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トップインタビュー
総務省 総合通信基盤局
電気通信事業部 電気通信技術システム課長
五十嵐 大和 氏
通信障害時の「00000JAPAN」の開放は大きな意義
通信基盤の安定と強化に取り組んでいく

9月4日、通信障害の発生時における公衆無線LAN「00000JAPAN」の開放が発表されました。総務省で電気通信事業者の設備に関する規律や電気通信事業の発達に関する技術等を所掌する電気通信技術システム課の五十嵐大和課長を北條会長とお訪ねし、今回の措置の意義を伺い、総務省の取組について述べていただきました。

 

 

–今回の発表はWi-Bizとしても大きな取組でしたが、実行まで迅速に進みましたし、業界でも評価されていると聞いています。やはり昨年のKDDIの大規模通信障害の衝撃と反省が大きかったのでしょうか。

五十嵐 それはあると思います。昨年7月の重大事故は何時間継続したかご記憶でしょうか。実に61時間25分です。普通の通話もできない、データ通信もできない、それだけでなく110番・119番・118番もつながらないという状態が長時間続きました。実際にKDDIの回線からの110番への件数が減っています。一方で公衆電話からのものが増えました。そもそも今は110番・119番・118番は65%が移動体からの発信です。そのような中で同社の電話から通話できない状態になってしまいました。同社回線について普段と比較すると、110番は45%減少、119番は63%減少。これは由々しき事態ということです。

事業者間ローミングの適用へ

総務省では、直後の9月に「非常時における事業者間ローミング等に関する検討会」の第1回会合を開催しました。事業者間ローミング、そしてローミング以外の通信手段の推進に関し検討が始まりました。その年の12月20日に第1次報告書がとりまとめられ、「フルローミング」の仕組みを検討していく必要があるとされています。

 

 

–事業者間のフルローミング方式で通信障害対応に取り組むということですね。

五十嵐 検討開始当時、私は着任前で全く別の仕事をしておりましたので、ローミングについてそれほど詳しくなく、「海外に行けば自然と使えるものであるし、それを国内で展開すればよいだけだろうから、すぐに実現できるのではないか」と思っていたのです。しかし、実際は全く違っておりました。海外ローミングの場合はすべての設備が正常に機能している前提で実現しているわけですが、非常時には何かに障害が発生しているわけですので、そもそも普段どおり、あるいは設計どおりにはならないことになります。その違いを改めて思い知らされました。

–海外のローミング方式をそのまま適用ということにはならないわけですね。

五十嵐 はい。障害への対応には、いくつかの類型があります。「台風が来て基地局が停止しました」というパターン、「電源が落ちてしまってバッテリーも切れてしまいました」というパターン、これらは一部の地域でその携帯電話事業者のサービスが使えないという状態です。
もうひとつは、昨年のKDDIの事故のようにコアネットワークに障害が起きてしまったという場合です。これですと、全国で一斉に通信障害が起きてしまいます。
コアネットワークが動いていれば、無線の部分だけ別ルートに迂回する形で、通話やデータ通信、もちろん110番・119番・118番もできます。これは国際ローミングに近い形になります。これを「フルローミング方式」と呼んでいます。
ところが、第1次報告書が策定された時点で、「KDDIのケースはこれでは救えないのではないか」、「110番・119番・118番はもっとシンプルな方法でつなげるようにできないのか」という課題が残っていました。それに応えるべく継続して検討していたわけです。
そして、今年の6月30日に第2次報告書として、検討結果がまとめられました。

–よりシンプルな、緊急通報の発信のみを可能とするローミングの導入の検討ですね。

五十嵐 そうです。「コアネットワークが壊れてしまった場合も119番・110番・118番だけは何とかする」という考え方のものが、「『緊急通報の発信のみ』を可能とするローミング方式」です。

 

 

「緊急通報の発信のみ」の方式ではシンプルが故に認証ができません。それによって電話番号を警察等に伝えることができないという技術的な課題が存在します。電話番号がわからないため、警察や消防等としてもコールバックすることができません。この点は制約ではありますが、とにかく緊急通報を可能な限りつなげることを目指して議論が続けられています。

