毎月の記事やお知らせをぜひお見逃しなく!
メールマガジン配信登録は☆こちらから☆
トップインタビュー
NTTアドバンステクノロジ株式会社
代表取締役社長 伊東 匡 氏
IOWNを実際に世の中に出していく役割
Cradio®※1で無線系AIの活用技術を拓く
NTTアドバンステクノロジ(NTT-AT)は、NTT研究所やNTTグループ企業の技術力を基盤に、お客様の課題解決やニーズに応えるための、先端技術開発事業を進めています。
伊東 匡 代表取締役社長に、IOWNを中心とする最先端の技術開発の取り組みについて伺いました。
なかでも多様化するワイヤレスを活用して新しい価値を創造するCradioの取り組みの最新の状況を詳しくお聞きしました。
NTTグループの技術的中核企業として
――NTT-ATのグループにおける役割を教えてください。
伊東 NTT-ATは持株会社の直接帰属会社であり、NTTグループの技術開発を支援するというミッションを担っています。もともとは、NTT研究所で研究した技術を社会に普及させることを目的に、1976年に設立されました。
現在は、NTT研究所の技術開発のサポートを行うとともに、さらにその技術を事業会社に導入することの支援やそれらを活用して事業会社のビジネス拡大に貢献しております。みなさまのご支援のおかげで、来年は、設立50周年を迎えます。
――昨年、新たな事業運営体制を構築されましたね。
伊東 NTT研究所や国内外の先端技術を上手く組み合わせ、新しい価値を創造することで様々な社会課題の解決やお客様のビジネスの持続的成長に貢献するため、事業運営体制の再編を行いました。
以前は13あった事業本部・事業部を、「アプリケーション・ビジネス」、「マテリアル&ナノテクノロジ・ビジネス」、「ソーシャルプラットフォーム・ビジネス」、「トータルソリューション・ビジネス」の4つのビジネス分野を所掌する本部にそれぞれ集約することで、ビジネスの機動性を高めています。4つのビジネス本部のうち、NTTグループの事業会社のネットワークインフラに関する技術開発や運用の支援を行っている本部が、「ソーシャルプラットフォーム・ビジネス」本部となります。NTT東日本・西日本、NTTコミュニケーションズなどが、実際のインフラサービスで提供している音声電話サービスやフレッツサービスなどのシステムの維持管理業務支援もここで行っています。
――社会の通信インフラそのものの仕事ですね。
伊東 そうですね。一方、「アプリケーション・ビジネス」本部では、NTT研究所での研究成果を活用した「WinActor」といわれるRPAのソフトウェアを販売することで、お客様のDX化に貢献しています。その販売では、NTTデータと連携して進めています。
――RPAの先駆けとして非常に人気で、特に地方の自治体などでは大変喜ばれていましたよね。
伊東 そうですね。ただ、だいぶ行き渡ってきていますので、その先のビジネスとして付加価値を高めることを考えています。例えば、生成AI技術を取り込むことで、よりユーザフレンドリな商材へと進化させることを目論んでいます。やはり、次の成長を考える時、生成AI技術は無視できません。
NTT研究所発で「tsuzumi」というLLMをNTTで提供しています。これに関連して、我々は、言語モデル(LM)の技術開発のご支援を創成期から行ってきました。ですから、我々も、そのアドバンテージを活かし、自社のビジネスに取り込むことで、生成AI系のビジネスを伸ばしていくつもりです。もともと言語モデルは、使い方によってチューニングをかけないと実運用にフィットしません。我々は、言語モデルのチューニング技術を従前より扱ってきましたので、極端な言い方をすると、「tsuzumi」だけではなくて、他の生成AIエンジンを活用したサービス化もできます。そういうところを強みにしてビジネスを推進していきます。今、葛飾区の職員の方々の業務支援ツールとして、生成AI技術を活用したシステムをお使いいただいておりますが、それは我々が開発を担当させていただきました(※3URL参照)。職員不足を補う有用なツールとして前向きなコメントをいただいており、このようなシステムを全国の自治体にも展開していきたいと考えています。
我々の会社の特長として、ソフトウェア技術だけでなくハードウェア技術も扱っているという点があります。「マテリアル&ナノテクノロジ・ビジネス」本部では、NTT研究所でのマテリアル(物質)系の研究開発の成果を活用してソリューション化しています。
分かりやすい例が塗料です。撥水や遮熱用途として、主に通信設備に用いることを前提に開発されたものです。今は、その技術をベースとした製品を我々が通信以外の市場に展開しています。あとは変わったところでいうと、ウエハを作っています。ウエハといってもシリコンのウエハではなくて、パワーデバイスに使われるGallium Nitride(GaN)というデバイスがあるのですが、そのチップを作るためのウエハを我々は作っています。
