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トップインタビュー
パナソニック コネクト株式会社
現場ソリューションカンパニー
現場ネットワーク事業本部 本部長 野口 太一 氏
お客様の現場にイノベーションをもたらす
「マルチネットワーク+ソリューション」で顧客価値を創出

昨年4月に発足したパナソニック コネクトは「現場から 社会を動かし 未来へつなぐ」をパーパスとして掲げています。その中で国内のソリューション事業を担当する現場ソリューションカンパニーは、現場マルチネットワークサービスにより顧客価値を提供する事業に取り組んでいます。現場ネットワーク事業本部長の
野口 太一氏に、今年の事業戦略と取り組みの方向性について、尋ねました。

 

 

 

現場のオペレーションをイノベートしていく

–パナソニックグループの中で、パナソニック コネクトはどういう位置づけなのですか。また、その中の現場ソリューションカンパニーのミッションは何ですか。

野口 パナソニックは昨年4月、持株会社制に移行し、そのなかのコネクティッドソリューションズ社はパナソニック コネクト株式会社として新たに生まれ変わりました。

 

 

パナソニック コネクトはお客様の現場をイノベートすることを仕事にしており、「現場から 社会を動かし 未来へつなぐ」というパーパスを掲げています。図にあるように、「テクノロジー」「エッジデバイス」「ソフトウェア」「コンサルティング」「サービス」が我々の持つケイパビリティであると考えています。
それらをしっかりと組み合わせて、4つの分野、「サプライチェーン」「公共サービス」「生活インフラ」「エンターテインメント」に対して、現場を変革するソリューションをお客様とともに創って行きます。
こういう活動を通じて、サステナブルな地球環境や社会へのお役立ち、また生活者のウェルビーイングを実現していく、そういったことが我々の役目であり、パーパスであるという認識です。

 

 

我々が大事にしていく価値観・行動指針を「Our 5 Core Values」ということで定めています。一番上に書いてある「Connect」が1つ目です。これはお客様とつながるということもそうですし、さまざまなパートナー様とつながるということも意味します。また、社員と社員などのさまざまなメンバーがつながり合うことによって、高い付加価値を生み出して、生産性の高い仕事をするといった意味も込めています。
それから、「Empathy」です。これは共感・共創です。「Results」、結果にこだわる。「Relentless」、たゆまぬ変革です。そして「Teamwork」、衆知を集める。この5つを私たちのコアバリューとして制定して、これらに照らし合わせた行動を日々実践しているかどうかを、社員全員の評価基準として置いています。

リカーリング型ビジネスの推進

 

 

これは、パナソニック コネクトの中期戦略を示したスライドです。左側のソフトウェアベースの事業を成長事業に置いています。右側のハードウェアベースの事業がコア事業です。中長期の戦略としては、ハードウェアベースのコア事業を安定した収益源に置きながら、ソフトウェアで稼ぐ会社に変革を目指しております。我々「現場ソリューションカンパニー」は、こちらの成長事業の領域に所属しています。

–コア事業は製品ベースのビジネスで、成長事業はソフトウェアベースで付加価値型を狙っているわけですね。

野口 コア事業の「プロセスオートメーション」はFactory Automationの機器で、製造業の物づくりを支える生産ラインの機器をシステムとして納めていて、「アビオニクス」は航空機の機内エンターテインメントのシステムを担います。
「モバイルソリューションズ」のところは、Let’s noteや、堅牢型のタブレットなど、そういった特徴ある商品を作っている部門です。「メディアエンターテインメント」は、放送局向けのスイッチャーや、プロジェクター、サウンドシステムなどの映像音響機器を作っている事業体です。

–現場ソリューションは、成長事業の分野に入っていますね。

野口 現場ソリューションカンパニーは、官公庁や社会インフラ系企業を中心に多くの法人様とリレーションを有していますので、これまでも営業、SE、保守を含めて当社社員がお客様の現場に入り込んでお客様の経営課題を解決するソリューションを提供してきた経緯があります。
このお客様接点を通じて、現場最適化ソリューション事業本部、現場センシング事業本部、現場ネットワーク事業本部、映像メディアソリューション事業本部という4つのソリューション部門が新たなサービスを創出し、プラットフォーム部門、営業部門と一体となってお客様に寄り添い、現場から経営課題を解決するソリューションを提供することで、成長事業を牽引します。

 

 

