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特別インタビュー
総務省 総合通信基盤局 電波部長 田原康生氏

2030年代見据え電波有効利用の戦略的方向性
Wi-Fiの果たす大きな役割に期待

この7月、就任されたばかりの田原康生電波部長に、今後の電波行政についてお聞きしました。

田原部長は、「電波有効利用成長戦略懇談会」の報告書で提起されている方向性に踏まえて、2020年代に向けた電波有効利用方策、さらに2030年代の7つの次世代ワイヤレスシステムの実現イメージなどについて、詳しく説明されました。

さらに、5G時代に向けてWi-Fiの果たす大きな役割について期待を述べました。

2020年代、2030年代を見据えた戦略

――今回の「電波有効利用成長戦略懇談会」は、2020年代から2030年代を見据えて新たな電波戦略を打ち出すということで、まさに戦略的な取り組みですね。

田原 これまでも何年かに一度、諸課題を検討する懇談会を開催してきましたが、今回はもう少し先、2030年代に想定される課題まで見据え、議論いただいています。「Society 5.0」を目指して、政府全体で様々な取り組みが行われていますが、IoT時代になると、電波は爆発的に使われる状態になります。電波の有効活用の観点から、こうした課題にどう対応していくべきかを中心にご議論いただいてきました。

――野田総務大臣も、2030年代の日本社会を見据えた政策ということを強調されています。

田原 大臣もよく「静かなる有事」という言葉を使われますが、人口減少や超高齢化ということを考えたときに、AIやIoTなどのICTをフルに活用して対応していかなければならないことについては、一般にご理解が進んでいると思います。

総務省では、2030年代も見据えて新しいIoTサービスの実証や地域への実装などに取り組んできていますが、電波政策の観点からすれば、地方創生のためには、まずはローカルな部分を含めて無線インフラをしっかり構築し、サービスを均一に受けられるようにしないといけないと考えています。

携帯電話は、既に99.9パーセント以上でエリア化されていますが、これから様々なサービスが登場しいろいろなものがつながる、またさらに高度なサービスが求められるようになった時にどうするか。2030年代には5Gが基本インフラになると思いますが、より高い周波数帯を使いますので、エリアの組み方も違ってくるでしょう。そのときに無線だけではなくて、ベースとなる光ファイバー網まで含めて、どのようなインフラが必要になるか考えていかなくてはなりません。

総務省では、インフラの地域展開の検討会も開催していましたが、そうした議論とも合わせて、電波の有効利用方策について検討していく必要が出てきたわけです。

7つの次世代ワイヤレスシステム

――かなり視野が広く、奥行きの深い論議が必要となりますね。

田原 そうですね。課題が多いので、報告書案もすごい分厚くなっています。

30年代の社会の姿、そこで実現すべき電波利用社会の姿を想定した上で、7つの次世代ワイヤレスシステムの実現イメージを提起しています。

1 Beyond 5Gシステム、2 ワイヤレスIoTシステム、3 次世代モビリティシステム、4 ワイヤレス電力伝送システム、5 次世代衛星利用システム、6 次世代映像・端末システム、7 公共安全LTEです。

2030年代に向けて、「電波をこう使いましょう」と言っても、すぐできるわけではありません。既に電波はかなり密に使われていますので、新たなサービスを始める場合は、技術開発や標準化だけでなく、周波数の再編や既存の無線システムと共用できる技術の確立などにも相当の時間がかかります。少し先の課題も見据えて長いスパンで考えるという視点でいろいろ幅広くご議論いただいたということです。

1のBeyond 5Gはもちろんこれからですが、国際的には議論も始まっています。標準化も含めて時間のかかる話です。2のIoTや3のモビリティは今後の広がりが期待されますが、5Gを使うのか、自営系無線や小電力無線システムを使うのかなど様々な議論があるでしょう。ニーズがあるなら、新しい無線システムも考えていかなくてはならないこともあります。

新分野での取り組みも

4の電力伝送システムも、長く議論されている分野ですが、無線システムとの共存という意味で干渉がないようにしていくのが基本です。IoTの様々なセンサーに給電するために空間に電力を飛ばすようなワイヤレス電力伝送のニーズがありますが、技術的な課題だけでなく、制度的な課題も含めて整理をしていかなくてはなりません。

5の衛星システムは、今後は沢山の衛星を上げてサービスを行う衛星コンステレーションが広がってくると思いますが、電波監理上も、今までとはずいぶん違った形になると思います。また、ブロードバンド化が進み、様々なシステムが登場してくると電波が逼迫し、より高い周波数の電波の利用や周波数共用など様々な課題について考えていかなければなりません。

6の次世代映像・端末システムは、4K・8Kや3Dという高度化の取り組みが従来から進められていますが、引き続き、必要な技術開発など高度化に向けた課題に取り組んでいく必要があります。

少し視点が違うのは、7の公共安全LTEです。
規制改革の議論なども含めて、公共用の無線システムについて、もう少し電波の有効利用ができるのではないかというご指摘をいただいています。また、海外ではPublic Safety、PS-LTEという形でLTE技術を使った公共の共同利用無線の事例が増えてきているので、日本でも同様なシステムを導入すべきではないかというご指摘もいただいています。どのような機関が使うのか、どのような機能が必要かなどの評価にも時間がかかりますから、まずは課題として早めに検討を開始し、その結果を踏まえて順次導入できるようにすればいいのではないかと考えています。

