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Wi-Biz定例総会 特別講演 (上)
ポストコロナ時代のワイヤレス革命

株式会社 MM総研 代表取締役所長 関口和一氏

6月2日、無線LANビジネス推進連絡会(Wi-Biz)の「第1期定時総会」が開催され、第一部でMM総研代表取締役所長、関口和一氏(元日経新聞社論説委員)の特別講演「ポストコロナ時代のワイヤレス革命」が行われました。特別講演の要旨を紹介いたします。

コロナを契機に変わり始めたこと

ICT市場の調査コンサルティング会社、MM総研の代表取締役をしております関口と申します。昨年の6月までは日本経済新聞社で記者活動をやっておりました。今の会社ではIT・ICT分野の調査にあたり、会員の皆様にも大変お世話になっていると聞いております。この場をお借りしてお礼を申し上げたいと思います。

今日は「ポストコロナ時代のワイヤレス革命」と題しまして、コロナの問題が今後の情報通信政策あるいは今後のIT・ICTの活用にどう関係してくるのか、このあたりを皆さんと一緒に考えていきたいと思っております。

今まで日本は「変わろう、変わろう」と言っても、なかなか変わらなかったのですが、今回のコロナ禍をきっかけにかなり変わってきたのではないかと思います。例えば、オンライン診療。これは一応、制度上は認められてはきていますが、初診についても4月13日からオンラインで受けられるようになりました。遠隔授業についても、これまでは学校に行って授業に出席して初めて単位が取れたものが、オンラインでも取得できるようになりました。

またタクシーは本来は人を運ぶわけですけれども、期限付きではありますけれども、食事などの配送、こういったものに使えるようになった。それから電子署名。これも電子署名法ができて長らく経つわけですが、クラウド型の署名も認められるなど大きな進展があったといえます。

そういう意味でいうと、コロナ禍は大変な問題であったのですが、情報通信技術の分野に関していえば、デジタル変革のいわば背中を押して前に進める、そういう役割を果たしたのではないかと思っております。

このポストコロナ時代において、私たちはビジネスのやり方を抜本的に変えていく必要があるのではないかと思います。では、どんなことを変えるべきか、まずはオンラインです。オンライン化は飛躍的に今後広がっていくでしょう。各企業とも平常モードに戻りつつあるものの、オンラインでできるものは継続してやっていこうというのが、ある意味でコンセンサスになってきたところです。

それから、企業はフリーアドレス制とかリモートワークとか、これまでもやってきているわけですけれども、今回、一斉に在宅勤務をやったことによって、オフィスに社員が来なくても事業継続が可能になった。そこで今後は事業所を狭めていくとか、オフィススペースを削減していく、こんな動きもすでに出てきております。

あるいは意思決定についても、先ほどの電子署名のように、いろいろなプロセスが効率化されます。それから営業スタイルも、日本は対面が原則だったわけですが、むしろオンラインを原則にしてやっていこうといった流れも出てきているかと思います。そういったものを支えるインフラとして5GやWi-Fi、クラウドなどが社会に受け入れられたのではないかと考えているわけです。

問われるイノベーションの力

私どものMM総研でも、5月中旬にポストコロナ時代のIT投資をどう見るかという調査をいたしました。2000社近いサンプリングで41%の企業が、これをきっかけにIT投資あるいはICT投資を増やすんだということを言っております。経済的には厳しい局面にありますけど、むしろ逆境を新しいチャンスに変えていくんだと多くの経営者が考えていることが印象的でした。

特にウェブ会議は、コロナが発生する前の昨年末と今年4月末とを比べると、およそ1.5倍に利用が拡大してきています。その目的の1つはテレワークです。もともとオリンピックに向けて準備を進めてきたのが、期せずして予行演習が本番になってしまったと言えるかと思います。もう一つは、オンライン型のコミュニケーションへの挑戦と着手ということです。

今回の調査で分かったことは、アメリカのZoom社の伸長が非常に目覚ましくて、一番利用率が高かった。そしてマイクロソフトのTeamsあるいはSkype、それからシスコのWebex、これらが使われている実態が明らかになりました。

テレワークは何のためにやるのか。これは散々、議論をされてきたところではありますけれども、1つは東京一極集中がもたらした通勤ラッシュあるいは混雑の削減。それから、BCP/事業継続。それと生産性を上げること、ワーク・ライフ・バランス。こういったことをテレワークを通じて変えていくことができるのではないかというわけです。

さらに、首都圏に大規模な直下型地震が来るといわれて久しいわけですけれども、これがいつ何時、来てもおかしくない状況にあるわけです。そういうなかで、事業継続していくためにもテレワークの体制が必要ではないかと思います。

事業継続という際、我々が考えておかなければいけないことは、想定最大被害総額というものです。Probable Maximum Lossの略でPMLという保険用語ですが、もし何かあって事業が継続できない場合に、どのくらいの被害があるのか、その最大額を常に想定していただきたい。そうすると、どのくらいお金をセキュリティ対策に掛けるべきか、安全対策に使う必要があるのか、これが分かってくるわけです。その一環としてもテレワークのようなものを、普段から体制を整えていく必要があるのです。

