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スペシャルトピックス  オンライン座談会
「Wi-Fi 6E」のインパクトと実用化への展望

出席 北條博史会長、田中泰光副会長(HPE)、山田雅之氏(HPE)

 

 

Wi-Fi 6の周波数を6GHz帯まで拡張する「Wi-Fi 6E」の検討が進んでいます。Wi-Fi 6Eの導入メリットと現在の進捗状況について、HPEの責任者でWi-Bizの副会長の田中泰光氏と、同じくHPEの技術担当の山田雅之氏を迎えて、オンラインでお聞きしました。

Wi-Fi 6の技術的特徴

――モバイル通信では5Gがスタートしていますが、Wi-Fiでは最新規格の「Wi-Fi6」の製品がメーカ各社から出ていよいよ普及が始まりました。
9.6Gbpsの高速通信と効率伝送が特徴のWi-Fi 6への期待は高いわけですが、そのWi-Fi 6を6GHz帯まで拡張する「Wi-Fi 6E」が実用化に向かって取り組みが進んでいます。
帯域が大幅に拡張されることによりWi-Fi 6Eの機能も大幅に向上することになります。
まず、Wi-Fi 6Eの機能はWi-Fi6のものをそのまま持ち込んでいると聞いていますが、そもそもWi-Fi 6の新機能、いわゆる「売り」はどこにありますか。

山田 Wi-Fi 6の通信規格である802.11axは「高効率無線LAN」と呼ばれており、最大通信速度を向上させるために作られた802.11ac規格とは異なり、デバイス1台当たりの平均スループットを向上させることを主目的に作成されました。
Wi-Fi 6では、通信方式としてOFDMA方式が採用され、これにより通信効率が向上します。これまで、同じタイミングでは、1台しか送信できませんでしたが、OFDMAにより、複数のユーザが同時に通信できるようになりました。
さらに、802.11acでは下り通信だけで導入されていたMU-MIMOが上り通信にも導入されました。これらの機能が導入されたことにより、多くのユーザが同時に通信することが可能になりました。Wi-Fi 6の一番のメリットはこの通信効率が向上だと思います。
この効果は、オリンピック観戦のような多くの端末が通信するようなところで、メリットが出てくると思われます。
ほかにも、BSS ColoringやTarget Wake Timeなどの新機能も加わっています。特にTarget Wake Timeは端末の省電力を実現する機能になりますので、Wi-Fi 6のIoTへの利用を加速することが期待されます。

田中 スタジアムなどではもちろんメリットがあるのですが、今、企業内ではDX(ディジタルトランスフォーメーション)が叫ばれています。例えば日本の場合には、多くの製造業の工場で使うことが考えられています。そういった場合は、IoT機器、センサーや多種多様なものをネットワークにつなげましょうということになってきます。Wi-Fi 6はそこに対して大きなインパクトがあると思っています。IoT機器、特にセンサーにおいてはアップリンクが重要になるので、先ほど出てきた上りのMU-MIMOの効果が出てくるものと思います。
市場では、単にスピードが速くなったという認識しかないかもしれませんが、多数の機器を同時通信させることができるという観点から、また遅延とかが許せないようなIoT機器やアプリケーションにも有効活用できるといったことを期待しています。

――Wi-Fi 6の利用事例として、九州工科大学では多数の学生が受ける講義で使われ、伝送効率が高く多数同時接続でスピードが落ちないというメリットがあったと聞いております。他にも大型複合施設である「ところざわサクラタウン」で、Wi-Fi 6を活用している事例が紹介されています。
Wi-Fi 6のメリットが生かせるユースケースとしてはどうまとめられますか。

北條 まず、Wi-Fi 6の新機能と具体的なメリットについて図表1にまとめました。山田氏の話にあった通り、Wi-Fi 6のOFDMAや上りのMU-MIMOなどによう通信の大容量化が最も大きなメリットになります。

 

図表1 Wi-Fi 6の新機能とメリット

 

また、Target Wake TimeはWi-Fi HaLow(802.11ah)に具備された機能ですが、これまで短時間しかスリープできなかった端末を長時間スリープすることができる機能になりますので、IoTの利用形態で、端末の電池駆動などが可能になります。
さらに、Wi-Fi 6の機能ではありませんが、同時期に出てきたWPA3などのセキュリティの向上は、これまでセキュリティに不安があったWi-Fiを大きく改善してくれるものと思います。
実際のユースケースではどうかというと、一般的には、鉄道の駅や空港など多くの人の集まるエリアで効果を発揮すると思います。また、スポーツスタジアムなどエンタメ施設や展示会場などでは、Wi-Fi 6の大容量がまさにはまっているところだと思います。
人の多く集まるエリアでは、携帯通信そのものも混雑しており、Wi-Fiに関してもこれまでは通信が不安定になる現象が発生していました。Wi-Fi 6は同時接続数の向上や通信容量の増加が見込まれるため、体感品質を大きく改善できると思われます。
なお、さらにエンタメ施設などでは、最近VR/ARが利用される場合がありますが、Wi-Fi 6の大容量化や低遅延化が効果を発揮するものとして期待されています。

