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トップインタビュー
日本ヒューレット・パッカード合同会社(HPE)
常務執行役員
パートナー・アライアンス営業 統括本部長
田中 泰光氏
日本のDX推進へWi-Fiはキーインフラ
Wi-Fiのビジネス活用には大きな可能性

Wi-Fi市場を世界的にリードしているヒューレット・パッカードで、日本のWi-Fiビジネスを推進してきた日本ヒューレット・パッカード合同会社(HPE)の田中 泰光常務執行役員に、コロナ禍を経て、今後のWi-Fiビジネス発展の方向を尋ねました。

 

 

コロナ禍の悪影響からは脱しつつある

–世界情勢を見ると、コロナ禍が収束傾向に向かい、ウクライナ戦争は長期化し、中国や北朝鮮の動きを考えると国際的な緊張、あるいは石油などの資源危機や物価上昇も厳しい状況だと思います。今年のビジネス環境の推移、市場の見通しについて、どのように見ていますか。

田中 コロナ禍での部材不足ですが、サーバ、ストレージ、ネットワークなどのハードウェアを我々は扱っているのですが、サーバとストレージはほぼ解消しました。ネットワークに関しては、アクセスポイントは1機種を除いて全て回復していて、その1機種も今月で全てバックログがはけると聞いています。スイッチ製品に関しては、あと2カ月ぐらいすると解消されると聞いています。
これはコロナ禍のなかで工場が動かなくなったという理由だけではなくて、コロナ禍での巣ごもり需要が生まれて、テレビ、ゲーム機、スマホ、タブレットなどが爆発的に需要が上がっていきました。こういうものは最先端のチップセットが搭載されているので、コンポーネントベンダーからすると価格も高くてマージンの高いものを優先して作ろう、使える工場はそちらに回しましょうということでシフトしたんです。
我々のエンタープライズ向け製品は、汎用的であり、長く使うものなので優先順位が下がって、物が回ってこないということがずっとありました。
コロナ禍も解消され、他の国は普通にオペレーションしていますので、日本もそろそろ通常ペースになってきていると思います。
そうなると、ニュースにもあるようにNetflixの解約率が高くなる、タブレット、スマホやPCが売れなくなるというようなことがあると思います。そうすると今度は、我々が欲していた製品向けの部材を作ろうということになってきて、解消されていくというのが今の見方です。
しかも、去年ぐらいまで「物が足りない、値段が上がる」状況にあり、インテグレータも「早く発注しないと入らないので、取りあえず発注してください」ということで、とにかく受注が多いという状況でした。「ブッキングが多くて、レベニューが低い」ということですね。
今年は物が入ってきているので、一気にそれが出ていっているような状態です。特に日本は年度末なので、3月はとにかくものを出そうということで、私たちの第1四半期が11・12・1月なのですが、分社化してから過去最高の売上げだということでした。コロナ禍が影響したといった意味では、そういう流れになっていると思います。

–滞っていた物流がようやくお客様の要望に即時で対応できるようになってきたということですね。

田中 そうですね。サーバだと一部、僕らが出せていなかったのに競合他社が出せていて、そちら側にシフトしたことがありましたが、今は製品が戻ってきたのと、コストが下げられているので、「価格も安くしましたよ」ということを喧伝している状態です。時間の問題だとは思いますが、徐々に戻ってきていると言っていいと思います。

–4月から始まる年度では、発注も受注も通常通りに戻りつつあるということですね。

田中 ネットワーク機器はそれでいいと思います。サーバ、ストレージは、すでに大丈夫です。

–円安の影響はどうですか。

田中 最近は少し落ち着いてきた感じはありますが、円安のためにArubaは価格を2回ぐらい上げざるを得ませんでした。サーバ、ストレージは上げないで耐えてきたのですが、それもだいぶ落ち着いてきたので、今年は通常通りの方向に戻りつつあると考えています。

 

DXプラットホームを推進していく

–日本の企業や自治体には、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進が求められています。この取り組みについて、どうご覧になっていますか。

田中 DXを進めるにあたって、HPE社内にも「デジタル・トランスフォーメーション・プラットフォーム」というプロジェクトを2年前に立ち上げています。DXPと呼んでいて、4つのバーチャルチームを作り、それぞれのビジネスユニットや営業部隊などから人を出してやっています。
1つが5G/IoT、2番目はDigital Workplace、それとData Management & AI、4番目がHybrid ITというものです。HPEが持っているのはネットワークも含めて基盤のところですので、基盤の上に立つソリューションのところで、さまざまなエコパートナーと一緒にソリューションを作っていきましょうということがテーマです。
ネットワークはネットワークだけで動くのではないのでネットワークとAIを混ぜるとどうなるだろうとか、5Gの基地局は扱っていませんが5Gのソリューションを持っている部隊がいるので、そことArubaが一緒になると何ができるだろうとか、デジタルトランスフォーメーションといった意味では、社内の取り組みとしては積極的にやっています。
我々は間接販売・直接販売の両方があるのですが、それをエンドユーザさんにも訴求していったり、パートナーさんにも訴求していったりしています。

