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白熱! 新春特別座談会
2020今年のビジネス展望を語る(上)
自営ネットワークの価値と役割に注目集まる
ローカル5GとWi-Fiは共存、それがユーザーメリット

いよいよオリンピック・パラリンピックの年「2020」を迎えました。また、5G/ローカル5Gが始まり、Wi-Fi6も離陸します。今年はどういう年になるのか、どういうビジネス展開になるのか。新春特別座談会を開き、大いに語っていただきました。Wi-Fiのこれからのビジネスの展望とWi-Bizの新たな役割などについて、鋭い指摘と斬新な意見が続出しました。
テーマ①今年はどういう年になるのか、②5Gとローカル5Gはどうなるのか、どう対応するのかは「上」に、③Wi-Fi市場の方向性とビジネスの展望、④Wi-Bizの役割と取り組みについては「下」に分けて掲載します。

出席 一般社団法人 無線LANビジネス推進連絡会
会長 北條博史
00000JAPAN推進委員会 委員長 大塚浩司
企画・運用委員会 委員長 杉野文則
企画・運用委員会 副委員長 松村直哉
渉外・広報委員会 副委員長 岡田雅也
企画・運用委員会 加藤一博

今年はどういう年になるか

――最初のテーマは「今年はどういう年になるのか」ということですが、新型肺炎が突如起きて大変なことになっています。世界経済も含めて予断を許さなくなっているわけですが、7月はオリンピック・パラリンピックがある。その後、景気の反動があるといわれており、オリンピック後、どうなるんだと不安もあるわけです。それぞれの会社で事業も異なるわけですが、今年のビジネスをどう見ているのかということから始めたいと思います。

岡田 今年はオリンピック・パラリンピックの成功が非常に重要なわけですが、昨年はラグビーワールドカップが成功しました。それを参考にすると、地域と選手のつながりとか、インバウンドのお客様向けとかそれぞれに良い工夫があり今年もグローバルな対応が非常に重要な年だと思います。

私ども通信建設業界から見ると、オリンピック・パラリンピック期間中は、公共案件含めなるべく工事を少しストップし、会場の整備とかに相当パワーを掛けなければいけなく、リソースもそちらにかなり掛かるということで、前半はストップ的な感じですが、後半は逆に追い上げなきゃいけないという、二重の大変さがあるかなと思っています。

一方で、人手不足がずっと続いており、それは日本全体の課題だと思います。外国人労働者も165万人とか増えてきてはいますけれども、産業がどう動くのか、また高齢者の雇用も考えなければいけないでしょうし、さらに人手不足をIT系でどう補うかということもあります。日本ならではの、やらなきゃいけない課題が、今年はたくさんあると感じています。

松村 5Gのトライアルということで、今、5Gを使った実証実験のようなことをやっています。例えば病院に入院している子供さんたちが遠隔のものをVRで見るとか、水中の中にカメラを入れて、その映像を5Gと無線を使いながら病院まで運んで、お子さんに見せるデモなどです。今まで見たことのない映像を見せるということで、かなり病院の方々に喜んでいただいています。

5Gとか、そういったものを使いながら、どういったことに使えていくのかなということを少しずつ始めているような状況です。また、オリンピック後に向けて5Gをうまく使って、まずは教育面とか、今までなかなか体験できなかったことを体験できるようなことを、提供できていったらいいなということを考えています。

大塚 オリンピックということでは、スタジアムはNTTグループが整備していますけど、鉄道会社とか交通系の各社を中心に大会までに整備を終わらせて、しっかりおもてなしの環境を整えたいということで案件が増えてきています。

オリンピック需要の反動という意味では確かに出てくるとは思いますけれど、物販系の民間の企業も、あまりオリパラ前というものをターゲットにせずに、おもてなしのフリーWi-Fiを店舗に整備していきたいという意向です。カフェとか飲食とか、あるいは量販店の店頭とか、そういったところで引き合いはまだまだこれからも続くであろうと見ています。

確かにオリンピックによるアドオンということで事業機会は増えるかもしれませんが、しばらくはまだフリーWi-Fiの引き合いは続いていくので、Wi-Fi業界的にはオリンピック後、そんなに急にしんどくなることはないかなと思っています。

