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新年座談会
無線LANサービス2021、課題と展望
「変化点の年」、新たな飛翔に向かって

出席  ワイヤ・アンド・ワイヤレス(Wi2)  大塚浩司氏(00000JAPAN推進委員会委員長)
ソフトバンク 加藤一寛氏(00000JAPAN委員会副委員長)
NTTBP  吉田英邦氏(Wi-Biz運営委員会運営委員)
無線LANビジネス推進連絡会会長   北條博史氏
事務局長   松村直哉氏

 

コロナ禍、「緊急事態宣言」のなかで始まった2021年。産業、社会、生活のあらゆる分野が大きく変化するなかで、これまでとは異なる新しい対応と革新が求められています。このなかで、無線LANサービスをどう進めていくのか………。公衆無線LAN事業に携わるWi2大塚様、ソフトバンク加藤様、NTTBP吉田様にご参加いただき、北條会長、松村事務局長も論議に加わっていただきました。

コロナ禍で問われる「変化に応えていく力」

――今年の新年座談会は、「無線LANサービス2021、課題と展望」ということで、今年のビジネスの方向性を論議していきたいと思います。

大塚 経済状況を見るとコロナの影響で、交通系や飲食チェーン、観光業など業種によっては厳しい状況が当面続きそうですね。また、業種に限らずテレワークなど社会経済活動面での制約が続きそうです。公衆無線LANと関係の強いオリンピック・パラリンピックやインバウンド事業も不透明な状況で、この1年は厳しい環境にあると思っています。

政治的・行政的な面でいきますと、携帯電話キャリアは総務省の要請もあり新しいプランを発表されていますし、今後MVNOからも新しい料金プランが出てくると思います。

これによって業界の料金レートが大幅に低下し、お客様の使える月間データ容量が増えてきます。そうすると、お客様の公衆無線LANに対するニーズが変化してくるのではないか、Wi-Fi業界に対して影響が出てくるのではないかなと思っています。

Wi-Fi業界は、これまで10年ぐらいは携帯電話キャリアのトラフィックのオフロードとか、あるいは観光地やオリンピックの会場・施設設備のWi-Fi整備とか、どちらかというと政治的にも経済的にも追い風で進んできましたが、コロナ禍や携帯電話料金値下げなどの影響もあって少し風向きが変わってきています。この変化をしっかりと踏まえて事業展開をしていかなきゃいけないと思っています。

厳しいことだけじゃなくて明るい可能性もいっぱいあるんですけれど、今の我々の立ち位置としては、今年は「変化点の年」になるのではないかと思っています。

 

加藤 私は携帯事業者の中でWi-Fi事業をやっている立場なので、より一層、携帯電波を使ってのデータ通信事業を横目に見ながらうまく共存していく方法を探していかなければいけないと思っています。携帯電話事業と取り合いになるという意味ではなくて、こういうシーンでは携帯のネットワークを使っていただき、こういうシーンではWi-Fiを使っていただいてという形で、Wi-Fiのいいところを携帯電話契約者様にもしっかり伝えていければと思います。

今までは、携帯ネットワークでもWi-Fiでも、いずれかつながったネットワークで快適に使ってもらえればというところがあったんですけれども、今後はより一層ユーザー自身が使い分けるというか、接続するネットワークを判断してご利用頂くシーンも出てくると思います。ある程度Wi-Fiの知度があがっている中で、本当にご自身にとって良い環境を使っていただけるよう、選択肢を与えられるような活動をしていきたいなと思っています。

 

吉田 「日本は生産性が低い」という話が以前からあったわけですが、コロナによって「リモートワークにしなきゃいけない」「会社に来てはいけない」と言われるなかで、「効率化」ということをより志向する場面になっていると思っています。効率化という意味では「ハンコを押さなくていいよ」ということに端的に示されるように、仕事のやり方が足元の部分から変わっていっています。また、「働く時間」ということが非常に広がりを見せた年だったと思いますし、通勤時間帯ひとつとっても非常に幅が大きくなってきた年かなと思っています。働く場所、時間帯が多様になりました。

そうした多様性に対応するためには、どうしてもネットワークが普及していかなきゃいけないということが浸透した一年でもあったと思います。私たちには、ユーザーの変化のなかでそれに応えるWi-Fiネットワークをどのように構築していかなきゃいけないかということが問われる一年でしたし、それは今年も引き続き、問われると思っています。

