ビジネス情報
ワイヤレス新時代が始まっている
ユーザー視点で「ワイヤレスと光の融合」を
無線LANビジネス推進連絡会会長 小林忠男

ワイヤレス新時代の到来のなかで「周波数の不足」をどう考えるのか、ポイントはユーザーの利便性ということと、光ファイバーの活用による周波数の拡大という視点ではないだろうか。

スマートフォンの出現以来、人がやり取りする情報は電話やメールから写真・動画・リアルタイム動画配信へとどんどんリッチになり、その結果、情報量が劇的に増加しています。

また、人に加えて、これまでには考えられなかった数量のモノがインターネットやクラウドにつながるIoT時代が到来しつつあります。
こうした時、人が持つスマホや多くのモノは、有線のケーブルではなくワイヤレスでネットワークにつながることになります。
つまり、ケータイ、スマホに加え、数え切れないほどのモノがインターネットにワイヤレスでつながる「ワイヤレス新時代」の到来なのです。

このワイヤレス新時代に対応するために、モバイルの世界では現在のモバイルシステムよりははるかに「高速・低遅延」の第5世代モバイルシステム(5G)の実用化に業界あげて取り組んでおり、来る2020年の東京オリンピック・パラリンピックには商用サービスを開始するといいます。
現在でも周波数が不足しているため、次世代モバイルシステムでは、20GHz帯の高い周波数を使用することが検討されています。

少し本題から外れますが、私が40年前に電電公社に入社し、ワイヤレスの技術開発部門に配属された時代は、現在Wi-Fiで使用している5GHz帯は固定マイクロ波通信にしか使えない周波数帯だと考えられていました。
20GHz以上の周波数を使うと固定通信でも通信距離が極端に短くなり、例えば、5GHz帯の固定通信システムの中継距離は50kmに対して、20GHz帯を使う準ミリ波システムの中継距離は3kmでした。
新幹線のように時速300kmで走行する移動体とシームレスに途切れることなく通信をするためには、20GHz帯においてこれまでにない技術革新が通信方式、デバイス等において必要になると考えられます。
モバイルにおいては周波数が低いほど電波が遠くに飛ぶためシステム設計が楽になります。
モバイルの周波数不足を解消するために、現在Wi-Fiで使用しているアンライセンスの5GHz帯を、現在のモバイルの主要システムであるLTEで使用したいという検討が行われています。
LAAやMuLTEfireという名称で、Wi-Fiの通信に妨害を与えないことを前提にLTEを5GHz帯で使いたいという構想です。

本日のテーマはLAA・MuLTEfireではないのでここでは紹介だけにとどめますが、技術的に干渉しないから使用可能だというのではなく、唯一の世界標準でアンライセンスで誰でもワイヤレスブロードバンドネットワーク構築が可能なWi-Fiの価値をどう考えるのか、モバイルキャリアがLAAやMuLTEfireを使用したときの料金制度はどうなるのかなど、移動通信システム・サービス全体の議論をユーザー視点から並行して進めるべきだと思います。

Wi-Fiにおいても、モバイルと同じように周波数不足はこれから深刻な問題になります。
世界中にたくさん設置されているもっともポピュラーな2.4GHz帯のアクセスポイントは数が多くなりすぎて人の多い繁華街では干渉のため速度低下が起きているのです。
混信のない5GHz帯を使えばよいのですが、これまでは市販のアクセスポイントの5GHz対応がなされていなかったため使用が進んでいませんでした。
最近のアクセスポイントは2.4 GHzと5GHzの両方の周波数が使えるようになっているため街中の5GHz帯の使用はこれからどんどん増えていくと予想されます。そうなると現在比較的空いている5GHz帯も早晩いっぱいになると予想されます。

また、IoT通信に最適な900MHz帯を使った802.11ah、さらに802.11acよりも高速な60GHz帯を使った802.11adの開発が進められています。
Wi-Fiにおいても周波数が不足するため新たな周波数を使うシステムを商品化しているわけです。
これから到来するワイヤレス新時代において周波数をどのように確保するかは極めて重要な問題です。
何故ならば、電波は有限な資産ですから、電力のように石油や原子力を使ってどんどん増産することは出来ません。周波数によって様々な特性を持った有限な資産である電波をどのように使ったら全体最適なワイヤレス環境をお客様のために実現できるかを考えなくてはなりません。

そういうなかで、今回はワイヤレスと光の融合により周波数の不足を何とかできないか考えてみました。
先ず、第一に、光がないとLTEもWi-Fiも機能しません。

図1を見て下さい。

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屋内に5人、屋外に5人の合計10人のユーザーがいます。左図のように極端な例ですが、屋内外にいる10人全員がLTEの基地局に接続しているとすると、一人当たりの周波数は全体の10分の1になります。
簡単すぎるかも知れませんが、全周波数帯域が10MHzとすれば1ユーザー当たりの周波数帯域は1MHzになります。
これを右図のように、屋内にいる5人は、光ファイバーを引いて屋内を光+Wi-Fiの環境を実現し、LTEの基地局に接続せずにインターネットに接続するようにすれば、LTEの基地局に接続するユーザー数は半分の5人になります。1ユーザー当たりの周波数帯域は2MHzになり右図に比べて2倍になります。
等価的に周波数帯域が拡大したことになります。屋内の全員が光につながることは例えにしてもあり得ない仮定かもしれませんが、光+Wi-Fiにつながるユーザーが10%増えるだけでもモバイル環境のユーザーの電波環境は良くなるはずです。

NTT東西のFTTH契約数は、現在1970万契約です。まだまだ、3千万、4千万契約に増える余地は十分にあります。
モノまでがワイヤレスでインターネットにつながる時代においては、屋内にはこれまで以上に光を引き込みWi-Fiとの融合によるワイヤレス環境の充実を図れば、多くの端末は料金を気にすることなく快適にインターネットに接続することが可能になります。
その結果、屋外のモバイル環境で通信をする人とモノは今まで以上に余裕をもって快適なモバイル通信をすることが出来るようになります。

図2を見て下さい。

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お客様にとって最も期待することは、自分の端末やモノが快適に安心・安全にインターネットにつながることです。そのためのアクセスネットワークは極めて重要になります。
そのアクセスネットワークには有線とワイヤレスの2つの系があります。有線にはメタルと光ファイバー、ワイヤレスにはLTE、Wi-Fi等があります。
お客様にとっては、どのアクセス系を使おうと、手頃な料金で快適に安心安全に使えればそれで充分なのです。すなわち、Wi-FiでもLTEでもきちんとインターネットにつながればどちらでも構わないのです。
しかし、現在の関係企業の取り組みを見ていると、どうしても、LTEの関係者はLTEばかりに注力し、Wi-Fiの関係者はWi-Fiのことだけを考え、光の関係者はワイヤレスのことは全く気にしないように感じることが多々あります。
色々なサービスが融合する時代になり、技術革新のおかげでシステムの境がなくなりつつあります。
自分はワイヤレス専門だから、私はWi-Fi専門だからという枠から抜け出て全体をきちんと把握したうえで自分の領域を、お客様要望の視点からどうすべきかを考えるべき時代ではないでしょうか。


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