また、オリパラの時、特に首都圏中心に鉄道が混雑するので、テレワークで通勤時間帯をずらしましょうと、サテライトオフィスが整備されている企業もたくさんあると伺っています。そんなときにアクセス回線の1つとしてWi-Fiを使ってセキュアで、家でとか別の事務所で仕事をするということで、そこはネットワークというよりはアクセスIDとかVPNのようなセキュリティサービスとか、一人一人の利用者のニーズも高まってきていますから、これは一過性なものではなくて、これからもテレワークとかは続いていくと思いますから、そこでの新たなチャンスが増えてくるのではないかと思います。

公共系の方では、学校Wi-Fiの整備ということで大きな予算が予定されていますので、そこは新たな需要として大きな期待が業界的にはあるのではないかなと見ています。

加藤 5Gにしろ、Wi-Fi 6にしろ、今年はいろいろ探っていかなきゃいけない年かなと思っています。オリンピックに向けてというところですと、Wi-FiはやはりフリーWi-Fiという形で今のまま進むとは思います。今、5Gでもいろいろとイベントで「こういう使い方ができます」と徐々に表に出始めていますけれども、我々提供する側としても、いろいろな使い方を見せなきゃいけないと思っています。それがお客さんにどう響くかということが1つですし、我々が想像しなかったところで、お客様のほうで「こんなふうに使いたい、あんなふうに使いたい」というところを、いろいろ我々のほうで吸収させてもらえるタイミングでもあると思います。そういったことをうまく拾って、本当に通信だけではなくて、何を提供できるかとかを探すにはいいタイミングかなと思っています。

ちょうど5G、Wi-Fi 6という、2つの技術が同時に入るタイミングなので、使い分けも必要でしょうし、今までできなかったことができるようになることを、いろいろ探っていって今後の発展につなげるスタートの年になるように取り組んでいきたいと思っています。

杉野 去年、NBAを見に行ったり夏は大リーグを見に行ったりしていたんですけれど、アメリカはスポーツが全てエンターテインメントになっていて、日本みたいに純粋なスポーツじゃないんです。全てどうやって見せるかということができています。

日本のバスケも見てきたんですけど、結構盛り上がっているんですけど、そこは大きく違っていて、野球ですら向こうはエンターテインメントみたいな感じになっています。5Gになってくると今度は多地点のニーズが重要視されてくるというか、それができるようになってくるといわれているので、たぶんオリンピックを契機にそんないろいろなサービスが始まってくると面白いなと思っています。

通信以外にアイドルの仕事もしていまして、複数いるアイドルは5Gをやられている会社から魅力的みたいで、今、たくさん契約が来ております。そんなものも含めて盛り上がっている。

あとは今、うちはインフラもやっているんですけれど、ソリューションが結構、引き合いが多くて、Wi-Fiとインフラがかなり整備されていると、その上で何ができるのかということになります。要は毎月毎月お金が掛かっている中で、どうやって回収するんだということが、皆さん、大きなテーマです。

インフラはどうやって儲けるかが問われてくる年かなと思っていて、そこは面白いし、そうやっていかないと時代に遅れちゃうなというような感じを持っています。

北條 オリンピック・パラリンピックが1つのキーになっていることは事実で、それで盛り上がっています。現実に補助金なんかも、来年度まで出てくるということで、Wi-Fiの普及に期待が掛かっていることは事実です。再来年度まで補助金が出るかどうかはよく分からないところです。学校はそんなに簡単に整備できないから、もっといくと思うんですけれど。

5Gというキーワードがとても受けています。中身はよく分からないけど、皆さん、期待しているという状況です。たぶん工事業界も5Gで相当な投資をやるのではないかと期待されていて、4Gのときのような景気の良さが出てくるのではないかと思っています。

ただ、私たち無線屋から見ると、そんなに簡単ではないよと思っているところはありますね。5Gを先っぽの無線方式だと捉えるのではなく、5Gを新しい一つのネットワークだと思って捉えると正解で、5Gのネットワークの先っぽに5Gのものもあれば、場所によってWi-Fi 6もあるというふうに考えると、すごく落ち着くし、5Gでぜひ盛り上がってほしいなと思うんですね。

5G、ローカル5Gの可能性と現段階

――次に、2番目の5G、ローカル5Gはどういうものなのか、何ができるのか、Wi-Fiの視座から整理していきたいですね。

松村 観点としては大きく2つあるかと思います。まず5Gは新しい周波数のところでサービスを始めるという点です。28GHzとかSub6のところでも新しいバンドでやっているところがあります。あとは、今LTEで使っているバンドをマイグレーションして5Gにしていくというものになるかと思います。

