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最近、気になった2つのワイヤレスアプリケーション

一般社団法人 無線LANビジネス推進連絡会 顧問
小林忠男

例年混雑があるものの気持ち良い五月晴れのなか家族や知人と楽しいひと時を過ごしていた黄金週間に、今年も新型コロナウィルス禍での緊急事態宣言により外出自粛を余儀なくされてしまいました。5月11日までの緊急事態宣言でしたが、感染は収まらず再び延期されることになりました。
感染拡大防止のために外出自粛は必要ですが、感染し重症化した人の病床確保とワクチン接種は外出自粛と同じように重要で、これらが三位一体的に進まなければコロナを抑えることは出来ません。
しかし、一年経っても抜本的な病床の増加は見込めず、日本のワクチン接種率は2%台でアメリカの20分の1という状況です。ワクチン接種が進めば感染拡大に抑制がかかり、外出自粛や時短要請などの規制緩和が進み、人の流れや経済活動が拡大するため、経済回復につながることは明白です。
一年延期された東京オリンピック・パラリンピックまであと二カ月余りとなりました。本当に実行できるのか、実行してよい環境といえるのか。
モヤモヤとした気分は続きますが、コロナの克服とこれからの日本をどうするかを、特に今後の日本を背負って行く若い世代の人たちのためにも真剣に考えなければならないと思います。

紛失防止デバイス「AirTag」のうまい仕掛け

前置きが長くなりましたが、今回は「最近 気になるワイヤレスのアプリケーション」について考えていきたいと思います。
最初に、アップルが発売を開始した紛失防止デバイス「AirTag」についてです。個人的には久しぶりに興奮した凄いアイデア商品でさすがアップルだと思いました。
簡単にAirTagはどういうデバイスか説明します。
参照 https://www.apollomaniacs.com/ipod/howto_airtag
AirTagはカバン、鍵や財布、自転車やバイクなどに取り付けて、置き忘れを防止するとともに、紛失したときにその現在位置を調べることのできるBluetoothを利用した紛失防止デバイスです。大きさは500円玉より一回り大きい直径3センチ余りの円盤形で、iPhone (iPod/iPad)の 「探す」 アプリを使ってAirTagの現在位置を確認することができます。
Bluetooth電波の届く範囲(約10m)を離れても、iPhoneユーザーのネットワーク(Find My network)を使用し、中継することによって忘れてしまった自分の持ち物が自分から地球の裏側に遠く離れてしまってもAirTagを追跡することが可能です。


図表-1 AirTagと500円硬貨

今でも紛失防止デバイスとして、Tile、MAMORIO、TrackRなどがありますが、これらはそれぞれのアプリをインストールしている人がBluetoothの電波が届くエリアの中にいないと位置は分かりませんでした。電車の中にかばんを忘れてしまい帰宅した時に気づいても忘れた場所を知ることは出来ませんでした。AirTagはそれが出来るのです。
AirTagはどうして遠くにある自分の持ちものを探すことが出来るかは、図表-2のような仕掛けになっているからです。


図表-2 AirTagの仕組み

例えば、レストランにかばんを忘れた場合、カバンの中のAirTagが10分に1回程度の頻度でBluetoothビーコン信号を送信します。 近くのiOSデバイス(他人の物を含む)がそれを受信できた場合に、その情報をアップル社のサーバーにリレーし、持ち主にその場所を通知します。
もちろんこの情報は暗号化され、リレーしたデバイスの持ち主やアップル社には紛失したデバイスの持ち主は特定することが出来ず、またこの情報量は非常に少ないので、リレーしたデバイスの通信料やバッテリに負荷をかけることはないそうです。
本当にうまく出来ていると思います。アップルは凄いですね。iPhoneユーザーが6割近い日本ではメリットが大きいと思います。

