第13回総会 記念講演
Wi-Fiを活用し地域とともに進めるIoTビジネスの取り組み

NTT東日本ビジネス開発本部IoTサービス推進担当部長 酒井大雅

私の担当は、6月末までWi-Fi推進担当でした。7月からIoTサービス推進担当に変わり、ビジネスを推進しています。今日は、Wi-Fiを活用したIoTについて現場の生の声などをお伝えできればと思っています。

IoTを下支えするワイヤレスネットワーク

IoTは、いろいろなセンシングデータがあって、それを分析し、制御して、社会の課題解決をするという循環となります。ここでワイヤレスの技術が非常に重要な位置づけになると思っています。

SIMであるとか、LPWAとかがIoTのワイヤレスの技術として注目されていますが、大容量のデータを送ることができるWi-Fiについて、私たちは非常に期待しているし、お客様の期待も高いと感じています。

いろいろな情報を送れるということは、いろいろな角度で多様な分析ができるので、IoTという基盤を支えるインフラになり得ると実感しています。

IoTの導入メリットは、生産性向上や省力化はじめ、マーケティング支援につなげることなどになるでしょう。私たちもいろいろな業種のお客様と対話をしながら、業界、業種、地域の課題や効果を見据えてトライアルを進めているところです。私たちが、どういう役割で、どういうサービスを展開していけばベストなのか考えているところです。

今日は技術の話をしても皆さんご存知の方も多いので、我々がトライアルしている事例をいくつか紹介します。
その中で、Wi-Fiを使って、インターネットのコネクティビティーだけではなくて、こんなことが起きたよ、生産性があがったよ、助かったよ、というようなIoTというキーワードにつながるお客様の声を中心に紹介します。

このグラフは、私たちが中小の製造業向けのプロジェクトを一緒にチャレンジしている横浜市の経済局の資料ですが、「IoTに関心がありますか」という質問に対し、「既に活用している」「活用予定がある」「関心があるが活用予定はない」も含めて「関心がある」というお客様は75%以上と非常に多いです。

ただし現場の声を聞くと「関心はあるが自分たちに手の届かない世界」「ワールドワイドな企業、日本を代表するような企業の事例はよく聞くが中小の製造業向けにリアリティーのある話はなかなか聞かない」とよく言われます。私たちは、そこのところをしっかりキャッチアップしていきたいと思っています。
「検討はしているが、なかなか導入には踏み込めない」という声を聞きながら、その要因を一緒に探り、サービスの開発を一生懸命進めているところです。

NTT東日本もしくは西日本のお客様の中心層としては、地域経済の根幹を支える中堅、中小規模の企業が中心です。そういうお客様の層にマッチするサービスはどんなものだろうということを軸に考えています。

IoTを下支えするワイヤレスネットワークということで、アンライセンスバンドのWi-FiとLPWAの両方をラインナップとして揃えています。
ただ、やはりブロードバンドを生業とする会社なので、光とWi-Fiを組み合わせることで、よりお客様のためになる、大きな可能性のあるIoT領域があるのではないかと信じて色々な検討をしています。

分かりやすく言うと、小さなセンシングデータのやり取りだけでなく、例えば画像であるとか、音であるとか、そういったものを組み合わせてより多様な分析ができるとか、そういったものをお客様に価値提供したいと思っています。

ギガらくWi-Fiから始まるIoTの世界

NTT東日本はオフィスのお客様もしくは店舗のお客様が中心ですが「ギガらくWi-Fi」というサービスを提供し、お蔭様で年内には10万契約をいただける勢いで伸びています。
お客様に評価いただいたポイントは、サポート付きで、ICT担当のいないお客様も非常に手軽にWi-Fiを使うことができる点です。
契約者の業種は様々であり、「Wi-Fiを使ってこれからどんなことが出来ますか、したいですか」と、お客様から色々な要望を頂きながらWi-FiをIoTのような形で使う提案が出てきています。