一番の課題は28GHzをどうやってうまく使うかということが、まだはっきり見えてないのではないかなと思っています。電波的に扱いが難しいということもそうですし、端末で想像しても、スマートフォンに例えば28GHzが入ったとしても、人間の手や顔などで当然電波は飛ばなくなるので、その辺、どう技術的なブレークスルーがあるのかということはありますね。これまでも技術の進歩があったので、28GHzにフィットしたデバイスが出てくると思うので、たぶんそれが5Gの一番のブレークスルーになってくるのではないかなと思っています。

弊社も、ローカル5Gのラボの構築を検討しています。どちらかというと自社利用というより、ラボみたいな形でパートナーさんやお客様に見せられるような環境をそこにつくっていこうということを、まず最初のステップとして考えています。

加藤 通信キャリアとしては、今、5Gはサービスに向けて準備をしているところです。大勢の方々が5Gの効果を分かりやすく感じられるのは、携帯電話で効果を感じられるようになった時ではないかと思っています。

ローカル5Gだと、IoTだったり工場の中で使ったりというようなシーンがよく今は描かれているんですけれども、たぶんそういう使い方をされているときは、ネットワークが何であるかをあまりユーザーが気にしていないと思います。そこはLTEかもしれないし、5Gかもしれない、Wi-Fiかもしれないとか、その他のいろいろなネットワークがあったときに、これが5Gだからできるようになったんだよということは、あまり分からないのかなと思います。

ネットワークを準備する担当の方とか、そういった方たちは直接的に感じるのかもしれないですけれども、単純に今までできなかったことができるようになったときに、それがネットワークのおかげなのか、デバイスのおかげなのか、なかなか難しいのかなと、気付くことができないのかなと思っています。

なので今、「5G、5G」と皆さんが期待しているような効果が見えるには、まだ時間が必要かなとは思っています。

工場に必要な無線ネットワークとは

杉野 私はもともと製造業にいたのですが、製造業の人からは5Gへの期待度が大きいです。工場は大きいところはとても大きい。今は、全部有線でやっているんです。ラインが変わるたびにすごくお金が掛かるんで、それを無線でやりたいというニーズは昔からあるんです。でも、例えばWi-Fiでやっても日本のWi-Fiは飛ばないのです。海外の工場は無線を飛ばす。無線は不安定な部分があるんですけど、無線で足りてしまうところもたくさんあるんですけど。

そこがローカル5Gに対してすごく期待は高いところなんですけど、果たしてそのコストがどこまで落ちるかということがあって、それがあまりにも高過ぎると意味がない。この間、「NHKスペシャル」で5Gとファーウェイを取り上げていましたが、なかなか投資回収が難しいというテーマをやっていて、「ファーウェイは安いからできる」という話をしていましたけど、ローカル5Gも同じことになっていて、コストが下がらないことには、なかなか始まらないという気がしています。ただ、期待度はすごく高いなと思っています。

松村 営業の窓口では、製造業のお客様からのお問い合わせが一番多いですね。

杉野 ネックは、海外の工場に比べて出力が弱いから無線でできないということが大きいですね。いろいろな制度面も、海外だとWi-Fiで、1キロ飛んだりするじゃないですか。工場は、基本、地方にあるので、そんなに電波は汚れていなくて、Wi-Fiで事足りてしまうはずなんですけど、元々の距離が飛ばないので、そうすると固定回線で全部引き回しになっちゃうんです。その費用が本当に半端ないと言っていましたね。

松村 広いプラントみたいなところと、機械がある屋内の工場とは違っていて、広いところはWi-Fiでカバーするのはコスト的に厳しくなるようです。広いところだと光ファイバー敷設費用が億単位になったりすることがあるからです。

杉野 海外だと出力が出るので、バケツリレーでやればキロメートル単位でカバーできるんです。

松村 そういうところは2.5GHzの自営BWAで2~3個基地局を置くと、だいたいカバーでき、かなりコストダウンになるということで今、ニーズが出てきている。

岡田 電波の問題は確かにあるんですけど、一般のお客様からは工場内でどういうふうに使えるのかというところで関心が高いということです。それはIoTと同じ話です。「まずIoTを入れて見える化しよう。だけど、それはビジネス的に、生産性的にどうなのか」という議論があって「まずトライアルしましょう」ということがありましたが、それと似たような形で5Gも安定性やセキュリティの面などと、先ほどのライン変更の話とか、「まず工場内でどういうふうにできるか」ということでの問い合わせが増えています。いかんせんIoT導入時と同じで、コストやビジネス性などはまだ見えないねというところが課題ですよね。