IOWNの技術開発、ネットワーク構築、利用まで
――IOWN関連の取り組みは戦略的に重視されています。
伊東 ご案内の通り、NTTグループはIOWNで新しいビジネス基盤を作っていくという戦略を描いています。我々としてもグループの一員として、IOWNを実際に世に出していくことのお手伝いを事業の柱にしています。
従来からネットワーク系の技術を扱うことを得意としてきましたので、IOWNの社会実装に、しっかりと貢献していきたいと考えています。APN(All-Photonics Network)だけではなくて、あらゆる手段、例えば、無線等々を活用して、End-to-Endでの新しい社会基盤を実現していくことが我々の使命だと捉えています。
IOWN関連の具体的な取り組みとしては、NTT-ATの役割は3つほどあります。まず、NTT研究所で行うIOWN関連の技術開発を直接、ご支援するという役割。2番目は、今、まさに関西・大阪万博が開催されていますが、その中でもAPNは使われており、このように事業会社で実際に運用されているものの維持管理を含めた支援をさせていただくことです。
3番目は、NTT研究所の成果を我々自身が製品にして、エンタープライズ向けが中心になりますが、NTTグループ外市場に広げていくということです。このような役割が我々の責務と考えています。
――1番目はNTT研究所における直接の技術開発支援の領域、2番目は事業会社のネットワークインフラの運用支援、維持管理の領域で、3番目は御社の独自の領域ですね。
伊東 そうですね。3番目のところは、シスコやジュニパーのようにオールインワンでスイッチやルーターを提供することは今は想定していません。ホワイトボックスサーバの上に、お客様の使い方を考慮してオープンソースベースのネットワークソフトウェアなどを入れることで、お客様にとって最適なシステムに仕立て、それを導入・運用するということを目指しています。将来は光電融合デバイスを組み込むということもあります。そのような考え方で、最適な技術の組み合わせでお客様に最適なソリューションを提供するディストリビュータの役割を担うことを念頭に、ホワイトボックスビジネスを今後は強力に推進していきたいと考えています。
――IOWNでまずAPNがスタートし、いろいろな企業が実証を始め、実際の使い方をトライしていますね。
伊東 APNには光ファイバを含めた論理的なパスを自由につなぎ替えるスイッチの役割を担う装置があります。その装置を動かすためのネットワークOSの実装を我々は行っています。このOSはBeluganosという名のもので、NTT研究所で開発されたシステムです。我々が、それをホワイトボックスに実装して提供しておりますが、真の意味でのディストリビュータとしてお客様にとって最適な機能を具備したものをご提供していきたいと考えています。お客様が求める価値としてCAPEXやOPEXの低減があると思いますが、そこに拘った社会実装を進めていく考えです。
IOWNのユーザ利用までをサポート
――IOWN構想はステップを踏んで進むわけで、今後まだ大分、時間がかかるというか、かなり長丁場になります。NTT-ATはIOWNを使うためのネットワークはもちろん、ソリューションも、プロダクトも一個一個作りこんでいくという重要な役割ですね。
伊東 昔のNTTのサービスのように全国一律にインフラを短期間で構築して、「さあ、こういうサービスメニューでどうぞ」というような時代では今はありません。ですから、あらゆる手段を提供できるようにして、ただその根底には自由度と環境性能を大前提とした新たなインフラの考え方を提供していくということです。
一気に広まるというのではなくて、例えばデータセンタの高速接続からまずは立ち上がっていき、同時に例えば多様なアクセスを使ったモビリティから、それも全面的に日本全部を合わせるのではなくて、そういうニーズがある自治体や地域から入っていくという、いろいろなフェーズで、新たなインフラの形が入っていくと想定しています。結果、何年かすると今、言っているような最終形のIOWNの形になっていくと思っています。
――IOWNは「高速、低遅延、低消費電力」というように非常に分かりやすいのですが、それは「みんなが、すぐ食べて、おいしい」みたいなものではなく、企業側・ユーザ側でそれぞれの新しい価値が生みだされていくわけで、その間をつくらなければいけないということですね。
伊東 そうですね。そのためには従来の「こういうサービスをつくったから、どうぞこれをうまく活用して何かやってください」ということではなくて、どのようなベネフィットを提供すると、それが我々の利益やビジネスにつながるのかということを、これまで以上に考えながらやっていかなければいけない。ステップ・バイ・ステップではないですけど、まだら模様に、いろいろなところにじわじわと広がっていくというのが現実的だと思います。