左側が現状です。Wi-Fiはいろんな方面に活用されていますが、一般的に分かりやすく言ってしまえばインターネットのコネクティビティーです。

今考えているのは右側です。
Wi-FiをIoTのゲートウェイの1つと見ます。Wi-Fiは、その下に付くセンサーデバイスが既に市中にすごく多いのがメリットです。
そういったセンサーや、カメラなどのデータをWi-Fi経由で収集しそれを可視化したり、そういったものを組み合わせて生産性の向上とか、省力化とか、経済的損失の抑止とか、そういったユースケースを業種業態ごとに見い出す取り組みを行っているところです。

今年から個人農家、農業法人、畜産業、中小製造業向けに取り組んでおり、年度内には町ぐるみの地域の課題にWi-Fiを使ってこれまでとは違う観点で困りごとを解決する取り組みを行います。

その取り組みの状況を示す事例紹介の動画を見ていただきましたが、その最後に「ブロードバンドIoT」という言葉を使っております。我々はこれをしっかりと完成していきたいと思っています。

無線LANが携帯電話と共存共栄しながら相互補完の関係で来たように、IoTの世界においても他のネットワークも使われますが、Wi-Fiの出番は必ずあると思います。
それを我々のミッションとしてやっていくことで、ワールドワイドの企業だけでなく、地域経済を支えるような企業の皆様にも手軽に使っていただける世界を作りたいと思います。

Wi-Fiを活用したIoTのトライアル事例 農家の場合

ここからその具体的な事例を幾つかご紹介します。
まず、農業ですが、個人農家の方といろいろな話をする中で、勘や経験に頼らずにやって行きたいという声を多く聞きます。
JAの方は営農指導がミッションのひとつであり、単にセンシングだけに留めるのでなく映像を組み合わせることでより多様な効果を生み出すことが出来ないかとか、自治体は、地域経済の発展のために新たなチャレンジをしていきたいのでWi-Fiと組み合わせて今までにない世界を一緒に作っていきましょうというお話を頂き、それがトライアルのきっかけになりました。

山梨県の山梨市と、そこのJAと組みながらトライアルを3月までの予定で行っています。
ここの特徴はビニールハウス内に屋外型タイプのWi-Fiアクセスポイントを設置しています。そこにWi-Fiと会話できるセンシングデバイスとともにネットワークカメラを置いています。
センシングの数字だけでなく、映像を見ながらより多様な営農指導につなげたいということで、JAとタッグを組んでやっています。

農家の方に集まって頂き、説明した時に、導入に手を挙げてくれた方は大きく2つありました。
ひとつは新規就農の方です。新規就農にやさしい地域はUターン、Iターンで人口が増えるということで、我々もそれは想定していました。

もうひとつは、こういうこともあるのだなと思いましたが、ベテランなのですが新たな品種を育てる、例えば今まではピオーネというぶどうを育てていたが単価の高いシャインマスカットを育てたいという方です。
農家としてはベテランであるが、シャインマスカットを育てたことがないので、しっかりとデータとかを見ながら農家を支援してほしい、県の果樹試験場とも話をしながら育てたい、そこでこれまでにないツールを使いたいという方がいらっしゃいました。
これが、収量アップ、単価の高い作物を育てるためにIoTを活用する事例となっています。

農家には「担い手」という言葉がありまして、高齢になって農業が出来なくなっても農地を放り出すわけには行かないので、若い人が引き取って「担い手」となって、複数の圃場を管理する動きがあります。

担い手の方々は一人で複数の圃場を見なければならないのですが、時間的にも限られていて、そこでネットワークカメラを使って省力化をしたり、圃場に行く行かないを判断するとか、生育状況を見ながらJAの人とタッグを組んでやっていくという世界が生まれています。

もう少し具体的に見ていきましょう。
これまでは、ビニールハウスを手動で定時刻に開け閉めしていましたが、温度とCO2を見ながら適切なタイミングで開け閉めしたら、糖度アップにつながったとか、玉が大きくなったと所感を頂きました。