一方で、地域活性化のために5Gやローカル5Gを自治体、地方で何とか使えないかなという話の動きもあります。自治体と関係するコンソーシアムを組んでいろいろとトライアルされるんだと思うんですが、実際にどういうことにどう取り組んでいったらいいかとIT化そのものの悩みもあります。無線としてどうなの?というところは、まだ皆さん理解ができていないのかなというところがあるので、それを業界的にどう支援してあげるかということですね。

――5Gというものは、非常に幅広くて、何段階もかけて実現するロングスパンの話です。今はまだ公衆サービスとしてeMBB(超高速)をどう実用化するのかという段階です。URLLC(低遅延、高信頼)、mMTC(多数同時接続)はまだまだ実験中といっていいでしょう。5Gエリアが広がる前に、いや広がる前だからかもしれませんが、「ローカル5Gを使えますよ」という話が始まっているので、いろいろな誤解も生んでいるのかと思うんです。

本来、工場IoTとか、工場で無線化するというときには、例えばWi-Fi/Wi-Fi6とローカル5Gをきちんと比べることが出来るわけです。コスト、エリア、ソリューション、スピード、セキュリティ、全部きちんと比べられるわけだけど、そういう論議になっていない状況でしょうか。

杉野 そうなんです。1kmきちんと飛べばいいわけです。せめて地方ぐらいは、Wi-Fiの出力を強めにしてもらえれば、ずいぶん助かる人があると思うんです。

北條 5.8GHzが世界的には、アメリカも中国も使えるので、そこはDFSもないし、出力も高く設定できるんですけど、日本はDSRCが使っているからだめなんですね。だから、そういうところが解決しないと難しいし、あと2.4GHzを使えば飛びますが、今、2.4GHzはBluetoothでも使っているから、携帯電話で音楽を聞いている人が近くに来ると、それで汚れてしまうから、工場も厳しいんじゃないかなとは思うんですね。

出典:2019年9月11日総務省総合通信基盤局 電波部「ローカル5Gの概要について」

松村 設備の面からいうと、ローカル5Gで購入するとなると、基地局を開発しているベンダーはキャリア向けに納めている方が多いので、Wi-Fiのように大きくマーケットがあって自由度が高いというところまで行っていないと思うんですね。そういう意味でいくと、市場が出来るのは、ある程度長期的になっていくのではないかと思います。

もうちょっと長く見たときに、どのようなモバイルのソリューションを組み合わせていくことが一番ベストなのかということです。そこにWi-Fi 6が絡んで行くこともあります。今のLTEも同じように、ゲートウェイを組み合わせてWi-FiでやるというようなIoTもありますから。

大塚 LTEの普及と同じようなスピード感で、5Gが3キャリアないしは4キャリアが全国面カバーを、それなりの容量を担保して整備するかというと、そうではないという人も結構多いですね。もう少し長い時間が掛かるんじゃないのかと思います。

――キャリアは、4Gと違い、5Gは「需要対応」というのが基本ですね。

大塚 そうですね。松村さんがおっしゃったマイグレーションは、緩やかに進んでいくんじゃないかということですね。

松村 最近、DSS(Dynamic Spectrum Sharing)という、LTEの電波なんだけど、同時に5Gも吹けるような技術がある。そうすると同じ場所で吹けるし、総務省の申請もスプリアスとかも同じなので、新たな申請がなくていいようなことになりそうだと、聞いたことがあるんですけど。

北條 それは3GからLTEに切り替わるときに、バンドごとに分けなきゃいけなかったんです。だから、例えば2GHzなんかも4波があるんですが、まず1波だけをLTEにして、その後どんどん増やしていってということがあったんだけど、その反省を踏まえて今回はシームレスに移行できるようになっている。気が付いたら800MHzまで5Gになっていたということもあり得ます。

