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活動報告
第18回技術セミナー
「Wi-Fi 7」をテーマに3つの講演と熱心な討論

技術・調査委員会 市川 剛生

1月26日に第18回技術セミナーを開催しました。今回は「Wi-Fi 7がやってくる」と題して、アクセスポイントメーカー、チップメーカー、測定機器メーカーから3名の講演者にご登壇いただき、いよいよ国内でも正式解禁された新規格Wi-Fi 7の特徴やパフォーマンス、また将来の6GHz帯の周波数共用に向けての最新動向をご紹介いただきました。司会は技術・調査委員会の小松直人委員長が務め、ビーマップ様の会議室をお借りしてオンライン形式で実施し、2時間を超える充実したセミナーとなりました。

会長挨拶

 

 

冒頭、北條博史会長から挨拶があり、今回の技術セミナーは非常に注目度が高く、200名を超える方からの参加申込があったことの紹介がありました。Wi-FiアライアンスがWi-Fi 7の認証を開始したことに加え、昨年12月22日に無線設備規則が改定され320MHzの帯域幅の通信が認可されたことで、日本でも既にWi-Fi 7が活用できる状況となっており、今後の製品の展開が期待されると述べました。
また、6GHz帯の動向について、現在は屋内利用に限定されていますが、屋外利用に向けた周波数拡張・共用の議論がスタートしていることの紹介がありました。Wi-Fiの屋外利用の重要性として00000JAPANが令和6年能登半島地震の被災地で活用されていることに触れ、Wi-Bizとしても6GHzの周波数拡張・共用の議論に全力を尽くすと述べました。

Wi-Fi 7のスペック・特徴

 

 

1つ目の講演では、フルノシステムズの福田様に、Wi-Fi 7のスペック・特徴についてご紹介いただきました。Wi-Fi 7の特徴として高速化・効率化・MLOを挙げられ、それぞれ下記のようにご説明いただきました。

①高速化:4K-QAMと、320MHzの帯域幅に対応したことで、従来のWi-Fi 6/6Eの2.4倍の通信速度(9.6Gbps→23Gbps、規格値)が得られる。フレームアグリゲーションやBlock Ackの拡張も実効速度向上に寄与する。

②効率化:Wi-Fi 6で導入されたOFDMA技術を更に発展させ、Wi-Fi 7ではMRU (Multiple Resource Unit)が導入され、より効率的に複数の端末に周波数を割り当てることができる。また、Preamble Puncturing機能では、チャンネルボンディング利用時にその中の一部のチャンネルに干渉や妨害波などがある場合に当該チャンネルだけを不使用とするよう設定できる。

③MLO:複数のバンドをまとめて通信に使用する。大容量(=複数バンドを束ねて高速通信)、低遅延(=あるバンドで混雑や干渉があっても別のバンドで通信を継続)、高信頼性(=別バンドでの通信継続や、複数バンドに同じデータを流すこと)を実現できる。

これらの特徴を踏まえて、Wi-Fi 7の利用ケース例としては、
・AR/VR/XRアプリケーション
・多くの端末がWi-Fiに接続されているオフィス
・E-Sportsやゲーミング
を挙げられました。

6GHz帯の周波数共用の新しい仕組み(AFC)と
Wi-Fi 7の技術がもたらすWi-Fi利用拡張の可能性

 

 

2つ目の講演では、クアルコムジャパンの城田様に、6GHz帯の周波数共用の新しい仕組みであるAFC (Automated Frequency Coordination)の議論の動向をご紹介いただきました。
AFCはWi-Fi 6E、Wi-Fi 7で利用される6GHz帯を他システムと周波数共用する仕組みとして米国とカナダで導入されており、アクセスポイントの位置情報から、主管庁が一元的に管理するデータベースの情報を用いてアクセスポイントが利用可能な周波数チャネルや出力を計算する仕組みです。日本でもARIB 無線LANシステム開発部会においてAFC導入に向けた諸課題の議論が進められていることを詳細にご紹介いただきました。
全般的に北米で運用されているAFCの設計を前提とする方向性にはなっているが、北米ではAFCデータベースは認定登録された事業者によって運用されているのに対し、日本では国または国が指定する第三者機関がAFC事業者となるのが現実的と考えられており、その場合はAFC事業者の運営費用をどのように調達していくかが課題であると述べられました。またAFCの要求条件に合致した無線LANデバイスであるかどうかのテストや認証についても検討課題であると述べられました。
最後に、Wi-Fi 7のPreamble Puncturingは他システムとの周波数共用の手段として利用することが期待されており、DFSチャネルやAFCチャネルへの適用の議論を進めることをARIB 無線LAN開発部会で提案していきたい、と述べられました。