「現場最適化ソリューション事業本部」は、サプライチェーン向けにSaaS事業を展開しており、流通系の法人に提案を行っています。大手法人系を中心に、サプライチェーン領域のお客様に、現場を見える化、標準化して最適化するというサイクルをビジネスとして提供していく取組を行っています。「現場センシング事業本部」は、画像処理技術やセンシング技術を中心にセキュリティカメラ等々のシステム提供や、顔認証システムなどの提供で、社会課題やお客様の経営課題の解決に貢献しています。
「映像メディアソリューション事業本部」は、NHK様や民放様を中心に映像制作設備や局内設備等々を提供している事業体です。「現場ネットワーク事業本部」は、自治体向けの防災行政無線、あるいは官公庁様向けなどの業務用無線システムを扱っています。加えて、Wi-Fi、ローカル5GやプライベートLTEといったIPベースの無線ネットワークをマルチに提供していく現場マルチネットワークサービスの事業に取り組んでいます。

安心・安全、効率化がますます重要になる

–2023年は引き続きコロナ禍4年目となり、ウクライナ戦争と国際緊張、資源危機と物価上昇など多くの課題がありますが、ビジネスとしてはどういう年になると展望されますか。

野口 コロナもそうですが、世界的な半導体不足や原材料高騰等々の課題は、我々の事業にも大きな影響を与えてきました。とは言え、2023年度についてはコロナも5類にという話もあり、コロナとの共存で国内需要もそろそろ回復してくるのではないかと見ています。
併せて在宅ワークで、我々の働き方も生活の仕方が大きく変化し、定着してきていると見ており、我々が事業の母体としている通信ネットワークの役割が、ますます重要になってくると前向きに捉えております。
厳しい環境で求められてくる安全・安心や、オペレーションの効率化みたいな領域の中でも、ますます我々が担当しているネットワーク事業は重要性が増してくるのかなと考えており、そこにしっかりと貢献していくことが、今、私が見ている展望、想いです。

–少し円高に戻していますが、各社とも原材料の調達と価格上昇について非常に困っているというか、「予想以上に大きい」という話を聞きます。

野口 数値的に具体的にお答えできない部分でもありますが、今年度の下期に入ったころの試算でも、円高を含めた事業への収支影響は、非常に大きいと感じます。若干緩和方向にはあるとは思いますが、非常に厳しい環境が続いているのは事実と認識しています。

–データセンターの電気代とか非常に具体的な話ですが、無視できない額になるとよく聞きます。

野口 私どももクラウドサービスを提供していますが、ランニングコストなどにも大きな影響があります。しかし、この厳しい環境の中で、どうやって私たちのソリューション価値でお客様の期待に変えていくかという事が重要ですので、様々な取り組みも行っております。

先端事例を作ることでDX推進に貢献していく

–激動期の中で、日本は多くの課題をDXに取り組むことで解決を図ろうとしています。大企業はもちろんですが、中小企業の革新という点では、パナソニック コネクトもDX推進を大きなテーマにされていると思います。

野口 我々が日本もしくは世界のDXにどう貢献していくかという部分でいうと、2つあると思っています。1つは、先ほど「世の中のお客様の経営環境を見える化し、標準化して最適化して回していく」という話を現場最適化ソリューション事業という形で申し上げましたが、そこにネットワーク事業としても、どう貢献していくかということが、まず1つ目かなと思っています。
もう1つは、我々の強み、つまり、センシングやメディア関係、映像系のソリューションでどう貢献していくか。ますます大容量のデータが使われてくる、活用されてくる世の中に対して、ローカル5Gを含めて、我々がどう貢献していくか。この2つが我々ネットワーク事業本部としてのDXへの貢献の肝になる部分かなと考えています。

–日本のDXといった場合、大企業は賃上げに前向き、ただ中小の7割は「考えていない」とか「できない」というようなことが言われています。日本の中小企業の活性化にはどのように取り組みますか。

野口 我々がしっかりと国内、それからグローバルを通じて、プレゼンスをしっかり上げていくことが必要だと思っています。それは事業として元気になっていくところもそうなのですが、少し考え方を考えると、先ほど申し上げたようなサプライチェーン領域で投資に対するリターン、ROIが回るモデルとなるユースケースを実績としてつくって、それを安価にスケールしていくような活動を、我々が取り組んでいかないといけないのかなと考えています。
ただ、これからの時代、中小企業もグローバルに打って出られるように、環境も変わってきていると思いますので、よりソフトウェア寄りの発想やビジネスで、存在価値を中小企業自ら出していくことも必要なのかなと思っているところです。

