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考察
DXに見るWi-Fiの可能性

佐藤重雄

つい最近まで政府や自治体の対応の遅さを揶揄する声の多かったコロナワクチン接種であるが、今や1日あたりの接種件数が100万回を超えたとニュースが伝えていた。まさに日本の底力を見せつけられた思いである。DX(デジタルトランスフォーメーション)も同様で、デジタル化において日本は遅れていると誰もが口を揃えるが、実際にはGIGAスクール然り、足元からひたひたとDXの波が押し寄せている実感がある。

企業のDXとWi-Fi

先日あるグローバル企業のDXプロジェクトに関わる機会があった。世界中に散らばる事業所や工場を一気にDXイネーブルなインフラに作り変え競合を巻き返そうという経営者の危機感と本気度が感じられるプロジェクトであった。
システムのクラウド化やリモートワークに伴うドラスティックな通信形態の変化、数万人の社員用端末と無数のヘッドレスデバイス(いわゆるIoT)のコネクティビティ確保と新たな脅威に対する対応、これらをASAPで実現したい、という夢のような冗談のようなプロジェクトである。
スピード感が重視されたため5Gは当初から選択肢になかった。このとき顧客から出た要件は以下の3つであった。
1.手軽
2.安全
3.共有

従来のSI(システムインテグレーション)はマルチベンダー製品を組み合わせメーカーに無理難題を押し付け多くのリソースを費やして顧客の細かい要求を実現するシステムを構築する、というのが一般的であった(今もそうですが)。結果として作り上げたシステムは顧客の要求どおりに動くかもしれないが、その過程で費やされたインターオペラビリティなどの検証に関わる工数や持続可能性にまつわるリスク、複雑なシステムの運用などはコストとして顧客に重くのしかかることになる。
そんなやり方は今や時代遅れであり、経営者はDXにお金をかけたいのであってインフラの構築や運用にお金なんてかけたくないのである。それが結果として「1.手軽」という形で顧客の要望No,1に上がっている。

同時にクラウド化とリモートワークというこれまでのネットワークセキュリティのあり方を根本から覆す事象が新たな「2.安全」対策の要求を生み出している。そのためにはネットワークアーキテクチャを根本から見直す必要があるのだが、いまだ誰もその明確な答えを持っているわけではない。
3つ目の「3.共有」はDXの今の姿を浮き彫りにしていると言っても過言ではない。背景には①せっかく作ったサービスやシステムを他でも使えるようにしたい②ネットワーク設備を買っては捨てを繰り返すのはもったいないのでみんなで使い回したい、という2つの側面があり、SDGsの観点でも企業が率先して取り組むべき重要な事項である。

インターネットワーキング黎明期にネットワーク技術だけで戦ってきた筆者としては、いやはや難しい時代になったものだ、という気持ちを拭えないのが正直なところである。
そうはいっても埒が明かないので頭を捻って我々が提案した内容はおおむね以下の通り。

1.ゼロタッチプロビジョニング(ZTP)による構築・設定作業の徹底的な簡素化
2.IoTの可視化とConnect and ProtectメソッドによるZTNAの導入
3.クラウドからのネットワーク集中監視・運用
4.位置情報などネットワークAPIの標準化と活用
5.IoTネットワークの統合(BluetoothやZigbeeなど)
6.ネットワークリソースのサービス化(NaaS)

SDNの進展に伴いWi-Fiもクラウドから完全に制御可能な時代になった。同時にゼロタッチプロビジョニング(ZTP)が成熟し今やユーザは構築作業という一大イベントに大金を投じる必要がなくなりつつある。これはいまやWi-Fiのみならず有線LANやWANにも及び、大規模なネットワークを手軽に利用・運用できる時代が来たのである。
セキュリティに関してはGartnerが2019年に提唱したSASE(Secure Access Service Edge)が企業にとってのバイブルとなっているが、SASEイコールCloud Securityの導入と勘違いしている人が多いのでその点は注意したい。SASEはいまだ未成熟なエッジネットワークアーキテクチャを補完するためのフレームワークに過ぎず、その目標はあくまでDXを支援するためのアジリティのあるネットワークオペレーション(陽)とセキュリティ(陰)の絶妙なバランスにあるので、セキュリティを主役にしたネットワークを作ることがSASEの意図ではない。現代にふさわしいエッジネットワークのアーキテクチャをユーザが主導でもっともっと議論し、多くのベストプラクティスを生むことが今最も求められているのではないだろうか。