 

 

–とかく日本はDXに遅れているのではないかと言われていますが、グローバルにビジネスをしているHPEから見て、日本のDX化はどのように映っていますか。

田中 遅れているという感じはしますし、その理由は何だろうと考えていくと、グローバルで見るとIT業界の人口比率は、「エンドユーザに7割、インテグレータに3割」がスタンダートです。日本の場合は真逆で、「エンドユーザには3割」しかいないんです。
昔は「IT部門に予算を渡して社内の共通のインフラをつくりましょう、5年に1回刷新しましょう」ということが当たり前だったと思いますが、デジタルトランスフォーメーションの場合は事業部門というかユーザ部門にIT予算を渡して、ここがデジタルの力を使って新しいビジネスをつくっていきましょう、効率化を図りましょうという形でやられるので、IT部門ではないユーザ部門にITの知識がない人がいると進まないのです。なので、デジタルトランスフォーメーションは日本でなかなか進みづらいということがあるかと思います。
何をもってデジタルトランスフォーメーションとするかということもありますが、今年度は法律の改正で「改正電子帳簿保存法」みたいな感じで、帳簿などをデジタル化することが行われています。しかし、それはDXの核心ではないと思います。
パブリッククラウドが一気に広がりました。なぜかと考えると、ハイパースケーラーは、「皆様がマルチテナンシーで使っていただけるインフラがありますよ」と売っているわけではなくて、AWSやAzureなどはパブリッククラウドの中にカスタマーオファリングが凄くたくさんあるんですね。なので、エンドユーザ部門はインテグレーションなしにボタン1つで月額いくらでシステムを瞬時に使える。だから、「DX」イコール「パブリッククラウド」と受け止められているのは、そういうことなのかなと思います。

–ITを理解していない人が多いから、手っ取り早く物をつくらなくてもやれるところにシフトしているわけですね。オファリングはベンダーが推奨するパッケージ製品というようなイメージでとらえられることも多いですね。

田中 そこに取り組むと大変ですからね。知識がなくてもアプリケーションが使えればいいということで、パブリッククラウドに移行しているのかなと思います。

–そういう日本の状態のなかで、HPEとしては、どういう取り組みを進めていますか。

田中 日本ではまだ弱いのですが、海外では結構やり始めているのですけれども、我々の製品を「as a Service」型で、月額いくらでという取り組みをやっていて、「GreenLake」というブランドでやっています。

 

 

オファリングを今、たくさん作り始めていて、既に70個以上あります。それで、これからはエコパートナーにもそれを開放して、この上で開発等をしていただけるようなものにしています。オンプレでもパブリッククラウドでも両方ともハイブリッドで使えるような会社を買収しています。私はArubaのときにマネージドでいろいろと推進していたので、マネージドサービスを提供するようなインテグレータとか、インテグレーションよりもマネージドサービスにシフトしていくインテグレータに、ソリューションをご提供していきたいと思います。
IT業界にいる人たちが、エンドユーザサイドにいきなり転職するということは、なかなかないと思うので、ユーザに価値訴求をしていたインテグレータに、そういうサービスを提供してもらうことを支援することによって、日本のDXは進めることができるのではないかと思って、それを進めたいと考えています。

 

Wi-Fiのセキュリティはますます重要に

–Wi-Bizでは「プライベートワイヤレスネットワーク」を提唱し、セキュリティを含めて、企業ICTの新しい取り組みを進めています。

田中 Wi-Fi事業者の方にディペンドしてWi-Fiのインフラを敷設していきましょうというユーザは減っているのかもしれません。コンビニの例でいうと、コンビニが「自分たちで構築しましょう」ということになることはあると思います。
ベンダーから見てWi-Fiの全体的な売上が下がっていくことは全くなく、逆にずっと2桁成長を続けています。先ほど申し上げた通り「受注が多くなって出荷が遅れている」ということがあったくらいで、全体的には上昇基調にあります。

–そういう流れだと、ユーザはセキュリティに高い関心を持ちますね。この分野で、HPEはどういう取り組みですか。

田中 もともとArubaのWi-Fiは凄くセキュリティを大事にしています。2003年の創業時に企業を対象としてWi-Fiを入れるときに、セキュリティがちゃんとしていないと入らないということで暗号化は当たり前で、コントローラに暗号化の鍵を持たせて、アクセスポイントにはそれを持たせない。だから、たとえアクセスポイントが盗まれても大丈夫と、そんなところから始めています。
暗号化方式に関しては常に早め早めに入れていくことに気を付けています。あとはセッションを全てDeep Packet Inspection(DPI)を行っているので、ファイアウォールの機能を持たせて、このユーザのこの端末でこの認証方式だったらポート番号はこれとこれしか開けませんとか、そのようなことも創業時代からやっています。
昨今ですとゼロトラストとか、SASE (Secure Access Service Edge)というキーワードがありますが、それを実現するために、きっちり認証しないと入れない、遮断してしまうということをやっています。SASEでは、インターネットセキュリティ会社と協業したり、最近では企業買収で自社でも提供しようとしています。