「現場マルチネットワークサービス」がキーコンセプト

–御社の今年の事業戦略、事業計画、主な取り組みを教えてください。

野口 では、現場ネットワーク事業本部としての事業推進状況、納入事例についても触れさせていただきたいと思います。
我々としては、ネットワークという名前が付いていますが、ネットワーク自体は、課題解決策、ソリューション提供のツール、手段だと考えています。我々はネットワークの長年積み重ねてきた知見を生かしながら、ソフトウェアやエッジデバイスを含めた我々が保有しているソリューションを、お客様の課題解決のコンサルティングも含めて、最適な形で導入支援や構築・運用・サポートまで一体的にワンストップで提供していくこと、それがこの事業の考え方です。

 

 

現場ネットワーク事業本部は、これまでは上段に書いてあります「公共(社会インフラ)」という領域で、防災無線や民需を含めた各種無線機器などで貢献してきましたが、これをサプライチェーンの領域、「製造」「物流」「流通」といった領域に広げていくツールとして、「現場マルチネットワークサービス」をローンチしているというのが、この2年間の重点の取り組みです。
では、現場マルチネットワークサービスは具体的にどんなものなの、ということを次に表しています。

 

 

なぜマルチという言い方をしているかというと、我々のお客様は、広い敷地をお持ちのお客様が多いのですが、「敷地内で5Gを構築したい」という話があるときに、広大な敷地を全部ローカル5Gで構築するとコストも掛かります。そこで、5Gコア配下に、必要なところ例えばオフィスなどではWi-Fiネットワークを構築したり、敷地全体はsXGPネットワークで「音声通話」を実現したり、工場などの映像を大量にアップリンクする必要があるところにはローカル5Gネットワークで構築したりと、最適な提供を実現できるネットワークということでマルチネットワークと申し上げています。
また、これらをリモートで我々のネットワークオペレーションセンターから監視するサービスも提供させていただくことで、よりお客様の安全・安心あるいはDXに貢献していくことを目指しています。

–これは、モデル的なシステムのコンセプトでもありますね。

野口 そうですね。その一つの事例として、プラント業界のお客様に納入させていただいています。

 

 

当初「Wi-Fiでエリア構築したい」というご要望があったのですが、防爆エリアですので、その広大な敷地内を整備すると膨大な整備費用になりました。そこで、「防爆エリア外からBWAの電波で吹いてネットワーク構築する」というご提案をさせていただき、導入コストを約10分の1程度に抑えさせていただいたという事例です。
BWAの運用の中で映像を使ったSOLのニーズが高まり、その実用化のため、別の事業所にはローカル5Gをご検討いただきました。「期待される効果」ということで書いていますが、映像データ等を活用させていただきながら「現場作業の省人化」や「技術伝承の円滑化」「遠隔指示」などでご活用いただく中で、「もっとアップリンクのスループットを上げたい」というニーズをいただいて、ローカル5Gでの構築という形で対応させていただいています。

–ローカル5Gは、PoCは盛んですが、実運用フェーズで導入する事例は少ないと思います。貴重な例ですね。

野口 プラント系のお客様はインフラ整備を先行的に進めていき、並行しながらユースケースをつくっていく事例が多いですので、そういうしっかりした事例の典型として、これからもこうしたソリューション事例をつくっていき、パナソニックの事業としてだけではなくて、日本全体のローカル5G普及の加速に貢献したいと強く思っています。

課題を解決するソリューションこそが価値を創出

–まさにモデル的な良い事例だと思いますが、これを構築することができた、御社の強みというか特徴は何でしょうか。

野口 私どもは長い間、キャリア様の置局設計をお手伝いさせていただいた経緯があり、ここでもその経験を生かしてエリアシミュレーションをかなり綿密にご提案の中に盛り込ませていただき、現場の環境に合わせて最適なエリア設計ができるようにしたことも、隠れた功績かなと思っています。
エリアシミュレーションや、お客様の運用に根差した提案がどこまでできるかということがポイントであり、特徴だと思っています。
さらに、当社はネットワークだけではなくて、そこに組み合わせるさまざまなコアデバイスや、課題解決ソリューションがございます。それらとセットで組み合わせてご提供することで差別化を図っていくことが強みであり、特長です。