周波数共有のヒントにも

AirTagのアイデアを拡大することにより今までにない色々なサービスが可能になるかもしれません。
ワイヤレスシステムを開発、設計するときに、私たちは迷うことなく基地局と端末の仕様と構成を頭に浮かべます。基地局と端末・デバイスは常にセットになって考えようとします。
しかし、普段は自分の端末であるiPhoneが、AirTagの基地局に変化し、しかも不特定多数のAirTagの基地局になることが可能であれば面白いワイヤレスシステムを構築することが出来るかも知れません。
例えば、国内には自動販売機が約400万台あり、その在庫状況を簡単に通知することが出来れば大きな業務の効率化につながると思います。自動販売機の前を通過する誰かのiPhoneがAirTagの仕掛けを使って自販機の在庫状況をセンターに通知することが出来ないでしょうか(「Wi-Fiのすべて 無線LAN白書2018」252頁参照)。
これから本格的なIoT時代になり、街中にセンサー等のIoTデバイスが数多く設置されることになるでしょう。ワイヤレスアクセスとして、802.11ah、LoRa、SIGFOX、Wi-Fi6等が使われることになりますが、情報量が少なく通信頻度の少ないセンサーもたくさんあるでしょうから、このアイデアをもとに新たな展開を考えることは面白いと思います。
ただし、全く制度とかセキュリティのことを考慮していませんので実現には色々な課題があるでしょうが。

ちょっと脱線するかもしれませんが、シェリングエコノミーサービスが拡大しています。具体的には、空間をシェアする民泊、移動手段をシェアするカーシェアリング、モノをシェアするフリマアプリ、スキルをシェアする家事代行、お金をシェアするクラウドファンディングなどを多くの人が使用しています。
一般の人たちが所有するモノや場所、スキルなどを必要な人に提供したり、共有したりする新しい経済の動きや、そうような形態のビジネスが拡大しています。占有から共有への変化だと思います。
ワイヤレスの世界では5GからBeyond 5Gへの検討が本格的に進んでいます。この実現のためには今まで以上の周波数帯域が必要とされますが、4月号のメルマガで書いた通り、使い勝手の良い周波数帯域はそれほど多くはありません。
その点、AirTagはある意味、周波数を共有しているとも言えます。ワイヤレス新時代の周波数確保についてもヒントになる商品ではと思いました。

夜間のコンテンツダウンロード

次は、Wi-Fi接続時のコンテンツ自動ダウンロードについてです。
私は日経新聞を購読していますが、あわせて日経電子版も契約しています。いつでもどこでも、スマートフォンでもタブレットでも読めるのでとても重宝しています。またキーワード検索や気になった記事を保存できるので非常に便利です。
この日経電子版は図表-3のように「Wi-Fiで自動ダウンロード」にすると、夜中に記事を自動的にダウンロードしてくれますので、起床してから直ぐに電子版を読むことが出来ます。


図表-3 Wi-Fi自動ダウンロードの設定画面

このような機能は私が知らないだけで他にもあるかもしれませんが、とても便利なアプリケーションだと思います。
インターネットにあるコンテンツを寝る前に指定しておけば夜中に光回線とWi-Fiによりダウンロードしてくれる。通勤途中にオンラインでコンテンツを観なくても済み、パケット代の節約になります。また、朝の混雑時のネットワークの輻輳対策にもなるかもしれません。
コロナ禍で授業のオンライン化も進んでいますが、このような機能を使えば夜中や回線の空いている時に生徒にデジタル教材を配信することが出来るかも知れません。
また、いつも訪問するサイトのコンテンツが更新され端末がWi-Fi環境にあったら自動的にコンテンツを更新することも出来るでしょう。
多くの場合は、オンラインでの情報のやり取りを前提にしていますが、「光+Wi-Fi」の通信環境も整備されてきていますので、オフラインで希望するコンテンツ、情報を入手すれば、コスト低減やネットワーク混雑が改善されるのではないかと思います。

飛躍しすぎかもしれませんが、今回のAir TagもWi-Fi環境下での自動ダウンロードも端末が基地局になったり、オフラインで通信をしたりする、これまでの常識とは違うアイデアのワイヤレス通信の形態です。
状況に応じて使える周波数、時間をうまく使ってワイヤレス通信を行うアイデア、コグニティブ無線やホワイトスペースに通じるものがありますが、逼迫する周波数需要を解決する新しい動きになるのではないでしょうか。
凄まじい半導体技術や人工知能の進化を考えると、これからが楽しみです。

最初に書きましたように、新型コロナウィルスによる不自由な生活がまだ続きます。読者の皆様にはくれぐれも感染しないようにお気をつけ下さい。


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