もう1つ、開催が危ぶまれていますけどオリンピック・パラリンピックについては、観客は半分もしくはゼロみたいな話もありますし、競技も少なくなっちゃうのかもしれないんですけれども、開かれる以上はネットワークをきちんと作っていくことが通信事業者の責務と思っていますので、そういうところにはきちんと対応していかなきゃいけない年と思っています。

需要のシフトと新たな付加価値

――コロナによって市場が一変する中で、ニューノーマル/テレワークということが迫られ、一面ではそれが追い風になっています。キャリアの決算を見ても、大きく売上が増えています。反面、オフィス需要は非常に厳しい状況になっています。オフィス機器メーカーは苦境に立っているといわれ、明暗があるかと思います。こうしたなかで、Wi-Fi業界として、現状のビジネス展開と今後の方向性について、お願いします。

大塚 これは私の個人的な見解ですけれど、セルラー会社の決算状況は確かにいいのですけれど、内情は楽観視できるものではないと思います。コロナ禍で在宅勤務、外出自粛要請が出てテレワークになりました。モバイルルータだとか、スマートフォンの利用が増えてARPUが上がる、あるいは契約回線数が増えている、これは間違いないです。

ただ他方で、セルラーのトラフィックの発生場所が大きく変化していると想像しています。人の流れが変わったことから都心部のトラヒックが郊外の住宅地やサテライトオフィス・ワーケーションスペースにシフトしているでしょう。このトラヒックの変化に対応して4G・5Gのネットワークを早く整えなければならない。そうなると料金値下げをしながらエリア整備のための追加投資・経費がかかるという二重苦の状況が今後かなと思っています。

もう少し申し上げますと、5Gのエリアを3キャリアが早く整備して従来の23時のピーク時間帯も皆さんが快適な通信をできるようなネットワークをすぐ整えられますかという話になるんですね。そうすると、キャリアはみんな頑張るにしても、ニーズがキャパを上回っているという状態はある時間軸で続かざるを得ない。そこは、お客さんにとってはペインですね。そういう状態は今も生じているでしょうし、これからも生じるだろうと思うんです。

Wi-Fiがそこで登場してきて、5Gを待っていてもまだ時間が掛かるし、LTEにつないだら遅いから、インターネット回線なり電話回線は来ているから、固定電話のネットワークにWi-Fiを付けて宅内でWi-Fiで利用したい、こういうニーズはあらためて出てくると思っています。先週お会いした官公庁の課長さんも「自宅では携帯電話は夜も昼も遅いからSoftBank光を契約して宅内はWi-Fiにしました」と通常の会話で出るほどトラフィックというのは宅内において増えています。

今後は、宅内など特定の場所において「固定プラスWi-Fi」のWi-Fiニーズは強くなっていくのではないかなと思います。テレワーク、ワーケーション、シェアオフィス、そういったニューノーマルで使われる場所についても、Wi-Fiを使いたい、高速でセキュアな通信を使いたいと、象徴的な形でこれから増えていくのではないかなと思います。

 

北條 まさにその通りですね。個人の人がたくさん「光回線+Wi-Fi」を使ってきています。現にうちのマンションでも、今までそれほどでもなかったのが、マンションの住人みんなが使うからトラフィックが混雑しています。家族内でも、同じタイミングでテレワークでWeb会議をやると動きが悪くなったりするということが起きています。そういった課題に対して、Wi-Fi事業者としても、どう支援していくことができるのかということがポイントになると思います。

――コロナ禍のニューノーマルで、Wi-Fiへのプラス面とマイナス面というと、どういう状況でしょうか。

加藤 Wi-Fiにマイナスになっているというのは、私自身はそんなに感じていません。例えば工事に伺えないとか保守ができないとか、そういったマイナスはありますけれども、事業全体を考えたときにWi-Fiに逆風だと考えていることは特にないです。先ほど大塚さんからお話があったように、自宅にネットワークが必要となっても急に環境が準備できなければ、最寄り駅前のカフェなど、Wi-Fiを使えるところに行こうという方も増えてくると思うんですよね。そうなってくると施設のオーナーさんが通信事業者にWi-Fiをお金を払ってでも引きたいという声が出てきて、それは我々の活動についてはプラスかなと思っています。