――IOWNの普及に向けては、相当、手作りというか、いろいろなところで新しい取り組み、創造的な取り組みを進めていかなくてはなりませんね。
伊東 そうです。コアのネットワークだけではサービスはできないので、エンドポイントまでどのようにサービスを提供するかというところが、IOWNを実現する上で重要なポイントになっています。データセンタ間だけであればいいのですが、そうではなくてエンド・エンドの実際のユーザのことを考えると、光だけではだめで、ありとあらゆるアクセス手段をIOWNの中でどう実現していくかといったところが今後のキーになってきています。
そこで、Cradioが1つのキーになってきます。無線はいろいろな種類、Wi-Fiもありますし、ライセンスバンドもありますけれども、それぞれ得意不得意があったり、エリアの状況もあったりしますので、それをエンドユーザの利用状況に合わせて、最適なアクセス手段を提供することで初めて、間にあるAll-Photonics Networkのケイパビリティが有効活用されると思っています。
――Cradioは、ワイヤレスも非常に多様化していますから、そのワイヤレスのパワーとIOWNをどうつないでユーザに提供していくかということで、非常にクリエイティブな仕事になりますね。IOWNの付加価値にもなります。
伊東 IOWNは、解釈の仕方によっていろいろな切り口があります。ティピカルなものは、光電融合を使ったAll-Photonics Networkが今、非常に注目を浴びていますけれども、それだけではなくてAll-Photonicsを中心としたディスアグリゲーテッドな分散されたネットワーク機能を、いかにコグニティブ・ファウンデーションというような、サービスとつなげるようなオーケストレーション機能を使って、有機的にサービスとネットワークのリーチャビリティを、どう融合させるかということがIOWNの基本構成の1つと私は理解していますので、多様なアクセス条件をサービスとコアネットワークとうまくオーケストレーションすることが、IOWNの肝になってくると思います。ですので、Cradioは非常に重要な役割を果たしていくと思っています。
Cradioの先端性と社会的な意義
――Cradioの概要と取り組み状況を教えてください。
伊東:Cradioは、NTT研究所がIOWN構想における“W(Wireless)”領域の技術として開発を進めているもので、大きく無線状態の「把握」、刻々と変化する無線通信品質の「予測」、環境や要件に応じた「制御」の3つの技術群から構成されます。
NTT-ATはそのシステム開発や実証・評価を支える役割を担っています。昨年度は、横浜や品川において実証実験を行い、NTT研究所の「裏方」として取り組んできました。
今年度からは、そうした支援的立場を一歩進め、NTT-AT自身がコンソーシアムに直接参画するフェーズに入りました。総務省が採択した10のコンソーシアムのうち、横浜と仙台の2件において、NTT-ATの名前が正式に掲載されています※2。研究開発の支援から、社会実装に向けた主体的な取り組みへと、ステージが移行しつつあります。
――どのような取り組みになりますか。
伊東 Cradioは、レベル4自動運転や自走ロボットの高度化を支える通信インフラとして、新たな無線活用の形を目指しています。無線LANをはじめとする多様な無線方式の特性を把握し、状況に応じて最適に使い分けることで、通信の安定性と信頼性を高める取り組みです。
――自走バスが走る時に利用する無線の状況の「把握」「予測」「制御」ということがポイントですね。
伊東:おっしゃる通りです。バス走行時の無線通信品質の変化を機械学習により事前に予測し、「通信品質の劣化が予測される」と判断された場合、利用可能な回線の中から最適なものを事前に選択・切り替える仕組みを構築しています。これにより、通信の安定性を維持します。
例えば、バスに搭載されたカメラの映像をリアルタイムで遠隔監視・分析する場合、通信が不安定だと正確な映像伝送が難しくなり、安全運行にも支障が出るおそれがあります。Cradioは、バス単体のセンシングでは把握できない情報、たとえば交差点に設置されたカメラによる先行エリアの危険情報などを事前に取得し、安全な運行を実現するための通信基盤として機能しています。
――従来の自動運転と、どういう点が一番違うのですか。
伊東:従来の自動運転は、車両に搭載された高性能なカメラやセンサーによる自己完結型の安全性確保が中心でした。一方、今回の実証では、車両外部のインフラと連携して得られる周辺情報も活用することで、より広範かつ先読み的な安全対策を可能にしています。これにより、例えばバスの視野外にある危険要因への対応や、通信劣化時のリスク低減といった、従来にはなかった視点での安全性の実現が可能になります。
――仙台でも同様の実証を行っているのですか?