Wi-Fi7 パフォーマンス測定例

 

 

3つ目の講演では、東陽テクニカの西尾様に、Wi-Fi 7対応の測定機器を使用してのパフォーマンス測定についてご紹介いただきました。米国Spirent Communications社製「OCTOBOX」を用いて、テスト標準TR-398の内容を簡略化した形でWi-Fi 7アクセスポイントの最大スループットテスト、角度を考慮したスループットテスト、距離を考慮したスループットテストを実施した結果例をご紹介いただきました。従来のWi-Fi 6/6Eよりも高いパフォーマンスが得られていることや、遠距離では6GHzよりも5GHzのほうが高速となること、イーサネットのケーブルなどWi-Fi以外がボトルネックとなる場合があることなどが示されました。

QAセッション

 

 

最後に、QAセッションを、技術・調査委員会の本橋副委員長の進行で行いました。また、クアルコムジャパンの城田様はご都合によりQAセッションはご欠席となりましたが、セミナー中に寄せられた質問について後日に回答を寄せていただきましたので、合わせてここに掲載いたします。

・講演1(フルノシステムズ福田様)への質問

質問:4K QAMは数mの距離でしか使用できないと聞いたことがあるのですが、実際にどのくらいの距離で使用できるのか実例はありますか?
回答:実例はございません。設置状況をはじめとする周りの環境、設定によりますがご指摘通り10m以下になると考えています。

質問:効率化でご説明いただいた機能は、すべてのAP/STAで使える(必須の)機能になりますか?
回答:MRU、Static Puncturing(Preamble Puncturing)はサポート必須となります。

質問:MLOによる低遅延や高信頼性は、ローカル5Gや有線接続と比較してどうなのでしょうか?
回答:有線接続には勝てないと考えております。無線の特性上、有線よりも低遅延、高信頼性は確保できないのではないかと考えております。ローカル5Gですと、時刻同期をとって親機側がすべて制御しています。5Gの低遅延モードになると、Wi-Fiの方が遅延が大きくなると考えています。干渉がない前提であれば数msにはなるとお考え下さい。しかしWi-Fi 7は免許不要で数msの低遅延の恩恵を受けられることが優位な点と考えています。

質問:MLOはどのような設定をするのでしょうか?
回答:どのバンドをMLOに使用するかという点のみを設定します。それ以外は自動で割り当てになり、電波情報がより良いほうが優先的に使用されます。5GHzは10Mbps、6GHzは50Mbpsのような割り当ての設定ができるわけではありません。

質問:Wi-Fi 7では6GHzのサポートは必須になるのでしょうか?
回答:6GHzのサポートは必須ではありません。2.4G, 5G, 6Gいずれか1つでも問題ありません。

質問:Wi-Fi 7はWi-Fi 6/6Eに比べて、どのくらい遅延時間が減りますか?
回答:周りの環境に大きく影響されるため、定量的に申し上げにくいです。通信が高密度になるほど、Wi-Fi 7とWi-Fi 6/6Eとの差が広がり、80%近く減るケースもあります。

質問:Preamble Puncturingにおいて、リアルタイムで干渉を検出して自動で設定されるものではなく、事前に設定しておく必要があるのでしょうか?
回答:事前に設定する必要があります。基本的にはAFCとセットで運用することが前提の機能のように見えます。

質問:MLOの接続シーケンスは、どの周波数帯で行われるのでしょうか?
回答:2.4GHz/5GHz/6GHzのどの周波数帯でも行えます。

質問:1つのAPで、MLOを使っているSTAと、使っていないSTAを混在できるでしょうか?
回答:混在できます。実装によってはSSIDを分ける必要があります。

質問:MLOは複数バンドで同時通信するため、電池の持ちに影響があるのでしょうか?
回答:影響はあります。ただしTWTは使えるので多少は軽減されます。

・講演2(クアルコムジャパン城田様)への質問

質問:AFCシステムはローカル5Gの免許申請手続きの簡素化につながるような可能性のあるものでしょうか?
回答:AFCは免許不要局を運用するためのシステムであり、ローカル5Gの枠組みに当てはめることは難しいと理解しています。講演で説明したように、AFCはWLAN無線局間の干渉調整には使用されません。一方、ローカル5Gは無線局間の干渉調整が必要ですので、AFCを拡張して対応することは困難です。