これはエピソード的ですが、自動制御のカーテンが設置されていたのですが、鳥の糞でセンサーが動作せず室内温度が上昇し、IoTのアラートによりセンサーが動作していないことに気付き、作物を全滅から守ることが出来ました。

また、複数の圃場を管理する方が増えてきているのですが、カメラを使うことで行かなくてもよい時に行ってしまうと無駄になるので、映像を確認することでその無駄を省いているケースもあります。

これらによって、玉が大きくなり収量が前年比120%アップした、カメラを入れたので巡回回数が3割減った、巡回しない間はパッキングとか他の作業が出来るので生産性があがったという言葉も頂いています。

福島県で行ったLPWAのセンシングの事例があります。
霜を防ぐ防霜(ぼうそう)のために組合員の方が順番を組んで夜中に見て周り、温度が下がっていたら焚き火を炊いて温度を上げて、霜を防いでいます。
LPWAで出来ることは温度、湿度、照度などのセンシング、数値データの可視化です。焚き火を炊くのは人がやらなければならないですが、見回りは省力化したいというケースでした。この場合は、センシングデータの可視化だけの提案でOKなわけです。
携帯とWi-Fiの相互補完、共存の話ではないですが、IoT全てがLPWAが主役とか、SIMが主役とかいうのではなく、ユースケースごとに是々非々になるのではないかと実感しています。

SIMですとセンサーやデバイスごとに入れる必要がありますが、Wi-Fiのよいところは電波の届く範囲であればいろんなものとシェアできる点です。
農業ですと、単にカメラだけセンシングだけではなくて、近い将来いろいろなものとシェア出来るようになってきます。
また当然、映像データとの組み合わせるユースケースの場合はLPWAではできないですよね。光とWi-Fi、ブロードバンドの下でいろいろなユースケースを見出すことで、お客様の生産性向上やコスト低減につながる、リーズナブルなIoTを実感してもらえると思います。

Wi-Fiを活用したIoTのトライアル事例 農業法人の場合

次は農業法人です。
八ヶ岳の麓で東京ドーム一個分のビニールハウスでミニトマトを育てている、サラダボウルグループという企業です。社長と話していく中で2つの悩みがあるということでした。
1つが、地元の方を多数雇用していて、その100名のマネジメントをするのがグロワーと呼ばれる社員数名で、その数人は農業に長けていて人材の取り合いのようになっているそうですが、いろいろ多岐にわたる業務に合わせて翌日の収穫量の予測を行わなければならないということです。

収穫量の予測はものすごく大切で、翌日のパートの人をどのくらいお願いすればいいかとか、配置を収穫とパッキングでどのくらいに配分するかとか、バイヤーさんにこれだけ出荷するから棚を用意してほしいとか、それをどれだけコミットできるかとか、生産性とフードロスを抑止するとかに対しても重要なのです。しかし二人しかいないので、とても時間が貴重ですし、そもそも収穫量予測の精度を何とか向上したい要望がありました。

今チャレンジしているのが、収穫する台車にネットワークカメラをつけて、ハウスの中に屋外型Wi-Fiをつけて映像をどんどん送り、それをAIで分析して翌日の収穫量を予測するというもので、その精度を高めている最中です。
精度的にはいろいろなことがあります、例えば玉の大きさだとか、色味とか、また色味を見ようとすると明るさの関係でどういう条件でなければいけないとか……。今5割くらい山を登ったところです。

もうひとつが農作業者の活動の可視化です。
雇用者も多く、イメージ的には工場に近い経営形態なのでどれだけ効率的な動きをしているのか、効率的な動きをサポートするために経営者としてどうできるかというのを追求しています。

ここについては面白い話があって、当初はGPSでやるということで現場調査をしていたら、GPSのデータが取れなくなってしまった。温度によってビニールハウスの天幕が閉まり、その天幕にアルミが入っていてGPSデータが取れなくなり、しかも山の麓で衛星の数も限られていて、GPSが使えなかった。