 

 

–ユーザにとってみればネットワークを入れること自体が最終目的ではなくて、そこで何をするか、ソリューションでどう課題を解決するかということですからね。

野口 お客様の課題解決を価値として提案することが重要だと考えます。そういう価値訴求の部分を事業の起点に置いて進めています。

 

 

 

そのような観点で、顧客価値の創出をしている事例を少しご説明させていただきたいと思います。これはWi-Fiでの事例を中心にまとめています。
まず学校ですが、これは某スポーツの名門校なのですが、こちらのスポーツ選手の映像を技術の向上につなげるような事例がございます。校舎とグラウンドの距離が離れていて、有線ケーブルを這わせる工事をすると、大きなコストが掛かるところを、当社の5Gゲートウェイを使用して、コストを抑えてWi-Fiネットワーク化したというものです。
2つ目はイベント会場での顔認証のチケットサービスです。こちらは顔認証のチケットサービスを無線回線で提供するという事例です。イベントは、野球だけではなくてコンサートもあれば、いろいろなものがあります。コンサートも主催者が、どのチケット会社かというのもばらばらですので、そういうときに一時的に会場設置するのが結構手間です。それを有線配線の手間を省いて、簡単に一時的に無線で構築しています。無線環境での高スループットも訴求ポイントになっています。
3つ目は、「地下施設での点検・業務支援」ということで、電力会社や水道施設などでのニーズが高く、地下でなかなかキャリアネットワークの電波が届かないところに、ネットワーク提供をしてきた事例です。
4つ目は、「介護施設での見守り」ということで、介護施設の入居者の見守りや、介護業務のICTのネットワークという形でWi-Fiで構築する引き合いが増えている事例です。要介護者の方のライフログという言い方をしていますが、異変が起こっていないかとか、テレビはついていますかとか、エアコンは入っていますかとか、そういったことを調べて対応をスムーズにするものです。
こういった形で、Wi-FiやLPWAなどさまざまなネットワークを我々が開発して、コーディネートして、価値をお客様に提供していく取り組みを進めています。

–顧客価値を高めるためには現場マルチネットワークサービスでなくてはならず、またそれを本当に生かしてこそ価値訴求のシーンが増えてくるという考えですよね。

野口 現場マルチネットワークサービスは、幅広い知見のあるメンバーを有していますので、痒い所に手が届く提案をさせていただきたいと思います。
例えば自治体様で「避難所の開設を有事にスムーズにやりたい」という話がございました。避難所の開設にあたり避難所の収容人数に対する避難人数の把握が課題でした。避難所の中に何人入ってきているのか、それを掌握することが重要でした。当初、カメラの遠隔モニタリングをご提案しましたが、回線がボトルネックになりました。そこで、お客様の予算や現場環境に合わせて、画像認識でテキスト化した人数データをLPWAで送るというご提案に変更させていただき回線容量課題を解決し、大変喜んでいただきました。
まさにお客様のコスト感や利用ケースに合わせて最適なネットワークを提供させていただく、そういうことがこれからの事例かなと思っています。
顧客価値の創出というところが出てこないと、先ほどのローカル5Gの普及も含めた閉塞感がなかなか払拭できないと思うのです。

10年の実績の上にこれからもチャレンジを

–Wi-Bizは創立10周年を迎えました。Wi-Biz活動をリードしていただいているわけですが、10周年にあたってWi-Bizの新たな役割と期待ということでお願いします。

野口 この10年で、無線LANの規格の進化や普及、それから00000JAPANの社会実装など、多大なる実績を挙げられてきていて、またそういったところを活用させていただきながら、我々のビジネスも推進してきたと思います。これからの先の10年、20年というのは、今まで以上にもっと複雑化してきたり、想定もつかないことが起こってきたりすると思います。我々としては、安全・安心というところでさらに貢献していきたいと考えています。また、今、新規事業でチャレンジしているようなサプライチェーンマネジメントのところを効率化・最適化していく上でネットワークの価値を、どんどん研ぎ澄ませていく必要があるのかなと思っていますので、それをしっかりと一緒に進めていきたいというのが思いです。是非、引き続きWi-Biz、それからワイヤレス業界の皆さんと、パナソニック コネクトとしてネットワーク技術の多様化への対応やユースケース創出に貢献していきたいと思いますので、今後とも引き続きよろしくお願いいたします。

 


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