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特別講演 総務省総合通信基盤局 田原康生電波部長
5G時代に向けた電波政策(前半)

11月16日、「無線LANビジネス推進連絡会 第15回定時総会」が開催され、総務省総合通信基盤局電波部長の田原康生様の特別講演「5G時代に向けた電波政策」が行われました。
その講演内容を紹介します。

電波利用の進展

電波の利用は爆発的に増えており、無線局は2億3445万局となっています。これは無線局免許を取っている物をカウントしていますので、携帯電話は入っていますけどWi-Fiは入っていないという数となります。

実際にはWi-FiやIoT機器など免許不要なものもありますので、比較にならないほどの無線機器が世の中に出回っているということになります。

移動通信システムの現状ですが、これも携帯電話とBWAのトラヒックですが、毎年平均で1.4倍くらい増えています。この増え方は全然衰えませんし、多分Wi-Fiを含めればもっと増えているのかなと思います。

私も結構、移動通信の関係の仕事に長く関わっていますがが、最初にこのグラフを作り始めた時は担当課長でしたが、その時は1.5倍くらいで、そのうち1.4倍、1.3倍、1.2倍となってくるのかなと思っていたら、その後5年くらい経ちますけれども依然、変わらないのです。

やはり使い勝手のいいものがあると、新たな使い方が次々出てくるということかと思います。

移動通信システムも、どんどん進化しています。「10年で世代が1つ進化する」ということで、現在は5Gの取り組みになっていますが、通信速度も上がってきて、それに応じて送られる情報もどんどんリッチになってくるという状況です。

一方で、大容量だけでなくIoTも進展しています。IoT機器はグローバルに見ても増えることは間違いなく、それを支えるのが5GとかLPWAとかいろいろなものが組み合わさって、新しいサービスが広がっていくと考えています。

このLPWAは「802.11ah」も含めていろいろなシステムが、それぞれの利用シーンに合わせて選択されていきます。ライセンス系の「NB-IoT」や5Gといったものと、「LoRa」「SIGFOX」「Wi-SUN」などが組み合わせで使われていくようになります。

日本は「課題先進国」と言われ、これから深刻化する社会的な諸課題を、少しでもワイヤレスやICTを使って解決していこうということで、総務省も関係省庁と一緒に取り組んでいます。
①高齢者のモビリティ確保に役立つ自動運転システムの実現にはやはり通信環境も必要になってきます。

また、②農業や地場産業の興隆のためには、その従事者の高齢化を何とかしなければなりません。

準天頂衛星みちびきが打ち上がりましたけれども、それの衛星測位の活用なども含めていろいろなサービスが使われていくことになるでしょう。
その時もいろいろと通信環境が必要となり、従来のように人が住んでいる都市部だけではなくて、農地や何もないような荒地のようなところでも通信が使える環境が必要になってくるということです。

③働き方改革の関係では、建設機械の分野では、やはり高齢化が進んでいますし、災害が多い、危険も多いということで、重機の遠隔操作で仕事のやり方を変えるという取り組みなどもあります。5Gなどのワイヤレスが活かされるのではないかということです。

④防災・減災という点では、やはり電波は有線よりも災害に強いということがございますので、そういうところで積極的に活用されるだろうと考えています。

いろいろな分野で、Wi-Fiも含めてワイヤレスやそれを使ったサービスが広がっていくということで、様々な社会的課題を解決し、それに応じて社会的効果、経済的効果が見込めるということになります。

これからワイヤレス関係の産業がどう広がっていくのかということで、「2020年59兆円」くらいのワイヤレス関連市場が「2040年くらいには倍の112兆円」くらいになっていると予測されています。