Wi-Fi 6E登場の背景 

――「Wi-Fi 6E」はWi-Fi 6の周波数を6GHz帯まで拡張することを目的に世界各国にて協議されています。なぜ新しい周波数が必要と考えられたのでしょうか。

山田 1つ目は、テレワークの影響もあり家庭やオフィスにおけるWi-Fiのデータ通信量が飛躍的に増えてきていることです。具体的には、無線LANビジネスが世界規模で180億ドルを超える市場となってきていることにあります。このような状況を考えると、Wi-Fiを快適に利用できるようにするためには、周波数帯域を十分に確保することが必要になります。
5Gに対しては新たな周波数割り当てが行われていますが、一方Wi-Fiについては、周波数を割り当てるのは不可欠と考えられていましたが、実際は802.11adで60GHzが追加されて以降は大きな周波数追加はなされていません。

2つ目は、Wi-Fi 5およびWi-Fi 6は、スループットを出せる適切な帯域幅や通信レートがあるにもかかわらず、現状では期待したパフォーマンスが出しにくいということがあります。
スループットを計算するのに「シャノンの法則」というものがありますが、それによるとギガビットのスループットを出すためには最低80MHz幅を必要としていますが、実際の今の5GHz帯では、チャネルの重複を避けるため、40MHz幅や20MHz幅で利用されているケースが多いという実情があります。また、DFSに影響されないチャネルを複数選択できないという理由もあります。

3つ目は、モバイルのオフロードとしてWi-Fiが利用されているということが挙げられます。Wi-Fiは、すでにモバイルデータトラフィックの80%を運んでいるといわれています。しかし、5GHz帯では、公衆無線LANでは、ほとんどは重複されたチャネルを利用されていることから、新たな6GHz帯の周波数開放について検討が各国で進められているわけです。

Wi-Fi 6Eの海外での状況

――6GHz帯の割り当てについて、海外の状況を教えてください。

山田 2020年4月、他国に先駆けてアメリカFCC において、免許不要帯域として5925MHz-7125MHzの周波数帯で、Wi-Fi 6Eが認可されています。その後、イギリスにおいて5925MHz-6425MHzが認可され、アジア圏では韓国において5925MHz-7125MHzの周波数帯に認可がされています。その他の各国においても順調に進んでいます。
日本においては、令和2年度の「周波数再編アクションプラン」に初めて組み込まれ、割り当てに向けた調整が始まりました。

北條 今、話があったように、日本国内でも検討が始まっていて、総務省の作業班で諸外国の状況は整理されています。対象帯域は5925 MHzから7125 MHzにわたる1.2GHz幅の広大な帯域になりますが、現在多くの国や地域で免許不要システムが運用できるよう検討が行われています。表2に作業班で提出された資料に基づき、海外での割り当て状況を示します。

 

表2 世界各国の割当状況

 

全1.2GHz帯の内、前半の0.5GHzのみ対象にしている国々と、1.2GHz全部を対象にしている国々とに分かれています。1.2GHz割り当て済みの代表が米国、韓国、0.5GHzの代表が欧州、英国となっています。日本を含み、かなりの国が現在に利用開始に向けた取り組みを行っています。
6GHz帯で運用されている既存システムには、固定衛星通信のアップリンク、固定回線、FPUのような放送用途などがあって、既存システムと周波数共用を行うことを前提として検討が進んでいます。

――具体的な米国での利用形態としてはどのようなものがあるでしょうか。

山田 米国はすでに6GHz帯の利用は可能になっていますが、HPE(アルバ)としては、APの発表はしていますが、具体的な販売事例の情報は来ておりません。ただどういったところを想定しているかと言えば、今まで通信スピード出ていなかった場所や、AR/VRなどによる大容量データ通信が必要とされるユースケースなどです。

日本での実用化に向けた取り組み

――6GHz帯の日本での検討状況を教えてください。

北條 先ほどお話ししましたが、本年度より、情報通信審議会の陸上無線通信委員会に新たに「5.2GHz帯及び6GHz帯無線LAN作業班」が設立され、検討が始まりました(*1)。第1回会合は4月27日に行われ、Wi-Bizからは技術・調査委員会の前原副委員長(シスコシステムズ)がメンバとして参加しました。
6GHz帯をWi-Fiが利用するためには、すでに6GHz帯を利用している既存システムと共用する必要があるため、共用条件に対する検証などを行うために、作業班とは別に技術試験事務を並行して開催することになりました。
図表3に、6月29日の第2回作業班で出されたスケジュール表を示します。作業班では9月頃までには共用条件を整理して中間報告をまとめる予定です。