 

 

 

Wi-Fiのアドバンスとプライベートワイヤレスネットワーク推進

–Wi-Fiはもちろんですが、ローカル5G、LPWA、プライベートワイヤレスでは、いろいろなものが出てきていますが、今後の発展の方向とビジネス推進の考えを教えてください。

田中 HPEでもローカル5Gや5Gに力を入れていて、「コミュニケーションテクノロジーグループ」というArubaとはまた違う独立したグループがあって、そこで5G用のソリューション、ソフトウェアを開発しています。
ハードメーカーと組んで、うちのサーバ上で動くソフトウェアを作って、基地局の裏でそれをハンドリングするソリューションを展開しています。
企業の活用も連携してやっています。しかし、まだPoC的な段階です。

–ローカル5Gは、Wi-Fiにない品質とWi-Fiにないセキュリティというこので、ぜひ使って試してみたいということでPoCをやられる方が多いです。ただ、現段階では、そのPoCから抜け出て商用までいく事例がまだそんなに多くはないというのが課題と思われます。

田中 少し前は、「ローカル5Gイコール万能の神」みたいな風潮があったと思うのですけれども、やはりコストや対応している端末ということを考えてみると、なかなかそうは行かない。私は、ローカル5Gが万能ならプライベートLTEがもっと売れていてもよかったのじゃないかと思っていました。パフォーマンスも品質も置局設計をしっかりやれば、そんなに悪くはないですし、セキュリティといった意味でもSASEやゼロトラストなどの取り組みが出ているので、そこをやればいいと思います。

–ローカル5GはWi-Fiに比べて、導入コストとメリットを厳密に見ると、用途の違いはありますが、Wi-Fiでいいのではないかというケースは多いですね。

田中 特殊なアプリケーションがあって、干渉波が全くもって受け入れられ無いような用途であれば、それはローカル5Gがいいと思います。でも、それは、現状のコスト面から見て、世間一般的なものではないのではないかなと思います。

–Wi-Fi HaLow、つまり802.11ahについて、802.11推進協議会で勧めていますが、この方式については、どうお考えですか。

田中 我々メーカーとしては商業的に多数作って、それを販売していくというミッションを持っているので、ahが市場に多数受け入れられていけば、あとは対応するチップを我々が購入して、我々が作っているソフトウェアで対応させるということになります。市場が求めていて、我々が提供しないといけないとなれば、当然、引っ張っていきます。

DX推進でWi-Fiはキーインフラとなる

–今年でWi-Bizは10周年を迎えました。今後のWi-Bizの役割について、どう考えていますか。

田中 もともとの生い立ちでいうと、キャリア3社の皆さんで集まってホットスポットを「どうやってセキュアにしましょうか」とか、「共用していきましょうか」というところからの始まりなのかなと思っています。しかし、その分野は縮退していっている状況なのですが、トータルでのWi-Fiの世界はさらに広がっていっているわけです。
企業ユーザとコンシューマユーザとでは用途が違うと思いますが、企業であればどういう用途でWi-Fiを使っていき、ビジネスとして発展していくかが課題ですし、デジタルトランスフォーメーションを進めていく上でWi-Fiはキーとなるネットワークインフラなので、どういうユースケースでWi-Fiを使うとマネタイズができるかとか効率化を図ることができる等が問われていると思います。IoTにどうWi-Fiを活用していくのか、Wi-Fiでどう効率化を図れてデジタルトランスフォーメーションが進むのかなどです。
DXはトップラインとボトムライン、つまり経済のことだと私は思っていて、結局はこの2つで利益が生まれるので、そのためにデジタルの力を使っていきましょうということなので、Wi-Fiはそういった意味では凄く可能性を秘めていると思います。
レイヤの低いところの、どういう通信形態で何々をやりますということは、それはそれで大事だと思うのですが、どんなアプリケーションをどんな用途に使ったらいいかというようなことが、もう少し啓蒙活動ができるようになるといいと思います。Wi-Bizとしても、そういうところで今後生きてくるのではないかなと思っています。

–Wi-Bizとしては、Wi-Fiの共通基盤のところを日本に普及をさせていくようことが使命でした。今は、「プライベートワイヤレスネットワーク」の普及ということで進めています。Wi-Fiだけではなく、ローカル5Gも、LPWAも含めて、プライベートワイヤレスの基盤の推進に努め、そのためにもソリューションを推進するというのは、一つの曲がり角にいるといえますね。

田中 Wi-Bizは「ビジネス推進」とありますので、なかなか難しいとは思いますが、ユーザコミュニティみたいなものがあって、そこでベストプラクティスをシェアできるような、またユーザの事例がもっと出てくると面白いのではないかと思います。

–それはそのとおりですね。10周年を記念して、そういう新たな取り組みを是非、進めていきたいですね。


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