海外情報 5Gの検証が続々と行われているが
実用化にはさらに時間が掛かると

次世代携帯電話規格「5G」の検証が世界の主要ベンダーによって行われていますが、その一方で当事者から懐疑的な意見も出てきています。ミリ波を使ったアクセスシステムの実導入はいつになるのでしょう。

先月の「海外情報」コーナーで米AT&Tが今年の夏から15GHzや28GHz帯で5Gのトライアルを開始すると書きましたが、AT&T研究所がニュージャージ州のAT&Tオフィス近郊の屋外環境で5Gの可能性を確認するために28GHzと39GHz帯の無線機器を設置して実際に検証を行うことをFCCに申請したそうです。

この計画では、広帯域(100MHz-800MHz)で周波数ホッピングを行うものか、狭帯域(5MHz-14MHz)でQAM変調を行うものか、いずれかの送信機が利用されるようです。
送信出力については23dBM(200mW)を超えずERPについても50dBmを超える事はないようです。

この試験に用いられる無線システムは既に市販されているミリ波のコンポーネントを流用して構成されるそうで、特定のメーカーを指定していません。
今回の検証で用いる無線システムは送受信機と指向性のアンテナで構成されますが、屋外での複雑な伝搬環境においてどのアンテナでどのような特性が出るかを確認することが主要な目的となっているそうで、ゲインやビーム幅が異なる様々なアンテナが利用されるそうです。またMIMOのチャネル特性を確認するために複数の無線システムが利用されます。

ところで、先月は、今年の2月にベライゾンが5Gの初期試験に成功したと発表したというニュースも書いていましたが、AT&Tが上記の試験についてFCCからの許可を待つ間にベライゾンは28GHzと39GHzのライセンスをXOホールディングスの子会社であるNextLink Wirelessから最大で2年半借用することについてFCCから許可を得ました。
ベライゾンはこのライセンス借用は5G技術の開発において重要な意味があると発表しています。こういった状況の中、T-MobileはメトロPCSの買収に伴い28-39GHzバンドの中から200MHzもの広帯域の周波数を入手しました。これによりT-Mobileは5Gのトライアルにおいて先行しやすくなったと見られます。

各社5Gのトライアルについて熾烈な競争を行っている状況の中、一歩先行している様に見えるT-Mobileですが、CTO Neville Ray氏はとても懐疑的なようです。Ray氏が言うには、周波数を押さえれば5Gが直ぐに実現するわけではなく、28GHzという高い周波数の上で、マッシブMIMOやビームフォーミングを成立させるには物理学だけが頼りで、今のところ28GHzで2.5GHzの性能を出すことさえもできず、非常に苦労するだろうとのことです。

さらに彼は、今業界が懸命に5Gに取り組んでいるけれども、初期の5Gは大都市部の非常に混雑した小さな一角で大容量の通信をオフロードさせるような特定の利用で導入されることが予想され、28GHzが大規模に導入されるのは何十年も先になるだろうし、これは物理学だけではどうにもならず、コストも凄く高くなると言っています。
周波数が高すぎるゆえの物理的な問題とコスト的な問題を抱える5Gの実現が何十年も先になるのであれば、そこに振り回されるより、次の3年~4年でLTEやLTE-Advancedで何をするかをもっと真剣に取り組む方が正しい選択だと彼は考えているようです。

各社熾烈な競争を繰り広げる中、やはり28GHzといった高い周波数をアクセス用として利用するには多くのハードルが残されている現実が突きつけられているようです。Ray氏だけでなく多くの技術者がミリ波帯を使ったアクセスシステムは随分、先になると見ているようです。当面はLTEの小セル化による高密度ネットワーク構成が現実的なように思われます。

岩本賢二

参考記事:http://www.fiercewireless.com/wireless


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