 

図表3 6GHz割り当てに向けたスケジュール(案)

 

海外でも同様ですが、既存システムとの共用は簡単には実現できないために、5GHz帯と同様(W52、W53は屋内限定、W56はDFS必須、など)に制限が付け加えられる見込みです。具体的に海外で検討されているユースケースを想定した条件として、LPI(Low Power Indoor)モード(自由に使える代わりに屋内でかつ最大出力を制限)、VLP(Very Low Power)モード(LPIよりさらに低い出力で制限)、AFC(自動周波数制御)付のSP(Standard Power)モード(該当場所において既存システムが利用している周波数をWi-Fi側が自動的に避けて利用)などが規定されています。

Wi-Fi 6Eの製品化の状況

――Wi-Fi6Eの製品化の状況はいかがでしょうか。

田中 先日の「ワイヤレスジャパン2021」で展示しました「AP-635」がまず製品としてリリースされることになります。その後、上位機種、下位機種、さらには屋外機種などを順次出していく予定です。日本ではまだ6GHz帯が利用開始になっていないので、6GHzに対応した製品についても6GHz帯の電波を出さないような形で、販売することになります。
なお、日本でも利用できるようになれば、ハードはそのままでファームアップするだけで購入したAPが6GHz帯でも使えるようになる見込みです。

 

 

 

北條 まだ6GHz帯の技術基準の決まっていない段階で、5GHz帯の技適のみを取得した製品を販売した後、ファームアップで6GHz帯の利用ができるようになるのでしょうか。

田中 今、認証機関と話しているのですが、ハードウェアはそもそも6GHz帯の技術基準に対応可能なので、6GHz対応のファームウェアを日本用に作ることによって、既存のハードに日本用のファームを入れて製品として技適を取りなおせば、すでに販売していたとしても、日本用ファームに書き換えれば利用可能になると考えています。技適番号はどうなるかなど課題はありますが、ぜひそのような形で進められればと思っています。

――日本で6GHz帯が利用可能になる時期はいつ頃になるのでしょうか。

北條 技術的な共用条件を既存システムとの間で決着をつけた後、意見募集などや会議の承認などでおおむね1年程度かかるので、現状の作業班が秋にある程度の結論を出したとしても、来年度の後半くらいまでずれ込むと思われます。共用条件の調整に手間取れば、それよりも遅くなるし、海外での利用が進んで、日本が世界から後れを取ってしまうようなことがあれば手続きが前倒しされることもあると思われます。

田中 6GHz帯は、製品がすでにあって、世界のいろいろなところですでに利用可能、あるいは利用可能な見込みになっている現状を考えると、他国はWi-Fi 6を活用してどんどんDXを進めているのに、日本が後れを取ってしまうようになることを懸念しています。

北條 5GHz帯と同一のハードウェアで6GHz帯もサポートは可能なのでしょうか。

山田 今は2.4GHz帯と5GHz帯と6GHz帯の「トライラジオ」で実現していると聞いています。

北條 製品価格はどのようになりますか。

田中 まだ価格情報は来ておりませんが、当初は高いと思いますが、11acや11axの時と同様に、主流になってくれば、同等の価格に設定して新しい方式へ移行を促すものと思います。
なお、注意すべき点としてチップベンダーの動きがあります。ご存じの通り、今半導体チップ不足が起こっています。このような中、チップベンダーは重点化する方式を絞る可能性、すなわちWi-Fi 6とWi-Fi 6Eのチップが並立しているタイミングでどちらか一つ(おそらくWi-Fi 6E)に絞ってくるという可能性があります。その場合はWi-Fi 6の製品が手に入らない可能性があります。

北條 だとすると、Wi-Fi 5(11ac)からWi-Fi 6の製品が飛ばされて、Wi-Fi 6Eに移行していく可能性がありますね。

田中 「Wi-Fi 7」というWi-Fiの新しい規格が「802.11be」で検討されているようですが、その周波数帯は6GHz帯の利用が前提になっていると聞いたのですが………。

北條 そうだと思います。もし6GHz帯がWi-Fi 6で利用可能にならなかったら、日本ではWi-Fi 7は使えなくなるということです。
ただ総務省では、7月1日に意見募集が出た「デジタル変革時代の電波政策懇談会」の報告書(*2)において、「IoT・無線LANシステム」に、2025年までに1GHz幅を新規に割り当てるとの記述がありますので、6GHz帯の新規割り当てが念頭になるものと思います。

*1:陸上無線通信委員会5.2GHz帯及び6GHz帯無線LAN作業班(第1回)
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/joho_tsusin/idou/
5-2_6LAN_dai01kai.html
*2:「デジタル変革時代の電波政策懇談会 報告書(案)」に対する意見募集
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban09_02000410.html


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