ただ、これまで求められてきたのは公衆Wi-Fiでベストエフォートに近かったわけですが、これから業務用だと一定の速度や一定のセキュリティなどやはり高いものが求められ、SLAも高いものが求められてくるので、今までと同じ価格感では対応するのが難しかったりするとは感じています。

 

吉田 私のところは、コロナで直撃を受けている部分もありまして、飛行機が飛んでいないので空港のお客様が8割減とか9割減とかというニュースも出ています。そこで利用されている空港のWi-Fiサービスが一時休止になったり、観光バスは車庫に入って使われなくなっているという状況で、Wi-Fiサービスも当然マイナスとなっています。

そこはこれから盛り返していかなくてはならないのですが、エリアオーナーさんから聞く話としては、コロナ禍では密になるとか接触というのは当然避けなきゃいけないので、「疎」とか「非接触」とかという話が出てくるんです。混雑状況がどういう状況なのか把握するということで、ショッピングモールなどの人が密になる場所で、公衆無線LANを活用してどのぐらいの端末がそのエリアにあるのか把握していくようなサービスです。方向性という点では、そういうエリアオーナーが求めるニューノーマルに即したサービスやデータを、より細かく、より量を多く収集して提供していくという付加価値サービスはあるのではないかと感じています。

Wi-Fi6普及への課題

――コロナによって大きな変化、流動が起きてきています。そこで、新しいニーズを掴みだし、ソリューションを提供していく、要望に応えていくという点では、Wi-Fi業界では、Wi-Fi 6、WPA3などへの取り組み、さらには6Eでのより広帯域化というものが必要になってきます。

 

大塚 コロナもあって環境が変化し、お客様のWi-Fiを使われるシーンが変わってきています。ビジネスではもちろんそうですし、コンシューマ系でも業務用だとか学生であれば授業だとか、公のトラフィックが増えてきているので、クオリティや速度、セキュリティが強く求められてきています。それは、21年度に入ってからは、さらに強まっていくだろうなと思っており、皆さんと全く同感なんです。

ただ、Wi-Fi 6をすぐに全てのところに入れますかというと、そこは少し時間が掛かる見通しでいます。我々は先行してカフェチェーンとか、キャンパスとかに導入してトライアルをしましたけれど、エリアオーナーの方とお話をすると、Wi-Fi6に対応するスマートフォン、PCがまだまだ少ないというご指摘をうけます。スマートフォンの過半数というか、3分の2以上ぐらいがWi-Fi 6対応にならないと、お金を掛けてネットワークを作っても、その良さを体感できる人が少ないので、費用対効果が合わないよねと言われるケースが多いです。

シェアオフィス専門のところとか、店頭の業務用でオペレーションネットワークとしてWi-Fiを使うようなところではWi-Fi 6のニーズは明確ですし、費用対効果についてもお客さんは納得いただけますので、そういうケースは徐々に増えていくと思います。まだ、導入フェーズにあり、普及フェーズに入るにはもう少し対応する端末が増えることが必要じゃないかなと思っています。

――すると、シェアオフィスとかキャンパスとかニーズが明確なところからスポット的に先行的に進めていくという戦略ですね。Wi-Fi 6対応のデバイスという点でいえば、スマートフォンはどういう状況なのでしょうか。

大塚 最新機種の大半は対応しています。1年半以上前のスマートフォンは対応していないので、端末の買い替えサイクルが3年強だとすると対応機がメジャーとなるのはもう少し時間が掛かるのではないと見ています。21年が過渡期で、22年からアクセルを踏みだすようになるのではないかと予測しています。

インフラ側でいうと、既存の11ac対応とかその前の世代のアクセスポイントやネットワーク機器が販売終了とかサポート終了になってきますから、それのWi-Fi6対応機は昨年度からちょっとずつ出てきて、あと2~3年でそれなりのポーションを占めると思いますから、インフラのライフタイムの入れ替わり時期とデバイス/クライアント側のメジャーラインを取る時期が、あと1~2年先になると交わってくるのかなと、そのように予想しています。

――ソフトバンク、NTTBPはどういう考えでしょうか。

加藤 私は公衆サービスの展開を中心に担当していますが、大塚さんがおっしゃったように、端末の広がり具合をベースにしてマイグレーションしていく感じになります。やはり2022年またぎという感じでしょうか。もちろん、新しく入れるところについては、わざわざ一世代前を入れる必要もないので、新しいもので対応していきます。今から導入れる方たちというのは一定のビジネスユースというか、それなりの性能を求められてきますから、そこに応えることはできると思っています。ただ、公衆サービス提供のエリアオーナーさんは投資してまで急いで6にしていかなきゃいけないかという感じはまだ持っておられないのが現状で、これからの課題と考えています。

