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海外情報 特別篇
東京都に聞く、OpenRoaming対応「TOKYO FREE Wi-Fi」サービス

株式会社グローバルサイト 代表取締役
セキュア公衆無線LANローミング研究会(NGHSIG/Cityroam) 副幹事
山口 潤

昨年のメルマガでOpenRoamingを取り上げました。この半年で世界各地から実装事例や対応機器の登場などが報告されるなか、日本においても東京都はOpenRoaming対応した「TOKYO FREE Wi-Fi」をスタートさせました。
今回は東京都へのインタビューを含め、日本におけるOpenRoamingのこれからを探っていきたいと思います。

OpenRoamingとは

本「海外情報」シリーズで初めて紹介してから時間も経っていますので、もう一度OpenRoamingについておさらいしたいと思います。

従来の公衆無線LANではWPA2 Personalもしくはパスワード無しでの運用が行われているため、悪意ある者がEavesdroppingといった手口で盗聴やEvil Twinによる成りすましなどを行う余地がありました。
大学や研究機関においては、この問題への対処として早くから802.1Xを使用したセキュアな認証でのローミング基盤のeduroamを開発し、全世界での無線LAN相互運用を実現していました。しかし、eduroamはあくまでも高等学術機関向けであり一般利用者には開放されていないこと、また全世界でSSIDを統一しなくてはならないということで、市井への展開することはできませんでした。
これらの問題の解決として、2016年にCity Wi-Fi Roaming Trialというプロジェクトがスタートします。eduroamと同様の802.1X認証と認証連携を用い、セキュアな接続を可能とするとともに、SSID統一という課題に対しては、Wi-Fi Allianceにより策定されたPasspoint技術を利用し、802.11uで端末の所属するローミングコンソーシアムの自動検出・接続を行う仕組みを用意しました。このプロジェクトは、日本からNGHSIG(Next Generation Hotspot SIG、現在のCityroam)が参加しています。
上記のプロジェクトや類似事例を統合し、2020年にWireless Broadband Alliance(以下、WBA)がスタートさせたのがWBA OpenRoamingとなります。

こうして2020年にスタートしたOpenRoamingは、ベンダー主導でロンドンのカナリーワーフを皮切りにヨーロッパの市街地などに設置され、日本においても公園や自販機、スキー場、レストラン、駅施設などで設置が進みます。その中、東京都は2021年度に設置した西新宿のスマートポールに実装し、実験を行なってきました。

TOKYO FREE Wi-Fi

東京都は今年(2023年)3月に、OpenRoaming 対応の公衆無線LANを都内で展開を開始する発表を行いました。
今回の施策では、東京都自らがプロファイルの発行を行なっていることが特徴です。都が設けた利用登録のページからプロファイルをインストールすることで、東京都の設置するスポットのほか、Cityroamなど国内外のOpenRoaming対応Wi-Fiスポットで接続することができます。もちろん、他の事業者が発行したOpenRoamingのプロファイルで東京都の設置するスポットでの接続することも可能となっています。

 

 

 

 

今回は、都における公衆無線サービスを扱う、東京都デジタルサービス局の平井様に施策の背景や狙いなどをお伺いします。

 

 

平井則輔さん
東京都デジタルサービス局 戦略部 デジタルシフト推進担当課長
2005年、ソフトバンクBB株式会社(現ソフトバンク株式会社)に入社。ソフトバンクネットワークの対外接続の企画設計、IPアドレス企画設計、各種ブロードバンドサービスの技術企画業務に従事。並行して、日本最大級、約7000名のエンジニアコミュニティであるJANOGの会長を務める(2017年〜2020年)。
2019年12月に東京都に入都。デジタルシフト推進担当課長としてTOKYO Data Highway戦略、街のDX、都庁のDXを推進中。ビートルズとヘビメタが大好き!

