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海外情報
海外のOpenRoamingとOpenWiFiの状況 その3

株式会社グローバルサイト 代表取締役
セキュア公衆無線LANローミング研究会(NGHSIG/Cityroam) 副幹事
山口 潤

 

今回は「OpenWiFi」を取り上げます。OpenWiFiは「Telecom Infra Project(TIP)」によるエンタープライズグレードの無線LANアクセスポイントファームウェアやクラウドコントローラーを構築するためのSDKを含むコミュニティ開発のプロジェクトです。
2021年5月にリリース1.0が発表され、以降もオープンコミュニティにより日々開発・検証が行われています。

テレコム分野におけるオープン化の流れ

Facebookは2009年にデータセンターにおけるサーバやストレージ、サーバラックといったハードウェアの分野で、標準化、オープンソース化を行うためのプロジェクトを社内で開始しました。
2011年にはそれをベースにMicrosoftやGoogleなども参加する「Open Compute Project(OCP)」が非営利団体として法人化されました。
Facebookはテレコム分野でもオープン化、機能分離化を促進し、相互運用性のある仕様を策定することで、ベンダーに固定されない、必要な時に必要な部分だけアップグレードが可能な柔軟で効率的な設計、構築、展開を行うことができないかと、2016年に姉妹プロジェクトとしてNokia、Intel、ドイツテレコム、EEなどとともに「Telecom Infra Project(TIP)」を立ち上げます。
現在では運用事業者、サプライヤー、開発者、インテグレーターなど、500以上の組織が参加しています。日本からはNTT、KDDI、楽天モバイルといった通信事業者やNEC、富士通、アンリツ、NTTデータ、住友電工などが参加しています。

OpenWiFi

OpenWiFiはTIPの「Open Converged Wirelessプロジェクトグループ」と「Wi-Fiソリューションプロジェクトグループ」が中心になってスタートしたプロジェクトです。
無線LANにおいても、マネージドサービスの普及が進み、アクセスポイントとコントローラーが密接に動くようになり、他のテレコム分野と同様に相互運用性の課題が出てきました。
また、アクセスポイントサプライヤーにとっても、Wi-Fi6、Wi-Fi6E、Wi-Fi7…、Passpointへの対応やOpenRoamingとの互換性、マネージドサービスへの対応など、常に進化する技術をキャッチアップしていく必要があり、研究開発費の増大という問題がありました。
OpenWiFiは、シームレスに連携するように設計されたエンタープライズグレードのアクセスポイントのファームウェアとクラウドコントローラーSDKを無料のオープンソースソフトウェアとして提供することで、それらの課題に取り組もうとしています。

 

 

OpenWiFiの位置付け

 

OpenWiFiを導入することでのメリットとしては、次のように考えられます。
・サプライヤー
Wi-Fi6やPasspoint、OpenRoamingへの対応などが機能セットとなっており、開発コストの削減と市場投入までの時間が短縮できる。

・運用事業者
標準化された仕様に則っている機器であれば、メーカーを問わずに増設やアップグレードを柔軟に行える。クラウドコントローラーSDKを元に自社に必要な機能を追加できる。

また、これに加えOpenWiFiスタックを利用したセキュリティやアナライズなど、他分野のソリューションとの連携も期待されています。

OpenWiFiサプライヤーとして、市場ではいままで目立たなかったインドやイスラエルなどの企業や、分野外からの参入なども見受けられます。運用事業者も途上国での低価格ワイヤレスアクセスへの期待もあり、アフリカや南アメリカの動きが注目されています。

フィールドトライアル

ヨーロッパでは欧州委員会により、公園、広場、公共の建物など、公共スペースでの無料公衆無線LAN接続を促進する「WiFi4EUイニシアチブ」というプロジェクトが進行中です。アイルランドのダブリン市議会は、これにOpenWiFiを投入することを決定しました。特にヨーロッパにおいては自治体の調達に透明性が求められており、オープン化はそれに適った手法です。
今回のフィールドトライアルでは、アクセスポイントは台湾EdgeCore NetworksやインドのIO社、クラウドコントローラーはカナダNetExperience社のものを使用します。いずれもOpenWiFiに準拠したもので、相互運用性のテストが行われます。
この他にもケーブルテレビ事業者などが、既存のブロードバンド顧客への付加価値としての無線LANに注目しており、マネージドサービスなどへの導入に向けてのテストが行われているようです。

OpenWiFiのこの先

このように今後が期待されているOpenWiFiですが、プロジェクトを牽引してきたMetaは、11月に1万人以上の人員削減を発表しました。OpenWiFiも影響は避けられず、チームは解散となり、メンバーの半数が同社を去り、他のキャリアやベンダーなどに移ったという話を聞いています。
ただ、途上国における低価格ワイヤレスアクセスの需要は増え続ける中、OpenWiFiへの期待は高まっています。Metaの存在が薄くなる今後、新たな舵取り役はどうなるのでしょうか。(日本の事業者の参画とイニシアチブにも期待しております)

 


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