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ビジネス情報
Wi-Fiの新しい呼び名について

無線LANビジネス推進連絡会 顧問 小林 忠男

先般、Wi-Bizの会議の合間に、メンバーの話を聞いていると、「Wi-Fi ファイブ」とか「Wi-Fi シックス」という言葉が耳に入ってきて、何を喋っているのかと不思議に思いました。すぐに忘れてしまいましたが、再び「これからはWi-Fi シックスって呼ぶらしい」という会話が耳に入ってきました。

その時は、私はまだニュースを知らなかったので、メンバーにどういうことなのかと尋ねました。すると、私にとっては驚きの返事が返ってきました。
「Wi-Fi Allianceが、これからはIEEE802.11axをWi-Fi 6と呼ぶことにした。802.11acはWi-Fi 5、802.11nはWi-Fi 4になる」

メンバーは、モバイルの世界では、現在のシステムは「4G」、2020年には本格的な商用サービスが始まる「5G」となる。Wi-Fi Allianceも、Wi-Fiの進化を数字で分かり易く表記することにしたのではないかと、話しました。

私は、2年以上前に、802.11ahを「Wi-Fi HaLow」と呼ぶと、Wi-Fi Allianceが発表した時の違和感を思い出しました。

今日、Wi-Fiは世界中の人々にとってなくてはならない情報通信インフラになっています。特にスマートフォンやタブレットでインターネット接続する時は既にWi-Fiで行う情報量の方がモバイルを遥かに超えています。

Wi-Fiがこれほど毎日の生活に重要な通信手段になった最大の功労者は、多くの人たちと多くの時間をかけて標準化を行ってきたIEEE802.11グループと、それに基づいて商品化された様々なベンダーのアクセスポイントと端末の相互接続認証を行ってきたWi-Fi Allianceだと私は考えています。

最新技術を採用したWi-Fiの標準化をIEEE802.11が担い、Wi-Fi Allianceはそれに基づいた製品の細かいズレを修正合致して、どこの端末でもどこのアクセスポイントにもつながる世界を見事な連携で実現してきました。

端末の世代が変わっても相互接続が保証されることはモバイルの世界ではありえません。また、異なるベンダー間の相互接続はモバイルキャリアの間でも実現されていますが、それにかかる時間と手間はWi-Fiの相互接続認証に比べるとはるかに長いのが現状です。

まず私の単純な疑問は、既にある「Wi-Fi HaLow」の呼び名は今のままにするのか、「Wi-Fi 7」にするのか。将来、{802.11ax → Wi-Fi 6}の次の世代のWi-Fiシステムは何と呼ぶのでしょうか。自然の流れでは「Wi-Fi 7」だと思いますが、その時は、「Wi-Fi HaLow」は「Wi-Fi 7」とは呼べないので何と呼ぶのでしょうか。

また、IEEE802.11が802.11adという名で標準化し、Wi-Fi Allianceが「WiGig(Wireless Gigabit)」と呼んでいる規格はどうするのか、分かりません。もっとも、インテルはWiGigデバイスの生産を終了し、残りはクアルコムだけになってしまうかもしれませんが、クアルコムも5Gの開発に忙しくWiGigどころではないかもしれません。

さらに、「WPA3」や「Wi-Fi Vantage」をどのように扱うのでしょうか。

これまでの802.11bを「Wi-Fi 1」と呼び、802.11axを「Wi-Fi 6」と呼ぶのは世代の進化を単純にしてお客様が理解しやすくするというのは理解できますが、一方で、「Wi-Fi HaLow」、「Wi-Fi Vantage」、「Wi-Fi Direct」、「WiGig」という名称も採用すると、お客様が理解しやすいという理由は希薄になってしまうのではないでしょうか。

モバイルは、高速移動してもどこでも誰とでも通信可能なサービスとして単純明快なコンセプトで大きな成功をおさめてきました。それが第一世代から進化を重ね第五世代になろうとしているところです。確かに、単純に数字を増やして世代の進化を表現することはお客様にとって理解しやすいと思います。

Wi-Fiも802.11bから始まり802.11acまで進化してきました。「誰でも自由に使える唯一の世界標準」として2.4GHz帯と5GHz帯で高速化を進め成長してきました。

しかし、802.11ah、さらに802.11adはこれまでの進化の延長線上にはないWi-Fiビジネスにとって経験したことのない全く新しいビジネスモデルの上で成り立つ可能性をもったシステムです。

802.11ahはIoT用のワイヤレスアクセスとしてどんなビジネスモデルが成り立つかはこれらの課題ですし、周波数の規則を変更しないと日本では使えません。また、802.11adはこれまで誰も使ったことのない極めて高い周波数です。 数字ではなくah、adのように別体系の呼び名が存在することはどういう意味を持つことになるのでしょうか。

IEEE802.11グループとの調整はどうなっているのでしょうか。これからの技術的な標準化はすべてWi-Fi Allianceがやることになるのでしょうか。

私は、日本のWi-Fiビジネス普及拡大を進める無線LANビジネス推進連絡会の会長を5年間務め、現在は顧問をしています。また、11月7日には「802.11ah推進協議会」の会長に就任しました。

私は、Wi-Fi Allianceのこれまでの活動に心から敬意を感じていますし、その上で、日本のWi-Fi環境をさらに向上するためにはIEEE802.11グループとWi-Fi Allianceの緊密な連携と活動が重要だと考えています。

IEEE802.11ではオープンに議論を進めていたので標準規格の策定についてはかなり前から状況が分かり、突然に決まることはありませんでした。反面、プロセスが遅くて時間がかかってしまい、その反省もあるのかも知れませんが、今のWi-Fi Alianceの動きは私には良く理解できません。

何人かの専門家に聞いてみましたが、Wi-Fi Alianceの動きはほとんど把握できていないようです。技術仕様の場合、Wi-Fi Allianceはどこかのメーカーと相談して策定作業を進めているのでしょうが、大半のメーカーは知らないまま独自に機能開発しネーミングを決めていくのであれば、今後はいろんな製品が入り乱れて一般ユーザーも混乱することにならないでしょうか。

これまでは、まずIEEE802.11が仕様その他を策定し、続いてWi-Fi Allianceが実務上のルールを補足し相互接続認証するという、分かりやすい流れでしたが、今後はどうなるのか分からなくなってしまいました。

こうすべきだという具体案が今、私にはないのですが、もう少しオープンな議論の上で色々な決定をするべきではないでしょうか。

因みに、私の前からの知り合いの台湾の有名なWi-Fiメーカーの副社長はIEEE802.11axをこれから「Wi-Fi 6」と呼ぶということを全くご存じありませんでした。


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