 

吉田 私も、大塚さん、加藤さんとほぼ同感覚です。新規案件はWi-Fi 6対応を入れていく形になると思いますが、既存の事業者、エリアオーナーについては、なかなか更改するモチベーションが出てこない方が多いものですから、「機器の更改時期が来たらやります………」という対応のところが多いですね。

 

――コロナ禍で遅れていますが、今後セルラー事業者が5Gネットワーク強化に進むことは明らかなわけです。料金値下げが進むなかで、世の中が5Gにシフトしていくと思います。そういうなかで、例えば地下鉄でセルラーが提供している無線LANサービスがセルラーの5Gに変わっていけば、Wi-Fiサービスはどうなるのかということは当然起きてくるわけです。今のところ、セルラーの5Gはまだまだエリアが圧倒的に遅れていますけど、いずれあちこちでそうした動きが進んでいくにあたっては、公衆無線LAN系の各種Wi-Fiサービスの展望という点では、いろいろ危惧されるところもあるわけです。

 

北條 「メルマガ」12月号に実際に5Gを測定した記事を書きましたが、基地局が物凄く限られていてスポット的にしか使えませんし、速度も出ていませんでした。10Gbpsとかいうわりには400Mbpsしか出なかったんです。

逆にWi-Fiはどうかというと、一般屋外ではWi-Fiサービスはあまりないので、建物の中とかに入るとWi-Fiが使えます。でもたかだか100Mbpsぐらいです。外へ出たらLTEでも150Mbpsは出ることからしてみると、速度的にやや弱い感じはしました。料金体系が違いますから一律比較はできませんが、Wi-Fiも増速をすべきだと思います。

Wi-Fi 6であれば、Wi-Fiがいくつも周辺に見られたときにも上手くすみ分けられて容量として上がると思いますので、Wi-Fi 6はぜひ進めたい、進めていって欲しいと思うところです。

一方でバックホールは、光のベストエフォート型を付けているところは時間帯によっては、グッと絞られてくるタイミングがありますので、ここを何とかしなきゃいけない。逆にいえば5Gがあれだけ出るというのはバックホールが全部高速で通っているということなので、コストが全然違うわけですから、Wi-Fiが安くできるポテンシャルは持っていると思うんです。コストと品質をどう持ってくるのかというところが、Wi-Fi事業のポイントだと思います。

加藤さんが言われたように、サテライトオフィスなどプライベートネットワークはSLAなどによって高くなりますけど、ちゃんとお金は払ってくれるということだと思うんですね。もう1点、総務省の補助金も、地域通信振興課が出しているものは来年度が最後なので、Wi-Fiの補助金は終了しますということになっています。補助金自体は、数年前から始まっていますから、地域において最初の頃に入れた古い機種のままでやっているのは事実なんです。そういう人たちは更改したいわけですけど、機器の更改には補助金はなく自分たちでやりなさいよということになっているので、なかなか進まないという原因になっています。Wi-Fiが一気に広がった2010年頃のように、全部11nの最新機を入れましょうといった時代と、今のWi-Fi 6に対する考え方は少し違います。余程、利用感に差がありメリットを感じられるようになれば、ちょっと金を払ってもいいからWi-Fi 6に変えようかということになると思います。

モバイルキャリアにとって、以前はオフロード需要をとても重要だと考えていたのが、今は5Gが広がればいずれWi-Fiオフロードは不要なのではないかぐらいの感覚で計画も立てるんじゃないかなと思います。いずれにしても我々は、Wi-Fi高速化はしなきゃいけないし、5Gに匹敵するものをしっかりと作っていかなきゃいけないと思います。

 

大塚 その通りだと思うんですけど、あえて逆の可能性を申し上げさせていただくと、今回、携帯電話のデータ利用料は大幅に料金値下げされました。これまで月間2~3GBで上限にいっちゃって、お金を追加で払いたくないから、なるべくトラフィックを使わないようにしようと自制していたお客様の「タガ」が大きく外れることになりそうですよね。20GB使っても値下げになりますとなれば、個々人の月間データ量の自粛モードが解禁されてドンとトラフィックが増えるかもしれない。大容量データ通信を遠慮することなく利用するようになるかもしれない。