そこで、ビーコンを使っています。ビーコンのデータをWi-Fiでクラウドに送って可視化のツールをお客様に提供しています。同じような環境の倉庫であるとか、工場とかに応用できないか検討しているところです。

Wi-Fiを活用したIoTのトライアル事例 肉牛農家の場合

全畜連と組んでトライアルをやっています。
肉牛農家で出荷前に牛を太らせるのですが、寝ている間にガスが片寄ったりし、何らかの拍子に立てないことがある、立てない状態で4時間いると死んでしまう、ということがあります。
中小の肉牛農家にとって大きな問題です。年に1~2%そういう牛がいて、100万円以上の損害となり中小の農家にとっては死活問題となります。

牛にセンサーをつけるものは既にありますが、センサーをつけると牛にも人にも負担、手間がかかります。画像を使って出来ないかと望まれました。
カメラと赤外線センサーをつけて起立不可状態を検知できているかをトライアルしています。中小の農家の省力化につながれば、Wi-Fiを使ってIoTの効果が実感できると思います。

牧場なので敷地が非常に広大で、国道の脇の事務所までは光回線を引いたのですが、そこから先の自営の空間に光を引くのは厳しかったのでミリ波を使っています。
60GHzのミリ波で国道脇の事務所から牛舎まで飛ばして、そこでWi-Fiに吹き替えて、牛舎の中はWi-Fi経由でカメラ映像を送信しています。

Wi-Fiを活用したIoTのトライアル事例 中小製造業の場合

最後に中小の製造業の例です。
いわゆる町工場の方々に聞くと、そもそもラインの稼働状況も把握できていないのだけれども何かリーズナブルなやり方はないかという会話が非常に多いです。
大きい機械に手を入れることなく、Wi-Fiと後付のセンサーみたいなものを活用して工場の困りごとの解決を図っているところです。

このスライドは工場の中にWi-Fiを、屋内ですが粉塵とかあるので屋外型Wi-Fi装置を入れていますが、工場の機械に後付のセンサーやネットワークカメラを付けてラインの稼動状況を可視化しています。

それだけでなく、いろいろなユースケースを組み合わせられるのがWi-Fiの強みとお伝えしましたが、Wi-Fi入れたので工場長がタブレットで他の場所でも見られるとか、製造状況をサイネージ的に表示できるものについてもネットワークとつなげて見えるようにしたとか、いろいろなユースケースを組み合わせています。

特定の企業のための独自のソリューションではなくて、一般的な中小製造業の例えば2~3割が助かると言って貰えるような汎用的なサービスの開発・検討をトライアルを通じて行っています。
先ほど申しましたように横浜市の経済局とタッグを組んで、地域のシンボリックな会社と取り組んでいます。

以上、Wi-FiによるブロードバンドIoTというコンセプトで述べてきましたが、Wi-Fiを活用したIoTマーケティングや、コミュニケーションロボットでWi-Fi活用などの取り組みも行っています。

10月から、ギガらくWi-Fiの下にネットワークカメラを付けて、お客様にキッティングしてお渡しして、届いたらすぐに使えるというサービスを始めています。
商用施設などでカメラをレジの横に置いて来訪者の分析ができます。せっかく入れたWi-Fiを単にインターネットコネクティビティーだけでなくマーケティング支援などに使えますと、ここまでリーズナブルなのでどうですかと、そういったサービスをカメラを2,500円の月額で提供しています。

このロボットはWi-Fiインターフェースです。
何か情報を上げるだけでなく、クラウドから新しいソフトを落とす、制御するとなるとWi-Fiが親和性があるということで、Wi-Fiとロボットをセットにして介護施設とかにコミュニケーションツールとして提案しています。

このように、「Wi-Fiで生産性高く」と言うことで、「Wi-Fiならではの出来ること」「Wi-Fiだからこそ出来ること、分析できること」、いろいろあると思います。

Wi-Fiの価値を表現して、価値と言うのはお客様に対しての利用価値ですね、そういったものを一個一個、入れてもらったWi-Fiでお客様の業務支援などを成り立たせたいと思っています。

 


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