− 今回、東京都でOpenRoaming対応のサービスを行うに至った経緯を教えてください。

平井 東京都はもともと、オリンピック・パラリンピック競技大会を念頭に、訪日外国人向けTokyo Free Wi-Fiを整備しておりました。その後TOKYO Data Highway 基本戦略(以下、TDH)を機に、使いやすさやセキュリティ面を振り返り、海外他都市の事例を分析したところ、ニューヨーク市(Link NYC)のWi-FiではPasspointの技術が導入されていることを知りました。セキュアでシームレスに使える点が優れており、東京都でもさらに便利で安全なWi-Fi環境を整備していく必要があると考えました。そこで、Passpointの技術が活用されているeduroamやCityroamといった国際的な無線ローミング基盤を活用したローミング検証を行うため、「令和3年度スマートポール面的設置に係る事業者の募集」要件にその検証を盛り込みました。その検証による一般の方の利用状況などを踏まえ、令和4年度からOpenRoamingを推進していく方針を固め、3月にプレス発表という形に至りました。
(参考:https://www.digitalservice.metro.tokyo.lg.jp/tokyodatahighway/pdf/smart_pole_r3_4-6.pdf

個人的には、以前からeduroamの存在も知っていましたが、利用者が学校関係者に限られてしまうので、東京都が提供するWi-Fiサービスとしてはもっと多くの都民が使える仕組みが必要でした。
そんな中、後藤先生(東北大学 後藤英昭准教授、Global eduroam Governance Committee委員なども務める)や山口さん(筆者)の発表からOpenRoamingやCityroamの取組を知り、調べてみたのがきっかけです。

まずは、西新宿スマートポールで技術実証としてOpenRoaming対応したWi-Fiの提供をしました。実際にやってみると、特にプロモーションもなく海外の携帯電話事業者で契約した方や学生が使っている様子が確認できました。そこで、これは行けるなと感じ、翌年の令和4年度に実際に事業としてやっていこうという議論を始めました。

− 東京都ではモバイル網整備に関してTOKYO Data Highway戦略(以下、TDH)という施策を打ち出されています。TDHにおける公衆無線LANの位置付けを聞かせてください。

平井 TDHでは、当初は5Gのモバイルブロードバンドの早期展開を企図していました。しかし、昨今のモバイル網のトラブルもあり、5Gなどのモバイルだけでなく、Wi-Fiがあるということ、多層的に繋がるということが重要だと考えています。また、モバイル契約がない方向けにもWi-Fiは重要です。
そういった電波の道を多層的に整備することで、都民にデジタルサービスを届けるというのが、TDHの基本的な考え方です。

− ニューヨークではオンライン診療の予約セミナーなどが開催されています。東京都でも実際に都民に利用してもらうための施策はありますか?

平井 東京都デジタルサービス局内には、デジタルデバイドに取り組むチームがあり、各区市町村とも協働し、高齢者向けや心身障害者向けのスマホ教室を実施しています。また、TOKYOスマホサポーターという事業もあり、スマホの困りごとを一緒に解決するサポーターを募集もしています。

− OpenRoamingを採用したことで、ホテルや店舗に整備されたWi-Fiとの乗り入れも可能になります。民間事業者に期待していることはありますか?

平井 むしろ民間に広まってほしいと考えています。Wi-Fi事業者側が技術を有していても、店舗がOpenRoamingにしたいと思わなければ導入が加速していかないため、店舗のオーナー側からWi-Fi事業者に対してOpenRoamingにしたいといった声があがるよう機運醸成が必要と考えています。繋がる場所が増えることで、ユーザー体験が高まります。ぜひ一緒に広めていきたいと思っています。

− お忙しいところ、ありがとうございました。

 

東京におけるOpenRoaming

・IDの取得について
東京都のサイトよりサインアップを行うことで、プロファイルのインストールが可能です。
https://wi-fi.metro.tokyo.lg.jp/

また、au Wi-Fiアクセスアプリ(Wi2社提供)では、OpenRoaming接続機能があり、接続オプションをオンにすることで利用可能。Google Pixel、Samsung Galaxyでは端末に登録したアカウントで利用できる。

・東京都内の主なスポット
(東京都整備)3月29日のプレスリリース時点での情報
東京観光情報センターバスタ新宿
都庁第二本庁舎 3階
新宿都税事務所 本館4階、6階
都立大久保病院 3階外来待合
スマートポール(西新宿エリア)
※ 令和5年度中に、都有施設600か所超へ順次拡大する予定

(民間整備)
市ヶ谷コワーキングカフェ など

 

 

 


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