このとき携帯電話のネットワーク、整備途上の5Gは果たして耐えられるのでしょうか。例えば朝の大規模基幹駅や夜間の住宅街。夜はみんな、3GBを超えたらチャージされるのが嫌だからといって家のWi-Fiにオフロードしています。朝、会社に行く時の駅のWi-Fiも生活習慣として利用していますが、この「タガ」が外れちゃうんです。「ずっと携帯ネットワークのままでいいじゃん」みたいになっちゃうんです。

そうなると、大きくトラフィックが増えて、ひょっとするとまた携帯キャリアのトラヒックオフロードがWi-Fiに対して求められるかもしれない。分からないですけど、その可能性はWi-Fi業界の人間としては、携帯事業者のトラフィックなり5Gのネットワークのキャパシティの構え方を見ながら、チャンスを伺い続けていくほうが、いいのではないのかなとは思います。周期的に、「オフロードはいらない」と言ったと思ったら「やっぱりオフロードがいる」というサイクルなのかもしれない。その意味で、料金値下げでユーザーの自粛モードが解禁されるというのが大きな変化点ではないかと思います。

6Eのインパクトと現段階

――ローカル5Gについてはいかがでしょうか。

吉田 ローカル5Gがどのぐらい普及しているかというと、まだまだかなと思っています。それは装置の価格もあり、いろいろな要素があると思うんですけれども、使い方もWi-Fiと違うと思いますし、セルラーとも違うと思っています。ユースケースでIoT関連で使うとか、スマートファクトリーで使うとか、いろいろな形でいわれていますけれども、まだまだ手探りなので、どういう形で利用されて、Wi-Fiを含めたネットワーク全体にどういう影響を与えるかというのは、正直まだ読み切れないところではあるかなと思っています。

 

加藤 吉田さんがおっしゃるように、まだまだどう使うんだっけというのをやっているタイミングなのかなと思っています。我々が注目すべきは、その中で今まで「無線化」にこだわらなかったお客様が、ローカル5Gを検討するなかで、「ここも無線化できるんだ、こういうことが無線でできるんだ」という意識付けがオーナーさんなり企業様にされるのはWi-Fiにとって決してマイナスではないと思っています。投資という意味ではWi-Fiのほうが相当お安くできることを考えると、まずWi-Fiでやってみる、良ければこのままWi-Fiで十分じゃないということはあり得ると思っていますので、今まで無線化を考えなかった方たちが、無線で何かやりたいというようなきっかけになるのは、非常にプラスじゃないかなとは思っています。

――「Wi-Fi6E」についての取り組みはどういう段階でしょうか。

北條 もうアメリカでは使えるようになっていて、韓国も半年で許可を出したという状況です。日本は、ようやく今年度分の調査検討が始まりまして、来年度以降どう進めるかということを議論される段階です。

各国ともそうなんですけど、他のシステムがたくさん入っているということで、調整はかなり難航することが想定されます。ただ、想定されている帯域が1.2GHz幅ありまして、今までWi-Fi全部合わせたって500~600MHz幅だったのが、それの2倍の帯域が割り当てられるということになるので、メリットは大きなものとなります。ただ、既存のシステムとの干渉が課題で、特に人工衛星や放送業界とのやりとりがありますので、今後調整が早くうまくつくことを祈っています。

チャネルボンディングといって帯域を増やす方式がありますが、6GHz帯を割り当てられることを前提に、「802.11be」で320MHzのチャネルボンディングができるようになると、今のように複雑な変調方式をごちゃごちゃやらなくても、それだけでギガオーダーのスループットが出ます。干渉の影響で屋内限定になるかもしれないけど、限られた領域で、例えばゲームの映像の配信だとか、最新のエッジコンテンツを各ユーザーに流すようなところでWi-Fi6Eが圧倒的に使われていくのではないかと思います。標準化もできていて装置も出ているわけだから、周波数さえオーケーになれば一気に広まる可能性があります。

――6Eは桁違いなパワーを持っているわけで、難しい技術も要らないで、全く新しいWi-Fiの世界が来るわけですね。

北條 コストはたぶんほとんど変わらないので、そうするとローカル5Gとの競争力は一気に高まります。「ローカル5Gが欲しい」という人に「分かりました。今、ちょっと高いので、まずWi-Fiで試してみてください」といったら、ほとんどの場合、「これでいいじゃないか」ということになる。予定している予算の10分の1ぐらいで構築できて、満足な結果を得られるんじゃないかなとも考えています。