大事なのはユーザーにとっての価値

――いずれ5G端末は出るわけですが、10万円を軽く超えるでしょうし、販促支援金が使えないから、なかなか手ごろな価格にはならない。どんなスマートフォンが出たにしても、そう簡単には広がらないんじゃないかなという気がします。ローカル5Gはどっちにしてもスマートフォン端末利用型じゃないソリューション型というか、工場IoT型あるいは農場IoT型なものになるのかなという感じになりますね。

岡田 ローカル5GなのかWi-Fiなのかというと、お客さんから見て自由度があるということ、自分たちでどういうネットワークにできるのかという自由度があるという点は大きいので、ローカル5GがどこまでWi-Fi並みにできますかというのがポイントになるかと思います。それと合わせて工場のニーズに合うかどうかだと、思います。

ローカル5GもWi-Fiも同じですけど、今までできなかったことが、高速・大容量になったり、低遅延になったりして実現できることが重要です。遠隔で離れている多地点の話とか、今までできなかったことがもしできるようになれば、それは多少コストが掛かってもやるべきだったり、課題解決になるということがポイントなのかもしれません。

――そうですね。あくまで無線は手段だから、お客さんは何がしたいかという観点で見たときに、新しい電波だとか新しい5G方式で新しいことができれば、多少金に糸目を付けなくても、それをやったほうがいい場合もありますよね。

岡田 それがどんどん増えていくと、我々も仕事が回ってくるのかなという期待はしているんですけど、まだそこら辺が分からない。

――工場IoTで、5Gの低遅延というのは、どこまで利くのでしょうか。

岡田 工場が低遅延を求めているというお話は伺います。スピーディに処理をしないと、生産性が相当低くなってしまい困るわけですから。

北條 ローカル5Gですと、センター側にEPCに相当するものを入れるわけだから、そこを経由してやっていると、たぶん遅延がだめだと思うので、ローカルに折り返す工夫が必要です。Wi-Fiは基本的に折り返すので低遅延だけれども、ローカル5Gを提供するときに低遅延を売りにできるのかどうか。

松村 28GHzで使うところとして考えられているのは、スタジアムとかイベント会場みたいにWi-Fiがいっぱいあって、かつアップストリームの映像データを伝送したい場合です。杉野さんが言われたように、多地点カメラをたくさん置くとケーブル配線が大変なので、アップストリームを100Mbpsぐらい取れれば、圧縮してきちんと品質を担保して映像伝送ができることになります。ローカル5Gの28GHzは新たなバンドなので、きちんと帯域が確保できるはずなので、メリットがあると思います。

だから、15Gbpsとかそういうものではなくて、「品質が確保された100Mbps、28GHzという新しいバンドで」というところが、まず落としどころだと思います。

工場は、いろいろな方にいろいろなふうに言われますが、自動機機械が本当に入っているところはマイクロセカンドの単位で動いているので、遅いとクラッシュするんです。自動機同士がぶつかるらしいんです、大損害になるので。そういうところに無線を使うんですかということはあります。

工場でもいろいろなところがあるので、緩めの遅延であれば、たぶん5Gでできると思うんですけど、本当の低遅延を要求するところは有線でとなるはずです。その辺を見極めながら、徐々に入ってくるような感じじゃないのかなと思っています。

北條 確率的にパケロスもありますからね。そのときにシステムが壊れてしまっては困るでしょう。

杉野 松村さんのお話にあったようにケース・バイ・ケースです。有線じゃないとだめなところも、やっぱりあるんです。実際に工場を見に行ったことがあるんですけど、全部が無線ということは絶対にないです。「こことここは有線じゃないとだめだ」みたいなものがあって。だけど、無線で実現できるものが結構あるんですよね。

無線で事足りるところはたくさんあるんだけど、それを有線で今はやっているから莫大な費用なんです。

――当然、いろいろな異なるユーザーにそれぞれのニーズがあるわけですから、予めここはWi-Fiだ、ここは5Gだというとミスリードになりますね。

大塚 皆さんのご指摘の通り、法人の工場とか、そういうところであれば、その方々が求めるレギュレーションというんですか、SLAというんですか、それをベースに、ローカル5Gのほうがミートしているのであればそうでしょうし、「いやいや、Wi-Fiで事足りる」ということであれば、コストが安いので、そっちに振られるでしょう。

それがまた時間の経過とともに最初はWi-Fiで入れていたんだけど、よりシビアにオペレーションをしたいから、ローカル5Gのコストが下がってきたので、そっちに移行するとかもあるでしょうし、今から「このケースはWi-Fi、これはローカル5G」と決め打ちできるものでもないです。

