海外情報
海外での列車内Wi-Fiの現状、日本との違い

岩本賢二

「来日外国人が実感する日本のWi-Fi」(6月号のメルマガ)で、劣悪な列車内Wi-Fiサービスについて提起しましたが、今回は海外ではどうやって快適な列車内Wi-Fiを提供しているかご紹介します。

バックボーンにLTEの限界

来日外国人は日本の公共交通機関の充実ぶりに驚かされる反面、乗車中のWi-Fiサービスの品質の悪さに驚いているという記事を6月号で掲載しました。

多くの列車内Wi-FiサービスはWi-Fiアクセスのバックボーン通信にLTEやWiMAXモデムを利用しているため、結果的にポケットWi-Fiを乗客みんなで共有していることとかわらない状況になっていることが原因です。
バックボーンにLTEを使っているため災害時には、本来災害に強いはずのWi-Fiがバックボーンに使われているLTEが混雑することで結果利用出来なくなってしまいます。

では、海外ではいったいどのような方法で快適な列車内Wi-Fiシステムを提供しているのでしょうか?

モスクワメトロ Free Wi-Fiサービス紹介

モスクワの主要な地下鉄網であるモスクワメトロは12路線に180もの駅があります。総路線距離は300kmで毎日7~9百万人が利用しています。

モスクワメトロの路線図

モスクワメトロは乗客にWi-Fiサービスを提供するために路線上に800台の5.8GHz帯を利用した中継無線基地局を線路脇に設置し、全車両に通信速度を上げるために2台ずつの無線子機を設置しています。
このインフラによって1車両辺り最大500Mbps程度のスループットを得られます。

基地局の写真

写真のように基地局には路線の上り方向と下り方向の2方向にアンテナを2本ずつ設置しています。

シャークアンテナ

また、列車にはシャークアンテナという空力を考慮したアンテナが付けられています。
基地局と列車のシャークアンテナが無線接続してバックボーンを維持する訳ですが、列車は長距離を移動するため、複数の基地局をハンドオーバーしていく必要があります。
この時シャークアンテナ側の子機と複数の基地局は「時間同期」を取る事で、通信は途切れること無く、ハンドオーバーを継続することができます。

 

現在、モスクワメトロ乗客の25%がこの列車内Wi-Fiシステムを利用しており、年間の接続数は4億3千7百万を越えています。毎日70TB以上のトラフィックを提供しています。
このような自営のネットワークは公共の携帯電話網を利用していないため、災害などの緊急時でも安定して動かすことが可能です。
また車内の監視カメラ映像をセンター側で確認することが出来るようになり、安全確保に活用しています。

日本で利用されているようなLTEバックボーン方式だと災害時には電話会社による通信制限などが掛かり、災害に強いはずのWi-Fiがバックボーンの制限で利用出来なくなってしまうだけでは無く、社内の監視カメラも見ることが出来なくなってしまいます。

実はモスクワを含め世界ではこのようなバックホール無線の多くが5.8GHzを利用しており製品の流通量が多いため日本で利用されている4.9GHz製品に比べて安価です(ここでも日本のガラパゴスルールが……)。

日本で利用されている一般的な4.9GHz製品を鉄道網で利用するとハンドオーバーに支障があるため安定動作することはありません。そのため、基地局間で時間同期の取れる移動体専用に作られた4.9GHz無線製品を利用する必要があります。

今回紹介したモスクワメトロと同じシステムは中国の重慶鉄道、米国のAmtrak、同じく米国のUtah Front Runner、マドリッドメトロなど多くの鉄道網で世界的に広く使われており、とても有名です。

来日外国人に笑われないWi-Fiシステムが日本の列車内にも早く導入されることを切に望みます。

 

【参考】
Wi-Biz通信2017年6月号「来日外国人が実感する日本のWi-Fi」:
https://www.wlan-business.org/archives/9486

モスクワメトロWi-Fi動画:


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