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ビジネス情報
携帯電話料金論議で抜け落ちていること

無線LANビジネス推進連絡会 顧問 小林 忠男

9月初め、会議出席のため北京に行き、30年前とは全く街並みが変わってしまったことに本当にびっくりしました。記憶にある中国をたどるのではなくまったく異国の街を歩いているようでした。

北京 王府井街

多くの人がスマートフォンを携帯しているのは日本と同様ですが、ニュースで聞いていたとおり、お店の決裁に現金ではなくスマートフォンを普通に使っていました。

また、9月6日に起きた震度7の北海道胆振東部地震により、全道が停電になりスマートフォンの電池充電が大きな問題になりました。確かに、大災害時にスマートフォンが使えなくなったら、家族・知人との連絡はもちろん、様々な情報収集が出来なくなってしまい途方に暮れることになるでしょう。

どこの国でもどんな時でもスマートフォンは私たちの生活になくてはならないものになっています。

スマートフォンが生活必需品になったいま、強い発言力を持っている菅官房長官が8月21日の札幌市内の講演で、「携帯電話料金は4割程度下げる余地がある」と語り、大きな波紋を呼んでいます。NTTドコモ、KDDIなど携帯大手3社の株価は軒並み下落しました。

以前から日本の携帯電話料金は高いと言われていて、格安MVNOの育成、「第4の携帯キャリア」としての楽天モバイルの参入、SIMロック解除等の施策が行われてきましたが、期待したような料金にはなっていないという認識の上での官房長官の発言なのでしょう。

菅官房長官の発言から始まった日本の携帯電話料金は高いという議論の内容、また2020年には商用サービスが始まる予定の第5世代移動通信システム(5G)について新聞やインターネットでの扱われ方を見ていますと、無線LAN=Wi-Fiの仕事にすでに20年携わっている私は常に不思議に思うことがあります。

毎日の生活や仕事に必須のスマートフォンには、LTEをはじめとする携帯電話用の通信モジュールとWi-Fiモジュールの両方がデフォルトで搭載されています。

大半の人々は、家や会社のなか、また人の集まる公衆スポットではWi-Fiをメインに使っているといっても過言ではないでしょう。

日本もアメリカも、何度か本メールマガジンでも紹介しているように、インターネット接続のデータ量はモバイルよりWi-Fiの方が多くなっています(Wi-Biz通信Vol.26 全米調査/月間利用データ統計で携帯通信を大幅に上回るWi-Fi通信 参照)。

iPhoneが登場した時、スマートフォンが写真や動画を大量にやり取りするため携帯電話網(モバイルネットワーク)がパンクするかもしれないという懸念からオフロードのためのWi-Fiアクセスポイントが一気に増えたのは、まだ数年前のことです。各モバイルキャリアは設置したWi-Fiアクセスポイントを契約者には無料で提供しています。

今や、家庭や企業に引き込まれている光回線の先にWi-Fiアクセスポイントが設置され基本ネットワークとして当たり前のように利用される時代になりました。

このように、スマートフォンはLTEにもWi-Fiにも自由につながることができ、キャリア設置、お客様設置のWi-Fiアクセスポイントが至る所で利用できる時代になりました。さらに、最近は移動中の列車やバス、船舶、飛行機の中までWi-Fiが使えるようになりました。

このような状況において、菅官房長官の発言に源を発した色々な記事がマスコミを賑わしていますが、記事やニュースの中に携帯電話料金の高いか否かの議論はなされていますが、この中に「Wi-Fi」の「わ」の字が一言も出てきません。

5Gの記事についても、5G時代になるとこんな素晴らしいことが出来るとありますが、これがWi-Fiで可能かどうかについては一言も言及されません。5Gで可能なサービス多くは、技術的には現在使われているWi-Fiで出来るのですが。

LTE等のネットワークシステムを使った携帯料金が高いかどうかの議論なのでWi-Fiは関係ないため言及しないというのは一理あるかもしれません。

しかし、現実的には、スマートフォンを携帯している多くのユーザーがLTEとWi-Fiの両方を使っているのです。しかも、その通信量はWi-Fiのほうが多いのです。

5GBの料金が、例えば、5000円とします。この料金が高すぎるのではということなのですが、モバイルキャリアはLTEの基地局に加えて、人の集まる駅・空港、コンビニ、カフェ、ホテル等々にWi-Fiアクセスポイントを多数設置しています。これをモバイルのデータ通信サービスにバンドルして無料でWi-Fiサービスを提供しています。さらに加えて、駅やコンビニ等のオーナーや自治体がフリーWi-Fiを提供しています。

このWi-Fiにより多くの人は大量のデータをやり取りしています。

汎用性のある定量的データがなく個人的な感触ですが、これらのWi-Fiをうまく活用すれば一カ月で2~3GBのデータ通信が出来ます。
すると、実効的には7GBで5000円/月という言い方もできるかもしれません。LTEだけで5GBで5000円は高いかどうかという議論は本質的な問題として依然として残ると思いますが、多くのユーザーがWi-FiとLTEの両方を自由に使っているのに携帯料金や5Gに話題においてモバイルのことしか議論されなというのは偏り過ぎてはいないでしょうか。

もしかして、モバイルとWi-Fiを同じ土俵で扱ってはまずいという気持ちが関係者にあるのでしょうか。

毎日、家から最寄り駅まではマイカーやでマイ自転車で行き、駅からは公共機関を使って会社や学校へ行くことにより毎日の生活が成り立っています。
世の中にゼロかイチのということはあり得ないと思います。

100mランナーの体型はマラソンランナーの体型と大きく違います。すべてのニーズをユニークなシステムやサービスで提供することは出来ません。

個別最適の議論だけでなくこの多様化の時代において全体最適をどう実現するかの胸襟を開いた議論が、関係者に求められるのではないでしょうか。


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