――日本の標準化というか、認可はいつごろの予定ですか。

北條 今、ちょうどそれを検討しているところです。日本の場合、基本的に業者間で合意してくださいということなんです。その見通しをこれからつけていくプロセスです。

Wi-Fi市場、これからのキーワード

――コロナもある、技術変化もある、市場の大きな変化の中で、今後の公衆無線LANサービスをコアにしたWi-Fi市場の方向性を展望したいと思います。

加藤 携帯ネットワークでもWi-Fiでも、通信のところ土管のところだけではなくて、その上にどのような付加価値を提供できるかというところが1つキーワードになっていると思っています。6だとか6Eだとかで環境が良くなっていく中で、同時に何を提案できるかとか、何を見せられるかというところを含めた提案が必要な時期だと思っています。

施設のオーナーさんも、そういうところも併せて求められることがここ半年ぐらいで非常に多くなりました。オリンピック前までは「とにかくフリーWi-Fiを用意してください」というような形が多かったんですけれども、その後は、Wi-Fiの上で何か、例えば「マネタイズできますか」「分析できますか」など、プラスアルファを求めるオーナーさんも増えてきています。そういった上乗せの部分を併せてご提案していくことが、Wi-Fiのビジネスを拡大していく1つになるかなと考えています。

 

大塚 加藤さんと一緒なんですが、ネットワークの部分においては足元の需要はアクセスポイントの数というよりもサービスの品質面に対するニーズが強くなってきています。既存のお客様、それから新規でネットワークを作られるお客様、それぞれに対して最適でクオリティの高い提案をしていくことが必要になってくると思います。

それから、「利活用」という面では、Wi-Fiネットワークを使って新しいバリューを提供する部分は、これからいろいろなものが出てくるのではないかなと思っています。

吉田さんのおっしゃられた、お店や施設の混雑具合をネットワークのログをベースに提供するというものもあるでしょうし、来店検知のトリガーとしてWi-Fiのログを活用してクーポンを配信することもあるでしょうし、もっとベタなことでいくと、フリーWi-Fiの接続の初期画面で広告を表示することでマネタイズして、エリアオーナーのオペックス・キャペックスコストを広告費で一部賄っていくことなどです。

あるいは、そこで得た広告料でWi-Fi 6などへのアップグレードの費用の一部にする。このような利活用によってエリアオーナーあるいは施設を使われる利用者が喜びながらエコノミクスを回せるような、そんないろいろなトライアルが各社あるいはメーカーさん、ベンダーさんで、取り組んでいっているでしょうし、増えていくでしょう。ここを増やしていかないとWi-Fiの価値が広がっていかないと思いますので、そういうところを皆さん、工夫をしながら、共有できるところは共有して、アピールしていければ良いなと思っています。

 

吉田 今、大塚さん、加藤さんがおっしゃっていたことと本当に同感でして、先ほど私も言ったところではあるんですけれども、今までは例えばエリアオーナー等のWi-Fiを提供する側よりは、それを使う側の方々のためのサービス開発がかなり進んできた印象を持っています。Wi-Fiを使う人がWi-Fiのあるお店に来てくれる、Wi-Fiが使えるから、その交通機関を利用してくれるという形のWi-Fiのモデルだったかなと思うんですけれども、今後は逆にWi-Fiを提供する側のサービスが高度化していく番かなと思っています。先ほど一例として密検知のお話を出したんですけれども、それ以外にもいろいろな形もあると思っていまして、その中の1つとして例えばですが、先ほど出たローカル5Gとか、あるいは無線方式だとLPWAとか、そういう違う無線方式を組み合わせてオーナー側に提供するとか、そういうところは今後、期待できると思っています。