海外の国はもっと前からテレワーク体制を整えております。一番進んでいるのはアメリカやカナダやフィンランド、こういった国であります。なぜかといえば、もともと国土が大変に広く、電話や電報などを活用してコミュニケーションを取るという文化があったわけですね。もう1つ共通しているのは寒い国ということです。雪が降ると会社にも学校にも行けなくなってしまう。そういったときでも仕事や勉強を継続できるようにするため、家にいながらも仕事ができる体制、すなわちテレワーク体制を普段から整えているわけです。

では、日本はどうでしたでしょうか。2001年からの「e-Japan戦略」でインフラにおいては世界トップレベルになりました。2006年には「IT新改革戦略」を発表し、その利活用に照準をあてて、デジタル変革をしようとしたわけです。ただ、残念ながら当時の安倍首相が政権を放り出したものですから、そこから日本のIT政策がおかしくなってしまった。このときにすでにレセプトの100%オンライン化、あるいは行政のオンライン申請率の50%達成、テレワークについても20%達成、こういった目標を立てていたわけなんです。それをなおざりにしてきていたのですが、今回のコロナで、ようやく動くようになってきたと言えると思います。

日本の働き方というのは諸外国に比べて極めて柔軟度が低いです。これをどうやってワイヤレス技術を使って変えていくのかということです。それから、企業の情報化投資ですが、1995年を100とすると、日本の投資はほぼ横ばいです。フランスやアメリカは3倍ぐらいに増えている。日本だって、同じ額を毎年費やしているではないかという指摘もあるかもしれません。しかし、中身を見ますと、8割方は過去に作られたシステムのメンテナンスに消えていっている。新しいものには2割も回ってない。アメリカはどんどんと新しいシステムを構築し、特にクラウドとか、新しいワイヤレスの技術を使って、新しいビジネスモデルをつくってきた。日本もこれから改めて頑張っていく必要があるのではないかと思うわけです。

それから、IMDというスイスのビジネススクールが出している世界の競争力ランキングというのがありますが、アナログ時代の95年まで、すなわちインターネットが登場する前までは、日本は世界のトップレベルにありました。ところが、インターネットが出てきてからビジネスモデルが変わりました。日本はそれまで完璧を期して、ソフトウェアを開発し、出来上がったソフトを半導体チップに焼き込んでから出す。この完璧性が日本の強みだったわけですが、今の新しいビジネスモデルは、バグなりバージョンアップがあれば、後からネットワークを通じて更新ができる。そうすることで、むしろ商品を早くマーケットに出すことが重要となり、こういう姿勢が競争力を分ける1つの要素になってきた。そういった中で日本の競争力が30位に落ちてきてしまっているわけです。

毎年1月に、ラスベガスで「CES」が開かれています。もともとは家電に始まり、今はIoTの見本市となっていますが、その主催団体であるConsumer Technology Association(全米民生技術協会)が、イノベーション・スコア・ランキングというものを出しております。どこの国がイノベーションの力を持っているのか。上位16位の国の国旗がここに出ていますが、残念ながら日本は入っておりません。何位かというと、30位というさんたんたる状況です。その理由を聞きましたところ、「この調査は一般的な経済のファンダメンタルズを比較しているものじゃない」と言うわけです。イノベーションが起きるか起きないか、つまりダイバーシティが進んでいるかどうかとか、新しい技術を導入するにあたって規制が少ないかどうかとか、特に自動運転とかドローンとか、投資会社のお金がベンチャー企業に向くようになっているかどうかとか。こういう観点から見ると残念ながら日本は30位だというわけです。

1995年までの日本の繁栄というのは、いわば大企業を中心に回る大企業型モデルで成功してきたわけです。それが崩壊した後、中小企業あるいはベンチャー企業型のビジネスモデルを構築しきれないままに今日に至っていることが日本の問題だと分析しています。

大企業モデルに頼った日本企業

日本の大企業スタイルの問題を指摘したという意味では、中国からの国費留学生第1号として日本に来られ、ソフトブレーンという携帯端末を活用して営業支援を行うベンチャー企業を立ち上げた宋文洲氏が2002年に書いた『やっぱり変だよ、日本の営業』という本があります。日本の問題点を彼が外国人の目から的確に指摘していると思います。次のような内容です。

先ほども申し上げましたように、90年代前半までは日本は非常に競争力が高いといわれてきました。例えば工場の機械化です。工場の生産性は、日本は極めて高いんです。逆に、どこの競争力が低いかというと、ホワイトカラーあるいはオーバーヘッドの部分です。大企業を見ますと、工場で働く人は一部でありまして、8割方がだいたいホワイトカラーになっています。ここの生産性が極めて低いために全体としての生産性あるいは競争力が低くなってきているのです。