法人側もまだ十分情報も知識もない、経験もないなかなので、これからいろいろなトライ・アンド・エラーを一緒にやっていきながら、成功事例がいろいろな産業分野でそれぞれ出てくる、そういう形になるのではないかなと思います。

そういう意味では、メーカーとかキャリアが地方創生の名の下、いろいろなトライアルを5Gあるいはローカル5Gでやっているということは、ショーケースを立ち上げて、それがリアルビジネスで持続性があるのかどうかを試す上では、いいことではないかなと思います。

地方での活用に可能性、しかし課題が

――岡田さんもおっしゃった、地方でいろいろなトライアルが行われているわけですが、手応えというか、可能性はどうですか。

岡田 総務省さんからもお話を伺いましたが、まず募集を掛けて、それでいろいろ実証実験されて、それでうまくいったものは水平展開していきたいという動きを国も挙げてやっているという段階です。自治体の方々の関心はすごく高くて、地元の大学や地域の方とかと組んでやり始めているということは伺っていますが、それが本当に市民サービスにまで実用化されるかは可能性は高いですが、まだ時間が掛かるかと思います。

北條 地域BWAのときもそうなんですけど、今と同じような雰囲気で鳴り物入りで始まりました。地域で電波を取ってやろうというところでスタートはしたんですけど、現状、広まっていないというのが実情ですね。その二の舞にならなければいいなと思っています。

当初のローカル5Gの帯域は28GHz帯で100MHz幅しかないので、NSA(ノンスタンドアローン)にしようと思うと地域BWAの周波数もセットで取ってやらないと、満足なサービスはできないのではないかという話もあります。

あまりにも盛り上げ過ぎることによって、本当はゆっくりやれば成功するものが、急に人気が出た歌手がすぐしぼんでしまうことと同じで、そうならないかどうかが、すごい心配ですね。あまり騒ぎ過ぎていると、いろいろな地域でトライアルとかPoCをやってみると、軒並み「こんなのは使えない」とかということになったりしたら、我々Wi-Fiにとってもいいことではないですし、無駄な投資が発生してしまうことになります。

岡田 5Gにとらわれるというよりは、地域の課題は本当に差し迫っている問題がいっぱいあると思うので、それをどうITで解決するかというところにフォーカスする中で、モバイルソリューションとか有線ソリューションとかを組み合わせて、それをどういうふうに提供していくかということが大事だと思います。

そして、その課題解決時に、モバイルソリューションは有効だと思うので、ローカル5Gが出来ていなければWi-Fi 6からスタートしてでも解決していくという考えだと思います。求めているものと、それを埋めるもの、実際に技術的にできるものとの、まだマッチングが難しいというのが現状ではないかと思います。

――杉野さんがおっしゃった「NHKスペシャル」を見て一番ショックだったのは、5Gを単にラストワンマイルにあたるワイヤレスアクセスの高速化的なとらえ方だけじゃなくて、ドイツの中小都市がファーウェイを呼んで巨大な5Gネットワークを構築し、それで衰退している地域の再興・活性化のために、市と地域を上げて取り組もうとしているということでした。何年先になるか分からないが、廃れたというか衰退している田舎の町が希望を持って、地域再生のためにファーウェイと組んで頑張ろうとしている市役所の職員の意気込みには感心しました。

大塚 ただ、日本の昔の昭和の時代の高速道路を引いたら地域が活性化するみたいな話じゃないですか。必ずしも高速道路を引いたからとか、新幹線の駅ができたから、地場が栄えるわけじゃなくて、それで新しく何をやるんですか、既存のものをどう5Gに置き換えてベネフィットを得るんですかという、その絵がないと、うまくはいかなくて、そのキラーになるようなものは、通信会社もメーカーもネットワークのエンジニアリングの方々も、あるいはユーザーも、まだ見えてないので、いろいろトライ・アンド・エラーをしながらということで、それはまさにこれからなんじゃないかなと思います。

――それは、5Gのリアルな現段階ですね。モバイルキャリアは1000社も集めて、5Gのソリューション開発をやっていますが、まだまだキラーアプリというか、昔でいうキラーコンテンツがない。総務省も今の段階では、「5Gのビジネスモデルが重要」といっている段階なわけで、まだかなり時間が掛かる。5Gそのものが3段階での発展といわれているわけで、相当長いスパンですから、それがいきなりハイプ曲線のピークに昇ってしまい、「期待したけどだめだった」というふうにならないようにしなきゃいけない。