–これは、いつからの予定ですか。

五十嵐 冒頭に申し上げたとおり、いずれの方式でも実現までに解決しなければならない課題がたくさんあります。事業者の準備が間に合うという点で2025年度末頃を想定しています。残念ながらすぐに実現できるわけではないのですが、今、鋭意準備をしていただいております。事業者間ローミングは、携帯電話会社の相互協力が一番大事なところですので、その各社が参加して作業班を2週間に1回のペースで進めています。

–携帯電話4キャリアの実務部隊が参加して作業を進めている。

五十嵐 そうです。総勢約280人にも及ぶ方々に参加していただき、多角的に取り組んでいます。また、中心にはTCA(電気通信事業者協会)がいます。テーマ別にワーキンググループが設置され、携帯電話事業者の設備に関する技術的な議論をしているワーキンググループもあれば、携帯電話端末の議論をしているグループもあります。また、運用の議論も重要です。ローミングの発動によってトラフィックが急増するかもしれませんし、そのときにネットワークをどうやって守るのか、など、運用を考えるグループもあります。非常に多岐にわたる課題に対して情熱的に取組を進めていただいております。

通信事故時に対応する公衆Wi-Fi

–この検討会のなかで、公衆Wi-Fiの話も出ていたわけですね。

五十嵐 はい。以前から自然災害のときに「00000JAPAN」を提供していただいていましたが、これを通信障害が発生したときにも活用できないかということで、とても強い要望がありました。当省としても、無線LANビジネス推進連絡会様(Wi-Biz)に検討をお願いしていました。
この度、開放が決まり、私どもも念願がかなったという気持ちです。

北條 Wi-Bizといいましても、00000JAPAN関連の主要メンバーは携帯電話キャリアの方なので、同じ会社のモバイルをやっている別部署の方との話し合いがあった上で、それをWi-Bizに持ってきて調整するという形になりました。

五十嵐 昨年の第4回会合で、Wi-Bizから説明を頂戴して、「何としてもつながって連絡したいというシチュエーションにある方は本当にこれで助けられる」、「命を助けてもらえるという状態になる」、「非常に大事な方法だ」という意見もあり、検討会としても共通の思いであったと思います。
非常時に情報を得るにはラジオ・テレビが頼りになりますが、こちらがどういう状態であるかということは、それらでは伝えられません。その点、双方向の通信手段が何かしらあれば、災害用伝言ダイヤルにつながるでしょうし、SNSなどにもつながります。本当にこれは重要な取組だと思います。
事業者間ローミングの開始にはあと2年半ぐらいかかるわけですが、Wi-Bizには5月に「00000JAPAN」のガイドラインを改訂していただいて、9月4日にスタートすることができました。

北條 もともと県ごとにボタン1つで開放するという仕組みはできているので、「スタートをどういう判断の順番でやりますか」ということをWi-Bizと事業者で相談しました。なお設定すること自体はそんなに問題ありませんが、実際の設定変更は、一斉に行われるのではなく、さみだれ的に「00000JAPAN」を開放していくことになります。例えば、障害が起きて6時間経って直りそうもないというと、開放判断の上、その後の数時間で順次開放していくという流れになります。

五十嵐 「発動のお願い」は、通信障害を起こした事業者から来る仕組みですね。

北條 それは障害を起こした事業者からの依頼になります。ただ、各事業者においては、障害を切り分けしている人と判断する人は、基本的に分けて冷静に判断していかないと、発動判断はずるずる遅れてしまいます。

五十嵐 昨年の障害のときに「00000JAPAN」が使えたら、多くの方のお役に立てたのではないかという思いがある一方で、「00000JAPAN」にどれぐらいトラフィックが入ってくるのか、という心配もあったかと思います。そう考えますと、とても重大な決断をしていただいたと感じます。

北條 災害のときは、あくまでも災害中なので、避難所からがんがんYouTubeを見る人はいないと思うんですけど、障害のときは普通に日常的な使い方をしますから、相当なトラフィックが来る可能性があります。キャリアがやっているWi-Fiについては、それなりの太さを持っているので、通信できなくなるということはないと思いますけれども、それ以外にボランティアで参加してくれる「00000JAPAN」についてはパンクして、本来使える人が使えなくなるという危惧はあるわけです。
なお災害時における利便性のために、「00000JAPAN」を吹くときはルールとして何も認証を付けない、暗号化もしないということが条件になっています。それから、WAN側が切れたときはLAN側の電波を止める、中途半端に吸い込む人をなくす、こういういくつかのルールを必須条件にしています。