もともとのインフラの部分もありますが、いろいろな業種にまたがる関連産業の部分が伸びていき、ワイヤレスで様々な市場が活性化するのではないかと考えられています。

5Gの導入に向けた取り組み

これから2020年代、30年代に向けて重要なインフラということで「第5世代移動通信システム:5G」が期待されています。

いま第4世代、LTE advanceと言われておりますが、それと比べると5Gは、100倍速い「超高速」です。また、「超低遅延」で「多数同時接続」の機能を持っています。これらを一気に実現するというよりは仮想化技術などを使って、それぞれのニーズに合わせたサービスを提供するということです。

超高速では今だと2時間くらいかかる映画を3秒くらいでダウンロードできるスペックを有しています。
超低遅延もネットワーク構成にもよりますが、無線部分は1msec程度の遅延でリアルタイムの遠隔操作を実現していこうというものです。

IoTの世界では、LPWAなどいろいろな通信方式を使って既にセンサーなどが繋がっていますが、密集しているような環境でも多数収容できるということで、多数同時接続の機能を提供していこうということです。
遅延が少ない・多数繋がる・超高速、こういったものがいろいろいな分野で応用されることで、大きな社会的インパクトがあるだろうと考えています。

5Gの実現に向けた取り組みですが、オリンピック/パラリンピックもありますので、2020年をターゲットにしようということだったのですが、意外に世界各国が早くて、2019年と言っているところもあり、アメリカでは既にベライゾンが、日本で言うと「FWA」に相当するサービスを始めています。

2019年にはラグビーのワールドカップがあるということで、来年3月末頃、つまり今年度末頃には5Gの電波の割り当てを行い、地方への速やかな展開を推進しましょうということが、「未来投資戦略2018」において閣議決定されています。

諸外国の動向ですが、来年から中国・韓国で5Gがサービス開始される予定です。日本の状況は先ほどの線表のところでもありましたが、今は研究開発から実証までいろいろやっています。昨年度も全国各地で実証実験をやっていまして、遠隔医療だったり建機の遠隔操作の実証を行ったりしております。

こうした5Gで広がる世界ということで、こんなことが出来る、あんなことが出来るということが分かっていただけるように、イメージビデオを作っています。

Youtubeの総務省チャネルにいろいろなバージョンのビデオをアップしていますので、ご関心のある方は是非ご覧頂ければと思います。

さて、5Gにより変化するビジネス領域ですが、日経コミュニケーション誌に掲載された図でいうと、4Gはどちらかというとスマートフォン関係のサービスが中心だったものが、5Gだと、当然スマートフォンも使いますけれども、自動車、産業機器、その他のいろいろな分野で広く活用されるということが中心となり、こうした活用がうまく広がらないと5Gの普及は難しいのではないかと考えています。

いろいろなビジネス領域や地域での活用形態、こういったものをいろいろなイメージをもって具現化していかなければいけないということもあって、昨年度から様々な総合実証試験を各地域で行ってきておりますが、今年も引き続き対象分野を広げて行っているところです。

総合実証は、表にあるように、広い分野で行っています。

〇高精細・高臨場感の映像コンテンツ伝送、〇動くサテライトオフィス、〇警備にも使えるだろうということで安全・安心を実現するスマートシティ、〇遠隔医療と救急医療、〇鉄道など高速移動における5Gを使った高精細な映像配信、安全運航支援、〇工場の中で超高速通信による産業用ロボット制御、〇駅で自動翻訳と映像を組み合わせて不審物や不審者の発見、通訳アプリ、〇学校内教育利用、〇トラック隊列走行の公道での試験、〇車両の遠隔監視、遠隔操作、〇自動車向けサービスへの応用、〇建機の遠隔操縦、〇ドローン空撮によるリアルタイム映像配信、〇除雪車の運行支援、〇ゴルフトーナメント映像のリアルタイム配信、〇スマートハイウエイ、〇スマートオフィスなど実に多様なものがあります。