伊東 使用機器や技術環境には若干の違いがありますが、基本的な方向性は横浜と同様です。いずれも、地域課題である運転手不足や公共交通の持続性といった問題に対し、Cradioの技術を用いた解決策を模索しています。
――地域課題の解決にも貢献しているのですね。
伊東 はい。例えば神奈川中央交通様と連携した平塚での実証や、横浜市の動物園ズーラシア周辺でのバス運行実験など、地域自治体、通信事業者、交通機関、自動運転開発企業と連携した総合的な取り組みを進めています。Cradioは、社会課題の解決とNTT-ATの事業価値の両立を実現する、重要な技術群と考えています。
―― CradioはAIが大きなファクターになっていますね。
伊東 これからは、あらゆるところ、例えばネットワークのオペレーションもそうですけれども、省力化という観点だけではなく、蓄積された膨大なデータを活用して、それをどう効果的に使うかということが重要になってきます。
今までは人間がデータを解析し分析していましたが、日々データが蓄積されていくので、それをどう有効活用するか、AIは非常に強力なツールです。あとは今、チャレンジしていますが、ネットワークの運用のところで故障の予知などもできるのではないかと思います。昔は技術者が自分のノウハウで判断していましたが、人手もなくなってきたこともあって、「AIに任せられるところは任せたほうがいいだろう」と、積極的に活用していきたいと思っています。
――ネットワーク事業そのものにもAIを活用する。
伊東 そうですね。グループ全体でも今、言っていることは「ゼロタッチオペレーション」。これはIOWNの構想でもありますが、「人手のいらないネットワーク運用を生成AIを使って」ということを大きな事業目標にしています。
Wi-Bizは国との懸け橋
――Wi-Bizへの期待がありましたらコメントをお願いします。
伊東 先ほども申しましたように、ますます多様化する手段として無線はもっと充足していかなければいけないと思っています。まさに、欠くべからざるものに、どんどんなってきています。ただ、いろいろな手段が必要になってきたときに、どううまく使いこなすかといったところが肝になってきます。
Cradioもそうですが、どういう技術があって、どういう使い方ができるのか、周波数帯も含めてしっかりとその整理とポジショニングをはっきりさせていくことが重要になってくると思っています。Wi-Bizの営みは、まさにそういうところだと思っていますから、これから非常に重要な役割になってきていると思います。是非、引き続き普及と定着に向けてご尽力いただければと思います。
国との関わりも非常に重要で、いい意味で国は決める権利を持っていますが、実態が分からないので、そこの架け橋をすることが重要な役割だと私は思っています。引き続き、そこについてお骨折りをいただければと思っています。
※1 Cradioとは、複数の無線ネットワークの安定した通信品質を提供するための技術群です。環境の変化やユーザ要 求、電波状態に応じ無線ネットワークを動的に制御することで最適な通信環境を提供することを目的に、NTTアクセスサービスシステム研究所が開発を進めている技術であり、IOWNの構成要素の1つです。
※2 https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu06_02000431.html
※3 https://www.ntt-at.co.jp/news/2024/detail/release240620.html
■Wi-Biz通信(メールマガジン)の登録はこちら