五十嵐 そういう状況もありながらWi-Bizの皆さんのご協力で開放いただいたということで、そのご英断には心より感謝いたします。本当にありがとうございます。

北條 我々としても、ぜひやりたかったということと、これまでの「00000JAPAN」は被災地の通信手段を一時的に引き受けるだけという感じでしたが、非常時の冗長回線になると、回線の格が上がるというか、重要性が上がるということもあるので、気持ちを引き締めてやらないといけないなという思いはあります。

五十嵐 素晴らしいことだと思います。できれば、そういう事態が起こらないように努めることも必要ですね。

北條 私どもの委員会の中でも、「今日から運用開始しますが、これが使われることのないように」という意見でした。

五十嵐 それは本当に大事です。

通信基盤の維持と強化へ

–電気通信技術システム課では他にはどのようなことを担当されているのですか。

五十嵐 昨年の重大事故のときは、電気通信技術システム課にて対応したわけですが、その後、当課内の担当部署であった「安全・信頼性対策室」が「安全・信頼性対策課」として格上げされ、独立しました。今も、事業者間ローミングの検討などにあっては、その課と当然、連携しながら取組を進めています。もともと電気通信技術システム課の所掌は、「電気通信事業者の設備の規律」にあります。規律の維持に必要な資格制度もあります。電気通信主任技術者、工事担任者を当課で所掌しています。

–関連して資格制度も運用しているのですね。

五十嵐 はい。そして、もうひとつは「事業者と端末の設備に関すること(電波法に関するものを除く)」です。以前は端末も事業者の設備でありましたが、今は分離されていますから、別途規律の必要があるわけです。端末機器に関する基準認証制度というものです。

–事業法の技適ですね。

五十嵐 そうです、その関係です。これにより、端末が原因でネットワークに支障が起きることのないよう、技術基準を満たしていただいているわけです。以前は端審協(端末審査協会、JATE)が審査を実施していましたが、今では様々な企業や団体が登録認定機関となって、審査を実施できる仕組みになっています。当課では、登録認定機関の登録など、関連の制度を運用しています。

–電気通信設備、ネットワークと端末の適正な管理ということですね。

五十嵐 おっしゃるとおりです。所掌事務を整理すると、事業用設備に関すること、端末設備に関すること、資格制度に関すること、そして新しい技術に関することです。
新しい技術に関することとしては、研究開発の支援を行っています。将来、FTTHのような形で使われる、超高速でありながら、エネルギーをあまり消費しないタイプの通信技術です。次世代の光ファイバの適用領域としてはアクセス網と基幹網がありますが、当課ではアクセス網に関する研究開発を支援しています。アクセス網での伝送容量を上げて、ビット当たりの消費電力を下げることができるものです。

北條 端末からネットワーク、クラウドまで多岐にわたりますね。

五十嵐 はい、省内で関係する課も様々です。事業者のネットワークに使われる無線は携帯電話だけではありません。中継などではマイクロ波回線が使われていますし、衛星回線もあります。そういう場合には基幹・衛星移動通信課と電気通信技術システム課が連携して取り組むことになります。電波法の側面と電気通信事業法の側面と、観点の異なる両方の側面がありますので。
電気通信事業部は、主としてキャリアなど電気通信事業者と対話することとなります。料金、参入・退出などの規律もありますが、当課は技術とシステムの観点になります。大枠としては、設備の維持義務が法律で規定されており、「一定の条件・技術基準を満たすように維持・管理してください」という仕組みです。その中には「非常に大事な設備については予備の設備を用意してください」という規律もあります。そのようなわけで、事業者間ローミングや「00000JAPAN」につながってきます。このあたり、最初にご説明すべきだったかもしれません。
今回の通信障害発生時の「00000JAPAN」の開放は大きな一つのステップです。今後も引き続き日本の通信基盤のさらなる安定と安全な利用環境の確保に向けて、取り組んでまいります。


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