もっと埋もれたいいアイデアがあるのではないかということで、現在、「5G利活用アイデアコンテスト」というものを行っております。
募集期間中ですけれども、総合通信局が全国各地にありますので、その単位で地方選抜を行うこととしており、自治体の方や企業、あるいは大学の学生さんなど様々な方が、こんなことに使えるんじゃないか、こういうのに使うと面白いんじゃないかというようなご提案をどんどん頂く、それを審査して年明けにコンテストの本選を行い、いいアイデアは事業者の協力を得て、来年度実際に実証実験をしてみようという取り組みです。

周波数の確保・割当について

これまで、5Gをどう使うのか、技術は大丈夫なのかという検討・評価をいろいろやってきました。現在は、ようやく5Gの電波を割り当てるレベルになってきております。

そのプロセスですが、まずはどこの電波を使いますかということを評価しなければいけないということで、情報通信審議会でこれまで議論してきており、3.7GHz帯や4.5GHz帯、そして28GHz帯を対象として、それぞれ500MHz幅確保とか2GHz幅確保とか、目標を立てて検討を行って参りました。

この3.7GHz帯や4.5GHz帯、28GHz帯の電波帯域ですが、既にいろいろな無線システムに使われておりますが、この無線システムの利用者に他の周波数に移って下さいとは簡単には言えません。
また、移る先もありませんとなると「共用して下さい」ということになります。電波を共用しながら5Gを展開していくということで、「周波数の共用による5Gのエリア展開」となります。

例えば3.7~4.5GHz帯は、電気通信業務/固定衛星からの電波ですが、地球局の近くで5Gを使うと電波が混信してしまいます。隣の周波数帯では、飛行機の電波高度計というのがあって、飛行機は着陸のときに電波を地面にぶつけて、それで高度を計ります。高度計と混信すると、大変なことになりますので、しっかりと共存できるようにガードバンドを設けるとか、更にその上でフィルターを入れるとか、慎重に対応していく必要があります。

28GHz帯についても、衛星との間で優先的に使用する周波数を分けたりしながら共用しましょうという形で整理しないと、5Gに必要な膨大な電波を確保することはできないということです。

こういう議論をしてきている一方で、では皆さんどう使いたいですかということで、利用希望調査を8月から9月に行いました。楽天も含めて携帯電話事業者4社から利用希望が出されました。
その他、ケーブルテレビ関係やベンダーからもご意見いただきました。

携帯電話事業者からは、各社とも3.7GHz、4.5GHzと低いところの周波数を最低100MHzの幅欲しいと、また、高い方の28GHz帯の周波数についても最低400MHzくらいは欲しいと大体皆さんそう言っています。

2020年には商用サービスが始まりますが、ラグビーワールドカップのある前年の9月か秋にはプレサービスとして限定的ですが提供するという意気込みのご意見を頂いています。

それ以外に、日本ケーブルテレビ連盟及びケーブルテレビ事業者の皆さんからは、ラストワンマイルのところでFWA的に使いたいというご意見が出されています。
また、パナソニックからは自営で、キャリアではなく自治体等と組んで使える周波数があった方が良いというご意見を頂戴しています。

こういったものを踏まえて電波の割り当てプロセスに進むということになりますが、11月2日に割り当ての方針の案、開設指針案を公表しました。12月3日までパブリックコメントを実施中です。

5G導入のための周波数割当枠を、沢山用意しました。3.7GHzと4.5GHzは似たような周波数帯なので一緒に評価しますということになっていますけれども、100MHz単位のブロックを6つ用意しました。

例えば先ほどの希望を出した4社だとしたら、4社の方から手を上げて頂いて、良い提案を出していただいた事業者から1つずつ取っていきます。一巡したら、良い提案をした事業者がもう1つ欲しいと言えば、もうひと枠をとって行くという形で電波を割り当てます。

28GHz帯のところは400MHz、これは超高速のサービスを提供するためにそれなりにまとまった周波数で、これまでの国際的な議論や皆さんの希望を踏まえ、これくらいのブロックは必要だろうとうことで、400MHzを4つ用意しました。4事業者いるとそれぞれ1つくらい取れるという形です。