こうした課題はどうしても長い時間をかけた取り組みが必要になりますので、早めに概念を整理して、着実に取り組んでいくことが必要になります。

電波行政にも新たな課題が

――電波利用の効率化と高度化ということで、それぞれの課題は長いスパンなのでいずれも先を見るかというかしっかりしたビジョンが必要ですね。

田原 こうした7つのワイヤレスシステムの実現などによって社会的効果、経済的効果も見込むことができるでしょう。
懇談会では、医療・介護・健康などウェルネスの分野、防災・安心安全などセキュリティの分野などで社会的効果が見込めると分析しており、ワイヤレス関連産業としては、2030年で92兆円、2040年で112兆円ぐらいの市場規模に成長するのではないかと試算しています。

――そうした社会の実現に向けて、電波監理にも新しい手法が必要ですね。

田原 そうです。どういう形で電波を使っていくのかという展望を明らかにするとともに、電波を効果的に使うためにどのように周波数を確保し、割り当て、運用し、また見直すのかという制度の見直しが必要となると考えています。また、より積極的に電波の共同利用を進める新しい環境も作っていかなくてはならないでしょう。

膨大な数のモノがネットワークにつながる時代ですので、無線機器をデータベースとリンクさせ、AIなども活用したりしてもっと密に様々なシステムが共存できるような環境を作ることが必要になるだろうと考えています。

――その他に、どのような取り組みをしていくのでしょうか。

田原 割り当てた周波数を有効に利用してないと認められる場合は、周波数を返上してくださいと言えるような仕組みを入れるべきではないかという議論や、経済的価値の高い電波を携帯電話事業者などに割り当てる際には、経済的価値に係る負担額を割り当てにあたっての評価の考慮事項に入れるべきという議論などがあり、制度の見直しについて検討していくこととしています。

――電波行政の責務は重いですね。

田原 そうですね。新しいニーズが生まれ様々な分野に用途も広がる一方で、電波は限られていて、既存のユーザーも増えている。IoTでいろいろな方々が電波を使うことで、また新しいニーズが出てきたりする。こうした中で、様々な調整がどんどん大変になってきています。もちろん、我々としても行政の事務の簡素化・効率化を可能な限り行うなどして新しいニーズに対応していきますが、AIなどを使って、ある程度機械的に事前の調整や干渉回避をしてくれるようなシステムも入れていかなければならないと思っています。

――「新たな割り当て手法により生じる収入の使途」という項目があります。これはどういうことなのですか。

田原 先ほどもお話ししたように、新たな周波数の割当について、その経済的価値を踏まえた対価を払ってもらうべきではないかという議論を受け、電波の経済的価値に係る負担額を割り当ての際の評価項目に新たに加え、エリア整備や高度化など従来の指標と合わせて総合評価方式で判断する方向で制度を見直すこととしています。

電波を割り当てられた事業者には負担額として申請した金額を国に納めていただくので収入が生まれます。その収入をどのように使うのかということで、今までの電波利用料とは違うものの、電波に関連して納めていただいた収入なので、Society 5.0の実現に資する「電波利用の振興のための事務」に幅広く充てるとされたものです。具体的には、研究開発や実証試験、インフラ整備や人材育成などが例示として挙げられています。

免許不要局について

――電波利用料の使途や負担の見直しということで、Wi-Fiもいろいろ書かれていますが、基本的な考え方を教えてください。

田原 電波利用料は電波を使っている無線局全体の受益を直接の目的とする事務に充てるということになっています。その基本的な考え方は変わっていませんが、既存の事業のほか、新たなニーズに対応するための周波数移行・再編や無線システムを支える光ファイバ網の整備などにも積極的に取り組んでいくとしています。

一方で、様々な技術開発が進み、Wi-Fiをはじめとして小電力で免許が不要な無線局が増えてきています。気軽に電波を使えるような形が広がるのは良いことなのですが、新しいシステムの導入のための技術試験などには電波利用料が充てられており、負担の公平性の観点から、免許不要局からも電波利用料を取るべきではないかという意見が出ています。

懇談会では、受益と負担の関係からすると免許不要局にも一定の負担を求めるべきであるものの、解決すべき課題も多いということで継続検討とされています。Wi-Fiなど免許不要局の社会的役割はとても大きいですし、利用料を徴収する仕組みづくりも大変ですので、なかなか難しい課題ですね。

――今回は、そこで終わっているわけですね。

田原 はい。5.2GHz帯のWi-Fiで導入したように、新しいシステムを利用可能とするにあたって、混信回避など電波監理の観点から、登録局制度を活用しなければならないということもありますが、免許不要局についても、従来どおり、ニーズに応じてしっかりと取り組んでいく必要があると考えています。

Wi-Fiへの期待は大きい

――5Gの時代にはWi-Fiが要らなくなるような見方が一部にあるようですが。

田原 Wi-Fiがなくなっても良いということは全くありません。私もそうですが、一般ユーザーにとって、そんなことはあり得ない。確かに5Gは、これまでとは異なり、事業者のネットワークとビジネスユーザーのネットワークが組み合わさって構成される構造になっていくかもしれません。しかし、これだけ普及して確立してきたWi-Fiも、一般の方々が自由にアクセスするための通信手段としてこれまでどおり必要であり、所要の周波数確保や高度化についても、しっかりと取り組んでいかなければいけないと考えています。

このほか、総務省では、電波利用料も使って避難所等の公共的なエリアでのWi-Fi環境の整備支援や、Wi-Fi利用にあたっての情報リテラシーやセキュリティ確保など、Wi-Fiをどこでも安心して使っていただく環境づくりに取り組んでいます。

――Wi-Fiのより一層の発展のために、Wi-Bizとしてはさらに取り組みたいと考えています。

田原 Wi-Fiの高度化や新たなニーズにつき、是非、Wi-Bizの皆さんからも積極的にご意見を出していただければと思います。皆さんの強いご意見があってこそ、私たちも新しい課題にしっかりと取り組むことができます。よろしくお願いします。


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