皆さんも入社当時に言われたかもしれませんが、日本企業では「報・連・相(ほうれんそう)が大事なんだ」と強調されます。報告・連絡・相談です。これは情報通信技術がなかった、つまりインターネットがなかった時代には極めて重要でした。人を介してしか社内の情報伝達はありませんから。軍隊もそうですね。ピラミッド型の構造をつくって、トップの指揮官が次の10人の中間幹部に伝達しますと、その中間幹部がまた自分の下の部下に10人ずつ話す。ピラミッドのように情報を伝達していくというのが今までの仕組みだったんです。逆に情報を吸い上げるときには下から同じことをやっていくというのが、これまでの仕組みだったんですね。

ところが、だんだんと大企業になってくると、報連相をやった結果、情報の伝達をかえって阻害するようになってしまった。企業が大きくなればなるほど、上の人というのは実際の現場のことが分かりませんから、上がってきた情報については、そのまま鵜呑みにするしかないわけです。しかも自分が知ってないと立場上、よろしくないということで、必ず上げさせるわけです。しかし、情報を上げたところで適切なアドバイスを返しているかというと、必ずしもそうではない。結果的に決定を遅らせる以外の何物でもないという形になってきているわけです。

それから、販売管理費についても日本は諸外国に比べて非常に高い。業績の評価についても、日本の場合、人物評価みたいな数字に表れないような評価システムがあるわけで、効率のいい仕組みになっていなかった。さらに精神論による無理な業務遂行。有無を言わさず、とにかくやることに意味があるんだというわけです。これもいわば戦前の軍隊主義の流れかと思うんです。

また、日本は農業、そして製造業で成功したことから、全員が一緒に集まって集団で事業を営む、こういうビジネスカルチャーになっていた。工場が開いている限り本社も開けていなきゃいけないとか、工場の社員が工場に来ているんだから、本社の社員も本社に来ているのが当然だ、こういう流れできていたわけです。その流れとしてたくさんの会議や、たくさんの書類が生まれ、これが業務効率を低減している。結果として日本のOECDでの生産性は37カ国21位という状況です。これが1995年から今の今までほとんど変わっていない、ここに大きな問題があるのではないかと思います。コロナというのは、こうした流れを変える、全員のコンセンサスを得て前に事を進める千載一遇のチャンスではないかと考えるわけです。

もちろん、日本でもデジタル化ということはずっと叫ばれておりました。いろいろなところでデジタル化はなされてきております。しかし、「誤ったデジタル化」というものもあるのではないかと私は考えております。何かというと、日本には紙文化というものがずっとあったわけで、それを一概に否定はできない。結果的に紙を前提としたデジタル化をやろうとしてきたわけです。苦肉の策として成功したものがFAXであります。ところが、このFAX、80年代・90年代は素晴らしいツールだったと思いますが今、世界を見てFAXを使っている国は日本しかないんです。世界の国は紙を捨てて、ネット上あるいはクラウド上に情報を上げて、それをシェアすることが、当たり前になってきているのです。

パソコンで書いた文書をFAXで送り、アナログで読み取って、またパソコンで打ち直す、こんなことをやっているのは日本だけであり、早く改める必要があるのではないかと思います。

それから、パスワードの別送ですね。これをやっているのも日本ぐらいです。それから、最近はスマートフォンが出てきたので、少なくなりましたけれど、パソコンを持ち出しちゃいかんというパソコン持ち出し禁止令です。ノートパソコンというものは持ち出すためにあるにもかかわらず会社でしか使えない。こういう不可思議な状況があったわけですね。よくよく考えると、おかしなことが横行してきたわけです。それを改めるチャンスということでもあると思います。

求められるデジタルワークプレイス

どういう形で生産性を高めていくのか、マトリックスにまとめてみました。この4つの象限ですけれども、上は場所の自由度が高い。下は場所が決まっている、すなわち固定的な場所での作業を意味します。左側は時間が決まっている、右側は時間の自由度が高い。以上、4つの象限で整理をしますと、今のオフィスワークは当然時間が決まっていて、場所も決まっています。在宅勤務も家でやるわけですから、ある意味、場所は決まっているので、オフィスワークと在宅勤務は左下の象限にあてはまります。それに対して出先でコワーキングスペースを使ったり、あるいはリモートワークで働いたり、こういった働き方は場所の自由度が高いということで、左上の象限に入ります。逆にフレックス勤務のように、会社には来るんだけれども、時間帯を変えてやる、こういう働き方が右下の象限にあてはまります。今、一番求められている働き方は何かというと、右上の象限ですね。場所の自由度が高く、時間の自由度も高い。すなわち、これは何を表しているかというと、最近の言葉でいえば「デジタルワークスペース」あるいは「デジタルワークプレイス」と呼ばれるものです。

要は、場所にも時間にもとらわれず、どこでも仕事ができるようにするということが重要です。どうするかというと、情報を記録した紙を特定の場所にしか置いていなければ、場所を自由にできませんから、扱う文書はクラウド上に上げて、みんながシェアできる仕組みをデジタル技術を使って実現していくのです。もちろん端末だけあっても、そうした世界は実現ができません。そこで必要になってくるものが、まさに5GやWi-Fiといったワイヤレス技術です。こういったものが整った環境がさらに重要になってくるわけです。

下に続く


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