それぞれについて計画を提出してもらう。そして、比較審査で点数の高い人から取って行くという形になります。

その他、薄い斜線のブルーのところで、自営用等で利用できる割当枠について検討とあります。

4.5GHz帯ですが、公共業務用通信との共用となり、先行システムを優先しないといけないところもあります。28GHz帯は衛星を優先しないといけない。でも屋内なら使えるのではないかとか、システムが無いところは使えるのではないかとか、少し仕分けすればある程度使えるのではないかとか、いろいろな使い方があるということで、携帯電話事業者に割り当てるのではなくて、どう使うかはこれから考えましょうということです。

自営用と書いているのですけれど、例えばベンダーやSIerが自ら作るのもあり、自治体が自分たちで作るのもあり、あるいは地域の事業者が使うという考え方もある。こちらについてはどういう風に使っていくのか、あるいはどういう免許なのか、場所を限定すればアンライセンスで出来るのかとかいろいろと議論のあるところですけれども、近々情報通信審議会で議論が始まり、皆さんからご意見を求めるという形になります。

とにかく5Gはいろいろな産業で使っていただきたいと考えています。しかし、今までのやり方だとどうしても東名阪から始まってしまうということがあります。
人口カバー率最低限何パーセント以上やって下さいというのが、今までの基準になっています。最近のサービスですと5年以内に50%というのが一番よくあるパターンです。

しかし、こうした基準だとどうしても地方部が遅れてしまう。それはよくないという意見も多いわけです。
我々も同じ考えでしたので、いろいろなところで様々に使って頂き、ニーズが出てくれば、そこは事業者もサービスを広げていくわけで、とにかく全国で早くサービスを始めることが出来るように仕組みを変えましょうというのが、この「全国展開確保に関する考え方」です。

地方も都会も関係なく、ただ日本全国をメッシュで切ります。国土地理院の二次メッシュが10km四方で、全国で大体4900メッシュくらいありますが、完全に海とか山とかのメッシュを除くと大体4600メッシュくらいになります。
このメッシュには人は住んでいないですが農地ですとか工場とかは入っています。その4600メッシュを対象にその半分以上、従来の人口カバー率ではなくて、メッシュの50%以上をカバーしてくださいという形に変えました。

こうすると何が起きるかというと、従来の方式だとほとんど都市部を整備すると基準に達してしまうのですが、今回の方式でやるとかなり対象面積が広がります。
沖縄県内でも面積の50%、北海道でも面積の50%ということになります。全体に薄くにはなるのですがより広げてください、しかも2年以内に全都道府県でやってくださいということにしています。

ただこれだと薄いままになってしまうので、できるだけ多くの基地局を開設してくださいとしています。
また、サービスの多様性を確保する、さらに競争を促すために、MVNO、別の事業者に回線を貸し出してください、その提供計画もしっかり出してくださいとしています。
以前は、その割当の都度しか見ませんでしたが、5Gの場合は、前回の割当時にちゃんとやっていたか、追加の割当の際にきちんと評価しますと明確に書いています。

もちろん、いきなり密にネットワークが広がるわけではなく、メッシュの中に高度特定基地局、いわゆる親局となる基地局を置いて、そこから光ファイバーを張り出し、ニーズに応じて子局を増やしていく、とにかくまず薄く広く足がかりを作って、地域でいろいろサービスのニーズを開拓していくという考えです。

こういう考え方の指針の案を示し、いま意見募集をしています。12月上旬まで意見募集をして、12月中に確定して、1月から募集をして3月頃までに事業者を決めるというようなプロセスで進めていこうと考えています。
このようにやっと5Gが実現のプロセスに入ってきましたが、いよいよこれからが正念場を迎えると思っています。

「5G時代に向けた電波政策」後半へ—–


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