電波の話
周波数と伝送容量 驚きの技術進化のスピード

無線LANビジネス推進連絡会会長 小林忠男

電波の話、その第3回です。今回は、「周波数帯と情報伝送」について考えてみます。

電波の減衰

人がしゃべる声やスピーカーの音は近くでははっきりと聞こえますが、遠くだと聞き取りにくくなるのと同じように、電波は発射する基地局から遠くなるほど弱くなり減衰していきます。
自由空間中に指向性のないアンテナを距離だけ離しておいた場合の電波の減衰量を、「自由空間伝搬損失」と言います。

この自由空間伝搬損失Lは
L=20log(f[MHz])+20log(d[km])+α
と表すことができます。

電波の減衰について、定性的にまとめると次のようになります。
・周波数が低いほど減衰は小さく伝搬距離は長くなる
・伝搬距離が長くなるほど電波の減衰は大きくなる

図1は、送信電力1mWで、950MHz帯と2.4Gz帯の実際の伝搬距離を比較した例です。グラフから分かるように、1mWの送信出力が-80dBmに減衰する距離は2.4GHzの20m弱に対して、950MHzは約150mと、先に述べた通り周波数の低いほうが伝搬距離が長いことを示しています。

周波数と伝送容量

次に、周波数と伝送容量についてまとめると、正弦波の繰り返しの回数が周波数に対応し、その周波数の振幅や位相の変化に情報を乗せることになるので
・周波数が高いほど伝送容量は大きくなる
と言えます。

図2は周波数と伝搬距離と情報量を示します。

 

2020年にはサービスが始まると期待の高い第5世代移動通信システム(5G)に使われる周波数は、3.6GHz~4.2GHz、4.4GHz~4.9GHz、及び27.5GHz~29.5GHzが予定されています。
出典:「すべてがわかる5G/LPWA大全2018」(日経BP社)

昭和48年(1973年)に電電公社に入社し固定マイクロ波通信の開発に従事した私にとって、上記の3.7GHz帯、4.5GHz帯、28GHz帯はとても懐かしい周波数帯になります。全く記憶の外にあったものが突然出現したような感じです。
その理由は、表1に示すようにこれらの3つの周波数帯は40年前においては「固定無線通信にしか使えない」「移動通信には絶対に使えない周波数」と考えられていたからです。

 

写真1に示すように山の上の無線中継所間を結ぶ固定マイクロ波通信に使用し、中継所間は必ず見通しがあることが絶対条件でした。
28GHz帯は距離2~3kmの加入者無線の周波数として使われ、強い雨に弱く、「記録的短時間大雨」でも降ろうものなら回線障害が発生しお客様対応が大変でした。

 

半導体技術、キャリアアグリゲーション、ビームフォーミング等の通信技術の進化、小型軽量化技術などの驚異的な技術革新により、これらの周波数帯を移動通信で使うことが可能になったということです。まさに、隔世の感があります。

5Gとワイヤレス新時代

さて、5Gに使われる周波数帯は4Gで使われている周波数帯よりは高くなるわけですから、先にまとめた通り、伝搬距離は短くなる、すなわち一つの基地局がカバーする距離は短くなりますが、伝送容量は増加することになります。そして、一つの基地局に収容可能な端末数は飛躍的に増大することになります。

これからまさに本格的なIoT時代になろうとしています。人口よりはるかに多い何億個のモノがワイヤレスでインターネット/クラウドにつながることになります。

ここまで述べてきたことから、今後の5G時代のワイヤレスアクセスの概念図を考えると図3のようになるのではないでしょうか。

 

4G時代のエリアが小さくなる一方、一つの基地局に収容する端末数は増大する。そして、基地局へのエントランス回線は光とともに、固定回線的に5Gが使われるようになると考えられます。

電波特性にのっとった5Gの発展とともに、現存の4G及び進化し続けるWiFiと光が融合することで、ワイヤレス新時代が実現するのではないかと考えています。


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