NaaS(Network as a Service)はネットワークをサービス化するためのフレームワークである。構成要素としては完全にソフトウェア制御可能なネットワーク機器、その設計や設置・運用を通して安心・安全なネットワークアクセスをサービスとして提供するNaaSプロバイダ、APIを活用してサービスを開発するデベロッパ、これらを正しく定義し役割を分担することにより利用者はネットワークの構築、運用・保守という呪縛から解放されてネットワークを所有から利用に移転できると同時に、NaaS事業者とデベロッパはDXイネーブラーとしてその活躍の場を広げることが期待される。

紙面の都合上これ以上の詳細は割愛するが(お聞きになりたい方は事務局経由で問い合わせてください)、ここで一番お伝えしたかったのは、上記の提案にWi-Fi6や802.11ahといった技術要件は一切含まれなかった点にある。DXが求めるのは製品や機能の優劣ではなくDXを実現するためのエッジネットワークのデザインでありそれを形作るアーキテクチャである。場合によっては使い古された3−4年前の11acのアクセスポイントでも十分にDXは実現できるのである。

スマートシティとWi-Fi

スマートシティは端的に言えば都市や地域に存在する産業と生活全てを巻き込んだ壮大なDXである。ここには企業のDXを遥かに超えるWi-Fiのオポチュニティが存在する。少し前まではスマートシティの足回り=5Gが定説のように流布されていたが、多くの自治体はいまやWi-Fi以外直近の選択肢がないことに気づいている。スマートシティのプロジェクトは日本全土至るところで始まっているがWi-Fiの有効性に気づいていないことが多い。もっと積極的にWi-Fiを提案してもいいのではないだろうか。

Wi-Fiの強みは世界中にDXの膨大な事例が存在することにある。病院、学校、スタジアム、ゴルフ場、美術館、観光地、バス・鉄道車両など。もちろん企業のオフィスや工場も含めスマートシティを構成するほとんどの領域でWi-Fiは多くの実績とともに各々のビジネスに貢献している。
現在スーパーシティの選定が進んでいるが、特区になればさまざまな規制緩和により農地や山間部など現在5Gベースで考えられているユースケースがWi-Fiで実証されることになり、ますますWi-Fiの適用領域は拡大し市場に浸透していくであろうことは間違いない。

スマートシティにおいて企業以上にその効果を期待されるのがNaaSである。NaaSはそのサービスエリア内でWi-Fi機器を再利用(=使い回し)できるので再生品の利用によるサービス価格を下げることができる。そうなれば零細企業やさびれた商店街・個人宅などより広範囲へのサービス提供が可能であり、同時に新たなサービスの創出が期待できる。さらにはNaaS事業やサービス開発などのSIに代わる新たなビジネスチャンスを創出できるので、域内のIT企業にとっても従来の中央集権的なSIのあり方から地産地消、地域主導型の産業構造にシフトすることも可能である。Wi-Fiはスマートシティにおいて無限の可能性を秘めた宝の山に映る、と言ったら言いすぎだろうか。地方創生は個人的にも悲願であり、企業のしがらみを超えてぜひ皆さんと一緒に取り組みればと思う次第である。

Wi-Fiは公共インフラに

企業や地域のDXが進みNaaSが一般化すれば、Wi-Fiが公共インフラとしての色彩を強めることは想像に難くない。いずれは自然災害と同様Wi-Fiのハザードマップも作られることになるだろう。現在Wi-Fiは総務省の管轄であり様々な規制の対象となっているが、今後は国土交通省や経産省・デジタル庁との関わりも増えてくるものと思われる。Wi-Fiの進展にとってはまたとない機会であるに違いない。

Wi-Fiは単なる無線LANとしての機能からデータ駆動型の社会を支える国家の重要なインフラとしてそのあり方を大きく変えていくことが期待される。それに伴ってWi-Bizの役割も今後大きく変わっていくのではないだろうか。ふとそんな考えが頭をよぎった。コロナ禍が開けたらWi-Bizの皆さんとFace to Faceで喧々諤々議論したいものであります。


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