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ロックダウンが住宅のWi-Fi環境に与えた影響について

岩本賢二

コロナ禍によるロックダウンが住宅のWi-Fi環境にどのような影響を与えたのか「Airties.com」から素晴らしい論文が発表されましたので紹介してみたいと思います。
この論文では、ロックダウンで世界中で多くの人が家庭内に閉じこもりWi-Fiへの依存度がさらに加速したこと、またニューノーマルがロックダウン中のWi-Fi利用に与えた影響などについて、AirTies Cloudによる匿名化利用データをもとに詳しく紹介しています。

原文は英語ですが以下から参照可能です。
https://airties.com/2021/01/26/understanding-the-impact-of-lockdown-on-residential-wi-fi-and-future-implications/

急激に増大したWi-Fi利用

まず、ロックダウンによりわかった重要な知見として以下を挙げています。

  •  ロックダウン中、各家庭内でアクティブに使用されているWi-Fi機器の数は平均で5.9から6.6
  • ロックダウン中は、より多くのデバイスが使用されているだけでなく、平均で最大5台の同時接続デバイスが、1週間のうち毎日使用されていました。これは、ロックダウン前の平均3台の同時接続から考えると30%~40%増加したことになります。さらにロックダウン前は平日の夕方から週末にかけて4台の同時利用がピークでした。
  • 午前9時から午後5時までの勤務時間帯では、Wi-Fi利用率が70%から94%増加した。
  • ロックダウン中、平均的なWi-Fiデータ量は、1世帯あたり1週間の利用データ量は11GB以上になりました。ロックダウン前は6.5GB程度だったため、62%増えたことになります。
  • ビデオ会議やオンラインでのファイル共有/ストレージの利用が増加していることに後押しされて、上りのトラフィックは 2 倍以上に増加し、ロックダウン期間中に 116% 増加しました。
  • ロックダウン前は、家庭内のカバレッジ問題が19%発生していましたが、ロックダウン中にはほぼ3分の1の32%に増大しました。これは家庭内での通信量が増大したために通信パフォーマンスが悪化したことが原因のようです。

ロックダウン中に明らかにWi-Fiの利用が増大し、それにより通信品質を圧迫したことが伺える内容となっています。利用者は通常上位側のブロードバンド通信とWi-Fiアクセスを区別して品質を認識することはできません。多くのトラフィックにより上位側のブロードバンド通信が輻輳した場合でも、利用者は「Wi-Fiが遅くなった」と感じる可能性があります。さらにWi-Fiは近隣の利用者との共有利用となるシステム(周波数を共有している)であるため、近隣同士で帯域を取り合い、品質が悪くなった可能性もあります。この論文ではロックダウンの結果、消費者の環境や行動に突然発生した大きな変化と、それが家庭内Wi-Fiに与える影響を分析しています。

データで示す「Wi-Fiシフト」

論文で示された、「Wi-Fiシフト」のデータを見ていきたいと思います。

家庭内で1日のうちに1回以上使用されたデバイスの数

上記の通りロックダウン前が5.9台、ロックダウン中が6.6台と11%増加しています。これはロックダウン中に家庭で仕事をするためにデバイスが増えた事や、新たに購入された事で増えた事が想定されます。

家庭内での1日のWi-Fi使用の推移

ロックダウンの前と比べて労働時間帯のトラフィックは82%も高くなっています。

ロックダウン前後での1日の総トラフィック量

ロックダウン前は平日が6.5GB、週末は8GBと差がありますが、ロックダウン後はその差が無くなり、全体として11GBを超える程度まで急増していることがわかります。平均としては62%の増加となります。

ロックダウン前後での平日と週末の総トラフィック比較

ロックダウンの前では平日と週末で大きな差がありますが、ロックダウン後はほぼ同じ値になっています。平日だけを比較するとロックダウンの前後で71%も増えていることがわかります。

Wi-Fiデータ消費量の時間帯別の分布

ピーク時間帯が20時から22時の間となっているのは、エンターテイメントやビデオストリーミングアプリが原因となっていると考えられます。いずれにしてもロックダウン期間中は大幅に利用量が増えていることがわかります。

アプリ使用率の変化

各アプリケーションの使用率についてTeamsが894%、Zoomが677%、WebExが451%も伸びています。これらのアプリケーションは一般的なアプリに比べて、ネットワークに負担を与えやすいアプリであることが分かります。さらに、これらのアプリはダウンリンク側だけで無くアップリンク側にも負担を与えるアプリです。

アップリンクトラフィックの変化

ロックダウン中にアップリンクトラフィックが倍以上に増えていることが分かります。一方で3月末と4月初旬のマーカーを付けている部分は週末にかけて仕事関連のテレビ会議が減ったために一時的に減少したことが分かります。

専用デバイスのWi-Fi利用率

このグラフではロックダウン前後におけるRoku(ビデオ)、Nintendo(ゲーム)、Sony Entertainment(ゲームとビデオ)のWi-Fi利用がロックダウンの前後でどのように変化したのかを示しています。これらのデバイスはこれまで夜に多く使われる傾向にありましたが、ロックダウン中は昼間も多く稼働していることが分かります。

カバレッジ問題の発生率

ロックダウン前は家庭内の居心地のよい場所でWi-Fi利用をすることが多かったですが、ロックダウン後は家族全員が家庭内にいることで、それぞれの居場所がWi-Fi接続に最適な場所とは限らず、カバレッジ問題を経験する率が大きく増えたようです。

同時利用Wi-Fiデバイス数

ロックダウンの前後で同時利用されるWi-Fiデバイスが大幅に増えたことが分かります。このように同時接続デバイス数が増えることで、ネットワークの負荷が増え、利用者の使い心地に悪影響を及ぼすことが考えられます。

集中するトラフィックで不足する帯域

このようにここまで見てきたどのデータを見てもロックダウンによってWi-Fiの利用が大幅に増えたことが分かりますが、これによりWi-Fiの使い心地に悪影響が出ることが考えられます。悪影響を与える複数の要因が組み合わされると使い心地の劣化に「触媒効果」をもたらし、使い勝手は直線的に劣化していくわけでは無く指数関数的に劣化していきます。このことを次のグラフでうまく表しています。

アクティブ・リンク・ミニッツ(ALM)とバッド・リンク・ミニッツ(BLM)

ALMは接続デバイスがWi-Fi上で正常に動作していた時間率です。一方BLMは接続デバイスがWi-Fi上で正常に動作しなかった時間率です。ALMが増えるとBLMは急激に増加していることが分かります。

Airtiesによるこれらの調査はロックダウンによるWi-Fi環境の実情を定量的に計った貴重なデータです。ロックアウトによりWi-Fiに必要な周波数帯域は明らかに足らなくなっており、さらに上位側のブロードバンド通信やISPへのトラフィック集中に関する対策が今後必要になってくることが明白になりました。

論文の原本にはさらに多くの考察が書かれており、興味のある方は是非、前出のリンクから原本をダウンロードしてご覧ください。


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