの対戦ではありませんので、この100勝の中には対名人、対竜王も含まれます。プロになってすぐ負けなしの29連勝など、この記録を塗り替える人は今後二度とでないでしょう。

プロとアマの差

私は、将棋が大好きで、よく土日は、新宿歌舞伎町入り口にあった新宿将棋道場に足を延ばして、一日対局をしていました。おそらくここは、日本で一番大きい将棋道場だったのではと思いますが、そこも今は廃業となり、いまはもっぱら将棋ソフトでのインターネット対戦が中心です。


将棋道場の風景(大阪将棋会館)

みなさんに将棋が好きというと「何段くらい?」と聞かれることがありますが、私は四段です。今の時代はインターネット対戦による3つのレーティング制将棋ソフトでの成績で棋力認定されます。私は、「将棋ウォーズ」というソフトで四段認定及び正式免状申請可能の権利を保有しています。もちろん他にも、プロ棋士の推薦とか、雑誌等の段位認定問題での一定の成績等もありますが、強さとの相関関係は今一つ。理由は判定対象の対局数が圧倒的に違います。私の場合は、1月4日現在で累計3,600勝での判定結果になります。ソフト上では、段位ごまかしは全く効きません。

ちなみに、その段位認定を日本将棋連盟から正式免状をいただくにはお金が結構かかります。4段で75,600円! 5段で108,000円! うわーーってな感じで、いまだに二の足を踏んでいて、おそらく一生、日本将棋連盟からの正式認定はいただけないと思います(笑)。

で、アマチュア四段って、どのくらい凄いのかということですが、実は大して強くないのです。でも、藤井さんは七段、プロとアマが違うにしろ、そこそこじゃないのって思われるかもしれませんが、プロの段位はアマの段位とは全く次元が異なります。プロの将棋指しになるためには、奨励会という下部組織に入り、そこを駆け抜けなければなりません。その最初のスタート地点のプロ6級がアマ3段、4段と言われているのです。実に10ランク違う!! 私の段位はプロならば「6級」が正しい現実です。まさしく、プロ棋士は神の領域。私ごときの知能指数では、そんな世界で全く生きていける気がしません。

プロ棋士の高い礼節意識

みなさんが、そんなプロ棋士の方々を目にする機会は、おそらく日曜日10時半からNHK教育テレビで放送されている将棋プロトーナメントでの対局姿だけだと思います。その時、何か違和感を感じませんか? そうです、プロ棋士って、勝ってもちっとも喜ばないんです。

も・ち・ろ・ん、嬉しくないわけではないんです! 敗者の気持ちを汲むという、礼節の一つ。これは、幼くして入った奨励会の時から体に染みついているもの。投了直後はどちらも無言、笑顔無し、そしてよく見ていると気づきますが、最初に口を開くのは、「必ず敗者の対局者」。そうなんです、敗者側の心の整理がつくのを待っているのです。敗者が味わっている死ぬほど悔しい気持ちを、押し殺して言葉にすることができるまで。そう知ってから、私の違和感は、プロ棋士に対する尊敬の念の一つに変わったのです。

コンピュータと人類の対決

そして、事件です。2017年4月。コンピュータ将棋ソフトとプロ棋士が戦う「将棋電王戦」で、現役の名人が将棋ソフト「PONANZA(ポナンザ)」に敗れるという“事件”が起きました。私の業務領域であるITの技術革新が、神様に勝ってしまうコンピュータを作ってしまいました。

コンピュータ将棋は、「探索」と「評価」の二軸の進化で強くなってきています。探索とは、その局面における有効な指し手を探すこと。優れたスペックのパソコンを使えば、1秒間に数百万から数千万手を探索することが可能であり、わずかな時間で数十手先の局面まで読めるといいます。評価とは、探索した先の各局面に点数をつけること。玉将と他の駒の幾何学的な位置関係をもとに、その局面の有利不利を点数で表し、点数が最も高い一手を指していきます。

2006年にコンピュータ将棋のプログラム「Bonanza(ボナンザ)」が登場して以降、コンピュータ将棋は「評価」する部分に機械学習を取り入れることで劇的に強くなってきました。「将棋電王戦」の第1回大会が始まった2012年当時は、まだプロ棋士とコンピュータ将棋の実力は拮抗していましたが、2017年、ついに名人に勝ったのです。

この出来事は、ひとつの命題を将棋界に突きつけました。「コンピュータ将棋に勝てなくなった今、プロ棋士は必要なのか?」

客観的に見て、必要性と価値が著しく低下したことは事実だと思います。こういった価値観の低下や逆転を、IT革新は繰り返し続けてきています。古い例でわかりやすいのは例えば「電卓」、これからの未来で言えば、例えば「同時通訳マシン」。いまだ人間の発言スピードや正しい理解力には追い付きませんが、いずれあるスレッシュホールドラインをクリアした瞬間、語学力に対する高付加価値評価も、大きく変わる可能性があります。シンギュラリティ(技術的特異点)の議論と同様、進化を恐れるのではなく、進化を喜び、その結果としての価値観の変化により新たなビジネスチャンスを生み出す。将棋界における価値観変化による行動変革は、また別の機会に。

いま、Wi-Fiにおいても、「11ah」のような新技術も生まれようとしています。常に、最新の技術動向にアンテナを高くし、仕事/私生活の両面にて、新しい技術を面白がる好奇心を持ち続けていきたいと思っています。


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