松村 徐々に発展していくという観点だと、さっき杉野さんが言われたようにスポーツイベントなんかだとアメリカはすごいし、例えば観光地でいうとヨーロッパの観光地は日本と全然違うらしいんですよね。山形のある温泉地を、うまく観光客を呼ぶように改造して、見栄えをちょっと変えただけで、インスタ映えするし、観光客が増えるということが起きている。ポーランドとか、ヨーロッパは、観光客がちょっと休めたり、見栄えが良かったりするように、町の人が取り組んでいるんですね。そうすると、どんどん人が来るようになったりしています。そういう文化が、日本はまだあんまりないんですよね。そういうところをもう少しやって、それをICTでサポートするみたいにしていかないといけない。

杉野 MaaSもそうですけど、日本は必要となるお金をどう集めて、どう回すかということになると、腰が引けちゃうんです。自治体も、ずっとお金が出し続けなければいけないんだったら、やりたくないというのが本音じゃないですか。

だけど、インバウンドは新しいプラスのお金なので、そこをうまく使って、新しい効果的な投資をする必要があると思います。

松村さんがさっき言われたように、もっとカジュアルなやり方でよいと思うのです。僕も海外に行くと、全然違うように感じます。例えば記念写真を撮ろうとしても、日本では浅草でもみんな着物を貸してくれたりするんです。着物を着て写真を撮っているんですけど、すごい時間が掛かるわけ、拘束されて。

海外なんかは上だけ貸して、ぱちぱちと撮って3000円とか。世界中どこに行ったって、ベトナムに行ってもそうだし、ヨーロッパに行ってもそうだし、トルコに行ってもそうだし、アメリカに行ってもそうですけど、インスタ映えを通じてさっさっと、次から次へと3,000円が入ってきます。日本はいちいち着物を着るタイプなのです。

インバウンドに対してのビジネスのモデルがまだ確立してない。それは通信も含めて交通も含めて、どうも勘違いしているなという感じがします。日本人は外国人がたくさん来てWi-Fiが重要だと慌ててWi-Fiを整備しているけど、そうすると今度、「どうもつながりにくい」という話があって、よくよく考えると出力が日本は弱いので日本は点にしかなってないけど、海外は面になっているので、全てカバーできちゃう。

メッシュみたいにできちゃっているので。だから、例えば東京駅でも使えるところは本当に限られているんですけど、海外の場合は飛ぶので、全部とつながれちゃうんですね。だから、そういったことも、やってみて初めて分かるんですけど、日本にいると感覚的にみんな「観光客が来た、着物を着せなきゃ」みたいな。全部忍者の格好をさせて、「やっぱり着物も撮りたいな」と言ったら、また着物を着せてみたいな、そんなのじゃなくて上から羽織らせるだけなので、向こうは、さっささっさ次から次と撮れちゃうんですよね。

大塚 日本はまじめに「コト消費」をさせようとしているんですね。

――日本は、ビジネス化というか、マネタイズというか、マネーを上手く回していく商売が下手というのですか。

杉野さんが言われたように、スポーツがビジネス化している、観光もいい意味のビジネス化ということで、今の論議は、自営ネットワークというものがもう1回ローカル5Gで注目されて、自営ネットワークは何かということを考えていくよい機会ではないでしょうか。

ユーザーの課題を自前のソリューションで解決するものが自営ネットワークですから、キャリアの平等で均一なサービスから、個々のユーザーが自分に最も適したソリューションに合うネットワークを自前で構築できるということに目覚めていく1つのきっかけになりますね。

そうなったら北條さんがおっしゃったように5GだろうがWi-Fi 6だろうが、どっちでもいいわけです。加藤さんも言われたようにユーザーが求めてるのはネットワーク自身ではないわけですから。そういう点では、小さい意味でのローカル5GとWi-Fi 6という話ではなくて、ローカル5Gも含めた自営ネットワークというものが脚光を浴びる、そういう時代の始まりという観点が必要かもしれませんね。

北條 本当に円滑に5G、ローカル5Gが出てきて欲しいなと思います。それが、Wi-Fiの発展を含めたユーザーにメリットのある次のステップを開くことになるでしょうから。

下に続く


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