質問:子局間通信とは、具体的な例としてはどんなものでしょうか?
回答:最も典型的なユースケースとしては、スマートフォン画面のミラーリングがあります。APを介す通信に比べて、無線リースの節約につながります。
そのほか、令和5年9月の投信( 情報通信技術分科会 陸上無線通信委員会 報告
https://www.soumu.go.jp/main_content/000901044.pdf)に事例が紹介されております。

質問:米国におけるAFC事業者はクアルコムさん以外にどのような企業がいますでしょうか?
回答:Qualcomm以外では12の事業者があります。Broadcom; Google; Comsearch; Sony Group; Kyrio; Key Bridge Wireless; Nokia Innovations; Federated Wireless; Wireless Broadband Alliance; Wi-Fi Alliance (WFA); Plume Design; and RED Technologies

質問:位置情報の取得には実際はどのような技術が使われるのでしょうか?
回答:GNSSやWi-Fi based Geolocationなどがあげられます。

質問:昨年12月のWRC-23においては、6GHz帯のアッパーバンドを、国際的にはセルラー用に割り当てることで合意されたようにも聞いています。このあたり、特に国内のWi-Fiの検討で影響があるかどうか、見解をいただけると助かります。
回答:このご質問については誰が回答するかによって答えが変わる可能性がございますが、日本としてはWRC-23の合意にかかわらず、国内事情に基づいて割り当てを検討すると説明しており、国内の議論は現在WLANへの割り当てを中心に進めております。Region 3に特定された7025-7125 MHzはこれまでの共用検討ではWLANとの共用の可能性が見いだせていない状況です。WLANより出力の高いIMTが共用可能となるためには、周波数再編かダイナミック周波数共用のような仕組みが必要になりますが、そのような議論はまだありません。7025-7125 MHzはAFCの対象周波数ではありませんが、6 GHzの上側をAFCを用いてWLANで利用できるよう業界が一致して取り組むことを期待しております。

質問:AFCを利用するためにAPはインターネット接続が必須という理解は正しいでしょうか? 言い換えると、インターネット接続できないAPは 6425MHz以上の周波数帯を使えないでしょうか?
回答:AFCサーバーの情報はURLで提供されますので、基本的にインターネット接続が必要です。6425 MHz以上は現在のところAFCを使用することのみが前提です。

質問:米国では民間の事業者がAFCオペレータとして積極的に手をあげているのに日本ではそうならないのは、日本に固有の難しい問題があるのでしょうか?
回答:これは弊社の見解ですが、日本でAFC事業者となるビジネスモデルが民間企業で見出せていないことが原因かと思います。

質問:米国やカナダでは、AFCの運用費用は誰が負担しているのでしょうか?
回答:AFCの運用費用はAFC事業者が自ら負担することが前提です。その運用費用を事業者それぞれのビジネスモデルの中で回収をしているとお考え下さい。

・講演3(東陽テクニカ 西尾様)への質問

質問:試験構成中のSTAの部分の「Pal-7-Open」とはどういう意味ですか?
回答:製品名です。Wi-Fi 7のAP/STAを疑似するものです。

質問:今回はMLOの測定例がありませんでしたが、測定機材としてはMLOも測定できるのでしょうか?
回答:最終版のソフトウェアでは対応する見込みです。

質問:6GHzの測定結果が5GHzの測定結果と比較して理論値から乖離がある要因には、どんなものがあるとお考えですか?
回答:AP側のファームウェアがまだ完成形になっていないものと思われます(西尾様) 無線信号処理上の負荷や、CPUの負荷への最適化が不十分と推測します(福田様)

質問:TR-398とWi-Fiのテストプランとの特徴の違いはありますか?
回答:TR-398はBroadband Forumが策定したもので、家庭用AP向けのテストとして、スループット以外の観点でも様々なテストが含まれます。

・全体への質問

質問:Wi-Fi 7が効果的なユースケースについての見解はありますか?
回答:大容量通信している端末と、小容量(IoT等)の混在しているときに効果があります。ローカル5Gではスライシングを調整する必要がありますが、Wi-Fi 7ではOFDMAやMRUで自動的に最適化されます。(福田様)
Wi-Fi 7対応の端末が普及する必要があります。(西尾様)
最大の優位性はMLOと考えます。ジッターの幅を一定範囲に抑えられます。それを活かせるユースケースが望まれます。(小松委員長)

 


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