Wi-Bizの新たな役割

――最後に、今年のWi-Bizの役割ということに入りましょう。

大塚 ネットワークを整備するという以外に、さまざまな利活用だとか、それをベースにしたビジネスモデルだとか、そういったものが、これからいろいろな形で出てくると思います。各社の競争のフェーズもあると思いますが、まだ導入期の部分ですから、Wi-Bizがハブになって、みんなで事例を共有し、さまざまなところに情報発信をしていければいいと思います。Wi-Fiの利活用でこんなバリューがあって、ビジネスにこんなにプラスになるんだということを、できるだけ多くの人に知っていただいて、その業種・分野でのニーズを増やしていくこと、業種・分野をWi-Fiでできるだけ大きく発展させて、皆で大きな果実を得ることができれば良いなと思います。利活用のアピール・発展支援の取り組みをWi-Bizにやっていっていただければと思います。

それ以外にも、すでに取り組んでいただいている技術的な、あるいは周波数とか国内の制度面でのいろいろな可能性を最大化するということは引き続きお願いしたいと思います。

 

松村 LPWAのところは、11ah推進協議会とWi-Bizが連携しながら、Wi-Bizの会員様に向けても11ahの情報開示を進めています。あとはコロナ禍でWi-Fiの役目も今までと違ったところが出てきていると思うので、その辺はベンダーさんとか、Wi-Fiを提供されている皆さんのご協力をいただきながら、Wi-Bizの新しいアクティビティを創っていけたらと考えています。

 

大塚 あと1つ、コロナによっていろいろな方が生活なり行動様式の見直しを迫られ苦労されていますが、学生さんは登校できずオンライン授業で1年以上、過ごされています。経済的にも非常に厳しい方々が多くいらっしゃって、もともと収入はないわけで、アルバイトの飲食店でクビになってアルバイト代も入らない。しかし、パソコンでオンライン授業を受けなきゃいけない。月々の通信費の支払いも非常に困られている。Wi-Bizでみんなで協力し合って、そういった人たちの助けになるようなサービスだとか情報だとかを提供するということも活動の1つとしてはあるかなと思っています。

たまたまWi2は大阪大学と関係があったので、有料サービス「ギガぞう」というVPN付きのWi-Fi 20万スポットのアクセスサービスを学生と教授に無料で使わせてあげているんです。他の方法として、エリアオーナースポットに了解を取って、ここは通信料が掛からず使えますよということを案内してあげるだけでも助けになるかもしれません。大学生や他の方々でも、お困りになられている方に対してWi-Fi業界で協力して何か支援できることがあれば社会的意義も高まるのではないかなと思います。

 

松村 コロナ禍でのそういう社会貢献の取り組みは、Wi-Bizでも是非、推進していきたいと思います。

 

加藤 5Gは各キャリアが盛り上げていて、「あれができます、これができます」「こういう技術で、こう速くなる」「こんな未来が開ける」と非常にプレゼンが強くされていると思います。Wi-Fiも、もうちょっとエンドユーザに近いところで「Wi-Fiってこんな便利なところがあるんだ」「新しい技術が入ってきたからもっと快適になるよ、セキュリティも安心だよ」と、お客さんのユースケースに合わせWi-Fiをアピールする旗振りを是非、していただければなと思います。

 

松村 それはWi-Bizの重要な課題で、メルマガで先端的な取り組みの紹介はしていますし、各委員会で進めているセミナーもそういう役割の1つかと思います。セミナーもWebで開催することで参加者の層が一気に広がってきていると実感しています。Wi-Bizの原点でもある取り組みをコロナのなかで工夫して進めていきたいと思います。

 

吉田 業界全体のサービス推進とか課題解決、特に省庁対応というのは、当然、進めて欲しいと思います。1つだけ申し上げると、先ほど来、6E等の新しい技術の話が出ていますが、そういうところの使い方のガイドラインを発信するのも1つじゃないかなと思っています。以前、2.4GHzのWi-Fiではチャネルをこう使いましょう、というガイドラインを設定したと思うんですが、例えば「6Eでのボンディングは、こういうふうに使った方が効率的ですよ」というようなものを先駆的に作っても面白いんじゃないかなと思っています。

 

北條 いろいろな新しい提起をいだき、ありがとうございます。今年は、予算的な裏付けも確保して、是非、新しいことをやっていこうと思っているところです。

ちょうど今、各委員会の委員長から新年度の計画を出していただいているところで、最新の技術をうまく紹介し、使い勝手の良さをアピールしていくような場をつくられればと思っています。

メルマガの活用、セミナーの開催をはじめいろいろな施策を考え、うまく皆さんの期待に応えられるような取り組みを、松村新事務局長を軸にして、皆さんと相談をしながら、やっていきたいと思います。


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